項目 | 情報 |
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CAS登録番号 | 71-43-2 |
名称 | ベンゼン |
物質ID | R04-B-020-JNIOSH, MOE |
分類実施年度 | 令和4年度(2022年度) |
分類実施者 | 労働安全衛生総合研究所/環境省 |
新規/再分類 | 再分類・見直し |
他年度における分類結果 | 2006年度(平成18年度) 2014年度(平成26年度) |
Excelファイルのダウンロード | Excel file |
項目 | 情報 |
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分類に使用したガイダンス(外部リンク) | 政府向けGHS分類ガイダンス(令和3年度改訂版(Ver.2.1)) |
国連GHS文書(外部リンク) | 国連GHS文書 |
解説・用語集(Excelファイル) | 解説・用語集 |
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厚生労働省モデルSDS(外部リンク) | 職場のあんぜんサイトへ |
OECD/eChemPortal(外部リンク) | eChemPortal |
危険有害性項目 | 分類結果 | 絵表示 注意喚起語 |
危険有害性情報 (Hコード) |
注意書き (Pコード) |
分類根拠・問題点 | |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 爆発物 | 区分に該当しない(分類対象外) |
- |
- | - | 爆発性に関連する原子団を含んでいない。 |
2 | 可燃性ガス | 区分に該当しない(分類対象外) |
- |
- | - | GHSの定義における液体である。 |
3 | エアゾール | 区分に該当しない(分類対象外) |
- |
- | - | エアゾール製品でない。 |
4 | 酸化性ガス | 区分に該当しない(分類対象外) |
- |
- | - | GHSの定義における液体である。 |
5 | 高圧ガス | 区分に該当しない(分類対象外) |
- |
- | - | GHSの定義における液体である。 |
6 | 引火性液体 | 区分2 |
危険 |
H225 | P303+P361+P353 P370+P378 P403+P235 P210 P233 P240 P241 P242 P243 P280 P501 |
引火点-11℃ (closed cup)、沸点80℃(GESTIS (Accessed Sep. 2022))に基づいて区分2とした。なお、UNRTDGにおいて UN 1114、クラス3、PGⅡに分類されている。 |
7 | 可燃性固体 | 区分に該当しない(分類対象外) |
- |
- | - | GHSの定義における液体である。 |
8 | 自己反応性化学品 | 区分に該当しない(分類対象外) |
- |
- | - | 分子内に爆発性、自己反応性に関連する原子団を含んでいない。 |
9 | 自然発火性液体 | 区分に該当しない |
- |
- | - | 発火点は498℃(ICSC (2016))であり常温で発火しないと考えられる。 |
10 | 自然発火性固体 | 区分に該当しない(分類対象外) |
- |
- | - | GHSの定義における液体である。 |
11 | 自己発熱性化学品 | 分類できない |
- |
- | - | 液体状の物質に適した試験方法が確立していない。 |
12 | 水反応可燃性化学品 | 区分に該当しない(分類対象外) |
- |
- | - | 金属及び半金属(B,Si,P,Ge,As,Se,Sn,Sb,Te,Bi,Po,At)を含んでいない。 |
13 | 酸化性液体 | 区分に該当しない(分類対象外) |
- |
- | - | 酸素、フッ素及び塩素を含まない有機化合物である。 |
14 | 酸化性固体 | 区分に該当しない(分類対象外) |
- |
- | - | GHSの定義における液体である。 |
15 | 有機過酸化物 | 区分に該当しない(分類対象外) |
- |
- | - | 分子内に-O-O-構造を有していない有機化合物である。 |
16 | 金属腐食性化学品 | 分類できない |
- |
- | - | データがなく分類できない。 |
17 | 鈍性化爆発物 | 区分に該当しない(分類対象外) |
- |
- | - | 爆発性に関連する原子団を含んでいない。 |
危険有害性項目 | 分類結果 | 絵表示 注意喚起語 |
危険有害性情報 (Hコード) |
注意書き (Pコード) |
