NITE統合版 政府によるGHS分類結果

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一般情報
 
項目 情報
CAS登録番号 107-05-1
名称 塩化アリル
物質ID m-nite-107-05-1_v2
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関連情報
項目 情報
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物理化学的危険性
危険有害性項目 分類結果 絵表示
注意喚起語
危険有害性情報
(Hコード)
注意書き
(Pコード)
分類根拠・問題点 分類実施年度 分類ガイダンス等
1 爆発物 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 爆発性に関連する原子団を含んでいない。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
2 可燃性ガス 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における液体である。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
3 エアゾール 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - エアゾール製品でない。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
4 酸化性ガス 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における液体である。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
5 高圧ガス 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における液体である。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
6 引火性液体 区分2


危険
H225 P303+P361+P353
P370+P378
P403+P235
P210
P233
P240
P241
P242
P243
P280
P501
引火点-32℃ (closed cup)(ICSC(2004))、沸点45℃(ICSC(2004)、GESTIS(Accessed Oct 2021))に基づいて区分2とした。なお、UNRTDG分類はUN 1100、Class 3、副次危険6.1、PGⅠである。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
7 可燃性固体 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における液体である。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
8 自己反応性化学品 タイプG
-
-
- - 分子内に自己反応性に関連する原子団(エチレン基)を含むが、UNRTDGにおいて、UN 1100、Class 3、副次危険6.1、PGⅠに分類されており、優先評価項目の自己反応性化学品には該当しないと考えられるため、タイプGとした。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
9 自然発火性液体 区分に該当しない
-
-
- - 発火点は390℃(GESTIS(Accessed Oct 2021))であり常温で発火しないと考えられる。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
10 自然発火性固体 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における液体である。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
11 自己発熱性化学品 分類できない
-
-
- - 液体状の物質に適した試験方法が確立していない。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
12 水反応可燃性化学品 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 金属及び半金属(B,Si,P,Ge,As,Se,Sn,Sb,Te,Bi,Po,At)を含んでいない。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
13 酸化性液体 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - フッ素及び酸素を含まず、塩素を含む有機化合物であるが、この塩素が炭素、水素以外の元素と化学結合していない。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
14 酸化性固体 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における液体である。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
15 有機過酸化物 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 分子内に-O-O-構造を有していない有機化合物である。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
16 金属腐食性化学品 区分1


警告
H290 P234
P390
P406
低沸点の液体に適した試験方法が確立していなくデータはないが、乾燥した塩化アリルは、アルミニウムを腐食し、高温であると軟鋼、鋳鉄なども腐食する。吸湿していると腐食性が高く耐食材料を用いる必要がある(溶剤ポケットブック(1994))との情報から区分1とした。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
17 鈍性化爆発物 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 爆発性に関連する原子団を含んでいない。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)

健康に対する有害性
危険有害性項目 分類結果 絵表示
注意喚起語
危険有害性情報
(Hコード)
注意書き
(Pコード)
分類根拠・問題点 分類実施年度 分類ガイダンス等
1 急性毒性(経口) 区分4


警告
H302 P301+P312
P264
P270
P330
P501
【分類根拠】
(1)~(4)より区分4とした。

【根拠データ】
(1)ラットのLD50:450~700 mg/kg(厚労省 リスク評価書 (2015)、AICIS IMAP (2013) 、NITE 初期リスク評価書 (2008)、SIAR (1996))
(2)ラットのLD50:450 mg/kg(MOE 初期評価 (2013))
(3)ラットのLD50:460 mg/kg(MOE 初期評価 (2013))
(4)ラットのLD50:700 mg/kg(ACGIH (2011))
令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
1 急性毒性(経皮) 区分に該当しない
-
-
- - 【分類根拠】
(1)~(5)より区分に該当しない。

