NITE統合版 政府によるGHS分類結果

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一般情報
 
項目 情報
CAS登録番号 1327-53-3
名称 三酸化ニヒ素(亜ヒ酸)
物質ID m-nite-1327-53-3_v2
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関連情報
項目 情報
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物理化学的危険性
危険有害性項目 分類結果 絵表示
注意喚起語
危険有害性情報
(Hコード)
注意書き
(Pコード)
分類根拠・問題点 分類実施年度 分類ガイダンス等
1 爆発物 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 爆発性に関する原子団を含まない。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
2 可燃性ガス 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における固体である。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
3 エアゾール 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - エアゾール製品でない。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
4 酸化性ガス 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における固体である。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
5 高圧ガス 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における固体である。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
6 引火性液体 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における固体である。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
7 可燃性固体 区分に該当しない
-
-
- - 不燃性(ICSC (2008))との情報により、区分に該当しない。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
8 自己反応性化学品 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 分子内に爆発性、自己反応性に関する原子団を含まない。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
9 自然発火性液体 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における固体である。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
10 自然発火性固体 区分に該当しない
-
-
- - 不燃性(ICSC (2008))との情報により、区分に該当しない。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
11 自己発熱性化学品 区分に該当しない
-
-
- - 不燃性(ICSC (2008))との情報により、区分に該当しない。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
12 水反応可燃性化学品 区分に該当しない
-
-
- - 半金属(As)を含むが、水溶解度は1.2-3.7 g/100 mL (20℃)(ICSC (2008))とのデータが得られており、水と急激な反応をしないと考えられる。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
13 酸化性液体 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における固体である。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
14 酸化性固体 分類できない
-
-
- - 酸素を含む無機化合物であるが、データがなく分類できない。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
15 有機過酸化物 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 無機化合物である。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
16 金属腐食性化学品 分類できない
-
-
- - 固体状の物質に適した試験方法が確立していない。なお、湿気の存在下で、多くの金属を侵すとの情報(GESTIS (Accessed Aug. 2022))がある。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
17 鈍性化爆発物 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 爆発性に関する原子団を含まない。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)

健康に対する有害性
危険有害性項目 分類結果 絵表示
注意喚起語
危険有害性情報
(Hコード)
注意書き
(Pコード)
分類根拠・問題点 分類実施年度 分類ガイダンス等
1 急性毒性(経口) 区分2


危険
H300 P301+P310
P264
P270
P321
P330
P405
P501
【分類根拠】
(1)~(4)より、有害性の高い区分を採用し、区分2とした。

【根拠データ】
(1)ラットのLD50:20 mg/kg(EHC 224 (2001)、CERI 有害性評価書 (2008))
(2)ラットのLD50:40 mg/kg(産衛学会許容濃度の勧告等 (2000))
(3)ラットのLD50:188 mg/kg(EHC 224 (2001)、CERI 有害性評価書 (2008)、US AEGL (2009))
(4)ラットのLD50:385 mg/kg(EHC 224 (2001)、CERI 有害性評価書 (2008)、US AEGL (2009))
令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
1 急性毒性(経皮) 分類できない
-
-
- - 【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
1 急性毒性(吸入:ガス) 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 【分類根拠】
GHSの定義における固体であり、区分に該当しない。
令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
1 急性毒性(吸入:蒸気) 分類できない
-
-
- - 【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
1 急性毒性(吸入:粉塵、ミスト) 分類できない
-
-
- - 【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
2 皮膚腐食性/刺激性 区分2


警告
H315 P302+P352
P332+P313
P362+P364
P264
P280
P321
【分類根拠】
(1)より、区分2とした。なお、新たな知見に基づき、分類結果を変更した。

【根拠データ】
(1)本物質の皮膚へのばく露により、紅斑、火傷、掻痒、湿疹性発疹と毛嚢炎がみられたとの報告がある(AICIS IMAP (2013)、IPCS (1997))。

【参考データ等】
(2)EUではSkin Corr. 1Bに分類されている(CLP分類結果 (Accessed Aug. 2022))。
令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
3 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 区分1


危険
H318 P305+P351+P338
P280
P310
【分類根拠】
(1)より、区分1とした。なお、新たな知見に基づき、分類結果を変更した。

【根拠データ】
(1)本物質は眼に腐食性を示すとの報告がある。傷害のほとんどが粉塵へのばく露で生じ、結膜炎、流涙、羞明、角膜損傷及び浮腫がみられる(AICIS IMAP (2013))。
令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
4 呼吸器感作性 分類できない
-
-
- - 【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
4 皮膚感作性 分類できない
-
-
- - 【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
5 生殖細胞変異原性 区分2


