バイオテクノロジー

NBRCニュース 第31号

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                   NBRCニュース No. 31(2015.2.2)
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 NBRCニュース第31号をお届けします。今号は微生物あれこれ、微生物の保存
法、NITEが解析した微生物ゲノムの3つの連載をお届けします。最後までお読
みいただければ幸いです。

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 内容
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 1.NBRCホームページのリニューアルのお知らせ
 2.新たにご利用可能となった微生物株
 3.微生物あれこれ(28)
   塩素化エチレン浄化菌Dehalococcoidesのベストパートナー、
   Sulfurospirillum
 4.微生物の保存法(16)
   菌類乾燥標本の作製法(2. きのこ編)
 5.NITEが解析した微生物ゲノム(14)
   アルカン分解菌Alcanivorax sp. NBRC 101098
 6.微生物で実験をしてみませんか?
 7.平成27年度海外微生物探索に関する共同事業先の公募のお知らせ
 8.NITEバイオテクノロジーセンター展示のお知らせ

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 1.NBRCホームページのリニューアルのお知らせ
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 見やすさとわかりやすさの向上を目指して、NITEのウェブページをリニュー
アルしました。これに伴い、NBRCの一部ページのURLを変更しております。新
しいページには自動的には移動せず、移転先のURLをクリックしていただいて
移動する仕様になっております。お手数をおかけいたしますが、ご理解ご協力
のほど、よろしくお願いいたします。

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 2.新たにご利用可能となった微生物株
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◆ NBRC株
 酵母 3株、糸状菌 15株、細菌 33株が、新たにご利用可能となりました。ト
ルエン、フェノールなどの分解能を持つ細菌を公開しています。

【新規公開、NBRC株・ゲノムDNA】
 http://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html

◆ RD株
 国内の発酵食品由来の放線菌や乳酸菌などが、新たにご利用可能となりまし
た。毎月10日頃、以下のページに新たな株を掲載しております。

【新規公開、RD株】http://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/new_rd.html

【NBRC株とRD株について】
 http://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/resources/resources.html

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 3.微生物あれこれ(28)
   塩素化エチレン浄化菌Dehalococcoidesのベストパートナー、
   Sulfurospirillum                    (内野佳仁)
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 掘削等の大規模な工事を必要としない低コストかつ低環境負荷の土壌・地下
水浄化技術として、微生物等の働きを利用するバイオレメディエーション
(Bioremediation)が急速に普及しています。本技術は、汚染箇所に栄養塩や
酸素を供給し土着の微生物を活用するバイオスティミュレーション(Bio-
stimulation)と、外部から微生物を導入して浄化するバイオオーグメンテー
ション(Bioaugmentation)の2つの方法が開発されています。バイオオーグメ
ンテーションは海外で多くの実施例がありますが、日本国内においては、利用
微生物について国のガイドライン「微生物によるバイオレメディエーション利
用指針」(バイレメ指針)に基づく安全性確認を受けることが求められていま
す。NITEはバイオオーグメンテーションの利用拡大を目指し、微生物の安全性
と生態系への影響を評価するための手法の開発と浄化菌の整備に取り組んでい
ます。
 テトラクロロエチレン(PCE)やトリクロロエチレン(TCE)などの塩素化エ
チレン類の微生物による浄化は、塩素を1つずつ水素に置換する還元的脱塩素
反応「PCE → TCE → ジクロロエチレン(DCE)異性体 → 塩化ビニル(VC) 
→ エチレン」によって行われます(NBRCニュース第9号)。塩素化エチレン類
をエチレンまで脱塩素化するDehalococcoides属細菌の分離を試み、これまで
に3菌株の分離に成功しました。しかし、いずれの株も分離後は生育が弱く、
安定的に菌株を維持することが困難でした。難培養微生物であるDehalo-
coccoides属細菌をバイオオーグメンテーションに利用するには、この問題を
解決する必要がありました。
 我々はEpsilonproteobacteriaに属するSulfurospirillum属細菌がDehalo-
coccoides属細菌の増殖と脱塩素化反応を促進することを見いだし(1)、両者
を共培養することによる大量培養法の開発を行っています。S. multivoransS. halorespirans等のSulfurospirillum属細菌には、DCEやVCの脱塩素能があ
りませんが、これらの脱塩素能を有するDehalococcoides属細菌の増殖を促進
します。その効果は絶大で、Dehalococcoides属細菌を10,000,000 CFU/mlまで
増殖させるとともに、VCを蓄積させること無く、2倍以上の速度でDCEをエチレ
ンまで完全に脱塩素化します。この共培養技術を利用した浄化事業計画につい
て、バイレメ指針適合確認申請の準備をしています。

           Sulfurospirillum sp. UCH001

         Sulfurospirillum sp. UCH001

【文献】(1)高畑陽ら.揮発性有機塩素化合物の脱塩素化能を有する新規微
       生物およびその利用. 特開2014-108061(2014).

