GHS分類結果

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一般情報
項目 情報
CAS登録番号 108-88-3
名称 トルエン
物質ID 24B6503
分類実施年度 平成24年度
分類実施者 厚生労働省/環境省
新規/再分類 再分類・見直し
他年度における分類結果 平成18年度  
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関連情報
項目 情報
分類に使用したガイダンス(外部リンク) 物理化学的危険性・健康に対する有害性:政府向けGHS分類ガイダンス(H22.7版)、環境に対する有害性:国連GHS文書(改訂4版)
国連GHS文書(外部リンク) 国連GHS文書
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厚生労働省モデルSDS(外部リンク) 職場のあんぜんサイトへ
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物理化学的危険性
危険有害性項目 分類結果 絵表示
注意喚起語
危険有害性情報
(Hコード)
注意書き
(Pコード)
分類根拠・問題点
1 爆発物 分類対象外
-
-
- - 爆発性に関わる原子団を含んでいない。
2 可燃性/引火性ガス(化学的に不安定なガスを含む) 分類対象外
-
-
- - GHSの定義における液体である。
3 エアゾール 分類対象外
-
-
- - エアゾール製品でない。
4 支燃性/酸化性ガス 分類対象外
-
-
- - GHSの定義における液体である。
5 高圧ガス 分類対象外
-
-
- - GHSの定義における液体である。
6 引火性液体 区分2


危険
H225 P303+P361+P353
P370+P378
P403+P235
P210
P233
P240
P241
P242
P243
P280
P501
引火点4.4℃ [密閉式](Merck(14th, 2006))は < 23℃ であり、かつ、初留点110.6℃(Merck(14th, 2006))は >35℃ であることから、区分2に該当する。
7 可燃性固体 分類対象外
-
-
- - GHSの定義における液体である。
8 自己反応性化学品 分類対象外
-
-
- - 爆発性に関わる原子団を含んでいない、かつ自己反応性に関わる原子団を含んでいない。
9 自然発火性液体 区分外
-
-
- - 発火点は480℃であり(HSDB(2010))、常温で発火しないと考えられる。
10 自然発火性固体 分類対象外
-
-
- - GHSの定義における液体である。
11 自己発熱性化学品 分類できない
-
-
- - 液体状の物質に適した試験方法が確立していない。
12 水反応可燃性化学品 分類対象外
-
-
- - 金属および半金属(B, Si, P, Ge, As, Se, Sn, Sb, Te, Bi, Po, At)を含んでいない。
13 酸化性液体 分類対象外
-
-
- - 酸素、フッ素および塩素を含まない有機化合物である。
14 酸化性固体 分類対象外
-
-
- - GHSの定義における液体である。
15 有機過酸化物 分類対象外
-
-
- - -O-O-構造を有していない有機化合物である。
16 金属腐食性物質 分類できない
-
-
- - データなし。なお、容器に適した素材として、アルミニウム、フェライト鋼、オーステライト鋼が使用できるとの情報(GESTIS(Access on 4. 2012))がある。

健康に対する有害性
危険有害性項目 分類結果 絵表示
注意喚起語
危険有害性情報
(Hコード)
注意書き
(Pコード)
分類根拠・問題点
1 急性毒性(経口) 区分外
-
-
- - ラットLD50値として、7件のデータ [5000 mg/kg(環境省リスク評価 第1巻(2002))、5580 mg/kg(EU-RAR(2003))、5900 mg/kg、6.4g/kg、7.53g/kg(以上3件 EHC 52(1985))、7.0g/kg(JECFA 518(1981))、7300mg/kg(ATSDR(2000))]は全て区分外に該当する。なお、若齢動物のデータは分類に採用しなかった。
1 急性毒性(経皮) 区分外
-
-
- - ラットのLD50値は12000 mg/kg(ACGIH(2007))、ウサギのLD50値は14100 mg/kg(ACGIH(2007))または12400 mg/kg(EU-RAR(2003))と報告され、いずれも区分外に該当する。
1 急性毒性(吸入:ガス) 分類対象外
-
-
- - GHSの定義における液体である。
1 急性毒性(吸入:蒸気) 区分4


警告
H332 P304+P340
P261
P271
P312
ラットの4時間ばく露によるLC50値として、6件のデータ[7460 ppm、3319-7646 ppm、8762 ppm(以上3件 EU-RAR(2003))、4000 ppm、8000 ppm、8800 ppm(以上3件 PATTY(5th, 2001)]はいずれも区分4に該当する。なお、LC50値が飽和蒸気圧濃度(37368 ppm)の90%より低いため、ミストがほとんど混在しない蒸気であることから気体の基準値を適用した。
1 急性毒性(吸入:粉塵、ミスト) 分類できない
-
-
- - データなし。
2 皮膚腐食性/刺激性 区分2