【根拠データ】
(1)ラットのLD50:2,200 mg/kg(厚労省 リスク評価書 (2015)、NITE 初期リスク評価書 (2008))
(2)ウサギのLD50:2,066 mg/kg(MOE 初期評価 (2013)、ACGIH (2011))
(3)ウサギのLD50:2,026 mg/kg(AICIS IMAP (2013)、NITE 初期リスク評価書 (2008)、SIAR (1996))
(4)ラットとウサギのLD50:約2,000 mg/kg(DFG MAK (2002))
(5)ウサギのLD50:1,100~2,200 mg/kg(厚労省 リスク評価書 (2015))
令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
1 急性毒性(吸入:ガス) 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 【分類根拠】
GHSの定義における液体であり、区分に該当しない。
令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
1 急性毒性(吸入:蒸気) 区分3


危険
H331 P304+P340
P403+P233
P261
P271
P311
P321
P405
P501
【分類根拠】
(1)~(8)より、有害性の高い区分を採用し、区分3とした。なお、ばく露濃度は飽和蒸気圧濃度の90%(437,118 ppm)より低いため、蒸気と判断し、ppmVを単位とする基準値より判断した。

【根拠データ】
(1)ラットのLC50(4時間):1,120~2,624 ppm(区分3~区分4相当)(厚労省 リスク評価書 (2015))
(2)ラットのLC50(4時間):1,100~2,600 ppm(区分3~区分4相当)(NITE 初期リスク評価書 (2008))
(3)ラット(雄)のLC50(2時間):3,500 ppm(4時間換算値:2,475 ppm(7.75 mg/L)、区分3相当)(厚労省 リスク評価書 (2015)、NITE 初期リスク評価書 (2008)、US AEGL (2008))
(4)ラット(雌)のLC50(2時間):3,800 ppm(4時間換算値:2,687 ppm (8.41 mg/L)、区分4相当)(厚労省 リスク評価書 (2015)、NITE 初期リスク評価書 (2008)、US AEGL (2008))
(5)ラットのLC50(2時間):11,000 mg/m3(4時間換算値:7.8 mg/L(2,473 ppm)、区分3相当)(MOE 初期評価 (2013)、ACGIH (2011))
(6)ラットのLC50(4時間):2,000 ppm(区分3相当)(ACGIH (2011))
(7)ラットのLC50(4時間):3.506 mg/L(1,100 ppm、区分3相当)(DFG MAK (2002))
(8)ラットのLC50(4時間):8.2 mg/L(2,600 ppm、区分4相当)(DFG MAK (2002))
令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
1 急性毒性(吸入:粉塵、ミスト) 分類できない
-
-
- - 【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
2 皮膚腐食性/刺激性 区分2


警告
H315 P302+P352
P332+P313
P362+P364
P264
P280
P321
【分類根拠】
(1)、(2)より、区分2とした。

【根拠データ】
(1)本物質液体の皮膚への接触で、皮膚に発赤がみられ、灼熱感、痛みを生じ、接触数時間後に強い骨痛を惹き起こす(厚労省 リスク評価書 (2015)、NITE 初期リスク評価 (2008))。
(2)皮膚接触が長引くと紅斑と浮腫を生じるおそれがある。極めて少量の本物質液体にばく露を受けた後にも皮膚接触部位付近に深い疼痛(骨痛型)を生じる可能性がある(SIAR (1996)、ACGIH (2011))。

【参考データ等】
(3)マウスの尾に本物質原液を3~5時間浸漬した結果、限局性の皮膚の損傷 (発赤、腫脹、一部の例に皮膚の壊死) がみられた(厚労省 リスク評価書 (2015)、NITE 初期リスク評価書 (2008))。
(4)ウサギを用いた皮膚刺激性試験(原液、0.1 mL)では、軽微な刺激性がみられたとの報告がある(SIAR (1996)、AICIS IMAP (2013))。
(5)EUではSkin Irrit. 2に分類されている(CLP分類結果 (Accessed Jan. 2022))。
令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
3 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 区分1


