バイオテクノロジー

NBRCニュース 第7号

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                   NBRCニュース No. 7(2011.2.2)
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 NBRCニュース第7号をお届けします。今号は3つの連載(微生物あれこれ、微
生物の保存法、NITEが解析した微生物ゲノム)に加え、NBRC株の学名について
の記事を掲載しております。NBRCニュースは創刊一周年を迎えました。今後も
よろしくお願いいたします。

(等幅フォントでご覧ください)

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 内容
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 1.新たにご利用可能となった微生物株(2010年11月27日~2011年1月31日)
 2.微生物あれこれ(4)
    ツボカビ類
 3.微生物の保存法(4)
    酵母の凍結保存法
 4.NITEが解析した微生物ゲノム (4)
    Anaerolinea thermophila UNI-1(= NBRC 100420)
 5.NBRC株の学名について
 6.海外微生物探索へのお誘い
 7.第1回NBRC微生物実験講習会について
 8.NITEバイオテクノロジー本部の出展のお知らせ

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 1.新たにご利用可能となった微生物株(2010年11月27日~2011年1月31日)
【詳細】https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html
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 酵母 1株、糸状菌 55株、バクテリア 24株、アーキア 8株、ファージ 2株、
微生物ゲノムDNA 1種類を新たに公開しました。
 Parenteral Drug Association (PDA) タスクフォースにて、ウイルス除去の
指標に使用されているファージを、E. coli phage PR772 (= NBRC 105897)に
加えて、Pseudomonas aeruginosa phage PP7 (= NBRC 105898)とPseudomonas 
syringae phage φ6 (= NBRC 105899)の2株を新たに公開しました。

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 2.微生物あれこれ(4)
    ツボカビ類                    (稲葉重樹)
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 近年、幅広い両生類に寄生し、中南米やオーストラリアでの両生類個体群減
少の原因の一つと考えられているカエルツボカビがマスコミを賑わせました。
カエルツボカビは、接合門、子嚢菌門、担子菌門などとともに菌界(真菌類)
を構成するツボカビ門の1種です。今回は、他の菌類に比べてなじみの薄いツ
ボカビ類を紹介します。
 ツボカビ類は、他の菌類と同様に胞子で分散しますが、その胞子の後端に1
本(一部の種では複数)の鞭毛が生えている点が特徴です。ツボカビ類の胞子
は遊走子と呼ばれ、鞭毛を運動させることによって水中を遊泳することができ
ます。遊走子の形状は動物の精子に類似しており、菌類と動物が近縁であると
いう最近の生物分類の根拠の1つとなっています。遊走子は、遊走子嚢という
袋状の無性生殖器官の中で形成されます。ツボカビ類の形態は単純なものが多
く、1つまたは複数の遊走子嚢と栄養を吸収する仮根からなる独特の形態を示
します。遊走子は遊走子嚢の壁の一部に開いた孔から外部に放出され、あとに
残された空の遊走子嚢が「壺」のように見えます。これが「ツボカビ」という
分類群名の由来です。「カビ」という名前からは、アオカビやコウジカビなど
にみられる発達した菌糸体が連想されますが、ツボカビ類ではそのような形態
を示す種は比較的少数です。

        遊走子を放出中のツボカビ類菌体(液体培養)
      遊走子嚢にあいた複数の孔から遊走子が泳ぎだしている。
  ※上の動画をご覧いただくには、プラグインのダウンロードが必要です。

 ツボカビ類は、赤道直下の熱帯から南極大陸などの寒帯まで世界中に分布し
て、河川、湖沼、海などの水域に生息するほか、森林や田畑など身の回りの土
壌からもふつうに分離することができます。自然界では腐生菌として物質循環
の一翼を担うほか、その遊走子が動物プランクトンの餌として重要であること
など、生態系でのツボカビ類の役割が注目されており、耐乾性や耐凍性などの
生理機能も新たに明らかとなってきました。また、カエルツボカビなど寄生菌
としてさまざまな生物に感染するものがあります。農業に直接被害を与える植
物寄生種は少数ですが、レタスなどの作物に病気を引き起こす植物ウイルスを
媒介する種が問題となっています。
 NBRCでは先述のカエルツボカビ(Batrachochytrium dendrobatidis NBRC 
106979)やキトリオミケス(Chytriomyces hyalinus NBRC 105430)をはじめ、
多様なツボカビ類菌株を公開しています。これらの菌株が利用され、ツボカビ
類に関する新知見につながりましたら幸いです。

