政府によるGHS分類結果

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一般情報
項目 情報
CAS登録番号 98-82-8
名称 クメン
物質ID R03-B-011-MHLW
分類実施年度 令和3年度(2021年度)
分類実施者 厚生労働省
新規/再分類 再分類・見直し
他年度における分類結果 2011年度(平成23年度)   2006年度(平成18年度)  
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関連情報
項目 情報
分類に使用したガイダンス(外部リンク) 政府向けGHS分類ガイダンス(令和元年度改訂版(Ver.2.0))
国連GHS文書(外部リンク) 国連GHS文書
解説・用語集(Excelファイル) 解説・用語集
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物理化学的危険性
危険有害性項目 分類結果 絵表示
注意喚起語
危険有害性情報
(Hコード)
注意書き
(Pコード)
分類根拠・問題点
1 爆発物 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 爆発性に関連する原子団を含んでいない。
2 可燃性ガス 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における液体である。
3 エアゾール 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - エアゾール製品でない。
4 酸化性ガス 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における液体である。
5 高圧ガス 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における液体である。
6 引火性液体 区分3


警告
H226 P303+P361+P353
P370+P378
P403+P235
P210
P233
P240
P241
P242
P243
P280
P501
引火点31℃(closed cup)(GESTIS(Accessed Oct 2021))に基づいて区分3とした。なお、UNRTDG分類はUN.1918、クラス3、PGⅢである。
7 可燃性固体 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における液体である。
8 自己反応性化学品 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 分子内に爆発性、自己反応性に関連する原子団を含んでいない。
9 自然発火性液体 区分に該当しない
-
-
- - 発火点は420℃(GESTIS(Accessed Oct 2021))であり常温で発火しないと考えられる。
10 自然発火性固体 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における液体である。
11 自己発熱性化学品 分類できない
-
-
- - 液体状の物質に適した試験方法が確立していない。
12 水反応可燃性化学品 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 金属及び半金属(B,Si,P,Ge,As,Se,Sn,Sb,Te,Bi,Po,At)を含んでいない。
13 酸化性液体 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 酸素、フッ素及び塩素を含まない有機化合物である。
14 酸化性固体 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における液体である。
15 有機過酸化物 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 分子内に-O-O-構造を有していない有機化合物である。
16 金属腐食性化学品 分類できない
-
-
- - データがなく分類できない。
17 鈍性化爆発物 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 爆発性に関連する原子団を含んでいない。

健康に対する有害性
危険有害性項目 分類結果 絵表示
注意喚起語
危険有害性情報
(Hコード)
注意書き
(Pコード)
分類根拠・問題点
1 急性毒性(経口) 区分に該当しない
-
-
- - 【分類根拠】
(1)~(5)より、区分に該当しない。なお、(6)は詳細が不明なため、(1)~(5)のデータより分類を行った。

【根拠データ】
(1)ラットのLD50:2,700 mg/kg(ACGIH (2001))
(2)ラットのLD50:2,900 mg/kg(DFG MAK (1999)、MOE 初期評価 (2015)、厚労省 リスク評価書(2015))
(3)ラットのLD50:2,910 mg/kg(EU RAR (2001))
(4)ラットのLD50:3,980 mg/kg(EU RAR (2001))
(5)ラットのLD50:4,000 mg/kg(EU RAR (2001))

【参考データ等】
(6)ラットのLD50:1,400 mg/kg(DFG MAK (1999)、DFG MAK (2013)、厚労省 リスク評価書 (2015)、MOE 初期評価 (2015)、AICIS IMAP (2016)、ACGIH (2001))
1 急性毒性(経皮) 区分に該当しない
-
-
- - 【分類根拠】
(1)、(2)より、区分に該当しない。

【根拠データ】
(1)ウサギのLD50:10,600 mg/kg(DFG MAK (1999)、DFG MAK (2013)、厚労省リスク評価書 (2015))
(2)ウサギのLD50:> 3,160 mg/kg(DFG MAK (2013)、厚労省リスク評価書 (2015)、AICIS IMAP (2016)、EU RAR (2001)、ACGIH (2001))
1 急性毒性(吸入:ガス) 区分に該当しない
-
-
- - 【分類根拠】
GHSの定義における液体であり、区分に該当しない。
1 急性毒性(吸入:蒸気) 区分4