警告
H341 P308+P313
P201
P202
P280
P405
P501
【分類根拠】
(1)~(4)より、in vivo及びin vitroにおいて染色体異常あるいは小核試験で陽性の報告が得られていることから、区分2とした。

【根拠データ】
(1)In vivoでは、マウス骨髄細胞を用いた染色体異常試験において、飲水投与あるいは腹腔内投与で陰性、吸入投与で陽性の報告がある。マウス末梢血を用いた小核試験(腹腔内投与)で陽性の報告がある(食安委 汚染物質評価書 (2013)厚生労働省既存点検結果 (2016))。一方、マウスを用いた優性致死試験(腹腔内投与)およびマウスの精原細胞を用いた2つの染色体異常試験(飲水投与、腹腔内投与)で陰性の報告がある(食安委 汚染物質評価書 (2013))。
(2)In vitroでは、細菌復帰突然変異試験で陰性(産衛学会許容濃度の勧告等 (2019)、食安委 汚染物質評価書 (2013)、ほ乳類培養細胞を用いた遺伝子変異試験では、マウスリンフォーマ試験(OECD TG490、GLP)で陰性の報告がある一方、ヒトリンパ芽球細胞TK6を用いた試験(OECD TG490、GLP)では陽性と報告されている(厚生労働省既存点検結果 (2016))。また、哺乳類培養細胞を用いた染色体異常試験では陰性、小核試験では陽性の報告がある(食安委 汚染物質評価書 (2013))。
(3)ヒ素化合物はヒト細胞を含めた培養細胞において、DNA 損傷及び染色体異常を引き起こすと考えられ、in vivoでは、マウスにAs(III)を経口投与、腹腔内投与又は皮下投与することにより染色体異常、小核形成の増加及びDNA損傷を引き起こす(食安委 汚染物質評価書 (2013))。
(4)三酸化二ヒ素は、水に溶けると弱酸の亜ヒ酸(H3AsO3)になり、食品、生体内では溶解して存在する。そのため、食品中のヒ素の評価においては、三酸化二ヒ素を亜ヒ酸として評価された(食安委 汚染物質評価書 (2013))。

【参考データ等】
(5)食安委評価書では引用されていないが、ヒ酸水溶液および三塩化ヒ素はマウス末梢血小核試験で陽性と報告されている(Mutation Res.389, 3-122, 1997)。
令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
6 発がん性 区分1A


危険
H350 P308+P313
P201
P202
P280
P405
P501
【分類根拠】
(1)の既存分類結果、(2)、(3)の疫学研究結果は、代表的な無機ヒ素化合物である本物質についても当てはまること、(4)で無機ヒ素化合物の発がん性にのに実験動物で十分な証拠があると結論されたことから、区分1Aとした。

【根拠データ】
(1)国内外の評価機関による発がん分類では、ヒ素及び無機ヒ素化合物について、IARCがグループ1に(IARC 100C (2012))、NTPがKに(NTP RoC 15th. (2021))、ACGIHがA1に(ACGIH-TLV (2022))、日本産業衛生学会が第1群に(産衛学会許容濃度の勧告等 (2021):1981年提案)、DFGがCategory 1に分類している。EUは本物質について、Carc. 1Aに分類している(CLP分類結果 (Accessed Aug. 2022))。
(2)IARCの評価として、本物質、亜ヒ酸塩及びヒ酸塩を含め無機ヒ素化合物への混合ばく露の発がん性について、これらの無機ヒ素化合物は肺がん、膀胱がん及び皮膚がんを生じることが明らかにされた。また、ヒ素と無機ヒ素化合物へのばく露と腎臓、肝臓及び前立腺のがんとの間にも正の相関がみられることから、ヒトでは十分な証拠があると結論された。(IARC 100C (2012))。
(3)IARCの2012年の発がん評価以降もヒ素に経口ばく露した集団の疫学研究でヒ素がヒトの発がん物質であるとの証拠が追加されている。無機ヒ素化合物の経口ばく露と膀胱及び尿路上皮、消化管、腎臓、肝臓、膵臓、皮膚のがんとの相関が報告されている(ATSDR Addendum (2016))。
(4)実験動物でのIARCの発がん性評価について、本物質、亜ヒ酸ナトリウム、ヒ化ガリウム及びトリメチルアルシンオキシドでは、実験動物での証拠は限定的であるが、ジメチルアルシン酸、ヒ酸ナトリウム等ヒ素化合物の中には十分な発がん性の証拠がある物質も含まれ、全体的な動物試験結果に基づけば無機ヒ素化合物の発がん性について、実験動物で十分な証拠があると結論された(IARC 100C (2012))。

