バイオテクノロジー

NBRCニュース 第2号

◆◇◆ NBRCニュース No. 2(2010.4.1)◆◇◆
 
 NBRCニュース第2号をお届けします。今号から「微生物の培養法」、「アジ
アの微生物」、「NITEが解析した微生物ゲノム」の3つの連載を開始します。
「微生物の培養法」では、独立栄養細菌、極限環境菌など、培養が難しい微生
物についての具体的な培養方法やコツを紹介します。「アジアの微生物」では
NITEが行っているアジアの国々との共同事業で得られた微生物株などについて
の情報を、「NITEが解析した微生物ゲノム」では私どもが解析した微生物ゲノ
ムに関する情報をご紹介します。最後までお読みいただければ幸いです。

(等幅フォントでご覧ください)

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 内容
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 1.新たに公開した微生物株(2010年2月1日~2010年3月31日)
 2.「連載」微生物の培養法 (1) 嫌気性菌の培地調製法
 3.「連載」アジアの微生物 (1) ベトナムを渡る風
 4.「連載」NITEが解析した微生物ゲノム 
    (1) 2010年3月に公開した微生物ゲノム情報の概要
 5.NBRCカタログ第2版発行のご案内
 6.スクリーニング株提供の手続きが簡単に
 7.NITEバイオテクノロジー本部の出展のお知らせ

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 1.新たに公開した微生物株(2010年2月1日~2010年3月31日)
【詳細】https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html
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 カビ 8株、細菌 63株、アーキア 2株、藻類 2株、微生物クローン 2種類、
微生物ゲノムDNA 4種類を新たに公開しました。鉄を腐食するメタン生成古細
菌Methanococcus maripaludis NBRC 102054 (= KA1) (Appl. Environ. 
Microbiol. 76: 1783-1788, 2010)、韓国のKACCコレクションから寄託された
細菌基準株 22株と、根粒菌Rhizobium sp. (Ensifer sp.) NGR234株の変異株
が含まれております。NBRC 102054については、ゲノム解析結果についても公
開準備を進めています。

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 2.「連載」微生物の培養法 
 (1) 嫌気性菌の培地調製法                (内野佳仁)
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 嫌気性菌の培地調製法をご紹介します。NBRCでは、高い嫌気状態を必要とす
る菌株の培地調製にガス置換を指定しています(例えば、光合成細菌に用いる
NBRCのNo. 811培地)。培養容器内が嫌気状態に保たれるため、嫌気性菌を通
常のインキュベーターで培養することができます。
 培地作製は、培地を入れた容器内をガス置換し密栓する、オートクレーブ滅
菌する、還元剤を加える、という手順になります。嫌気状態は酸化還元指示薬
であるレサズリンの色の変化で確認します。
ハンドクリッパー、バイアル瓶、中栓、アルミシール、プライヤー  a) 試薬混合・分注
加熱できない成分(ビタミン等)や還元剤以外の培地成分(レサズリン 1 mg/L含)を蒸留水に溶かし、pHを調整した後、容器に分注します(分注量の目 安は、20 mlの容器に対して10 ml程度)。オートクレーブすることにより、ま たは、オートクレーブ後に加える試薬によりpHが変化する場合は、後でpHを調 整します。NBRCでは、差し込み式のブチルゴム製中栓をアルミシールあるいは ネジ付キャップなどで固定させる方式の培養栓を用いた培養容器を使用してい ます。
 b) ガス置換
窒素ガス等で5~10分間バブリングし、ガス置換を行います。この段階では レサズリンの色は青あるいはピンクです(レサズリンは嫌気状態になるにした がって、青→ピンク→無色と変化します)。酸化還元電位を可能な限り下げて 培養する必要がある場合は、還元銅などを用いた脱酸素装置で処理したガスを 使用します。
ガス置換した後、オートクレーブ滅菌します。