警告
H332 P304+P340
P261
P271
P312
【分類根拠】
(1)、(2)より、区分4とした。なお、ばく露濃度は飽和蒸気圧濃度の90%(5,300 ppm)より低いため、蒸気と判断し、ppmVを単位とする基準値より判断した。ガイダンスより、ラットのデータを使用したが、区分に該当しないものであったため、マウスのデータを用いた分類に基づき、分類結果を変更した。

【根拠データ】
(1)マウスのLC50(7時間):2,000 ppm (4時間換算:2,645 ppm)(DFG MAK (2013)、EU RAR (2001)、AICIS IMAP (2015)、厚労省 リスク評価書 (2015)、産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019)、ACGIH(2001))
(2)マウスのLC50(2時間):5,000 ppm (4時間換算:3,535 ppm)(産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019))

【参考データ等】
(3)ラットのLC50(6時間):> 3,520 ppm (4時間換算:4311 ppm)(産衛学会許容濃度暫定値の提案理由書 (2019)、AICIS IMAP (2016)、EU RAR (2001))
1 急性毒性(吸入:粉塵、ミスト) 区分に該当しない
-
-
- - 【分類根拠】
(1)より、区分に該当しない。なお、ばく露濃度は飽和蒸気圧濃度(295,900 mg/L)より高いため、ミストと判断した。

【根拠データ】
(1)ラットのLC50(4時間):39.3 mg/L(DFG MAK (2013)、産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019)、厚労省 リスク評価書 (2015)、MOE 初期評価 (2015)、ACGIH(2001))
2 皮膚腐食性/刺激性 区分に該当しない
-
-
- - 【分類根拠】
(1)より、区分に該当しない。

【根拠データ】
(1)ウサギ(n= 6)を用いた皮膚刺激性試験(OECD TG404相当、無傷/有傷皮膚、72時間観察)では、24及び72時間後の観察で浮腫はみられなかったが、軽度で回復性のある紅斑が全例にみられた。6例の個体別平均スコア(フルスコア:8)は各々2、1.5、2、2、2及び1.5で無傷皮膚と有傷皮膚には差はなかった(AICIS IMAP (2016)、EU RAR (2001)、ACGIH (7th, 2001)、厚労省 リスク評価書 (2015)、産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019)、REACH登録情報 (Accessed Dec. 2021))。

【参考データ等】
(2)本物質は皮膚刺激性物質である(AICIS IMAP (2016)、NTP(2009))。
(3)厚労省 リスク評価書 (2015)では、皮膚刺激性/腐食性:軽度の刺激性とされた。
(4)ウサギを用いた皮膚刺激性試験(原液0.5 mL、24時間適用)では、皮膚剥離を伴う軽微な脱脂作用がみられ、軽微な皮膚刺激性と判定された(ACGIH (7th, 2001)、厚労省 リスク評価書 (2015)、産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019))。
3 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 区分2B
-
警告
H320 P305+P351+P338
P337+P313
P264
【分類根拠】
(1)~(3)より、ガイダンスに従い、区分2Bとした。

【根拠データ】
(1)本物質は眼刺激性物質である(AICIS IMAP (2016)、NTP(2009))。
(2)ウサギを用いた眼刺激性試験において、中程度の発赤と多量の流涙を伴う刺激がみられたが、120時間以内に回復した(産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019) 、ACGIH (7th, 2001)、厚労省 リスク評価書 (2015)、AICIS IMAP (2016))。
(3)厚労省 リスク評価書 (2015)では、眼に対する重篤な損傷性/刺激性:軽度の刺激性とされた。
4 呼吸器感作性 分類できない
-
-
- - 【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
4 皮膚感作性 区分に該当しない
-
-
- - 【分類根拠】
(1)より、区分に該当しない。

【根拠データ】
(1)モルモット(n= 20)を用いたMaximisation試験(OECD TG 406、皮内投与:10%溶液において、惹起後48時間後の陽性率は0%(0/20例)であった(厚労省 リスク評価書 (2015)、産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019)、AICIS IMAP (2016)、REACH登録情報 (Accessed Dec. 2021))。
5 生殖細胞変異原性 区分に該当しない
-
-
- - 【分類根拠】
(1)~(4)より、in vivoにおける一部の投与経路や臓器で弱い反応が見られたが、in vitroを含む他の知見はすべて陰性であったことから、区分に該当しない。