【参考データ等】
(5)IARCは2012年にヒ素ばく露による発がん性評価を行い、飲料水中のヒ素が、膀胱がん、肺がん及び皮膚がんを引き起こす十分な証拠があり、いずれのがんも用量依存性が示されているとしている。根拠となった知見の多くは無機ヒ素及びその化合物により汚染された井戸水などの影響から検討された結果であり、高濃度ばく露での発がん性は多くの研究で一致した見解であるものの、低濃度の飲料水中ヒ素ばく露と発がんリスクの関連はみられなかったとする報告もある(食安委 汚染物質評価書 (2013))。
(6)吸入(経気道)ばく露では職業ばく露による事例報告が古くからあり、日本でも銅精錬所の労働者を対象としたコホート研究で、肺がん、肝がん及び結腸がんの過剰死亡の報告がある(食安委 汚染物質評価書 (2013))。
令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
7 生殖毒性 区分1A


危険
H360 P308+P313
P201
P202
P280
P405
P501
【分類根拠】
(1)の既存分類結果、(2)の疫学研究結果は、代表的な無機ヒ素化合物である本物質についても当てはまること、(3)~(7)で無機ヒ素化合物の生殖毒性に実験動物で十分な証拠があると結論されたことから、区分1Aとした。

【根拠データ】
(1)ヒ素およびヒ素化合物は、日本産業衛生学会で生殖毒性物質第1群に分類されている(日本産業衛生学会 許容濃度等の提案理由書 (2013))。
(2)無機ヒ素に汚染された飲料水のヒ素中毒の研究から、自然流産、死産、早産のリスクや出生時体重の低下が報告されている。無機ヒ素ばく露による非発がん影響として、ヒ素で汚染された飲料水を長期間摂取した地域における疫学調査では、皮膚病変、発達神経影響及び生殖・発生影響が、飲料水中無機ヒ素濃度依存的にみられたとの報告がある。(食安委 汚染物質評価書 (2013))。
(3)無機ヒ素化合物は実験動物において、胎児毒性や催奇形性を有することが知られている(AICIS IMAP (2013)、食安委 汚染物質評価書 (2013))。
(4)ATSDRはヒトでみられた先天異常(奇形)や肺機能への影響は、無機ヒ素化合物を投与した実験動物でもみられたと報告し、無機ヒ素化合物の発生影響について肯定的な評価が窺われる(ATSDR Addendum (2016))。
(5)亜ヒ酸ナトリウムについて、マウスを用いた強制経口投与による発生毒性試験(妊娠7.5~8.5日、4.8~14.4 mg/kg)において、外脳症(神経管欠損)の胎児を有する腹数の用量依存的な増加、及び骨格異常(頭蓋骨・胸椎分節・肋骨・脊椎骨)の発生頻度の増加が低用量(4.8 mg/kg)からみられた(母動物毒性の記載はない)との報告がある。(ATSDR Addendum (2016))。
(6)亜ヒ酸ナトリウムについて、マウスを用いた飲水経口投与による発生毒性試験(妊娠期間及び生後28日まで、5~100 μg/L)において、生後25日にメタコリン誘発刺激した結果、高用量2群(50 μg/L、100 μg/L)でメタコリン誘発収縮の増強、最高用量群(100 μg/L)で気道周囲の平滑筋とコラーゲンの増加がみられたとの報告がある(ATSDR Addendum (2016))。
(7)亜ヒ酸ナトリウムについて、マウスを用いた飲水経口投与による生殖発生毒性試験(妊娠8日~哺育14日、10、100 μg/L)において、児動物の肺機能を調べた結果、最高用量(100 μg/L)で高感受性の1系統で肺容積、肺胞数、肺胞表面積の減少と組織ダンピングとエラスタンスの有意な減少がみられ、10 μg/Lで気道抵抗の減少(雄)と組織ダンピングがみられたとの報告がある(ATSDR Addendum (2016))。
令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
8 特定標的臓器毒性(単回暴露) 区分1(呼吸器、消化管、心血管系、骨格筋、皮膚、神経系)


危険
H370 P308+P311
P260
P264
P270
P321
P405
P501
【分類根拠】
(1)~(3)より、区分1(呼吸器、消化管、心血管系、骨格筋、皮膚、神経系)とした。なお、新たな知見に基づき分類結果を変更した。