※左の動画をご覧いただくには、プラグインのダウンロードが必要です。
オートクレーブ後の調製
注射器のガス置換
 c) オートクレーブ後の調製
オートクレーブ後に入れる成分(水溶液)はガス置換とフィルター滅菌処理 を行い、滅菌済み注射器を用いてブチルゴム栓越しに容器内に注入します。(写真左上)
滅 菌のため、注入部分はアルコールで軽く拭いて火炎で炙ります。(写真右上)
注射器は、使 用前に窒素ガスのスプレー缶に滅菌フィルターを付けてガス置換を行っておき ます。(写真下段)
後から入れる各成分の濃度は、注射器で添加する量が0.1 ml程度になる ように調製します。添加する成分の数が多い場合、または溶解度が小さくて液 量が多くなる場合は、あらかじめ、その分の培地の濃度を上げておく必要があ ります。pHの調整は、微量(1滴)のサンプルで測定可能なpH計を用いて行い ます。
還元剤を加える  d) 還元剤を加える
還元剤に対する菌の感受性や、沈殿物の生成しやすさなどを考慮し、還元剤 の種類と量を決定します。レサズリンが無色(Eh - 110 mV)であることが嫌気 状態の目安となりますが、メタン生成古細菌などを培養する場合には更に低い 酸化還元電位が必要です。
   (e) 菌の接種
滅菌済み注射器を用いてブチルゴム栓に針を突き刺して、容器内に菌液を注 入し接種します。用いる注射器はガス置換処理をしておきます。
 本号をバックナンバーとして、NBRCのホームページに掲載する際には、写真
と動画も添付しますので、そちらもご覧いただければ幸いです。

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 3.「連載」アジアの微生物
 (1) ベトナムを渡る風                  (安藤勝彦)
【詳細】https://www.nite.go.jp/nbrc/global/asia/vietnam/asia_vietnam.html
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 ベトナムの人口は約8500万人です。その70%は35歳以下であり、ハノイの町
は活気に満ちています。2004年から始まったベトナム国家大学ハノイ校微生物
学・バイオテクノロジー研究所との微生物探索も今年で6年目を迎え、細長い
国土の北部(Cuc Phuong, Ba Be)、中部(Bach Ma)や南部のホーチミン市周
辺で採集した土壌や落葉から菌類1,855株、放線菌1,933株の総計3,788株の微
生物株が本プロジェクトで収集されています。Streptomyces以外の放線菌では
分離株の2~3割が新種と考えられ、驚くべき割合で新種が見つかりました。い
かに地球上には今なお多くの知られていない微生物が生息しているかがわかり
ます。
 現在、私はベトナム国家大学とのプロジェクトのもと、新しい有用微生物を
探索する為にハノイに滞在中です。ベトナム側のプロジェクトメンバーは若く
皆優秀で、非常に誠実に且つ意欲的にプロジェクトに携わっています。我々も
彼らの意欲に答えられるように誠心誠意このプロジェクトを推進させたいと思
います。
 NITEがベトナムやモンゴルと実施しているプロジェクトでは、企業や大学の
皆様が、私どもと一緒に微生物探索をすることもできます。現在、ベトナム、
モンゴルでの微生物探索を希望される方を募集しております。応募期間は、モ
ンゴルは4月16日17時、ベトナムは7月30日17時までとなっております。NITEは
生物多様性条約を遵守した協定を締結しており、プロジェクトで探索した株を
安心して研究開発にご利用いただけます。詳しくは上記ホームページをご覧く
ださい。ご興味がございましたら、お気軽に「abs-info@nbrc.nite.go.jp」へ
お問い合わせください。

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 4.「連載」NITEが解析した微生物ゲノム 
 (1) 2010年3月に公開した微生物ゲノム情報の概要 (中澤秀和)
 【詳細】http://www.bio.nite.go.jp/dogan/top      
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 2010年3月に公開した微生物3株のゲノム情報の概要をご紹介します。詳しく
は上記ホームページをご覧ください。