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 3.微生物の保存法(4)
    酵母の凍結保存法                 (山崎敦史)
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 凍結保存する酵母の培養には、主にYM培地を用います。YM培地で良好な生育
が得られないものは、良く生育する培地を使用して下さい。また対数増殖期よ
りも定常期にある細胞の方が、生残率が高くなるため、一般的には2~3日程度
培養したものを凍結保存します。

◆ 凍結保存サンプルの調製

(1) 菌の性質や培養方法に基づいて、以下のような方法で菌体を集めます。
  a. 菌体をループなどで集められる場合
     寒天培地上のコロニーを、ループ等で小豆粒程度をかき取り、10%の
    グリセロール水1 mlが入った2 ml容の凍結保存用チューブに入れ懸濁
   します(10^6 cells/ml以上が一般的な細胞濃度です)。
  b. 菌体をループで集められない場合
    偽菌糸等が形成されて菌が寒天培地に固着し、ループ等でかき取れ
    なくなる場合は、菌株を寒天平板培地で培養します。形成されたコロ
    ニーを、直径約6~7 mmのストローで寒天培地ごと打ち抜き、そのディ
    スク3~5個を10%グリセロール水が入った凍結保存用チューブに入れま
    す。
  c. 液体培養する場合
     遠心分離により集菌して培養液を除去した後、10%グリセロール水を
    加えて懸濁し、凍結保存用チューブに移し替えます。

ループで集菌
1-a. 斜面培地からループで集菌
遠心分離で集菌
1-c. 液体培地から遠心分離
(1,000~3,000×g)で3分程度
(2) 次に4~7℃に30分程度置いて細胞内に凍害防止剤(グリセロール)を浸透
  させた後、-80℃のフリーザーに入れて凍結します。凍結に弱い株はプロ
  グラムフリーザーを使い3~4℃/minで緩慢冷却します。-30℃以上のフリ
  ーザーでは、細胞内外の氷の状態が不安定であり、僅かな温度変化により
  細胞内に氷晶が生じて細胞が死滅することがありますので、-80℃以下の
  超低温フリーザーで凍結し保存してください。-80℃フリーザーよりも保
  存性が高いのが液体窒素を用いた凍結保存法です(-150~-190℃)。

◆ 凍結保存株の復元

(1) 30℃の温水に3分間浸し急速解凍します。多くの酵母は、室温で解凍して
  もかまいませんが、急速解凍する方が良い復元効率が得られます。
(2) 解凍したグリセロール菌液を、YM培地等の至適培地(寒天培地と液体培地
  の両方)に半量ずつ添加し培養します。寒天ディスクで保存した場合は、
  滅菌したピンセット等でディスクを取り出し、寒天培地と液体培地に接種
  します。菌体の付着したディスク面が寒天培地に接するようにします。

◆ 凍結保存が難しい酵母

 凍結保存の生残率が低いと報告されている酵母菌には以下のようなものがあ
ります。括弧内は旧名もしくは無性世代名です。
 Dioszegia hungarica (Cryptococcus hungaricus)、Kazachstania exigua 
(Saccharomyces exiguus)、Kazachstania telluris (Arxiozyma tellurisCandida slooffiiCandida pintolopesii)、Leucosporidium antarcticumLipomyces lipoferLipomyces starkeyiMagnusiomyces ovetensis 
(Dipodascus ovetensisEndomyces ovetensis)、Mrakia frigida 
(Leucosporidium nivale)、Nadsonia commutataRhodotorula bogoriensis 
(Candida bogoriensis)

