バイオテクノロジー

NBRCニュース 第9号

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                   NBRCニュース No. 9(2011.6.1)
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 NBRCニュース第9号をお届けします。今号は3つの連載(微生物あれこれ、微
生物の保存法、NITEが解析した微生物ゲノム)をお届けします。最後までお読
みいただければ幸いです。

(等幅フォントでご覧ください)

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 内容
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 1.新たにご利用可能となった微生物株(2011年3月31日~2011年5月30日)
 2.微生物あれこれ(6)
    塩素化エチレン分解菌のスーパースター、Dehalococcoides
 3.微生物の保存法(5)
    微細藻類の保存法
 4.NITEが解析した微生物ゲノム(5)
    ポリリン酸蓄積細菌 Microlunatus phosphovorus NM-1 (= NBRC
    101784)
 5.NBRC微生物実験講習会の延期について
 6.NITEバイオテクノロジーセンターの出展のお知らせ

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 1.新たにご利用可能となった微生物株(2011年3月31日~2011年5月30日)
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 酵母 1株、糸状菌 5株、細菌 41株、微生物ゲノムDNA 3種類を新たに公開し
ました。 

【新規公開株一覧】 
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html
【提供ゲノム一覧】 
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/dna/gdna.html

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 2.微生物あれこれ(6)
    塩素化エチレン分解菌のスーパースター、Dehalococcoides
                             (内野佳仁)
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 改正土壌汚染対策法の施行(平成22年4月)によって、汚染現場からの土壌
の搬出に対する規制が強化されたため、汚染土壌を原位置で浄化する技術、と
りわけ、低コストで実施できるバイオレメディエーション(bioremediation)
技術への期待が高まっています。バイオレメディエーションとは、有害物質で
汚染された環境を、微生物などの生物またその生産物を用いて元の状態に戻す
ことを指します。微生物には環境汚染物質を分解する能力を有し、環境浄化に
応用できるポテンシャルを秘めたものが存在します。今回は、我々が分離を目
指している塩素化エチレン類分解菌について紹介します。
 テトラクロロエチレン(PCE)やトリクロロエチレン(TCE)などの塩素化エ
チレン類は、油脂溶解力に優れ、ドライクリーニングや工業製品の洗浄剤や溶
媒として長年にわたり幅広く使われてきました。その一方、環境汚染について
も数多くの報告があり、問題視されている物質です。環境中には、塩素化エチ
レン類の分解能を有する好気性または嫌気性微生物が存在しますが、浄化対象
となる土壌や地下水は還元状態である場合が多いため、バイオレメディエーシ
ョンには嫌気性微生物がよく利用されています。嫌気性の塩素化エチレン類分
解菌としては、Dehalobacter、Dehalococcoides、Desulfitobacterium、
Desulfuromonas、Geobacter、Sulfurospirillum、Clostridium属の細菌が報告
されています。どの細菌も塩素を1つずつ水素に置換する還元的脱塩素反応
「PCE → TCE → ジクロロエチレン(DCE)異性体 → 塩化ビニル(VC) → 
エチレン」によって塩素化エチレン類を分解します。エチレンまで分解が進め
ば無毒化されますが、反応が途中から進まず、毒性が高く発癌性が疑われてい
るDCEやVCが環境中に蓄積される場合があります。既報の嫌気性微生物で、DCE
やVCを分解し、増殖することができるのはDehalococcoidesのみです。

細菌による塩素化エチレン類分解過程

 Dehalococcoidesは分離するのが困難とされ、現在、菌株を公開している生 物資源機関はありません。我々は、国内のバイオレメディエーション事業を支 援するため、Dehalococcoidesを代表とする有用な塩素化エチレン分解菌の分 離を試みております。また、微生物を環境に投入するための環境モニタリング などの手法の開発を行っています。現在、NBRCで公開している汚染物質分解菌 は、以下のホームページにも掲載しておりますので、ご参考下さい。
国内汚染サイトから掘削採集された土壌サンプル

【詳細】https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/use/decompositors.html

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 3.微生物の保存法(5)
    微細藻類の保存法                 (関口弘志)
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 今回は微細藻類の保存について紹介します。これまで、一般細菌、糸状菌、
放線菌および酵母の凍結保存法について紹介してまいりました。しかし、微細
藻類の多くは凍結や乾燥で保存することが困難なため、ほとんどの微細藻類は
継代培養により、維持されているのが実情です。そこで、今回は微細藻類の培
養も含めた保存法を紹介します。

◆ 微細藻類の凍結保存
 あくまでも経験則になってしまいますが、微細藻類では「寒天平板上で増殖
が可能」かつ、「寒天平板で生育したコロニーを液体培地に接種した後、正常
な増殖をする」株については、凍結保存法の導入が比較的容易です。NBRCでは
このような微細藻類については、これまでに紹介した糸状菌や酵母と同様の方
法で凍結保存を行っています。しかしながら、復元時において藻類の生育に変
化が認められた場合には、凍結保存を行わないこともあります。

