化学物質管理

(3)建築材料用接着剤・粘着剤・シーリング材の構成成分

接着剤などは塗布されたのち固化して性能を発揮しますが、その性能は主成分(有機系接着剤では高分子化合物)のもつ性質によるものが大きく、更にその性質を効果的に発揮させるためのさまざまな添加物が加えられています。また、どんな形状の接着剤でも被着材のすみずみまでに入り込み被着材表面を濡らすことが必要なため、塗布される寸前は液状になっていなければなりません。そのために必要に応じて接着剤を液状にするための添加剤(溶剤、可塑剤など)が加えられています。これらの添加剤の他にも、粘着付与剤、充てん剤、増粘剤、顔料、老化防止剤、消泡剤などがあり、それぞれ要求される機能に応じて添加されます。多くの添加剤は僅かな量でその機能を発揮しますので、製品の中で占める比率は小さなものとなっています。

「建築用接着剤」イメージイラスト

ここで紹介している各機能剤に使われている化学物質は一般的に用いられているものを採り上げていますが、全部を網羅したものではありません。製造メーカーはそれらの中からそれぞれの目的に合った化学物質を選んで独自の配合をして製品にしていますので、同じ種類の製品でも製造メーカー毎に使用されている化学物質の種類と量は異なっていることがあります。

それらの製品の主成分に関する情報については製品安全データーシート(MSDS:Safety Material Data Sheet)に記載されており、MSDSは製造メーカーのホームページに掲載されていますので、それらをご覧になることをお勧めします。

1.主成分

主成分は図2に示されている多くの化合物がありますが、有機系接着剤では、高分子化合物が使用されます。高分子化合物には、でんぷん、にかわ、うるし、天然ゴム、アスファルトなどの天然高分子化合物とメラミン樹脂、ユリア樹脂、フェノール樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン・酢酸ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの合成樹脂やクロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム、シリコーンゴムなどの合成ゴムの合成高分子化合物があります。

主成分は、被着材、接着後の使用条件および要求される性能に応じて選定されます。古くは、うるし、にかわ、でんぷん、天然ゴム、アスファルトなどの天然高分子化合物が使われていましたが、現在では、それらの天然高分子化合物は使用される範囲が少なくなってきており、合成高分子化合物が大半の接着剤に広範囲に使用されています。

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2.溶剤

溶剤は、主として溶剤形接着剤に使用されますが、その役割は接着剤の粘度を下げて流動性を付与することによって、被着材の表面の目に見えない凹凸を埋めかつ濡らして接着剤を被着材のすみずみまで入り込ませることです。そのために、主成分の高分子化合物をよく溶かす化合物が選択・使用されています。また、水系接着剤においては、水が主な溶剤ですが、高分子化合物を水に溶かすため、又は、均一に分散させるために少量の有機溶剤が加えられることがあります。

有機溶剤には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのエーテル類が主に使用されています。トルエン、キシレンなどの芳香族系炭化水素や塩化メチレンなどの塩素系溶剤も特別な用途で使用されています。

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3.粘着付与剤

粘着付与剤は、接着初期に必要な粘着性を付与するために、主成分が粘着性に欠ける接着剤の場合に添加されます。主成分の性能を低下させないで粘着性を付与するために、主成分とよく溶け合う性質(相溶性)を持っている化合物が選択されます。

粘着付与剤には、天然樹脂のロジン、テルペン樹脂やロジンを重合、変性した重合ロジン、ロジンエステル、水添ロジンや石油樹脂などがあります。

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4.可塑剤

可塑剤は主成分に柔軟性を付与するもので、ビニル樹脂系の樹脂が主成分となっている接着剤に主として使用されます。

可塑剤として使用される化合物は、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチルなどのフタル酸エステル類、アジピン酸ジイソノニル、コハク酸ジエチル、エチレングリコールアセテート、リン酸トリブチルなどが主なものです。この中で、フタル酸エステル類は環境ホルモン問題などの影響を受けてその使用は減少傾向になっています。