危険
H318 P305+P351+P338
P280
P310
【分類根拠】
(1)、(2)より、区分1とした。

【根拠データ】
(1)本物質の眼への接触は疼痛と角膜障害を伴う重度の眼刺激を生じ、時には持続的な視覚障害を生じるおそれがある。本物質の蒸気も眼を刺激するが、影響は遅れて発現する可能性がある(ACGIH (2011))。
(2)眼への直接的な接触により、角膜の損傷と眼の奥の痛みが生じた(DFG MAK (2002))。

【参考データ等】
(3)48~96 ppm(150~300 mg/m3)ののばく露でヒトの眼に刺激性があり、高濃度では眼の痛み、羞明を生じる(厚労省 リスク評価書 (2015)、NITE初期リスク評価書 (2008)、DFG MAK (2002))。
(4)ラットに200 ppm (640 mg/m3)を6時間ばく露した試験で、6/10匹に眼瞼の閉鎖、結膜の充血がみられた(厚労省 リスク評価書 (2015)、NITE初期リスク評価書 (2008))。
(5)EUではEye Irrit. 2に分類されている(CLP分類結果 (Accessed Jan. 2022))。
令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
4 呼吸器感作性 分類できない
-
-
- - 【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
4 皮膚感作性 区分に該当しない
-
-
- - 【分類根拠】
(1)より、区分に該当しない。なお、新たな知見に基づき、分類結果を変更した。

【根拠データ】
(1)マウス(n=5/群)を用いた局所リンパ節試験(LLNA)(OECD TG 429、GLP)において、刺激指数(SI値)は0.78(25%)、0.75(50%)、1.97(100%)であったとの報告がある(REACH登録情報 (Accessed Jan. 2022))。
令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
5 生殖細胞変異原性 分類できない
-
-
- - 【分類根拠】
(1)~(3)より、in vitro試験では陽性知見、in vivo試験では陰性知見が得られているが、in vivo試験の妥当性に疑義が有り、データ不足で分類できないとした。

【参考データ等】
(1)In vivoでは、ラットを用いた優性致死試験(5日間吸入ばく露(7時間/日)、1及び25 ppm)、ラットの骨髄細胞を用いた染色体異常試験(単回吸入ばく露(7時間)、1及び25 ppm)、ラットの骨髄細胞を用いた小核試験(単回吸入ばく露(7時間)、1及び25 ppm)及びマウスの骨髄細胞を用いた小核試験(単回経口投与、400 mg/kg単一用量)で、結果はいずれも陰性であった(IARC 125 (2020)、ACGIH (2011)、SIAR (1996))。
(2)In vitroでは、細菌復帰突然変異試験で陽性(一部陰性)、哺乳類培養細胞(CHL又はラット肝細胞)を用いた染色体異常試験で陽性又は陰性の結果が得られている(IARC 125 (2020)、安衛法変異原性試験 (Accessed November 2021)、MOE 初期評価 (2013))。
(3)(1)のin vivo試験結果からは変異原性の兆候は示されなかったが、被験物質が標的細胞に到達したという証拠がなく、用量が低く(もっと高用量で試験すべき)、現行のガイドラインの基準を満たさないと指摘されている(AICIS IMAP (2013)、DFG MAK (2002))。
(4)EUではMuta. 2に分類されている(CLP分類結果 (Accessed November 2021))。
令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
6 発がん性 区分1B


危険
H350 P308+P313
P201
P202
P280
P405
P501
【分類根拠】
(1)より厚生労働省がん原性指針に指定されていること、(2)で動物実験において発がん性の証拠があることから区分1Bとした。なお、新たな情報源に基づき分類結果を変更した。

