バイオテクノロジー

NBRCニュース 第46号

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                      NBRCニュース No. 46(2017.8.1)
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 NBRCニュース第46号をお届けします。今号の微生物あれこれでは微細藻類の利用に向け
たNBRCでの取り組みをご紹介します。また、短期集中連載として「日本の名古屋議定書対
応」をお届けします。最後までお読みいただければ幸いです。
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 内容
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 1.新たにご利用可能となった微生物株
 2.微生物あれこれ(42)“ロバストな”微細藻類に対するNBRCの取り組み
 3.日本の名古屋議定書対応(1)
    遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する日本の指針
 4.微生物有害情報リストの更新・追加のお知らせ
 5.お盆期間中のNBRC微生物株・DNAリソースの発送休止について
 6.NITEバイオテクノロジーセンター展示のお知らせ
 7.NITE講座 受講生募集

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 1.新たにご利用可能となった微生物株
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◆ NBRC株、ゲノムDNA
 酵母 7株、糸状菌 36株、細菌 46株、アーキア 3株、ゲノムDNA 2種類が新たにご利用
可能となりました。
 Nature Microbiology誌で報告された高度好塩性古細菌に系統が近いメタン生成古細菌
Methanonatronarchaeum thermophilum NBRC 110805、レブリン酸からトレハロースを生産
するBurkholderia stabilis NBRC 112421を公開しました。

【詳細】 http://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html

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 2.微生物あれこれ(42)
   “ロバストな”微細藻類に対するNBRCの取り組み         (関口弘志)
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 近年、微細藻類の利用を考える上で重要な点として、ロバスト性が挙げられています。
この場合のロバスト性とは、主に培養時における環境条件の変化に左右されない、安定し
た培養を行うことが可能な特性です。NBRCでは屋外培養をはじめとして、大量培養試験な
どは行っていないために真の意味でのロバスト性には言及できませんが、ある程度意識し
た培養試験を行っています。
 これまでに微細藻類の様々な培養方法などに関して紹介してきましたが、いずれも主に
保存を目的とするものです。今回は、微細藻類の利用に向けて必要な情報を収集すること
を目的として、NBRCで実際に行っている各種培養試験について紹介します。

(1)pH及び温度に対する増殖調査
 試験方法に関してはNBRCニュース第30号「微生物あれこれ(27)微細藻類の採集(2)
の(4)培養特性の検査 」で紹介した内容と同じなので割愛しますが、この増殖調査の主
な目的としては、菌株の至適増殖条件を推定するものです。同時に、この試験結果から増
殖可能なpH及び温度が判明することから、pHもしくは温度の違いによるバイオマス量の増
減が推定できます。例えば、すべての試験温度に対してほぼ同一の増殖量を呈した株は、
温度に対してはロバストな株であると示唆されます。NBRCでは主に新規単離株から順次こ
のような情報を取得しています。

(2)強光に対する培養試験
 NBRCで微細藻類を保存する際の光量は、かなり低め(PPFD(*)が50 μmol/m^2/sec 以
下)です。これは、光量が高いと継代間隔が短くなってしまうためです。しかし微細藻類
を実用化する際には基本的には屋外での培養が想定されており、屋外環境における光条件
は上述の屋内環境の値とは大きく異なります。例えば真夏の直射日光下では、PPFDが
2000 μmol/m^2/sec 程度と言われています。このような環境下では微細藻類によっては
葉緑体が強光阻害を起こしてしまい、増殖が阻害されてしまうことがあります。この点を
考慮して、光量(特に強光)に対する培養試験を行っています。
 方法としては、ウォーターバスに設置した植物用の試験管で温度一定の条件で培養を行
い、光は底面からLED光源を使用して強光(最大400 μmol/m^2/sec)を照射しています。
その際、溶存酸素濃度などの情報から細胞の状態を判断しています。現状では、光強度は
一定の条件で行っていますが、今後は太陽光の日周変化を模擬した系で試験することが必
要かと思われます。
強光試験の様子
(写真:強光試験の様子)

(3)培養スケール及び培養方式に対する各種試験
 更に最近NBRCでは、微細藻類の大量培養を意識した培養試験にも着手しています。微細
藻類の大量培養様式としては現在様々なものが導入及び検討がされていますが、NBRCでは
レースウェイ型の大量培養を模擬した試験を行っています。方法としては、90~100 Lの
培地で培養を行い、日々得られるバイオマス量を測定し、細胞の状態は溶存酸素量及びpH
の推移から推定しています。本試験は屋内で行っているため、温度や光量に関しては屋外
環境を反映しているとは言えませんが、屋内でも開放状態で行っているために、コンタミ
ネーションに対する影響の有無などを推定することが可能となります。
 本試験を行う場合には、段階的に培養スケールを大きくしてサンプルを得ることが必要
となります。NBRCでは、30 mL(静置 or 振とう)→400 mL(通気、必要に応じて撹拌)
→10 L(400 mLと同じ)の段階でサンプルを準備していますが、菌株によってはこの段階
で想定するバイオマスが得られないために、試験を中止することもあります。この段階で
中止となった菌株は、大量培養に不向きな菌株であると判断しています。
 更にレースウエイ培養を行うことにより、上述の振とうや通気条件では認められなかっ
た特性も明らかとなっています。最も多い例としては、細胞が容器に付着もしくは沈降し
てしまい、収量(バイオマス量)が著しく低下してしまう現象です。これまでに実施した
菌株の中には、小スケールの増殖調査では増殖速度が優秀な結果であったものの、本試験
により細胞の沈降によってバイオマス量が著しく低い結果となってしまった菌株がありま
した。
レースウエイ試験の様子
(写真:レースウエイ試験の様子)