【根拠データ】
(1)In vivoでは、腹腔内投与によるラット骨髄小核試験で弱陽性であったが、強制経口投与あるいは吸入ばく露による複数のマウス末梢血/骨髄小核試験ではいずれも陰性であった(CLH Report (2019)、ECHA RAC Opinion (2020)、産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019)、厚労省 リスク評価書 (2015)、MOE 初期評価 (2015))。強制経口投与による雄ラット及び雌雄マウスを用いたコメットアッセイ(対象臓器:血液、肺、肝臓、腎臓)において、雄ラットの肝臓、雌マウスの肺で弱陽性であった(CLH Report (2019)、産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019)、厚労省 リスク評価書 (2015))。
(2)In vitroでは、細菌復帰突然変異試験、ほ乳類培養細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO))を用いた遺伝子突然変異試験(HPRT遺伝子座)及び染色体異常試験で陰性であった(CLH Report (2019)、産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019)、厚労省 リスク評価書 (2015)、MOE 初期評価 (2015))。
(3)ECHAのRACは本物質が弱い遺伝毒性を有する可能性は完全には否定できないが、本物質は生殖細胞変異原性区分1B/2には該当しないとしたCLP分類提案者の結論に同意した(ECHA RAC Opinion (2020))。
(4)利用可能なデータからは、本物質自体は遺伝毒性を有さないと考えられるが、本物質の代謝物であるα-メチルスチレン酸化物は遺伝毒性を示す一部の知見がある(Canada CMP Screening Assessment (2019)、AICIS IMAP (2016))。
6 発がん性 区分1B


危険
H350 P308+P313
P201
P202
P280
P405
P501
【分類根拠】
(1)より、動物種1種(マウス)であるが適正な試験で雌雄両性に肺腫瘍をはじめとした複数種の悪性を含む腫瘍の増加が認められたことから、動物実験において発がん性の十分な証拠があると判断し、区分1Bとした。
【根拠データ】
(1)マウスを用いた2年間吸入ばく露による発がん性併合試験(雄:250~1,000 ppm、雌:125~500 ppm)において、雌雄ともに肺に悪性を含む腫瘍、雄には脾臓の血管肉腫、雌には肝細胞腺腫、肝細胞腺腫とがんの合計の増加が認められめられ、雄にはさらに甲状腺の濾胞細胞腺腫の有意な増加傾向がみられた。また、本物質にばく露したマウスの肺でK-rasとp53の突然変異を評価した結果、肺の腫瘍の87%と52%でそれぞれK-rasとp53の変異がみられたが、対照群ではそれぞれ14%と0%であった(産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019)、CLH Report (2019)、NTP TR542(2009))。
(2)国内外の評価機関による既存分類結果として、IARCでグループ2Bに(IARC 101 (2013))、日本産業衛生学会で第2群Bに(産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019):2015年分類)、EPAでカテゴリーD(not classifiable as to human carcinogenicity)に(IRIS (1997))、NTPでRに(NTP RoC 14th. (2016))、DFGでカテゴリー3に(List of MAK and BAT values 2020 (Accessed November 2021))それぞれ分類されている。また、EUは今後Carc. 1Bに分類する見込みである(ECHA RAC Opinion (2020))。

