GHS分類結果

名称:O-3-クロロ-4-メチルクマリン-7-イルO,O-ジエチルホスホロチオアート【クマホス】
CAS番号:56-72-4

結果:
物質ID: H27-B-014/C-035B_P
分類実施者: 厚生労働省/環境省
分類実施年度: 平成27年度
使用マニュアル: 政府向けGHS分類ガイダンス(平成25年度改訂版(Ver.1.1))

物理化学的危険性
危険有害性項目 分類結果 シンボル 注意喚起語 危険有害性情報 注意書き 分類根拠・問題点
1 爆発物 分類対象外 - - - - 爆発性に関連する原子団を含んでいない。
2 可燃性/引火性ガス(化学的に不安定なガスを含む) 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
3 エアゾール 分類対象外 - - - - エアゾール製品でない。
4 支燃性/酸化性ガス 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
5 高圧ガス 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
6 引火性液体 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
7 可燃性固体 分類できない - - - - 可燃性を有するが (HSDB (Access on June 2015) データがなく分類できない。
8 自己反応性化学品 分類できない - - - - 化学構造にP-O (亜燐酸塩類) を含むが、データがなく分類できない。
9 自然発火性液体 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
10 自然発火性固体 区分外 - - - - 可燃性ではあるが、容易には着火しない (HSDB (Access on June 2015) と記されていることから、常温の空気と接触しても着火源がなければ発火しない、と判定した。
11 自己発熱性化学品 分類できない - - - - 融点が140℃以下の固体に適した試験方法が確立していない。
12 水反応可燃性化学品 区分外 - - - - 水溶解度が測定されており、水と激しく反応しないと推定される。水溶解度:1.5 mg/L (HSDB (Access on June 2015))。
13 酸化性液体 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
14 酸化性固体 分類できない - - - - フッ素と塩素を含まず酸素を含む有機化合物であり、この元素 (O) が炭素、水素以外の元素 (P) と化学結合しているがデータがなく分類できない。
15 有機過酸化物 分類対象外 - - - - 分子内に-O-O-構造を含まない有機化合物である。
16 金属腐食性物質 分類できない - - - - 固体状の物質に適した試験方法が確立していない。