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 4.NITEが解析した微生物ゲノム (4)
    Anaerolinea thermophila UNI-1(= NBRC 100420)
 【詳細】http://www.bio.nite.go.jp/dogan/top     (山田佐知子)
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 自然界には、環境中DNAの解析によりその存在は確認されているものの、分
離されていない微生物が多数存在します。1月24日にゲノム情報をデータベー
スDOGANより公開したAnaerolinea thermophila UNI-1(= NBRC 100420)も、
そのような長年の間分離されなかった細菌の一つです。
 A. thermophila UNI-1は、高温廃水処理リアクター中のメタン発酵汚泥から
分離された好熱性の偏性嫌気性糸状細菌で、Chloroflexi門に属します。本菌
が属するChloroflexi門は光合成細菌やハロゲン化合物分解菌も含み、系統的
に大きな多様性を持っていることが、近年の研究によって明らかにされていま
す。しかし、ゲノム解析をされた例は未だ少なく、なかでも様々な環境から
16S rRNA遺伝子が検出されていたにもかかわらず、その実体が不明であった亜
門Ⅰ(Anaerolinea綱とCaldilinea綱から構成される)に属する細菌では、本
菌が初のゲノム解析株です。
 ゲノム解析から、A. thermophila UNI-1は約3.5 Mbの環状染色体を持ち、そ
の染色体上には 3,179個の遺伝子が予測されました。これらの遺伝子を解析し
た結果、解糖系やリジン生合成経路において、アーキアや高度好熱細菌等の限
られた細菌のみに保存されているユニークな代謝経路を保有している可能性が
示唆されました。また既知の遺伝子との相同性からは、脂肪酸代謝経路におけ
るアセチルCoAを始発とする脂肪酸の炭素鎖伸長反応に関与する遺伝子群が見
つかっていません。環境中から脂肪酸を取り込む可能性も含めて、本菌の脂肪
酸代謝経路について興味が持たれます。本菌のゲノム解析結果が今後の研究発
展の一助となり、本菌が属する Chloroflexi門のさらなる実体の解明が進むこ
とが期待されます。

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 5.NBRC株の学名について           (伴さやか、中川恭好)
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 どうして菌株の学名が変わったのかというお問い合わせをよくいただいてお
りますので、NBRC株の学名変更について説明させていただきます。

(1) 分類体系更新による学名変更
 分類学的研究の結果、異なる種が1つの種に統合されたり、ある種が別の属
に移されたりすることがあります。それらの論文が発表された時には、最新の
分類体系に従ってNBRC株の学名を変えることがあります。しかしながら、菌株
そのものは別のものに変わったわけではありません。このような場合、NBRC菌
株カタログでは、変更前の学名はシノニム(synonym:異名)として表示してお
り、そちらでも検索することができます。

(2) 塩基配列解析結果による学名変更
 遺伝子の塩基配列解析技術の発展にともない、細菌や酵母ではそれらの配列
データに基づいて分類体系が再構築されるとともに、DNAデータバンクに分類
学的基準株のデータが数多く登録されています。NBRCの保存菌株には、古くは
1940年代から財団法人発酵研究所(IFO)に保存され、表現性状だけで同定さ
れているものもあり、最新の分類同定手法での確認が必要でした。NBRCでは、
すべての保存株について遺伝子の塩基配列(細菌・アーキアではSSU rRNA遺伝
子など、酵母ではLSU rRNA遺伝子D1/D2領域など、糸状菌ではD1/D2領域やITS1
-5.8S-ITS2領域など)を決定して学名確認を行っており、別種であると判断さ
れた場合には菌株の学名を変更しています。
 しかしながら、糸状菌では大半の種の配列データがデータバンクに未だに登
録されていないため、主要な種以外はシーケンスだけで同定することは不可能
です(NBRCでは約1,000属3,000種の糸状菌を保存していますが、半分以上の
1,600種がDNAデータバンクに未登録でした)。形態情報のみに基づいて同定さ
れた菌株では、しばしば同種とされる菌株同士が異なる配列であることが見ら
れます。このような場合には一株ずつ、寄託時の情報や形態を観察して確認を
行い、必要に応じて寄託者と連絡を取りながら協議しています。結果として菌
名を変えることがあります。
 このような場合、カタログではその株の過去の学名をFormer nameとして表
示しています。もちろん(1)と同様に、菌株が変わったわけではありません。