【根拠データ】
(1)本物質は労働安全衛生法第28条第3項の規定に基づき、厚生労働大臣が定める化学物質による労働者の健康障害を防止するための改正指針の対象物質である(平成24年10月10日付け健康障害を防止するための指針公示第23号)。
(2)ラット及びマウスを用いた104週間吸入ばく露(6時間/日、5日/週)による発がん性試験(ラット:雌雄:25~100 ppm、マウス:雌雄:50~200 ppm)において、ラットの試験では雄で膀胱の移行上皮がんの有意な増加傾向及び発生頻度の有意な増加が認められた。また、雄では甲状腺腫瘍(ろ胞上皮腺腫、ろ胞上皮の腺腫又は腺がん(組合せ)、C細胞がん)の発生率、肺腫瘍(細気管支-肺胞腺腫、細気管支-肺胞の腺腫又はがん(組合せ))の発生率、さらに腹膜中皮腫、皮膚の角化棘細胞腫及び乳腺の線維腺腫の発生率に有意な正の傾向がみられた。一方、雌ラットには腫瘍発生率の有意な増加は認められなかった。マウスの試験では、雌雄ともにハーダー腺の腺腫と肺の細気管支-肺胞腺腫の発生率に有意な正の傾向及び有意な発生率の増加が認められた(厚労省委託がん原性試験結果(2003))。

【参考データ等】
(3)ラット及びマウスを用いた78週間強制経口投与(5日/週)による発がん性試験(ラット:雄/雌:0、57/55、77/73 mg/kg/day、マウス:雄/雌:0、172/129、199/258 mg/kg/day)において、ラットの試験は早期死亡例が多発し、本物質の発がん性評価には不十分な試験と結論された。マウスの試験では雌で前胃腫瘍の発生率の増加(統計的に有意差なし)がみられた。雄は本物質の発がん性評価には不十分とされた(IARC 125 (2020)、厚労省 リスク評価書 (2015)、MOE 初期評価 (2013))。
(4)国内外の評価機関による既存分類結果として、IARCではグループ3に(IARC 125 (2020))に、EPAでC(Possible Human Carcinogens)に(IRIS (1990))、ACGIHでA3に(ACGIH (2011))、EUでCarc. 2に (CLP分類結果 (Accessed Nov. 2021))、DFGでCategory 3に(List of MAK and BAT values (2020))、それぞれ分類されている。
(5)IRISのカテゴリーC評価の根拠は、(2)の強制経口投与による発がん性試験でみられた雌マウスの前胃の腫瘍と様々な遺伝毒性試験における陽性結果が根幹であり、加えて本物質がアルキル化剤で、ヒト発がん性のおそれがある化学物質と構造的な関連性があるとの当時の1990年当時の見解による(IRIS (1990))。ACGIHのA3評価の根拠は、本物質が78週間強制経口投与後に前胃に腫瘍性病変に基づきマウスで発がん性を有することが示唆され、かつマウスで皮膚腫瘍のイニシエーターとして作用する知見に基づく(ACGIH (2011))。なお、EUのCarc 2の分類根拠は不明であった。
令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
7 生殖毒性 分類できない
-
-
- - 【分類根拠】
(1)~(3)より、発生影響を示唆する報告もあるが軽微なものであり、根拠として不十分と考えられた。また、繁殖能への影響に関する情報がない。以上から、データ不足のため分類できないとした。なお、新たな情報源を利用し分類結果を見直した。

【根拠データ】
(1)雌ラットを用いた吸入ばく露による発生毒性試験(妊娠6~15日)において、母動物毒性(体重増加抑制、肝臓及び腎臓重量増加)がみられる高用量(300 ppm)で、胎児に軽微な発生影響(胸骨、脊椎体の化骨遅延)がみられたとの報告がある(厚労省 リスク評価書 (2015)、MOE 初期評価 (2013)、AICIS IMAP (2013)、ACGIH (2011)、NITE 初期リスク評価書 (2008)、SIDS (2003))。
(2)雌ウサギを用いた吸入ばく露による発生毒性試験(妊娠6~18日)において、母動物毒性(体重増加抑制、肝臓重量増加)がみられる高用量(300 ppm)で、吸収胚数の増加したが、自然発生率の範囲内にあり、奇形や変異の発生率増加もなかったとの報告がある(厚労省 リスク評価書 (2015)、MOE 初期評価 (2013)、AICIS IMAP (2013)、ACGIH (2011)、NITE 初期リスク評価書 (2008)、SIDS (2003))。
(3)雌マウスを用いた強制経口投与による発生毒性試験(妊娠7~14日)において、500 mg/kg/dayの用量で母動物の75%が症状(軟便、切迫呼吸、無気力、衰弱等)を呈した後死亡した。生存した母動物7例について、2/7例に胎児の吸収、出産率の低下(71.4%:対照群94.7%)及び死産児数の増加、出生児には生後3日までの死亡の増加がみられた。当該影響について、NITE 初期リスク評価書 (2008)では、いずれも高用量投与による母動物毒性に起因する影響と考えられたとの報告がある(厚労省 リスク評価書 (2015)、MOE 初期評価 (2013)、NITE 初期リスク評価書 (2008)、SIDS (2003))。
令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
8 特定標的臓器毒性(単回暴露) 区分1(呼吸器)、区分2(神経系、心血管系、肝臓、腎臓)、区分3(麻酔作用)



