バイオテクノロジー

NBRCニュース 第15号

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                   NBRCニュース No. 15(2012.6.1)
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 NBRCニュース第15号をお届けします。今号は、微生物あれこれ、微生物の保
存法、NITEが解析した微生物ゲノムの3つの連載記事をお届けします。微生物
ゲノムでは、新たに公開した二次代謝産物生合成遺伝子クラスターデータベー
スをご紹介しております。最後までお読みいただければ幸いです。

(等幅フォントでご覧ください)

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 内容
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 1.新たにご利用可能となった微生物株(2012年3月22日~2012年5月18日)
 2.微生物あれこれ(12)
    菌類のDNAバーコーディング
 3.微生物の保存法(8)
    絶対嫌気性菌の凍結保存法
 4.NITEが解析した微生物ゲノム (8)
    二次代謝産物生合成遺伝子クラスターデータベース公開
 5.東北地方太平洋沖地震により被害を受けた生物資源の無償提供について
   (期間延長)
 6.NITEフレンドシップデイの開催についてのお知らせ

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 1.新たにご利用可能となった微生物株(2012年3月22日~2012年5月18日)
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 糸状菌 51株、細菌 9株、アーキア 1株、微細藻類 1株を新たに公開しまし
た。
 
【新規公開株一覧】 
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html

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 2.微生物あれこれ(12)
    菌類のDNAバーコーディング              (稲葉重樹)
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 主に形態形質に基づいて分類されている糸状菌(カビ・キノコ)では、DNA
塩基配列情報によって種を推定するのは困難でした。しかし、今後は状況が変
わってくるかもしれません。今回は菌類におけるDNAバーコーディングの現状
と、それに対するNBRCの取り組みについてご紹介します。
 原核生物や酵母では、ほぼすべての種でリボソームRNA(rRNA)遺伝子のDNA
塩基配列情報が得られています。そのため、分離株のシーケンスを行い、既知
種のデータと比較することによりある程度分類群を推定できます。一方で、糸
状菌の場合は種の基準標本や基準標本由来株のDNA塩基配列情報が十分に蓄積
されておらず、シーケンスによって未同定株の分類群を推定することは困難で
す。しかし、DNAバーコーディングの進展によって現状が打開される可能性が
出てきました。DNAバーコーディングとは、特定の短いDNA塩基配列をDNAバー
コードと名付け、種の識別に用いる手法のことです。ちょうど商品に付けられ
たバーコードを読み取るように、DNAバーコードを解読し比較することによっ
て未知のサンプルの種を同定することができます。動物や陸上植物ではすでに
多数の配列情報がDNAバーコードとしてデータベース化されていますが、菌類
では不十分でした。その理由は、菌類ではバーコードに適したDNA領域が決ま
っていなかったためです。しかし今年になって、菌類DNAバーコーディングコ
ンソーシアムによりrRNA遺伝子のinternal transcribed spacer(ITS)領域を
菌類の標準バーコーディングの第一候補とする案が米国科学アカデミー紀要に
掲載されました(Schoch et al. 2012)。同論文では菌類の各分類群の代表種
について、6つの領域(核リボソームDNAのITS、LSU、SSU領域と3つのタンパク
質コード領域)のDNAバーコードとしての有効性が検討されています。
 なお、このプロジェクトにはNBRCも参画し、解析に使用されたデータには
NBRCでシーケンスされた子のう菌類175菌株の配列情報も含まれています。解
析の結果、ユニバーサルプライマーを用いたPCR増幅の容易さや、種識別の可
否の観点から、菌類のDNAバーコードとしてITS領域がもっとも有望であること
が明らかとなりました。ただしコウジカビ属などITS領域だけでは種の識別が
困難な分類群が存在することも指摘されています。
   


           核リボソームDNAの概略図

 
 有効なDNAバーコードが提案されたことにより、菌類でもDNA塩基配列情報の
蓄積が加速されるものと考えられます。NBRCでは以前から糸状菌類の品質管理
情報の一環としてITSを含むrRNA遺伝子領域をシーケンスしてきましたが、今
後はより積極的に配列情報を公開していく予定です。また、ITS領域では種を
区別できない分類群については、別の有効な領域について配列情報を取得し公
開することも計画しています。

Schoch C.L. et al. (2012). Nuclear ribosomal internal transcribed 
spacer (ITS) region as a universal DNA barcode marker for fungi. PNAS 
109(16):6241-6246 (open access article).