◆Deferribacter desulfuricans SSM1 (= NBRC 101012)◆	
 この菌株は、伊豆・小笠原弧の水曜海山の深海熱水孔のチムニーから単離さ
れた、好熱性バクテリアです。絶対嫌気性菌であり、至適温度は60-65℃、至
適pHは5.0-7.5で、電子供与体として種々の有機化合物や水素を、電子受容体
としては、元素状硫黄、硝酸、五価ヒ素を利用して生育することができます。
 本菌株のゲノム解析は、Deferribacteres門で初めてのものになります。解
析の結果、2.33Mbの環状のクロモゾームと、308kbのメガプラスミドからなる
ことが分かりました。予測された2,420個のORFの3割ほどに、デルタプロテオ
バクテリアの硫黄還元菌、硫酸還元菌との類似性が見られました。また、シグ
ナル伝達関連の遺伝子を多く持つことが確認されました。
【文献】Takaki et al. DNA Res. 2010 Feb. 26. [Epub ahead of print]Arthrospira (Spirulina) platensis NIES-39◆
 光合成を行うこの菌株は、らん藻のユレモ科アルスロスピラ属に属し、俗に
スピルリナと呼ばれるグループの代表的な株で、サプリメントを始めとした栄
養補助食品・食品添加物・動物飼料として利用されています。高温、高塩濃度
そして高アルカリ環境下であるアフリカの塩湖から単離されており、過酷な環
境でも生育できる性質も興味深い点です。
 ゲノム解析の結果、ゲノムは6.8Mbの環状構造であることが分かりました。
グループIIイントロン、IS配列、繰り返し配列が618kbあるとともに、制限修
飾系の遺伝子を多数保持しているといった特徴が見られました。
【文献】 Fujisawa et al. DNA Res. 2010 Mar. 4. [Epub ahead of print]Sphingobium japonicum UT26S (= NBRC 101211)◆
 この菌株は、かつて農薬として使用されていたヘキサクロロシクロヘキサン
(HCH)の連用圃場から分離された株で、好気的環境下においてgamma-HCHを唯
一の炭素源・エネルギー源として生育することができます。長年の研究の成果
により、本菌には15個のgamma-HCH分解に関与する遺伝子群(lin遺伝子)があ
ることがわかり、HCHの分解研究における世界的標準株と位置づけられていま
す。
 ゲノム解析の結果、S. japonicum UT26Sのゲノムは2本の環状染色体、3本の
環状プラスミドpCHQ1、pUT1、pUT2の5つの複製単位からなり、gamma-HCH分解
に関与するlin遺伝子群は2本の染色体と1本のプラスミドに分かれて分布して
いることが明らかとなりました。本菌のゲノムをSphingomonadaceae科に属す
る細菌のゲノムと比較したところ、lin遺伝子の約半数はゲノム上の本菌に特
有な領域に、残りの半数はSphingomonadaceae科細菌に共通の領域に位置して
いることがわかりました。この結果から、本菌のgamma-HCH分解能力は段階的
に獲得されてきたものであることが示唆されます。 

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 5.NBRCカタログ第2版発行のご案内
 【詳細】https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/catalog/catalog.html
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 NBRCが公開している生物遺伝資源の冊子体カタログ第2版(A4サイズ、1,516
ページ)ができあがりました。第2版は16,209株の微生物を収載し、第1版から
3,751株増加しました。内訳は酵母(2,775株)、糸状菌(7,843株)、アーキ
ア(160株)、細菌(5,063株)、藻類(308株)、バクテリオファージ(60株)
となります。菌株リストに加え、培地一覧、応用情報、他機関番号、参考文献
などを掲載しています。微生物ゲノムDNAおよびヒトcDNA関連リソースについ
ても、その概要を紹介しています。お申し込み方法は、上記ホームページをご
覧ください。カタログは無料ですので、送料の実費負担のみでご入手いただけ
ます。

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 6.スクリーニング株提供の手続きが簡単に
 【詳細】https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/index.html
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 NBRC番号を付与している微生物株とは別に、属レベルまで同定された株を安
価にご利用いただける、通称・スクリーニング株の提供を行っています。この
たびシステムとホームページを改良し、より簡単にお申し込みいただけるよう
になりました。日本国内で分離された微生物だけでなく、「連載」アジアの微
生物で紹介しました、ベトナムをはじめとする東南アジア原産の微生物資源が
ご利用いただけます。

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 7.NITEバイオテクノロジー本部の出展のお知らせ
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 NITEバイオテクノロジー本部は、以下の展示会に出展いたします。皆様のお
越しを心よりお待ちいたしております。

第9回国際医薬品原料・中間体展(CPhI JAPAN 2010)バイオファーマパビリオン
 日程:平成22年4月21日(水)~23日(金)
 場所:東京ビッグサイト 東5・6ホール N-22ブース

第9回国際バイオEXPO
 日程:平成22年6月30日(水)~7月2日(金)
 場所:東京ビッグサイト 西ホール

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 編集後記
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 最後までお読みいただき、まことにありがとうございました。次号は、連載
「微生物の保存法」と「NITEが解析した微生物ゲノム」の第2回を掲載する予
定です。微生物の保存法や培養法などでお知りになりたい情報など、ご要望が
ございましたら、下記の問い合わせ先アドレスまでご連絡下さい。すべてにお
応えはできないかもしれませんが、NBRCニュースの記事として検討させていた
だきます。
 ホームページ(https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/others/nbrcnews/nbrcnews.html)にて、NBRCニ
ュースのバックナンバーを公開しています。こちらでは解説写真なども掲載し
ております。

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編集・発行
 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジー本部
 生物遺伝資源部門(NBRC)メールマガジン編集局
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