警告
H315 P302+P352
P332+P313
P362+P364
P264
P280
P321
ウサギ7匹に試験物質0.5 mLを4時間の半閉塞適用した試験(Annex V, method B2)において、適用後72時間までに全動物が軽微~重度の紅斑、軽度の浮腫を示し、7日目には全動物に明瞭~重度の紅斑、5匹に軽微~軽度の浮腫が観察され、中等度の刺激性(moderately irritating)と評価された結果(EU-RAR(2003))に基づき、区分2とした。なお、ウサギ6匹を用いた別の皮膚刺激性試験(OECD TG 404)では、データの詳細が不明であるが軽度の刺激性(slightly irritating)との報告(EU-RAR(2003))、また、モルモットに本物質原液0.5 mLを24時間の閉塞適用した試験では、痂皮形成がみられ、5日後に皮膚の厚い鱗屑層と皮膚表面に軽度の裂け目が観察されたとの報告(EU-RAR(2003))もある。
3 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 区分2B
-
警告
H320 P305+P351+P338
P337+P313
P264
ウサギ6匹に試験物質0.1 mLを適用した試験(OECD TG 405、GLP)において、適用1時間後に結膜の発赤、浮腫、排出物が全動物で観察され、24、48時間後も症状は持続したが、その後減弱し72時間後には発赤のみ、7日目には全て消失し、軽度の刺激性(slight eye irritation)と結論されている(EU-RAR(2003))ことから、区分2Bとした。なお、ウサギを用いた別の眼刺激性試験(OECD TG 405)では、刺激性の総合評点MMAS(AOIに相当)は9(最大値110に対し)(ECETOC TR 48(2)(1998))との報告もあり、このスコアは区分外に相当する。また、ヒトへの影響として、誤って本物質を眼にかけられた労働者が、結膜の刺激性や角膜の損傷などの眼上皮に一過性の障害を示したが、48時間以内に完全に回復した(EHC 52(1985))との報告がある。
4 呼吸器感作性 分類できない
-
-
- - データなし。
4 皮膚感作性 区分外
-
-
- - モルモットのマキシマイゼーション試験(EU guideline B6、GLP)において、50%溶液による惹起処置に対し、20匹中1匹に反応が認められたのみで陽性率は5%(1/20)の結果から、この試験で本物質は皮膚感作性物質ではないと結論付けられた(EU-RAR(2003))こと、さらに、ヒトにおいて、トルエンは皮膚感作性物質ではない(PATTY(5th, 2001))との記載もあることから、区分外とした。
5 生殖細胞変異原性 区分外
-
-
- - マウスに経口または吸入投与した優性致死試験(生殖細胞in vivo変異原性試験)において2件の陰性結果(NITE初期リスク評価書 .87(2006))、マウスまたはラットに経口、吸入または腹腔内投与した骨髄細胞を用いた染色体異常試験(体細胞in vivo変異原性試験)において5件の陰性結果(NITE初期リスク評価書 .87(2006)、EHC 52(1985)、EU-RAR(2003))、マウスに経口または腹腔内投与した骨髄細胞を用いた小核試験(体細胞in vivo変異原性試験)において2件の陰性結果(NITE初期リスク評価書 87(2006)、NTP DB(Access on Apr. 2012))、がそれぞれ報告されている。以上より区分外とした。なお、ラットに皮下投与した骨髄細胞を用いた染色体異常試験で陽性結果の報告があるが、トルエンの純度、および異常の判断基準が明確でないため評価困難である(NITE初期リスク評価書 87(2006))と記載されていることから、採用しなかった。さらにin vivo試験では、遺伝毒性試験としてマウスまたはラットに腹腔内または吸入投与した姉妹染色分体交換試験で陰性(NITE初期リスク評価書 87(2006))または陽性(EHC 52(1985))の結果、一方、in vitro試験ではエームス試験で陰性(NITE初期リスク評価書 .87(2006)、NTP DB(1979))、マウスリンフォーマ試験で陽性(NITE初期リスク評価書 87(2006))、染色体異常試験および小核試験では陰性または陽性の結果(NITE初期リスク評価書 87(2006)、NTP DB(Access on Apr. 2012))が報告されている。
6 発がん性 分類できない
-
-
- - IARCの発がん性評価でグループ3(IARC 71(1999))、ACGIHでA4(ACGIH(2007))、U.S.EPAでグループD(IRIS(2007))に分類されていることから、「分類できない」とした。なお、ラットおよびマウスに103週間吸入ばく露(6.5 hours/day、ラット 0, 600, or 1200 ppm、マウス0, 120, 600, or 1200 ppm)した発がん性試験では、両動物種とも雌雄で発がん性の証拠は認められなかった(NTP TR 371(1990))と報告されている。
7 生殖毒性 区分1A、追加区分:授乳に対するまたは授乳を介した影響