【菌類DNAバーコーディング】
 http://www.ibol.org/phase1/wg-1-3-fungi/

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 3.微生物の保存法(8)
    絶対嫌気性菌の凍結保存法             (内野佳仁)
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 硫酸還元菌などの絶対嫌気性菌は酸素に対する感受性が強いため、凍結保存
する際は一般細菌と異なる手法が必要となります。今回は、このような細菌を
安定的に維持するため、使用する容器や液剤をガス置換して嫌気処理し、菌液
の嫌気状態を保ったまま保存する方法を紹介します。本法に必要なガス置換処
理や嫌気的なハンドリング手法については、NBRCニュース第2号掲載の「嫌気
性菌の培地調製法」をご参照ください。

(1) 保存容器として2 ml容のブチルゴム栓付ガラスバイアル(アルミシールあ
  るいはネジ付キャップなどでゴム栓を固定)を用意し、窒素ガス等で1分
  程度ガス置換した後、オートクレーブ滅菌します。また、凍結保護剤とし
  てDMSOあるいは50%グリセロール水溶液を用意し、液体培地調製と同様の
  方法で(NBRCニュース第2号参照)、ガス置換した後オートクレーブ滅菌
  します。
(2) 滅菌済み注射器(2.5 ml容)を用いて、バイアル内のガスを1 ml抜いて陰
  圧とし、注射器で凍結保護剤(DMSOの場合は0.1 ml、50%グリセロール水
  溶液は0.2 ml)を注入します。使用する注射器は、窒素ガスのスプレー缶
  等を用いてガス置換処理します(NBRCニュース第2号参照)。
(3) 保存する培養液を、注射器でバイアル内に注入します。注入量は凍結保護
  剤と合わせて1 mlとなるようにします(DMSOを0.1 ml入れている場合は、
  培養液0.9 mlを加える)。保存を成功させるためには嫌気状態であること
  が重要です。酸化還元指示薬であるレサズリンを培養液に含めておけば、
  培養液が無色であることで嫌気状態を確認できます。問題なければ、ディ
  ープフリーザー(-80℃以下)あるいは液体窒素タンクに入れて凍結し、
  そのまま保存します。

◇ 凍結標品の復元
 37℃で凍結標品をすみやかに融解し、直ちにガス置換処理した滅菌済み注射
器を用いて、菌液を取ります。針先を上にして注射器を指ではじき、注射器内
の気泡を除いた後に、培地に注入し接種します。接種後、培地に還元剤を加え
て、レサズリンが無色であることを確認します。

◇ 凍結保護剤としてDMSOを用いた場合の注意点
 DMSOは菌の増殖を抑制することがあるので、培養前に取り除く必要がありま
す。融解した菌液をオートクレーブ滅菌したマイクロチューブに移し、遠心分
離して集菌し、上清をすべて除きます。注射器(1 ml容のツベルクリン用)を
用いて、0.1 mlの液体培地で菌体を懸濁し菌液を注射器に取ります。この空気
存在下での作業は短時間で済ませるようにします。その後の手順は、上記の復
元方法と同じです。
 DMSOを用いると復元する際に一手間かかりますが、グリセロールで保存でき
ない菌株を保存できる場合があります。

【第2号「嫌気性菌の培地調製法」】
 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/others/nbrcnews/news_vol02.html