危険
警告
H370
H371
H336
P308+P311
P260
P264
P270
P321
P405
P501
P304+P340
P403+P233
P261
P271
P312
【分類根拠】
(1)、(2)のヒトにおける知見より、呼吸器への影響がみられることから区分1(呼吸器)とした。(3)~(5)の動物試験データより、区分2の用量範囲で神経系、心血管系、肝臓、腎臓への影響から区分2(神経系、心血管系、肝臓、腎臓)とした。(5)の動物試験データより、区分3(麻酔作用)とした。よって、区分1(呼吸器)、区分2(神経系、心血管系、肝臓、腎臓)、区分3(麻酔作用)とした、なお新たな知見に基づき、分類結果を変更した。

【根拠データ】
(1)気道に対する刺激性を示す。本物質は皮膚刺激性を有し、鼻粘膜への刺激は25 ppm で生じると報告されている(厚労省 リスク評価書 (2015)、NITE 初期リスク評価書 (2008))。
(2)本物質は眼、皮膚、気道を刺激し、中枢神経系に影響を与えることがある。吸入すると咳、咽頭痛、頭痛、眩暈、脱力感、息苦しさ、嘔吐、意識喪失を生じることがあり、皮膚に付くと発赤や灼熱感、痛み、眼に入ると発赤、痛み、かすみ眼を生じることがある。高濃度の蒸気を吸入すると、肺水腫を引き起こすことがある(MOE 初期評価 (2013))。
(3)ラット、マウス、ウサギにおいて経口LD50値は300~700 mg/kg(区分2の範囲)であり、みられた毒性症状は活動性低下、嗜眠、末梢神経症状(後肢麻痺、振戦、数例で攣縮)であった。また死因は呼吸不全であり、その他消化管粘膜刺激、組織学的検査で肝臓と腎臓の傷害が示されたとの報告がある(DFG MAK (2002))。
(4)ラットの吸入(蒸気)LC50値は3,506 mg/m3および8,200 mg/m3(約1,100 ppmおよび約2,600 ppm、区分2の範囲)、マウスのLC50は3,130 mg/m3(約1,000 ppm、区分2の範囲)であり、実験動物は麻酔状態に陥り、病理組織学的検査で肺の浮腫と肝臓及び腎臓のうっ血がみられたとの報告がある(DFG MAK (2002))。
(5)急性毒性症状として、ラットへの経口投与では、胃腸粘膜の浮腫、炎症、心筋細胞、肝細胞、腎臓尿細管細胞の変性、消化管のうっ血、出血、腎臓、肝臓の組織の損傷がみられ、LD50は450~700 mg/kg(区分2の範囲)と報告されている。一般状態の観察で、活動性の低下、嗜眠、後肢麻痺、振戦、痙攣等がみられ、死因には呼吸器障害があげられている。高濃度 (7,300 ppm) ばく露したマウスには、短時間で麻酔作用が現れ、呼吸器障害により死亡する。ラット、モルモットでは吸入ばく露で、遅発性の呼吸器粘膜刺激、麻酔作用がみられる(厚労省 リスク評価書 (2015)、NITE 初期リスク評価書 (2008))。
令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
9 特定標的臓器毒性(反復暴露) 区分1(神経系、呼吸器、腎臓)、区分2(血液系)