健康に対する有害性
危険有害性項目 分類結果 シンボル 注意喚起語 危険有害性情報 注意書き 分類根拠・問題点
1 急性毒性(経口) 区分2 危険 H300: 飲み込むと生命に危険 P301+P310: 飲み込んだ場合:直ちに医師に連絡すること。
P361+P364: 汚染された衣類を直ちに全て脱ぎ、再使用する場合には洗濯をすること。
P264: 取扱い後は...よく洗うこと。
P270: この製品を使用するときに、飲食又は喫煙をしないこと。
P321: 特別な処置が必要である(このラベルの...を見よ)。
P330: 口をすすぐこと。
P405: 施錠して保管すること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
ラットのLD50値として、41 mg/kg (雄)、16 mg/kg (雌) (PATTY (6th, 2012)、ACGIH (7th, 2006))、37 mg/kg (雌)、139 mg/kg (雄) (ACGIH (7th, 2006))、> 240 mg/kg (雄)、17 mg/kg (雌) (PATTY (6th, 2012)、EPA Pesticide (2006)、ACGIH (7th, 2006)) との6件の報告がある。最も多くのデータ (4件) が該当する区分2とした。
1 急性毒性(経皮) 区分3 危険 H311: 皮膚に接触すると有毒 P302+P352: 皮膚に付着した場合:多量の水と石鹸で洗うこと。
P280: 保護手袋/保護衣/保護眼鏡/保護面を着用すること。
P312: 気分が悪いときは医師に連絡すること。
P321: 特別な処置が必要である(このラベルの...を見よ)。
P361: 汚染された衣類を直ちに全て脱ぐこと。
P364: そして再使用する場合には洗濯をすること。
P405: 施錠して保管すること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
ラットのLD50値として、860 mg/kg (ACGIH (7th, 2006))、> 2,400 mg/kg (雄、雌) (PATTY (6th, 2012)、EPA Pesticide (2006)、ACGIH (7th, 2006))、ウサギのLD50値として、500 mg/kg (ACGIH (7th, 2006)) との3件の報告がある。最も多くのデータ (2件) が該当する区分3とした。
1 急性毒性(吸入:ガス) 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
1 急性毒性(吸入:蒸気) 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
1 急性毒性(吸入:粉塵、ミスト) 区分2 危険 H330: 吸入すると生命に危険 P304+P340: 吸入した場合:空気の新鮮な場所に移し、呼吸しやすい姿勢で休息させること。
P403+P233: 換気の良い場所で保管すること。容器を密閉しておくこと。
P260: 粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーを吸入しないこと。
P271: 屋外又は換気の良い場所でのみ使用すること。
P284: 【換気が不十分な場合】呼吸用保護具を着用すること。
P310: 直ちに医師に連絡すること。
P320: 特別な処置が緊急に必要である(このラベルの...を見よ)。
P405: 施錠して保管すること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
ラットのLC50値 (1時間) として、1.081 mg/L (雄) (4時間換算値:0.27 mg/L)、0.341 mg/L (雌) (4時間換算値:0.085 mg/L) との報告 (PATTY (6th, 2012)、EPA Pesticide (2006)、ACGIH (7th, 2006)) に基づき、区分2とした。なお、固体であるため、ミスト・ダストの基準値を適用した。
2 皮膚腐食性/刺激性 区分外 - - - - ウサギを用いた皮膚刺激性において刺激性なしとの報告がある (EPA Pesticide (2006))。また、本物質は皮膚に対して刺激性はないとの記載がある (ACGIH (7th, 2006)、PATTY (6th, 2012))。以上の結果から区分外とした。
3 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 区分2B - 警告 H320: 眼刺激 P305+P351+P338: 眼に入った場合:水で数分間注意深く洗うこと。次にコンタクトレンズを着用していて容易に外せる場合は外すこと。その後も洗浄を続けること。
P337+P313: 眼の刺激が続く場合:医師の診断/手当てを受けること。
P264: 取扱い後は...よく洗うこと。
ウサギを用いた眼刺激性試験において軽度の刺激性がみられたが7日以内に回復したとの報告がある (EPA Pesticide (2006))。また、本物質は眼に対して軽度の刺激性を示すとの記載がある (ACGIH (7th, 2006)、PATTY (6th, 2012))。以上の結果から区分2Bとした。
4 呼吸器感作性 分類できない - - - - データ不足のため分類できない。 
4 皮膚感作性 分類できない - - - - データ不足のため分類できない。なお、ウサギを用いた皮膚感作性試験で感作性はみられなかったとの報告があるが (EPA Pesticide (2006))、試験法等詳細不明であるため分類に用いるには不十分なデータとした。
5 生殖細胞変異原性 分類できない - - - - ガイダンスの改訂により区分外が選択できなくなったため、分類できないとした。すなわち、in vivoでは、経口投与によるマウスの骨髄細胞を用いる小核試験で陰性 (EPA Pesticide (2000)、ACGIH (7th, 2006)、PATTY (6th, 2012))、in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞のマウスリンフォーマ試験、染色体異常試験、姉妹染色分体交換試験でいずれも陰性である (EPA Pesticide (2000)、ACGIH (7th, 2006)、PATTY (6th, 2012)、NTP DB (Access on July 2015))。
6 発がん性 分類できない - - - - ヒト発がん性に関する既存分類ではACGIHでA4 (ACGIH (7th, 2006))、EPAでNLに分類されている (EPA Pesticide (2006))。実験動物による試験成績としては、ラット及びマウスを用いた経口経路 (混餌) による2年間発がん性試験の結果、いずれの投与群にも腫瘍発生頻度の増加は示されなかったものの、高用量群 (20 ppm) ではラットの雌で体重増加抑制がみられた以外に、ラット、マウスともに有意な毒性所見はみられていない (NTP TR96 (1979)、ACGIH (7th, 2006)、PATTY (6th, 2012))。ただし、他のラットを用いた混餌投与による2年間投与試験では、飼料中濃度が雌で5 ppm 以上、雄で 25 ppm で血漿、及び赤血球中のコリンエステラーゼ活性の低下がみられた (ACGIH (7th, 2006)) との記述もあり、NTPによる発がん性試験の用量設定は妥当なものと考えられた。以上、旧分類以後に改訂された分類ガイダンスに従い、EPAの分類結果からは区分外相当となるが、ACGIHの分類結果を優先し、分類できないとした。
7 生殖毒性 分類できない - - - - ヒトの生殖影響に関する情報はない。実験動物ではラットを用いた経口経路 (混餌) での2世代生殖毒性試験において、血漿、及び赤血球内のコリンエステラーゼ活性の低下が親動物に認められたが、性機能、生殖能に対する有害影響は認められなかった (EPA Pesticide (2000)、ACGIH (7th, 2006)、PATTY (6th, 2012))。また、妊娠ラット、又は妊娠ウサギの器官形成期に強制経口投与した発生毒性試験において、母動物にはラットで振戦、ウサギで死亡、流産がみられたが、ラット、ウサギともに胎児に発生影響はみられなかった (EPA Pesticide (2000)、ACGIH (7th, 2006)、PATTY (6th, 2012))。以上、実験動物を用いた既存の試験結果からは重大な生殖発生毒性を懸念すべき証拠はないが、本物質が神経系を標的とする物質であることから、神経発達毒性試験など生後の発達影響について十分な評価が行われておらず、本項はデータ不足のため分類できないとした。
8 特定標的臓器毒性(単回暴露) 区分1 (神経系) 危険 H370: 臓器の障害(神経系) P308+P311: 暴露又は暴露の懸念がある場合:医師に連絡すること。
P260: 粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーを吸入しないこと。
P264: 取扱い後は...よく洗うこと。
P270: この製品を使用するときに、飲食又は喫煙をしないこと。
P321: 特別な処置が必要である(このラベルの...を見よ)。
P405: 施錠して保管すること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
本物質の毒性作用は有機リン中毒の特徴である。第一に、血漿及び赤血球のアセチルコリンエステラーゼ阻害が生じる。コリンエステラーゼ阻害の毒性症状は、急速に発症するが、回復性を有する神経筋刺激による症状である (以上、EPA Pesticide (2006)、ACGIH (7th, 2006)、PATTY (6th, 2012))。また、本物質のばく露によるヒトの臨床症状として、ムスカリン様作用 (副交感神経影響)、ニコチン様作用 (交感神経、運動機能への影響)、中枢神経系影響によるものであり、頭痛、脱力感、めまい、視力障害、精神的影響 (psychosis)、呼吸困難、麻痺、痙攣、昏睡がみられている。ヒト症例報告によれば、本物質の急性毒性は汚染食品の非意図的、又は意図的経口摂取や吸入ばく露による事故に起因し発生するとの報告がある (HSDB (Access on June 2015))。 ヒト事例では、本物質の摂食による全6例の中毒が報告されている。これらはいずれも有機リン系の毒性症状であり、摂食から1時間後に、悪心、嘔吐、腹痛、2時間後に、コリンエステラーゼ阻害による毒性症状 (発汗、排尿、縮瞳、気管支漏、過剰流涎)、3時間後に1名死亡したが、他の患者は治療により回復した。その他の事例では、視力障害も見られたが、治療により回復した (以上、ACGIH (7th, 2006)、PATTY (6th, 2012))。 実験動物では、ニワトリの100 mg/kg経口投与で、全例に著しい急性毒性が現れ1-8日以内に死亡し、遅発性神経毒性は認められなかったが、50-500 mg/kg経皮適用 (区分1相当の用量) では遅発性神経毒性がみられ、協調運動失調、麻痺、死亡の報告がある (以上、ACGIH (7th, 2006)、PATTY (6th, 2012))。 以上より、本物質は神経系への影響があり、区分1 (神経系) とした。
9 特定標的臓器毒性(反復暴露) 区分1 (神経系) 危険 H372: 長期にわたる、又は反復暴露による臓器の障害(神経系) P260: 粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーを吸入しないこと。
P264: 取扱い後は...よく洗うこと。
P270: この製品を使用するときに、飲食又は喫煙をしないこと。
P314: 気分が悪いときは、医師の診断/手当てを受けること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
ヒトに関する情報はない。 実験動物では、ラットを用いた13週間及び2年間反復経口投与毒性試験で0.25-1.2 mg/kg/day、イヌを用いた1年間反復経口投与毒性試験において0.775 mg/kg/dayで血漿中及び赤血球中コリンエステラーゼ活性の抑制がみられたが脳中コリンエステラーゼ感性の抑制はみられていない。ラットを用いた21日間反復経皮投与毒性試験において血漿中及び赤血球中コリンエステラーゼ活性の抑制が2 mg/kg/day (90日換算:0.47 mg/kg/day) 未満、脳中コリンエステラーゼ活性の抑制が20 mg/kg/day (90日換算:4.7 mg/kg/day) 、コリン作動性影響 (筋の線維束性攣縮、振戦) が20 mg/kg/day (90日換算:4.7 mg/kg/day) でみられた (EPA Pesticide (2000)、ACGIH (7th, 2006))。以上のように、赤血球中及び脳中コリンエステラーゼ活性の抑制、コリン作動性影響が区分1の範囲でみられた。 したがって、区分1 (神経系) とした。
10 吸引性呼吸器有害性 分類できない - - - - データ不足のため分類できない。