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 4.NITEが解析した微生物ゲノム (8)
    二次代謝産物生合成遺伝子クラスターデータベース公開(市川夏子)
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 放線菌などの微生物は様々な二次代謝産物を産生することが知られており、
医薬品開発や化合物の合成研究において利用されています。二次代謝産物の多
くは、ポリケチド合成酵素や非リボゾームペプチド合成酵素と転写因子、さら
に様々な修飾酵素などの働きにより多段階の反応を経て合成されます。
 これらの生合成遺伝子はゲノム中で10 kb~100 kbにわたる遺伝子クラスタ
ーを形成していますが、微生物は様々な二次代謝産物を常に産生しているわけ
ではありません。多くの生合成遺伝子は通常は休眠状態にあり、環境の変化に
応じて合成されます。微生物のゲノム解析が進むにつれて、このような休眠状
態にある二次代謝産物の生合成遺伝子クラスターが多数あることがわかってき
ました。ゲノム解析を行うと、二次代謝産物の生合成遺伝子と思われる遺伝子
を発見することがあります。しかし既知の生合成遺伝子について体系的にまと
めたデータベースがないため、その遺伝子が新規のものなのか、既知の生合成
遺伝子なのか、どのような機能を持つのかを判断することは専門家でないと難
しい面がありました。
 この度、NBRCでは放線菌の二次代謝産物生合成遺伝子クラスターに関する情
報を網羅的に集約したデータベース DoBISCUIT(ドゥビスキュイ)を3月28日
に公開しました。DoBISCUITでは、これまで生合成遺伝子クラスター毎に異な
っていた遺伝子の機能に関する記述を統一し分類しています。また、最近の文
献を収集して遺伝子の記述を更新しているため、専門家でなくとも収録されて
いる生合成遺伝子の最新の情報が確認できます。
 最近では、新規な二次代謝産物を得るためにゲノム中の休眠状態にある遺伝
子クラスターを強制発現することや、一部を遺伝子改変することによって、誘
導体を取得する技術の開発が進んでいます。つまり、ゲノム中の生合成遺伝子
クラスターの中身をよく知り、うまく利用することで、新たな医薬品開発や化
合物の合成につながるチャンスが生まれます。DoBISCUITは手軽に調べられる
図書館のようなデータベースとして、そのような研究開発のお役に立つことを
願っています。

【詳細】 http://www.bio.nite.go.jp/pks/
   
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 5.東北地方太平洋沖地震により被害を受けた生物資源の無償提供について
   (期間延長)
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 NBRCは大震災からの復興を支援するため、NBRCから入手し震災で失われた生
物資源の無償再提供を昨年度から行っております。この度、この復興支援期間
を「平成24年9月30日」まで延長しました。対象となる条件や、お申し込み方
法は、以下のホームページに掲載しております。ご希望の方は、ホームページ
をご覧のうえ、お申し込みください。
 NBRC職員一同、被災地の一刻も早い復興をお祈りいたしております。

【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/information/shien2011.html

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 6.NITEフレンドシップデイの開催についてのお知らせ
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 NITEが日頃行っている活動をより多くの方々に知っていただくため、一般公
開を行います。業務内容の紹介や、業務に関連した実験体験等を開催します。
皆様のお越しを心よりお待ちいたしております。詳細は追ってNITEホームペー
ジ(https://www.nite.go.jp/)でご案内します。

 日程:平成24年7月22日(日)12:00~18:00
 場所:独立行政法人製品評価技術基盤機構 本所
    東京都渋谷区西原2-49-10

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 編集後記
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 今年も節電の夏ということで、いろいろと対策を練られているところではな
いでしょうか。我が家には1歳の息子がおり、脱水症状を起こさないために、
こまめに水分補給をさせております。「ごきゅっ、ごきゅっ、っあ~!」どこ
で覚えたのか知りませんが、水とは思えないなかなかの飲みっぷりです。愛ら
しい姿ではありますが、将来、酒豪になるのでは・・・と複雑な気分です。
これからますます暑くなりますが、どうぞご自愛ください。(MK)

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 日に配信予定です。

編集・発行
 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター
 NBRCニュース編集局(nbrcnews@nite.go.jp)
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独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター  生物資源利用促進課
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TEL:0438-20-5763
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