【バイオレメディエーション利用指針について】
 http://www.nite.go.jp/nbrc/safety/bioremediation_guidance.html

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 4.微生物の保存法(16)
   菌類乾燥標本の作製法(2. きのこ編)         (稲葉重樹)
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 「菌類乾燥標本の作製法(1. 標本の意義)」に引き続き、トリュフやマツ
タケなどの子嚢菌類や担子菌類の大型子実体(いわゆる「きのこ」)の乾燥標
本作製法を解説します。前回ご紹介しましたとおり、きのこから菌株を分離し
た場合は、培地上できのこを再形成させることは困難であったり不可能であっ
たりします。そのため元のきのこを標本として保存しておくことが重要です。
標本が適切に保管されていることにより、元の標本に戻ってその形態的特徴を
再検討することが可能となります。
 きのこの乾燥標本を作製するには、まずは良い状態のきのこを採取してくる
ことが必要です。標本の価値を高めるためには、採取場所の情報や、標本作製
の前に乾燥によって失われる外部形状・色彩・匂いなどの特徴の記録をとって
おくことも重要です。採取方法・観察方法の詳細は文献を参照してください。

◆ 乾燥標本の作製
 きのこの標本作製方法としては、シリカゲルや温風によってきのこを乾燥さ
せる乾燥法が、その簡便さや標本の管理の容易さのため汎用されます。乾燥に
よってきのこの形状や色彩はかなり変化しますが、顕微鏡的な特徴は比較的良
く保存されます。
 きのこを乾燥するには、自然乾燥も可能ですが加熱乾燥機を使用する方法が
簡便です。実験用の乾燥機が無くとも、温風ヒーターやふとん乾燥機と段ボー
ルを組み合わせて自作することも可能ですし、家庭用のフードドライヤー(ま
たはフードディハイドレーター)というビーフジャーキーやドライフルーツを
作る機械を用いると簡便に標本を乾燥させることができます。きのこ標本は、
潜り込んでいる昆虫類が死滅し、かつ、きのこが焦げたり変質したりしないよ
う45~55℃程度の温風で乾燥します。このとき、きのこから出た水分が乾燥機
内にこもって蒸れないよう、一度に乾かすきのこの量や風量を調節する必要が
あります。大型のきのこは半分に切ったり、スライスしたりして短時間で乾燥
するようにします。きのこに水分が残っていると標本が痛みやすいため、数時
間~数日かけてしっかりと乾燥します。

◆ 乾燥標本の保管
 できあがった乾燥標本は、適当な大きさ(縦9~11 cm、横14~19 cm程度)
の紙製の標本包紙(パケット)に入れます。このときに、内袋に収めた標本を
さらに外袋となる標本包紙に納めて二重にすると、標本が袋から逸脱したり虫
害を受けたりすることを少なくできます。大型のきのこの場合は、紙箱に収納
することもあります。標本を入れた包紙や箱には、標本番号・学名・採集地・
採集日・採集者・同定者を基本に、基質や宿主などその他の情報を記入したラ
ベルを貼ります。あらかじめ情報を印刷した紙に標本を包んで保管することも
あります。ラベルを付けた標本は標本棚や標本ケースに収めて保管します。標
本の情報はできるだけデータベース化しておくと、後の整理や利用が楽になり
ます。
 乾燥標本の管理で大切なことは、防カビ・防虫対策です。カビの発生を防ぐ
ためには、湿度を40~60%程度に制御した標本庫で保管することが望ましいで
すが、標本庫が無い場合には標本ケースに除湿剤を入れておきます。また、き
のこの乾燥標本はダニやシバンムシ類などによる食害を受けやすいため、標本
ケースには防虫剤を入れておきます。研究発表に用いた標本や重要な標本の管
理に良好な環境が得られない場合は、公的な標本館(菌類研究者が所属する博
物館が望ましい)に保管を依頼(寄贈)することも必要となります。NBRCでは
寄託菌株の分離源となった標本の寄贈も受け付けています。

左:標本包紙、右:標本庫

     標本包紙の例          標本庫での標本保管の例
                     (NBRCハーバリウム)

◆ その他の標本作製法
 きのこの標本の作製方法には、上記の乾燥法のほかに液浸法と凍結乾燥法も
用いられます。
 液浸法はガラス製などの密閉できる容器にきのこを入れ、10%ホルマリン水
溶液や100%エタノールに浸漬して保存する方法です。液浸標本は外部形状が比
較的良く保存される利点がある一方で、重くかさばることや蒸発で減った保存
液を定期的に補充する必要があるなどの難点があります。
 凍結乾燥法はきのこを-20℃から-80℃程度のフリーザーに入れて凍結させた
後、凍結乾燥機を用いて真空ポンプによる減圧条件下で乾燥させる方法です。
凍結乾燥標本は色彩や形状が比較的良く残りますが、もろくてかさばるため取
り扱いや保管場所の確保に難があります。

【文献】 
 大阪市立自然史博物館編著.(2007).標本の作り方、大阪市立自然史博物
 館叢書(2).東海大学出版会、秦野.
 松浦啓一編著(2014).標本学(第2版)、国立科学博物館叢書(3).東海
 大学出版会、秦野.