環境に対する有害性
危険有害性項目 分類結果 シンボル 注意喚起語 危険有害性情報 注意書き 分類根拠・問題点
11 水生環境有害性(急性) 区分1 警告 H400: 水生生物に非常に強い毒性 P273: 環境への放出を避けること。
P391: 漏出物を回収すること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
甲殻類(ヨコエビ)LC50 = 0.074 μg/L(US EPA: RED, 2000)であることから、区分1とした。
11 水生環境有害性(長期間) 区分1 警告 H410: 長期継続的影響によって水生生物に非常に強い毒性 P273: 環境への放出を避けること。
P391: 漏出物を回収すること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
急速分解性がなく(BIOWIN)、甲殻類(オオミジンコ)のMATC (Life-Cycle Study) = 50.5 ng/L(US EPA: RED, 2000)から、区分1とした。
12 オゾン層への有害性 分類できない - - - - データなし


分類結果の利用に関する注意事項:
 政府による分類結果は、GHSに基づくSDSやラベル作成の際に自由に引用および複写を行うことができます。ただし、引用および複写をした上で作成されたSDS・ラベルの内容に対する責任は、SDS・ラベル作成者にあることにご留意ください。
 本分類結果は、分類ガイダンス等のマニュアルで定められている情報源と判定方法に基づくものであり、あくまでもSDSやラベル作成の際の参考として公表しているものです。他の文献や試験結果等を根拠として、本内容と異なる分類結果でSDSやラベルを作成することを妨げるものではありません。

参考情報:
使用マニュアル

解説・用語集(エクセルファイル)

厚生労働省モデルラベル

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厚生労働省モデルSDS

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