【根拠データ】
(1)本物質はヒトが経口摂取した場合、致死的であると報告されている。26歳男性の1症例では2 gを摂取26時間後に消化管障害(悪心、嘔吐、腹痛、下痢)を発症し、胃腸管出血や最終的には循環器系ショックをきたし死亡した。また、混入したチョコレートを摂取した症例では、2例が消化管障害を発症し、過剰流涎、吐血もみられた。その後の検査で重度の胃炎と食道炎を伴う胃潰瘍が認められた。その他の症状として、消化管出血、心血管虚脱、腎不全、発作、脳症及び横紋筋融解が含まれたとの報告がある(AICIS IMAP (2013)、IPCS (1997))。
(2)本物質が原因となった集団での急性ヒ素中毒事例がみられた。生存者63 名における推定摂取量(吸収量)は平均53 mg、100 mg 以上の摂取が4 名、50~99 mgの摂取が25 名であった。カレーに混入された三酸化二ヒ素は、大部分が余熱で溶解してイオン化し、一部は結晶のまま摂取された。カレー摂取後、約5~10 分で腹部症状を認めた。嘔気や嘔吐は患者に共通する症状で、下痢や腹痛が続いて出現した。下痢が認められたのは患者の約半数で、急性ヒ素中毒で共通する症状でないことが明らかとなった。中等及び重症者では低血圧が数日続き、頻脈、ショックもみられ、死亡した者では循環器障害が主な死因となった。重症者では中枢神経障害として、頭痛、脱力感、痙攣及び精神障害を認めた。中・重症者では約2 週間後、四肢末梢部に両側対称性末梢神経障害が出現し、感覚異常と疼痛を認めた。同時期に、重症者に皮膚障害として、紅斑性発疹(無痛)が腹部、脇の下及び首筋に認められた。さらに、爪にMees線(白線)が徐々に出現した。この他に、結膜炎、顔面浮腫、口内炎、落屑、脱毛などを少数の患者に認めた。三酸化二ヒ素の結晶を摂取した患者においては、腹部X線単純撮影でX線非透過性物質として消化管内にヒ素の点状陰影が認められたとの報告がある(食安委 汚染物質評価書 (2013))。
(3)高濃度の三酸化二ヒ素を吸入した場合、呼吸器への刺激性と腐食性のため、鼻粘膜刺激症状、咳及び呼吸困難が出現し、肺水腫をきたして死亡することがあるとの報告がある(食安委 汚染物質評価書 (2013))。

【参考データ等】
(4)急性ヒ素中毒の症状は、発熱、下痢、衰弱、食欲の減退、嘔吐、興奮、発疹、脱毛のほか多彩な症状を呈する。最初に口腔、食道などの粘膜刺激症状、次に焼けるような食道の疼痛や嚥下困難が起こり、数分から数時間後に悪心、嘔吐、腹痛、下痢などの腹部症状が出現する。重篤な場合は著明な腹痛、激しい嘔吐、水溶性下痢をきたし、脱水によるショック、筋痙攣、心筋障害及び腎障害が出現し、早い場合には24 時間以内で死亡する。また、摂取後2~3 週頃より末梢神経障害として異常感覚を主徴とする多発神経炎が出現してくるとの報告がある(食安委 汚染物質評価書 (2013))。
(5)吸入(経気道)曝露による急性中毒については、高濃度のヒ素化合物の粉塵を吸入した場合、口腔内汚染が生ずると、嚥下によりヒ素は消化管に取り込まれ吸収される。そのことから、経口摂取と同様に、消化器症状として悪心、下痢、腹痛、更に中枢と末梢の神経障害が認められることもあるとの報告がある(食安委 汚染物質評価書 (2013))。
令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
9 特定標的臓器毒性(反復暴露) 区分1(呼吸器、消化管、肝臓、腎臓、皮膚、血管、血液系、神経系)


危険
H372 P260
P264
P270
P314
P501
【分類根拠】
本物質のデータでは、(1)より、ヒト知見において消化管、肝臓、皮膚、神経系、血液系への影響がみられ、(2)より、動物知見において血管、消化管への影響がみられる。また、ヒ素及びヒ素化合物のデータでは、(2)、(3)より、三酸化二ヒ素でみられたものと同様の影響及び呼吸器への影響がみられることから区分1(呼吸器、消化管、肝臓、腎臓、皮膚、血管、血液系、神経系)とした。なお、本物質は本物質及びヒ素、ヒ素化合物の知見を基に分類を行った。新たな知見に基づき分類結果を変更した。