【参考データ等】
(3)ラットを用いた2年間吸入ばく露による発がん性試験(雌雄:250~1,000 ppm)において、雄には鼻腔呼吸上皮の腺腫、腎尿細管の腺腫とがんの合計、精巣の間細胞腺腫、雌には鼻腔呼吸上皮の腺腫の増加が認められた(IARC 101 (2013)、厚労省 リスク評価書 (2015)、MOE 初期評価 (2015)、AICIS IMAP (2016)、CLH Report (2019)、産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019)、NTP TR542(2009))。
(4)ラットの試験で認められた腎臓腫瘍については、雄ラットに特異的なα2u-グロブリン腎症と関連した腎臓の腫瘍形成の可能性が十分に考えられ、ヒトにはあてはまらないと考えられている(産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019))。一方、ECHAのRACは雄ラットのα-2uグロブンリン腎症に関連したものはヒトには当てはまらないと判断できるが、雌にも腎症の増加傾向(有意差はない)がみられており、雄の腎腫瘍の全てがヒトに当てはまらない機序によるものとは言い切れず、雄の腎腫瘍も本物質の発がん性の限定的な証拠と考えられるとした(ECHA RAC Opinion (2020)、NTP RoC 14 th. (2016))。
(5)雌雄マウスでみられたクメン誘発性の肺腫瘍は、用いたマウスの系統では背景発生率が高いが、増加率が大きく低用量から発生率の有意な増加がみられたことから、投与に関連した影響で生物学的意義を有する所見と考えられた。この作用機序に関して、肺のクララ細胞におけるCYP2F2が関連した代謝(ベンゼン環の酸化)によるα-メチルスチレンとその酸化物の関与が想定されている。マウスの肺にクメンの代謝産物が蓄積する所見も認められている。マウスはラットよりもCYP2E1やCYP2F(CYP2Fサブファミリーは種に対して1種類しか発現しておらず、マウスではCYP2F2、ラットではCYP2F4、ヒトではCYP2F1)を含む多くのクララ細胞を肺に有していることから、マウスとラットでは肺や呼気における代謝産物の分布状況が異なったと考えられた。一方、ヒトの肺にはCYP2F1がほとんど分布していないことから、ヒトの代謝能力はげっ歯類に比べてかなり低いと考えられる(産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019) 、NTP RoC 14 th. (2016))。
(6)ECHAのRACはマウスの肺腫瘍に関して、気道のクララ細胞の代謝亢進に関連するマウスに特異的な作用機序の仮説は、スチレン等のアルキルベンゼン化合物でみられるこの機序を介したいくつかの知見(細胞毒性を示さない、代謝物が量的に多くはない、ラットとマウス間で代謝物に差がない等)が確認できないことから、本物質には当てはまらないことが示唆されるとした。その上で、別の作用機序としてK-ras変異が関連する機序等の可能性も残るとして、肺腫瘍はヒトに当てはまるとみなすべきであるとしている(ECHA RAC Opinion (2020))。
(7)ECHAのRACはこの他、雌雄ラットにみられた鼻腔の腫瘍も発がん性の証拠であるが、良性腫瘍のみであり限定的な証拠と考えられる。雌マウスの肝臓腫瘍に関しては、当該系統の自然発生率が高く、証拠としての重みは低いとしている。以上、ヒトへの外挿性を否定できない良性/悪性腫瘍がげっ歯類2種の複数部位に発生することから、Carc. 1Bが妥当とされた(ECHA RAC Opinion (2020))。
7 生殖毒性 分類できない
-
-
- - 【分類根拠】
(2)より、著しい母動物毒性(死亡率:13%)を生じた高用量群において、胚/胎児毒性の徴候がみられたが、母動物毒性による二次的影響と考えられる。中用量以下では母動物毒性(摂餌量減少)はみられたものの、ばく露に関連した発生影響は認められていない。したがって、(1)、(2)より本物質の発生影響に関する懸念は低いと考えられるが、生殖能への影響に関する毒性情報がなく、データ不足のため分類できない。

【根拠データ】
(1)雌ラットを用いた吸入ばく露による発生毒性試験(妊娠6~15日)において、母動物に体重増加抑制、摂餌量減少、肝臓重量増加が認められる最高濃度(1,200 ppm)まで、母動物の生殖影響も胎児への発生影響も認められなかった(厚労省 リスク評価書 (2015)、MOE 初期評価 (2015)、産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019)、DFG MAK (2013)、AICIS IMAP (2016)、Canada CMP Screening Assessment (2019))。
(2)雌ウサギを用いた吸入ばく露による発生毒性試験(妊娠6~18日)において、母動物には低用量群から摂餌量減少、高用量(2,300 ppm)群では、死亡(2/15例)、流産(1/15例)、体重増加抑制、口腔・鼻腔周囲の汚れ等が認められた。胎児には低用量群で頭部に斑状出血を有する胎児比率の増加がみられたが、自然発生率の範囲内であった。高用量群では吸収胚/着床後死亡胚の増加、生存胎児比率の減少傾向がみられた(厚労省 リスク評価書 (2015)、MOE 初期評価 (2015)、産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019)、DFG MAK (2013)、AICIS IMAP (2016)、Canada CMP Screening Assessment (2019))。

【参考データ等】
(3)ラット及びマウスを用いた14週間吸入ばく露試験において、雄マウスの最高濃度ばく露群で精巣上体の精子数の減少がみられたが、それ以外には雌雄のいずれにも生殖器への有害影響は認められなかった(産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019)、DFG MAK (2013)、厚労省 リスク評価書 (2015)、AICIS IMAP (2016)、Canada CMP Screening Assessment (2019))。
8 特定標的臓器毒性(単回暴露) 区分1(神経系)、区分3(麻酔作用、気道刺激性)