◆ 微細藻類の培養における留意点(凍結保存サンプルの復元)
 微細藻類の場合には、培養条件として光合成に必要な光にも配慮しなくては
なりません。特に、「強光が必ずしも良好な増殖をもたらすわけではなく、時
には害となる」事にご留意ください。一般的に細胞密度が低い培養初期には弱
光で培養を開始し、細胞の増殖と共に光量を強くしていくと良好な増殖が得ら
れます。これは凍結サンプルの復元時も同様で、例えば培養容器をトレーシン
グペーパーで覆うことにより、細胞に照射される光量を低減します。

◆ 凍結保存が困難な藻類の保存
 凍結保存が不可能な株については、継代培養による保存(継代保存)を行う ことになります。NBRCでは概ね月に一度継代作業を行っています。継代保存に おいて重要であると思われるのは、慎重な継代作業を行うことはもちろんのこ と、作業後に行う生育調査です。株によっては初期増殖が困難なものも存在し ます。生育調査により増殖が芳しくない場合には、直ちにもう一度元の世代か ら継代作業を行って、様子を見ます。
 継代保存では継代作業が必要となるため、危険分散のために1つの株を複数 の場所に分けて保存することが困難です。そのため、常に安定した条件で培養 を継続できるように、保存設備の安定性にも配慮する必要があります。NBRCで は、培養装置への自家発電電力の導入、保存株を複数の培養装置で維持するこ とや免震装置の導入等をしており、万が一の危機的状況へも対応できるように 努めています。

写真のオレンジ色のシートが床免震区画。先日の震災で機能し、振動を吸収することによって継代保存株の落下や損失を防ぐことができた。
 以上、微細藻類の保存について紹介致しましたが、お伝えきれないこともご
ざいます。詳細など、ご不明の点がございましたら、何なりとお問い合わせ下
さい。

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 4.NITEが解析した微生物ゲノム(5)
    ポリリン酸蓄積細菌 Microlunatus phosphovorus NM-1 (= NBRC
    101784)                      (市川夏子)
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 生活排水に含まれるリンなどの栄養塩が湖水などの富栄養化を進行させ、大
きな社会問題となっています。廃水処理施設では微生物群からなる活性汚泥を
用いてリン酸除去を行っていますが、近日ゲノム情報を公開予定の本菌は、リ
ン除去のための嫌気・好気交換式の廃水処理リアクターの中から分離されたも
のです。本菌は好気条件下において、菌体乾燥重量(リン換算)の10-50%にも
及ぶ大量のリンをポリリン酸として菌体内に蓄積します。一方では、生分解性
プラスチックの一種であるポリヒドロキシ酪酸を合成することが知られていま
す。

写真提供:(独)産総研

 
 ゲノム解析により、この菌は約5.6 Mbの環状染色体をもち、5,359個のORFを
もつことが明らかとなりました。ポリリン酸合成酵素やポリリン酸の輸送に関
わる遺伝子群が推定され、これらのポリリン酸蓄積に関わる遺伝子を系統的に
近縁な微生物よりも数多く保持していました。また、廃水処理施設の活性汚泥
に生息するポリリン酸蓄積菌としては、他にもプロテオバクテリア門の微生物
が知られていますが、ポリリン酸蓄積に関連する遺伝子はそれらの微生物と共
通していることも明らかとなりました。その一方で、ポリヒドロキシ酪酸の合
成経路に関しては他のプロテオバクテリアとは異なり、独自の合成経路を有し
ている可能性が示唆されました。本菌のポリリン酸及びポリヒドロキシ酪酸の
蓄積メカニズムを解析することにより、効率的なリン資源の利用につながるこ
とが期待されます。

【詳細】 http://www.bio.nite.go.jp/dogan/top/

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 5.NBRC微生物実験講習会の延期について
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 NBRCでは、東京電力管内の夏季の15%節電に対応するため、実験室の一部閉
鎖などの対策を行っております。そのため、NBRCニュース8号でお伝えしてお
りました講習会の開催を延期せざるを得なくなりました。第2回の講習会は、
節電が緩和されると思われる秋以降に開催する予定です。詳細が決まりました
ら、ホームページやNBRCニュースなどでご案内させていただきます。
 お待ちいただいていた皆様にはご迷惑をおかけいたしますが、ご容赦下さい
ますようお願い申し上げます。

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 6.NITEバイオテクノロジーセンターの出展のお知らせ
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 以下の展示会に出展いたします。是非お立ち寄り下さい。

環境バイオテクノロジー学会2011年度大会/年会シンポジウム・技術コーナー
 日程:6月20日(月)~21日(火)
 場所:東京大学弥生講堂
    http://www.a.u-tokyo.ac.jp/yayoi/map.html

第10回国際バイオEXPO
 日程:6月29日(水)~7/1(金)
 場所:東京ビッグサイト
    http://www.bio-expo.jp/

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 編集後記
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 大震災から二ヶ月が経ちました。被災された方のご苦労に比べれば、まった
く問題ではありませんが、この二ヶ月は、木更津におきましても計画停電やこ
れからの夏季節電対策など、震災以前とは全く異なる日々でした。被災地が一
日でも早く、復興することを心よりお祈りしております。(YN)

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・偶数月の1日(休日の場合はその翌日)が発行日です。第10号は8月1日に配
 信予定です。

編集・発行
 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター
 NBRCニュース編集局(nbrcnews@nite.go.jp)
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独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター  生物資源利用促進課
(お問い合わせはできる限りお問い合わせフォームにてお願いします)
TEL:0438-20-5763
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