【根拠データ】
(1)本物質(三酸化二ヒ素(CAS登録番号:1327-53-3))が混入した粉ミルクを摂取した患児にみられた亜急性中毒症状は、発熱、咳嗽、鼻漏、結膜炎、嘔吐、下痢、黒皮症、肝腫及び腹部膨満であり、臨床検査異常としては貧血、顆粒球数減少、心電図異常、長管骨骨端部X 線像の帯状陰影などが報告された。15年目以降における追跡調査結果では、成長の遅れ、白斑黒皮症、角化症、難聴、精神発達遅延、てんかん等の脳障害が認められた。事件発生後50年以上が経過した時点で実施された被害者6,104 名(男性3,738 名、女性2,366 名)を対象とした前向きコホート研究(1982~2006 年)で、一般住民と比較して本事件の被害者の神経系の疾患による死亡リスクが有意に高かったと報告されているとの報告がある(食安委 汚染物質評価書 (2013))。
(2)ラットを用いた経口投与試験において、15 mg/kg/day(90日換算:4.67 mg/kg/day、区分1の範囲)でエピネフリンに対する血管反応の低下と消化管刺激影響がみられたとの報告がある(食安委 汚染物質評価書 (2008))。
(3)無機ヒ素化合物による慢性中毒の主な標的臓器は、経口摂取では消化管(吐気、嘔吐、下痢)、神経系(多発性神経症、多発性神経炎、精神疾患)、血液系(貧血、再生不良性貧血(1症例))、吸入ばく露では呼吸器(刺激症状、鼻中隔穿孔)、経皮ばく露では皮膚(刺激症状、潰瘍、水疱形成)であるとの報告がある(IPCS PIM 42 (1992))。
(4)ヒ素による慢性中毒症状として最も特異的な症状は皮膚(黒皮症、色素脱出、過角化、潰瘍等)と血管系(末梢血管炎症、先端紫藍症、レイノー減少)であり、その他に貧血、門脈性肝硬変、腎障害がみられる。経気道ばく露の場合、刺激症状、鼻中隔のびらん、壊死、さらに穿孔、慢性気管支炎を生じるとの報告がある(産衛学会許容濃度の勧告等 (2000)、CERI 有害性評価書 (2008))
令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
10 誤えん有害性 分類できない
-
-
- - 【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)

環境に対する有害性
危険有害性項目 分類結果 絵表示
注意喚起語
危険有害性情報
(Hコード)
注意書き
(Pコード)
分類根拠・問題点 分類実施年度 分類ガイダンス等
11 水生環境有害性 短期(急性) 区分1


警告
H400 P273
P391
P501
藻類(珪藻)96時間ErC50 = 0.1124 mg/L(本物質換算値:0.30 mg/L)(REACH登録情報, 2022)であることから、区分1とした。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
11 水生環境有害性 長期(慢性) 区分1


警告
H410 P273
P391
P501
急速分解性に関する十分なデータが得られておらず、藻類(珪藻)の96時間NOErC = 0.005 mg/L(本物質換算値:0.01 mg/L)(REACH登録情報, 2022)から、区分1とした。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)
12 オゾン層への有害性 分類できない
-
-
- - 当該物質はモントリオール議定書の附属書に列記されていないため。 令和4年度(2022年度) ガイダンスVer.2.1 (GHS 6版, JIS Z7252:2019)


分類結果の利用に関する注意事項:
  • 政府によるGHS分類結果は、事業者がラベルやSDSを作成する際の参考として公表しています。同じ内容を日本国内向けのラベルやSDSに記載しなければならないという義務はありません。
  • 本分類結果は、GHSに基づくラベルやSDSを作成する際に自由に引用又は複写していただけます。ただし、本分類結果の引用又は複写により作成されたラベルやSDSに対する責任は、ラベルやSDSの作成者にあることにご留意ください。
  • 本GHS分類は、分類ガイダンス等に記載された情報源と分類・判定の指針に基づき行っています。他の文献や試験結果等を根拠として使用すること、また、ラベルやSDSに本分類結果と異なる内容を記載することを妨げるものではありません。
  • 「危険有害性情報」欄及び「注意書き」欄のコードにマウスカーソルを重ねると、対応する文言が表示されます。Excel fileでは、コード及び文言が記載されています。
  • 「分類結果」欄の空欄又は「- 」(ハイフン)は、その年度に当該危険有害性項目の分類が実施されなかったことを意味します。

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