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5.硬化剤・架橋剤

硬化剤は、接着剤の主剤(反応性樹脂を含む成分)と反応し、硬化促進または調節する機能をもつもので、使用形態は単独の化合物として添加するもの、何種類かの化合物を配合した混合物として使用するものがあります。硬化剤の多くは接着剤成分を化学的に結合させて、三次元の網目構造を形成させる作用があることから、架橋剤とも呼ばれています。

ウレタン樹脂系接着剤に主として使用される化合物には、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソシアネート変性物、イソシアネートプレポリマー、ジエチレングリコールなどがあります。また、エポキシ樹脂用には、ジエチレントリアミン、フェニレンジアミンなどのポリアミン類、イミダゾール類、無水トリメリット酸などの酸無水物があります。

エポキシ樹脂系の硬化剤として使用されている脂肪族ポリアミン及び芳香族ポリアミンは有害性が高いので、作業する場合は皮膚等に接触することや蒸気を吸うことのないように注意が必要です。

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6.希釈剤

希釈剤は、固形物の濃度および接着剤組成の粘度を低くすることを目的とする液状の添加物で、エポキシ樹脂系接着剤によく使用されます。希釈剤として使用される化合物には、反応性のグリシジルエーテル類、グリシジルエステル類や非反応性のグリコールエーテル類、石油樹脂類などがあります。

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7.充てん剤

充てん剤は、接着剤の粘度を調節すること、多孔質の被着材に対する滲みこみを防止すること、接着剤層の耐久性・接着強さなどの性質を改良することなどのほか、増量を目的として添加されます。

充てん剤としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、クレー、タルク、ホワイトカーボン(珪藻土)などの無機化合物が主であるが、再生ゴム、セルロース粉などの有機物も使用されます。

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8.増粘剤

増粘剤は、通常水性形接着剤に分散させて、エマルション(注1)、ラテックス(注2)の粘度およびちょう度(注3)を調節するために添加するものです。増粘剤は水溶性高分子で、天然物系ではカゼイン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、合成系ではポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウムなどがあります。溶剤形や無溶剤形の接着剤にも同じ目的で別の化合物が使われることがあります。

  • (注1)エマルション:合成樹脂を水に乳化分散させたもの
  • (注2)ラテックス:天然ゴムまたは合成ゴムを水に乳化分散させたもの
  • (注3)ちょう度:液状接着剤の変形に耐えようとする性質

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9.顔料

顔料は接着剤の色を、被着材に合わせて目立たなくすること、二成分混合型の接着剤で混合の度合いを確認しやすくすることなどを目的として配合されます。

顔料には、無機系のチタンホワイト、カーボンブラックや有機顔料が使用されます。着色目的で染料を使用する場合もあります。

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10.その他の添加剤

その他、接着剤に特別な機能を加えることなどを付与する目的で、老化防止剤(注4)、酸化防止剤(注5)、消泡剤(注6)、難燃剤(注7)、防腐剤(注8)、防カビ剤、香料などがあります。

  • (注4)老化防止剤は、ゴム系接着剤の主成分のゴムや粘着付与剤などが時間の経過とともに劣化することを防ぐための目的で添加されるもので、ジタ―シャリーブチルヒドロキシトルエン(BHT)、N,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD)などがあります。
  • (注5)酸化防止剤は、熱溶融形(ホットメルト形)接着剤の主成分の酸化防止に添加されるもので、高分子型フェノール系化合物(Irganox1010)、芳香族アミン系化合物のほかにリン系、イオウ系の化合物などがあります。
  • (注6)消泡剤は、原料を混合・反応させる際に発生する泡を消し安定した製造運転を可能にすること、接着層での泡生成を防止することの目的で添加されるもので、主にシリコーンオイルが使用されています。
  • (注7)難燃剤は、接着層に難燃性を付与する特殊な用途目的で添加されるもので、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン、赤リン、デカブロモフェニルエーテルなどの化合物が使われます。
  • (注8)防腐剤は、主にでんぷん系紙用接着剤(のり)の一部に防腐剤として添加され、以前はホルムアルデヒドが使われていましたが、建築基準法の改正などで規制が強化されたため、別種の防腐剤に変わってきています。

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