危険
H360
H362
P308+P313
P201
P202
P280
P405
P501
ヒトにおいて、トルエンを高濃度または長期吸引した妊婦に早産、児に小頭、耳介低位、小鼻、小顎、眼瞼裂など胎児性アルコール症候群類似の顔貌、成長阻害や多動など(NITE初期リスク評価書 87(2006)、IARC 71(1999))報告され、また、1982~1984年にカナダで300例の奇形について行われた疫学調査の結果、芳香族溶媒、特にトルエンの職業ばく露歴を持つ女性の間では先天奇形増加のリスクが高かった(ACGIH(2007))ことが報告されている。さらに、溶媒のばく露を一定期間モニターされていた女性のコホートで自然流産の調査(ケース・コントロール研究)が行われ、少なくとも週3回トルエンにばく露された女性の間で自然流産のオッズ比が増加し、トルエンばく露の危険性が示された(IARC 71(1999))。以上のヒトでのばく露知見に基づき、区分1Aとした。また、「トルエンは容易に胎盤を通過し、また母乳に分泌される」(SIDS(J)(Access on Apr. 2012))との記載により、「追加区分:授乳に対するまたは授乳を介した影響」とした。なお、動物試験では、ラットに交配前から妊娠期間にかけての期間、または妊娠期間中の吸入ばく露により胎仔死亡の胚・胎仔死亡の増加、自然分娩した場合には生存出生仔数の有意な減少が認められている(EU-RAR(2003)、NITE初期リスク評価書 87(2006))が、催奇形性は報告されていない。
8 特定標的臓器毒性(単回暴露) 区分1(中枢神経系)、区分3(気道刺激性、麻酔作用)



危険
警告
H370
H335
H336
P308+P311
P260
P264
P270
P321
P405
P501
P304+P340
P403+P233
P261
P271
P312
ヒトで750 mg/m3を8時間の吸入ばく露で筋脱力、錯乱、協調障害、散瞳、3000 ppmでは重度の疲労、著しい嘔気、精神錯乱など、さらに重度の事故によるばく露では昏睡に至っている(IARC 47(1989))。また、本物質を含むシンナーを誤って経口摂取し死亡した15件の事例報告があり、大量のトルエンを摂取し30分後に死亡した51歳男性の場合、死因はおそらく重度の中枢神経系抑制であった(IRIS tox. Review(2005))と報告されている。本物質を含む塗料シンナーを約1クォート摂取した46歳男性の事例では、重度の腹痛、下痢、胃出血と共に重度の中枢神経系の抑制を示したが、36時間の維持療法後に回復を示した(IRIS tox. Review(2005))。以上の外にも本物質の中枢神経系に対する影響は多数報告され、区分1(中枢神経系)とした。一方、ヒトで本物質は高濃度の急性ばく露で容易に麻酔作用を起こし、本物質蒸気により意識を喪失した労働者の事例が多いことは周知である(EHC 52(1985))ことに加え、動物試験ではマウスまたはラットに吸入ばく露後に麻酔作用が報告されている(IARC 47(1989))ことから、区分3(麻酔作用)とした。さらに、低濃度(200 ppm)のばく露されたボランティアが一過性の軽度の上気道刺激を示した(PATTY(5th, 2001))との報告により、区分3(気道刺激性)とした。
9 特定標的臓器毒性(反復暴露) 区分1(中枢神経系、腎臓)