レースウエイ試験の結果
(写真:レースウエイ試験の結果, 左:細胞が沈降した株、右:好増殖の株)

各種培養スケール
(写真:各種培養スケール,左から30 mL(振とう)・400 mL(通気)・10 L(通気))

 以上がNBRCで行っている各種培養試験の概要となります。ここで紹介した内容は7月に
発行されたバイオサイエンスとインダストリー(B&I)誌に掲載されていますのでご覧い
ただければ幸いです(1)。詳細やご不明な点は、お気軽にNBRCにお問い合わせください。

 *PPFD:光合成有効光量子束密度(Photosynthetic Photon Flux Density)

【文献】
 (1) 関口, 岡田, 山崎 (2017). バイオサイエンスとインダストリー, 75, 367-371. 

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 3.日本の名古屋議定書対応(1)
   遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する日本の指針 (大野さやか、須藤 学)
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 新聞報道などで目にした方もいらっしゃると思いますが、日本は2017年5月22日に名古
屋議定書を締結し、8月20日に締約国となります。
 この名古屋議定書では、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分がなされ
るよう、遺伝資源の提供国及び利用国がとるべき措置が規定されています。提供国措置と
しては遺伝資源の取得の機会の提供及び利益の配分に関する国内法令の整備が、利用国措
置としては提供国法令の遵守の確認が定められています。
 これに対応して、世界各国で国内法令の整備が進められています。法令の内容には各国
で違いがありますが、原則として、ある国(以下、提供国)で遺伝資源を取得する取得者
は、提供国から情報に基づく事前の同意(Prior Informed Consent, PIC、注1)を得て、
提供国の提供者と利用に関する相互に合意する条件(Mutually Agreed Terms、MAT、注2)
が記された契約書を取り交わします。提供国の権限ある当局は、PICとMATを確認した上で
許可証を発給し、ABSクリアリングハウス(注3)に許可証の情報を掲載します。許可証
はABSクリアリングハウスに情報が掲載されることで国際的に認知された遵守証明書
(International Recognized Certificate of Compliance: IRCC)となります。取得者
は、取得した遺伝資源を利用する国(以下、利用国)に移転した後、利用国の政府機関か
ら利用に関しモニタリングされる場合があります。
 日本では「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に
関する指針」(以下、ABS指針)が、名古屋議定書を遵守する義務が日本で生じる8月20日
から施行されます。ABS指針は、日本人、外国人を問わず日本国内の遺伝資源を取得する
にあたりPICの取得は不要であるなど、提供国としての措置は定めていないことが特徴で
す。ABS指針の主な内容は以下のとおりです。

1.海外の遺伝資源を取得し、日本で利用する場合
 海外で取得した遺伝資源が、提供国法令(注4)に従い許可証を得て、さらにIRCCとし
てABSクリアリングハウスに掲載され、かつ取得した本人が日本国内に持ち込み利用する
場合に、環境大臣に報告する必要があります。提供国法令に従い得た許可証がIRCCになっ
ていない場合などは、環境大臣への報告を任意で行える場合もあります。

2.日本の遺伝資源を取得し、日本又は海外で利用する場合
 日本の遺伝資源を取得する場合、取得者は日本からPICを得る必要はありません。取得
した遺伝資源を日本国内外の者に提供する場合には、MATで契約することが推奨されてい
ます。

 注1:名古屋議定書第6条1に規定される情報に基づく提供国の事前の同意
 注2:名古屋議定書の親条約である生物多様性条約第15条に規定される、相互に同意
   する条件
 注3:名古屋議定書に関する法令、証明書等の情報を集約するwebサイト
   (https://absch.cbd.int/)
 注4:提供国の国内の遺伝資源等の取得の機会及び利益の配分に関する法令で、ABSクリ
   アリングハウスに掲載されたもの

 上述のとおり、日本の遺伝資源を取得・利用するにあたりPICを得る必要はなく、許可
証は発行されません。そのため日本の遺伝資源を海外で使用する際に、日本で取得したこ
とを示す必要が生じる可能性が考えられます。そこで次回は、ABS指針第5章の日本国内に
おける遺伝資源の取得に関する書類の発給についてご紹介します。

【参考URL】
 名古屋議定書の和訳・概要に関する外務省のページ : 
  http://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ge/page22_002805.html
 ABS指針に関する環境省のページ : 
  http://www.env.go.jp/press/104061.html