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 5.NITEが解析した微生物ゲノム(14)
   アルカン分解菌Alcanivorax sp. NBRC 101098      (三浦隆匡)
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 Alcanivorax sp. NBRC 101098(= Nag-1)は、石川県で採集された海水から
分離された好塩性の細菌で、原油の主成分であるアルカン類を唯一の炭素源と
して生育します。これまでにアルカン分解菌の報告は多数ありますが、NBRC
101098は他の菌株では分解が難しいとされるプリスタン等の分岐型アルカンや
炭素数が22以上の長鎖アルカンを分解できることが特徴です。NBRCでは、本株
のアルカン分解遺伝子を特定するために、複数の第2世代シーケンサー(Roche
454およびIllumina HiSeq1000)と第1世代シーケンサーABI 3730との組み合わ
せにより、全ゲノムを解析しました(1)。
 その結果、NBRC 101098のゲノムは3,095,417 bpで、遺伝子数は2,824個であ
ることがわかりました。また、本菌株には上記特徴に関与すると考えられる複
数の遺伝子(2つのアルカンモノオキシゲナーゼ遺伝子、3つのシトクロムP450
遺伝子と2つのフラビン結合性モノオキシゲナーゼ遺伝子)の保持が確認され
ました。これらの遺伝子はアルカン類の分解時に高発現することがわかってお
り、本菌株の多様な分解能が遺伝子解析からも支持されました(2)。Average
Nucleotide Identity(ANI)解析の結果、NBRC 101098はA. borkumensis の基
準株であるSK2株のゲノム配列と99.5%の類似性を示したことから、本種に属
すると考えられました。
 また、Alcanivorax属は好塩性細菌であることから、塩類土壌の油浄化や好
塩性酵素のスクリーニング源としての利用が期待されております(2)。

  Alcanivorax sp. NBRC 101098ゲノムのサーキュラーマップ

   Alcanivorax sp. NBRC 101098ゲノムのサーキュラーマップ


【文献】(1)Miura et al. (2014). Genome Announc, e00766-14. 
    (2)Yakimov et al. (2007). Curr Opin Biotechnol 18, 257-66.

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 6.微生物で実験をしてみませんか?
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 NBRCでは理科実験などの学校教育用教材として利用していただける微生物も
提供しています。微生物を使った実験例を以下のサイトで公開しました。身近
な微生物の観察や、ヨーグルトを使った実験など小学生からでも行えるものも
紹介していますので、微生物に親しむきっかけとしてご活用いただけますと幸
いです。

 実験例1 身近な微生物の観察
 実験例2 タンパク質の凝固
 実験例3 酵母の発酵性試験

【詳細】 http://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/support/jikken.html

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 7.平成27年度海外微生物探索に関する共同事業先の公募のお知らせ
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 NITEでは、生物多様性条約の発効により入手や利活用が困難となっている海
外の生物遺伝資源について、利用者の皆様が容易に利用できる体制を維持・強
化するため、アジア諸国と生物多様性条約を踏まえた微生物の利用に関する覚
書等を締結し、海外の生物遺伝資源へのアクセスルートを確保しています。今
般、NITEがモンゴル、ミャンマー及びベトナムと構築した協力関係に基づく事
業に参画し、それらの国における微生物探索を共同で実施する企業、大学、研
究所等の募集を行います。公募の詳細や応募方法については、下記のサイトを
ご参照ください。

【詳細】 http://www.nite.go.jp/nbrc/global/information/index.html

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 8.NITEバイオテクノロジーセンター展示のお知らせ
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 以下に出展いたします。お立ち寄りいただいた皆様からのご相談やご質問に
もお答えします。是非お越しください。

第14回産総研・産技連LS-BT 合同研究発表会
 日程:平成27年2月3日(火)~4日(水)
 場所:産業技術総合研究所つくばセンター共用講堂
    http://unit.aist.go.jp/rp-life/03_event/ls-bt2/index.html 
 NBRCと公設試が連携した地域プロジェクト支援について報告します。

第9回日本ゲノム微生物学会年会
 日程:平成27年3月6日(金)~8日(日)
 場所:神戸大学(六甲第2キャンパス)神大会館(百年記念館)
    http://www.aeplan.co.jp/sgmj2015/
 
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 編集後記
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 正月太りに悩まされる今日この頃。私事ですが、現在ダイエットに取り組ん
でいます。その名も「ヨーグルトダイエット」。夕食は、プレーンヨーグルト
1パックのみ、といういたってシンプルな方法。実際、この1ヵ月で2 kgの減量
の効果も出始めています。ヨーグルトのビフィズス菌の働きに思いを巡らせな
がら、快腸(快調)な1年のスタートを切ることができました。(TA)

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・画像付きのバックナンバーを以下のサイトに掲載しております。受信アドレ
 ス変更、受信停止も以下のサイトからお手続きいただけます。
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・偶数月の1日(休日の場合はその前後)に配信します。第32号は3月31日に配
 信予定です。

編集・発行
 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター
 NBRCニュース編集局(nbrcnews@nite.go.jp)
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