危険
H372 P260
P264
P270
P314
P501
トルエンに平均29年間曝露されていた印刷労働者30名と対照者72名の疫学調査研究で、疲労、記憶力障害、集中困難、情緒不安定、その他に神経衰弱性症状が対照群に比して印刷労働者に有意に多く、神経心理学的テストでも印刷労働者の方が有意に成績が劣った。また、トルエン嗜癖者に運動失調、共同運動障害、手足の振せん、大脳のびまん性萎縮が認められ、MRI検査では大脳、小脳、脳幹部のびまん性萎縮、中枢神経系全般の灰白質と白質の差異の不鮮明化等が認められた(産業医学 36巻(1994))。特に高濃度曝露で中枢神経系の機能障害と同時に脳の萎縮、脳の白質の変化などの形態学的変化も生じることが報告されている(産業医学 36巻(1994))。その他にも本物質ばく露による中枢神経系障害の発生は数多くの報告があり、区分1(中枢神経系)とした。一方、嗜癖でトルエンを含有した溶剤を吸入していた19歳男性で、悪心嘔吐が続き入院し、腎生検で間質性腎炎が認められ腎障害を示した症例(産業医学 36巻(1994))、トルエンの入った溶剤を飲んでいた26歳の男性で、急性腎不全を来たし、トルエンの腎毒性とみなされた症例(産業医学 36巻(1994))、さらに、嗜癖でトルエンを吸入し四肢麻痺で入院した17歳女性が尿細管性アシドーシスと診断され、四肢麻痔はトルエン中毒による腎尿細管障害の結果生じたものとされた症例(産業医学 36巻(1994))など、多くの事例報告がある。以上より、区分1(腎臓)とした。なお、動物試験では、ラット、マウスに経口または吸入による反復投与試験において、ガイダンス値範囲内に相当する用量で悪影響の所見は報告されていない(NITE初期リスク評価書 87(2006)、EU-RAR(2003)、EHC 52(1985))。また、ヒトで、トルエンのばく露で肝障害の指標である肝酵素の上昇がみられたとする報告は1件あるが、逆にみられなかったとする報告もあり(EU-RAR(2003))、動物では、ラットおよびマウスによる経口および吸入による反復試験で、共にガイダンス値範囲内で肝臓への悪影響は報告されていないことから肝臓は分類の根拠にしなかった。
10 吸引性呼吸器有害性 区分1


危険
H304 P301+P310
P331
P405
P501
炭化水素であり、動粘性率は0.86 mm2/s(40℃)(計算値:粘度0.727mPa・s(Renzo(1986))、密度0.8483g/mL(CRC(91st, 2010))として計算)である。よって区分1とした。また、ヒトで、吸引性の液体トルエンが肺組織と直接接触すると、重度の刺激、即ち「化学肺炎」を引き起こすとの記載(DFGMAK-Doc.7(1996))もある。

環境に対する有害性
危険有害性項目 分類結果 絵表示
注意喚起語
危険有害性情報
(Hコード)
注意書き
(Pコード)
分類根拠・問題点
11 水生環境有害性(急性) 区分2
-
-
H401 P273
P501
甲殻類(Ceriodaphnia dubia)の48時間EC50 = 3.78 mg/L(NITE初期リスク評価書, 2006)であることから、区分2とした。
11 水生環境有害性(長期間) 区分3
-
-
H412 P273
P501
慢性毒性データを用いた場合、急速分解性があり(良分解性(2週間でのBODによる分解度:123%)(既存点検, 1980))、甲殻類(Ceriodaphnia dubia)の7日間NOEC = 0.74 mg/L(NITE初期リスク評価書, 2006)であることから、区分3となる。
慢性毒性データが得られていない栄養段階に対して急性毒性データを用いた場合、急速分解性があり(良分解性(2週間でのBODによる分解度:123%)(既存点検, 1980))、生物蓄積性が低いと推定される(log Kow= 2.73(PHYSPROP Database、2008))ことから、区分外となる。
以上の結果を比較し、区分3とした。
12 オゾン層への有害性 分類できない
-
-
- - 当該物質はモントリオール議定書の附属書に列記されていないため。


分類結果の利用に関する注意事項:
  • 政府によるGHS分類結果は、事業者がラベルやSDSを作成する際の参考として公表しています。同じ内容を日本国内向けのラベルやSDSに記載しなければならないという義務はありません。
  • 本分類結果は、GHSに基づくラベルやSDSを作成する際に自由に引用又は複写していただけます。ただし、本分類結果の引用又は複写により作成されたラベルやSDSに対する責任は、ラベルやSDSの作成者にあることにご留意ください。
  • 本GHS分類は、分類ガイダンス等に記載された情報源と分類・判定の指針に基づき行っています。他の文献や試験結果等を根拠として使用すること、また、ラベルやSDSに本分類結果と異なる内容を記載することを妨げるものではありません。
  • 「危険有害性情報」欄及び「注意書き」欄のコードにマウスカーソルを重ねると、対応する文言が表示されます。Excel fileでは、コード及び文言が記載されています。
  • 「分類結果」欄の空欄又は「- 」(ハイフン)は、その年度に当該危険有害性項目の分類が実施されなかったことを意味します。

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