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 4.微生物有害情報リストの更新・追加のお知らせ
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 微生物のバイオセーフティレベル(BSL)や法規制等の情報は散在しており、必要な情
報を探すのが煩雑です。NBRCでは、それらの情報を種名ごとにまとめた「微生物有害情報
リスト」を公開しており、随時情報の追加や更新を行っています。新たに追加を希望され
る情報等がございましたら、是非bio-sangyo-inquiry@nite.go.jpまでご一報ください。

【2016年8月~2017年7月までの追加と更新】 
・真菌の有害性情報β版を公開(今年度には正式版を公開予定)
・魚介類および植物の病原細菌情報を追加
・家畜伝染病予防法の規制区分を追加、解説を更新
・日本細菌学会BSLリストと外為法の改正に伴う更新
・細菌の新種追加と学名変更に伴う更新

【詳細】 http://www.nite.go.jp/nbrc/list/risk/index.html
※ページ下部の免責事項に「同意する」をクリックするとリストが開きます。

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 5.お盆期間中のNBRC微生物株・DNAリソースの発送休止について
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 NBRCでは下記の期間中、NBRC微生物株・DNAリソースの発送を休止させていただきます。

 発送休止期間:平成29年8月9日(水)~16日(水)

 発送予定:
  8月7日(月)午前まで受付分 → 8月8日(火) 発送
  8月7日(月)午後~15日(火)午前まで受付分 → 8月17日(木)以降順次発送

 発送予定日は、NBRCからFAXまたはメールにてお送りしている「分譲依頼受領書」の案
内をご確認ください。上記期間中にお急ぎでご利用になりたい場合はご相談ください。

【詳細】 http://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/information/holiday_2017.html 

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 6.NITEバイオテクノロジーセンター展示のお知らせ
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 以下に出展いたします。ブースではお立ち寄りいただいた皆様からのご相談やご質問に
もお答えします。是非お越しください。

第32回 日本放線菌学会大会
 日時:平成29年9月7日(木)~8日(金)
 場所:若里市民文化ホール
    http://awamori.urdr.weblife.me/kaijo.html

第69回 日本生物工学会大会 附設展示会
 日時:平成29年9月12日(火)~14日(木)
 場所:早稲田大学 西早稲田キャンパス
    https://www.sbj.or.jp/2017/
 MALDI-TOF MSを用いた微生物の高精度迅速同定法や微生物有害性遺伝子情報データベー
ス(MiFuP Safety)等の紹介をします。 

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 7.NITE講座 受講生募集
   「遺伝資源のアクセスと利益配分に関するABS指針への対応と
           ABS指針第5章に規定された書類発給について」
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 本号の短期連載3.で紹介しましたように8月20日にABS指針が施行されます。NITEでは
ABS指針に則って海外の遺伝資源にアクセスする方法や、日本の遺伝資源を海外で円滑に
利用する方法について紹介するNITE講座を開催します。参加費は無料です。皆さんのご参
加をお待ちしています。

 日時:平成29年9月12日(火) 14:00~17:00 
 場所:独立行政法人 製品評価技術基盤機構
    東京都渋谷区西原2-49-10

 日時:平成29年9月14日(木) 14:00~17:00
 場所:独立行政法人 製品評価技術基盤機構 大阪事業所
    大阪府大阪市住之江区南港北1-22-16
 
 参加費:無料

 ※詳細な内容やお申し込み方法につきましては、以下のウェブページをご覧ください。

【詳細】 http://www.nite.go.jp/nbrc/information/2017_bio-kouza.html

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 編集後記
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 皆さんは、皮膚に生息する古細菌の役割をご存じですか。2017年6月号のScientific 
Reports誌に掲載されている論文によると、60歳以上の人や皮脂の量が少ない人の皮膚で
は古細菌の割合が多いようです。論文著者の推測では、古細菌は汗に含まれるアンモニア
を代謝することで皮膚を酸性に保ち、病原菌の感染を防ぐ役割があるかも知れないとのこ
とでした。私の古細菌のイメージは極限環境を好むへんてこな微生物でしたが、特に加齢
や乾燥肌の人において重要な役割を持つ可能性を知り、驚いています。しかし、私の皮膚
は古細菌が少ない(極限環境でない)ことを願っています。(AY)

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  受信停止も以下のサイトからお手続きいただけます。
  http://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/others/nbrcnews/nbrcnews.html
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  万が一間違えて配信されておりましたら、お手数ですが、下記のアドレスにご連絡く
  ださい。
 ・ご質問、転載のご要望など、NBRCニュースについてのお問い合わせは、下記のアドレ
  スにご連絡ください。
 ・掲載内容は予告なく変更することがございます。掲載内容を許可なく複製・転載され
  ることを禁止します。
 ・偶数月の1日(休日の場合はその前後)に配信します。第47号は2017年10月2日に配
  信予定です。

  編集・発行
    独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター
    NBRCニュース編集局(nbrcnews@nite.go.jp)
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住所:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 地図
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