危険
警告
H370
H336
H335
P308+P311
P260
P264
P270
P321
P405
P501
P304+P340
P403+P233
P261
P271
P312
【分類根拠】
(1)、(2)より、ヒトの知見において神経系及び気道への影響がみられた。(3)~(8)より、動物の知見において、区分1の範囲で中枢神経系への影響(運動失調、歩行異常、意識喪失)がみられた。以上より、区分1(神経系)、区分3(麻酔作用、気道刺激性)とした。

【根拠データ】
(1)吸入や経口摂取により眩暈、運動失調、嗜眠、頭痛、意識喪失を生じる。ヒトの TCLo として 200 ppm(984 mg/m3。傾眠や活動抑制、易刺激性)との報告がある(MOE 初期評価 (2015)、厚労省 リスク評価書(2015))。
(2)300-400 ppm のクメンにばく露した労働者が、眼および上気道の痛みを訴えたとの報告がある(厚労省 リスク評価書(2015))。
(3)ラットを用いた単回吸入ばく露試験(蒸気、6時間)において、0.461 mg/L(4時間換算:0.565 mg/L、区分1の範囲)で四肢の屈曲反射の低下、水平移動の増加(雌)が、1.03 mg/L(4時間換算:1.26 mg/L、区分1の範囲)で直腸体温低下、水平運動の増加、歩行障害(雄)がみられたとの報告がある(DFG MAK (1999)、厚労省 リスク評価書 (2015))。
(4)ラットを用いた単回吸入ばく露試験(蒸気、4時間)において、1.98 mg/L(区分1の範囲)で意識喪失がみられたとの報告がある(DFG MAK (1999)、厚労省 リスク評価書 (2015))。
(5)マウスを用いた単回吸入ばく露試験(蒸気、6時間)において、2.5~6 mg/L(4時間換算:3.06~7.35 mg/L、区分1の範囲)で活動性亢進、歩行異常がみられたとの報告がある(AICIS IMAP (2016))。
(6)マウスを用いた単回吸入ばく露試験(蒸気、4時間)において、1.72 mg/L(区分1の範囲)で麻酔、運動失調、反射喪失、呼吸頻度の減少、肝臓と腎臓における脂肪沈着、脾臓濾胞における細網細胞の核の断片の貪食がみられたとの報告がある(DFG MAK (1999)、厚労省 リスク評価書 (2015))。
(7)マウスを用いた単回吸入ばく露試験(蒸気、7時間)において、10 mg/L(4時間換算:13.2 mg/L、区分2の範囲)で中枢神経系抑制による呼吸不全がみられたとの報告がある(AICIS IMAP (2016))。
(8)ラットを用いた単回経口投与試験において、1,350 mg/kg(区分2の範囲)で重度の運動障害、麻酔作用、白血球数の減少が、2,000 mg/kg(区分2の範囲)で24時間以内に全例死亡がみられたとの報告がある(DFG MAK (1999)、厚労省 リスク評価書 (2015))。
9 特定標的臓器毒性(反復暴露) 区分2(呼吸器)


警告
H373 P260
P314
P501
【分類根拠】
(1)より、ヒトの知見において、重度の影響はみられなかったが、(5)、(6)より、呼吸器への影響がみられたことから、区分2(呼吸器)とした。なお、ガイダンスに基づき分類結果を変更した。また、(2)~(6)より、動物の知見において、雄ラットのみにみられた腎臓の組織変化等の所見はα-2uグロブリン腎症に基づくものと判断し、標的臓器として採用していない。