危険
警告
H372
H373
P260
P264
P270
P314
P501
【分類根拠】
(1)、(2)より、本物質ばく露による影響としてヒトでは神経系影響と肝臓影響が示唆された。実験動物では、(3)~(7)より、区分1の用量範囲で呼吸器、腎臓への影響が、区分2の用量範囲で神経系、血液系への影響がみられ、肝臓への影響はみられなかった。よって、区分1(神経系、呼吸器、腎臓)、区分2(血液系)とした。なお旧分類で採用されている心臓および肝臓所見はlist外の文献を参照しており、分類に採用しなかった。新たな知見に基づき、分類結果を変更した。

【根拠データ】
(1)合成工場で16ヵ月間、1~113 ppm (3~350 mg/m3) の濃度の本物質蒸気にばく露した男性45人、女性15人の作業者に最初の1ヵ月は一般状態に変化はみられなかったが、調査対象者の33 %(対照群:肝障害のない23例)にばく露期間中ににんにく様の口臭や体臭と、ごく稀に頭痛と吐き気がみられた。ばく露に関連する臓器障害は診断されていないが、肝細胞障害として、血清ALT、AST、LDH (以上肝細胞質局在酵素)、ミトコンドリアの酵素のγ-GDH、SDHに可逆的な活性の変化がみられたとの報告がある(厚労省 リスク評価書 (2015)、NITE 初期リスク評価書 (2008)、MOE 初期評価 (2013))。
(2)アリルスルホン酸ナトリウムの製造工場で、本物質1~2,100 ppmに2.5ヵ月~6年間ばく露した26人の女性に、ばく露期間の初期から流涙や粘膜への刺激性がみられた。問診票調査で24人に四肢の脱力が、その他に四肢遠位部のけいれん痛、感覚の異常等が申告された。また、末梢神経の検査により17人に痛覚の異常が認められ、その他の検査で触覚の異常、振動覚、筋力低下、アキレス腱反射の消失等が認められた。神経筋電図検査でも異常がみられ、これらを総合して、本物質に対する慢性ばく露による慢性多発神経障害 (多発ニューロパシー) と診断されたとの報告がある(厚労省 リスク評価書 (2015)、NITE 初期リスク評価書 (2008)、MOE 初期評価 (2013))。
(3)ラットを用いた13週間反復吸入(蒸気)ばく露試験(6時間/日、5日/週)において、25、50 ppm(ガイダンス値換算:18.0、36.1 ppm、区分1の範囲)で鼻腔の組織変化(嗅上皮のエオジン好性変化の発生増加)、100、200 ppm(ガイダンス値換算:72.2、144 ppm、区分2の範囲)で鼻腔(嗅上皮の壊死(雄))、肺(褐色斑、気管支肺炎、異物沈着、肺重量増加(雄))、腎臓(重量増加(雄は50 ppm以上)、近位尿細管の核増大、好酸体/好酸滴の増加)、血液(軽度貧血)への影響がみられたとの報告がある(厚労省委託がん原性予備試験結果 (2000))。
(4)マウスを用いた13週間反復吸入(蒸気)ばく露試験(6時間/日、5日/週)において、200 ppm(ガイダンス値換算:144 ppm、区分2の範囲)まで鼻腔(呼吸上皮と鼻咽頭のエオジン好性変化の発生増加(雌))、血液(軽度貧血)、脾臓(ヘモジデリン沈着の増加/程度の増強)、前胃(前胃の過形成(雌、50 ppm以上)、びらん)への影響がみられたとの報告がある(厚労省委託がん原性予備試験結果 (2000))。
(5)ラット(雄)を用いた吸入(蒸気)ばく露による34週間神経毒性試験(8時間/日、5日/週)において、100 ppm(ガイダンス値換算:約133 ppm、区分2の範囲)で1/5例に四肢の脱力がみられ、28週以降に着地時後肢開脚幅の拡大を生じた。また、同群では神経系の電気生理学的検査の結果、尾部の運動神経・知覚神経の最大伝導速度の低下(28、34週)、遠位運動潜時の増加(34週)、神経活動電位の振幅の低下(34週)がみられたとの報告がある(MOE 初期評価 (2013)、NITE 初期リスク評価書 (2008) 、ACGIH (2011)、厚労省 リスク評価書 (2015))。
(6)ラットを用いた吸入(蒸気)ばく露による2年間発がん性試験(6時間/日、5日/週)において、25及び50 ppm(区分1の範囲)で鼻腔(嗅上皮のエオジン好性変化の増強(雄))、腎臓(近位尿細管における好酸滴出現、同上皮細胞内の核増大、慢性腎症の程度の増強(雄))がみられ、100 ppm(区分2の範囲)で腎臓(腎盂尿路上皮の過形成(雄))、ハーダー腺(リンパ球浸潤(雌))への影響がみられたとの報告がある(厚労省委託がん原性試験結果 (2003))。
(7)マウスを用いた吸入(蒸気)ばく露による2年間発がん性試験(6時間/日、5日/週)において、200 ppm(区分2の範囲)で失調性/麻痺性歩行、鼻腔(嗅上皮のエオジン好性変化(雄))、泌尿器(尿閉)への影響がみられたとの報告がある(厚労省委託がん原性試験結果 (2003))。
(8)ラットを用いた3ヵ月間反復吸入(蒸気)ばく露試験(6時間/日、5日/週)において、250 ppm(90日換算値:181 ppm、区分2の範囲)で腎臓影響(近位尿細管上皮細胞における好酸性硝子様物質、尿細管の限局性壊死・萎縮)がみられたとの報告がある(MOE 初期評価 (2013)、NITE 初期リスク評価書 (2008) 、ACGIH (2011)、厚労省 リスク評価書 (2015))。