 NBRCニュース第3号でも紹介させていただきましたが、NBRCでは、分譲用標
品を作製するたびに、遺伝子の塩基配列決定を含む品質管理試験を行ない、学
名、生残性、純粋性の確認を行っています。しかし、分譲を受けた菌株に問題
がございましたら、ご連絡ください。問題があった場合には、正しい菌株や代
替株を発送するなどの対応をさせていただきます。また、昨年8月からは、菌
名変更をした菌株について変更前後の学名と変更理由をホームページで掲載し
ておりますので、ご参考下さい。
 【菌株名変更履歴】https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/change/modification.html

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 6.海外微生物探索へのお誘い
 【詳細】https://www.nite.go.jp/nbrc/global/information/collabo_VN_20110126.html
     https://www.nite.go.jp/nbrc/global/information/collabo_MN_20110126.html
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 海外微生物資源へのアクセスをお手伝いします。直接現地へ渡航し、皆様の
ニーズにあった微生物を探索することができます。ただいま、ベトナム、モン
ゴルでの微生物探索を希望される方を募集しております。渡航にあたってのサ
ポートもございますので、安心して現地へ渡航できます。応募期間は、モンゴ
ルは4月15日17時、ベトナムは7月29日17時までとなっております。ご興味がご
ざいましたら、お気軽に「abs-info@nbrc.nite.go.jp」へお問い合わせくださ
い。

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 7.第1回NBRC微生物実験講習会について
 【詳細】https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/others/seminar.html
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 微生物アンプルの復元、培養や保存方法等に関する講習会を企画し、1/11よ
りホームページ上で募集を開始したところ、早々に多数のご応募をいただきま
した。今号のNBRCニュースでも募集案内をする予定でしたが、定員に達したた
め、今回はすでに募集を締め切っております。ありがとうございました。
 講習会の内容は、復元、培養や保存方法に関する講義と、一般的な細菌とカ
ビを用いての実習です。ご要望がありましたら、今後も開催する予定です。次
回の開催が決まりましたら、NBRCニュースやホームページでご案内させていた
だきますので、よろしくお願いいたします。

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 8.NITEバイオテクノロジー本部の出展のお知らせ
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 NITEバイオテクノロジー本部は、以下の展示会に出展いたします。皆様のお
越しを心よりお待ちいたしております。

第5回日本ゲノム微生物学会年会
 日程:2011年3月14日(月)~16日(水)
 場所:東北学院大学 土樋キャンパス
    http://www.ige.tohoku.ac.jp/joho/sgmj2011/

日本農芸化学会2011年度大会
 日程:2011年3月26日(土)~28日(月)
 場所:京都女子大学 体育館
    http://www.jsbba.or.jp/2011/

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 編集後記
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 NBRCニュース創刊一周年と登録会員1,000人突破を記念して、編集局で新年
会を行いました。もちろん出席と意気込んでいましたが、次男が風邪をひき泣
く泣く断念。木更津でも毎朝0℃前後の日が続いております。寒い冬の体調管
理には気をつけたいですね。ちなみに私は微生物の恩恵(お酒)を日々取り入
れることで体調管理をしています(MO)。

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 ございます。掲載内容を許可なく複製・転載されることを禁止します。
・偶数月の1日(休日の場合はその翌日)に発行します。第8号は4月1日に発行
 予定です。

編集・発行
 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジー本部
 生物遺伝資源部門(NBRC)メールマガジン編集局
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