【根拠データ】
(1)クメンを溶剤として 1~2 年にわたって使用していた労働者で、毎日のばく露が原因となる障害の発生はなかった。また、大多数の労働者で 300~400 ppm の濃度は眼や上気道の痛みを生じたが、一部の労働者では 400 ppm をかなり上回る濃度でもすぐに耐容性を示したとの報告がある(厚労省 リスク評価書 (2015)、MOE 初期評価 (2015)、AICIS IMAP (2016)、産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019))。
(2)ラットを用いた4週間反復吸入ばく露試験(蒸気、6 時間/日、5 日/週)において、0.517 mg/L(90日換算:0.115 mg/L、区分1の範囲)で頭部の左右の動きの増加と斜頸様症状が、1.476 mg/L(90日換算:0.328 mg/L、区分2の範囲)で平均絶対腎臓重量の増加(雄)が、2.947 mg/L(90日換算:0.655 mg/L、区分2の範囲)で左右腎臓の平均絶対重量増加(雄)、円背位姿勢(1/10例)(雌)、平均絶対腎臓重量の増加がみられたとの報告がある(厚労省 リスク評価書 (2015)、MOE 初期評価 (2015)、産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019))。
(3)ラットを用いた14週間反復吸入ばく露試験(GLP、蒸気、6 時間/日、5 日/週)において、0.308 mg/L(0.22 mg/L、区分2の範囲)で腎皮質における硝子滴の蓄積(雄)が、0.615 mg/L(0.439 mg/L、区分2の範囲)で腎臓におけるα2u-globulin 量の増加、腎髄質顆粒状円柱の頻度増加(雄)が、1.23 mg/L(0.879 mg/L、区分2の範囲)で腎臓と肝臓重量増加(雄)がみられたとの報告がある(厚労省 リスク評価書 (2015)、産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019)、AICIS IMAP (2016)、NTP TR542 (2009))。
(4)マウスを用いた14週間反復吸入ばく露試験(蒸気、6 時間/日、5 日/週)において、0.308 mg/L(0.22 mg/L、区分2の範囲)で肝臓におけるごく軽度の巣状慢性炎症が、0.615 mg/L(0.439 mg/L、区分2の範囲)で平均体重の低値、肝臓重量増加が、1.23 mg/L(0.879 mg/L、区分2の範囲)で精巣上体尾部重量及び精子数の減少(雄)、昏睡状態・運動失調の後1週間以内に死亡する個体(8/10例)がみられたとの報告がある(厚労省 リスク評価書 (2015)、産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019)、AICIS IMAP (2016)、NTP TR542 (2009))。
(5)ラットを用いた105週間反復吸入ばく露試験(GLP、蒸気、6時間/日、5日/週)において、1.23 mg/L(0.879 mg/L、区分2の範囲)で嗅上皮の基底細胞の過形成、呼吸上皮の過形成(雄)、腎乳頭部の鉱質化(雄)が、2.46 mg/L(1.76 mg/L、区分該当しない範囲)で尿細管の過形成と腎臓乳頭部の移行上皮の過形成(雄)が、4.92 mg/L(3.51 mg/L、区分該当しない範囲)で呼吸上皮の過形成(雌)がみられたとの報告がある(厚労省 リスク評価書 (2015)、MOE 初期評価 (2015)、AICIS IMAP (2016)、産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019)、NTP TR542 (2009))。
(6)マウスを用いた105週間反復吸入ばく露試験(GLP、蒸気、6時間/日、5日/週)において、1.23 mg/L(0.879 mg/L、区分2の範囲)で肝臓のエオジン好性変異細胞巣の発生率の増加(雄)、嗅上皮の萎縮(雄)、嗅上皮の腺の過形成(雄)、嗅上皮基底細胞の過形成(雌)が、2.46 mg/L(1.76 mg/L、区分に該当しない範囲)で化膿性炎症、嗅上皮基底細胞の過形成、嗅上皮の異型過形成、前胃の上皮性過形成、嗅上皮の異型過形成(雌)、嗅上皮の腺の過形成(雌)、呼吸上皮の扁平上皮化生の発生率増加(雌)がみられたとの報告がある(厚労省 リスク評価書 (2015)、MOE 初期評価 (2015)、AICIS IMAP (2016)、産衛学会 許容濃度暫定値の提案理由書 (2019)、NTP TR542 (2009))。
10 誤えん有害性 区分1


危険
H304 P301+P310
P331
P405
P501
【分類根拠】
(1)~(4)より区分1とした。

【根拠データ】
(1)本物質は炭化水素化合物である。
(2)本物質(液体)を誤嚥して化学性肺炎を起こすことがある(MOE 初期評価 (2015))。
(3)EU、オーストラリアでは、クメンの動粘性率が低いことと急性経口毒性試験の剖検例で肺に浮腫や出血がみられたことを根拠に、本物質は「飲み込むと肺の傷害を生じるおそれがある」旨のリスク警句を付して有害性物質に分類するよう勧告された(AICIS IMAP (2016)、EU RAR (2001))。
(4)40℃での動粘性率は0.73×10-6 mm2/sとの報告がある(EU RAR (2001))。

環境に対する有害性
危険有害性項目 分類結果 絵表示
注意喚起語
危険有害性情報
(Hコード)
注意書き
(Pコード)
分類根拠・問題点
11 水生環境有害性 短期(急性) -
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11 水生環境有害性 長期(慢性) -
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12 オゾン層への有害性 -
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