【参考データ等】
(9)マウスを用いた3ヵ月間反復吸入(蒸気)ばく露試験(6時間/日、5日/週)において、250 ppm(90日換算:181 ppm、区分2の範囲)で肝臓に組織変化(小葉中心性肝細胞の着色・門脈周囲のグリコーゲン蓄積、胆管周囲肝細胞の変性・壊死を伴わないグリコーゲン蓄積)がみられたが、毒性学的意義は不明と報告されている(MOE 初期評価 (2013)、NITE 初期リスク評価書 (2008) 、ACGIH (2011)、厚労省 リスク評価書 (2015))。
令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
10 誤えん有害性 分類できない
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- - 【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)

環境に対する有害性
危険有害性項目 分類結果 絵表示
注意喚起語
危険有害性情報
(Hコード)
注意書き
(Pコード)
分類根拠・問題点 分類実施年度 分類ガイダンス等
11 水生環境有害性 短期(急性) 区分2
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H401 P273
P501
本物質の揮発性を考慮して実施された試験である魚類(メダカ)48時間LC50 = 6.9 mg/L(NITE初期リスク評価書, 2008)とのデータが得られているがMOE初期評価においては本データは信頼性の判定ができず毒性値が採用できないとされている(MOE初期評価, 2013)。一方、MOE初期評価においては魚類延長毒性において14日間LC50=1.2 mg/L(MOE初期評価, 2013)と報告されており、専門家判断を踏まえた暫定的な評価として区分2とした。情報の再検討により、旧分類から分類結果を変更した。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
11 水生環境有害性 長期(慢性) 区分に該当しない
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- - 信頼性のある慢性毒性データが得られていない。急速分解性があり(BODによる28日間分解度:62%(METI既存点検結果, 1986))、生物蓄積性が低い(BCF=>0.14~0.88、>1.3~5.6(METI既存点検結果, 1979))ことから、区分に該当しないとした。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
12 オゾン層への有害性 分類できない
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- - 当該物質はモントリオール議定書の附属書に列記されていないため。 令和3年度(2021年度) ガイダンスVer.2.0 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)


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