分類根拠・問題点 | |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 急性毒性(経口) | 区分に該当しない |
- |
- | - | 【分類根拠】 (1)~(4)より、区分に該当しない。なお、(5)、(6)のデータは詳細不明のため採用していない。新たな知見に基づき分類結果を変更した。 【根拠データ】 (1)ラット(雄)のLD50(OECD TG 401相当):3,400~5,600 mg/kgの間(NITE 初期リスク評価書 (2008)、EU RAR (2008)、REACH登録情報(Accessed Sep. 2022)) (2)ラット(雄)のLD50:5,960 mg/kg(EU RAR (2008)) (3)ラット(雄)のLD50:9,900 mg/kg(NITE 初期リスク評価書 (2008)、AICIS PEC (2001)) (4)ラット(雄)のLD50:10,000 mg/kg(EU RAR (2008)) 【参考データ等】 (5)ラット(雄)のLD50:810 mg/kg(詳細不明)(NITE 初期リスク評価書 (2008)、EPA Tox Review (2002)、EU RAR (2008)、AICIS PEC (2001)) (6)ラット(雄)のLD50:930 mg/kg(詳細不明)(ATSDR (2007)) |
1 | 急性毒性(経皮) | 区分に該当しない |
- |
- | - | 【分類根拠】 (1)より、区分に該当しない。 【根拠データ】 (1)ウサギのLD50:> 8,200 mg/kg(NITE 初期リスク評価書 (2008)、AICIS PEC (2001)、EU RAR (2008)) |
1 | 急性毒性(吸入:ガス) | 区分に該当しない(分類対象外) |
- |
- | - | 【分類根拠】 GHSの定義における液体であり、区分に該当しない。 |
1 | 急性毒性(吸入:蒸気) | 区分4 |
警告 |
H332 | P304+P340 P261 P271 P312 |
【分類根拠】 (1)、(2)より、区分4とした。なお、ばく露濃度は飽和蒸気圧濃度の90%(111,916 ppm)より低いため、蒸気と判断し、ppmVを単位とする基準値より判断した。ガイダンスに基づき分類結果を変更した。 【根拠データ】 (1)ラット(雌)のLC50(4時間):13,700 ppm(NITE 初期リスク評価書 (2008)、EU RAR (2008)、REACH登録情報、EPA AEGL (2009)、ATSDR (2007)、AICIS PEC (2001)) (2)ラット(雄)のLC50(4時間):16,000 ppm(NITE 初期リスク評価書 (2008)) |
1 | 急性毒性(吸入:粉塵、ミスト) | 分類できない |
- |
- | - | 【分類根拠】 データ不足のため分類できない。 |
2 | 皮膚腐食性/刺激性 | 区分2 |
警告 |
H315 | P302+P352 P332+P313 P362+P364 P264 P280 P321 |
【分類根拠】 (1)、(2)より、区分2とした。 【根拠データ】 (1)ウサギ(n=6)を用いた皮膚刺激性試験(OECD TG 404相当、4時間適用、6日間観察)において、24時間後以降浮腫はみられなかったが、24/48/72時間後の紅斑の時間別平均スコアは2.0/2.0/2.4で、全例とも6日以内にグレード3に増悪したとの報告がある(EU RAR (2008)、NICNAS PEC (2001)、REACH登録情報 (Accessed Sep. 2022))。 (2)本物質は皮膚刺激性物質であり、ケラチン層の脱脂により、紅斑、水疱、乾燥性及び落屑性皮膚炎を生じる恐れがある(ATSDR (2007))。 【参考データ等】 (3)EUではSkin Irrit.2に分類されている(CLP分類結果 (Accessed Sep. 2022))。 |
3 | 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 | 区分2A |
警告 |
H319 | P305+P351+P338 P337+P313 P264 P280 |
【分類根拠】 (1)~(3)より、区分2Aとした。 【根拠データ】 (1)ウサギを用いた眼刺激性試験において、中程度の結膜刺激と一過性の角膜損傷が認められたとの報告がある(ATSDR (2007)、EU RAR (2008)、NICNAS PEC (2001)、REACH登録情報 (Accessed Sep. 2022))。 (2)ウサギを用いた眼刺激性試験において、適用後18~24時間後一過性の角膜損傷(グレード3(フルスコア:10))が認められたとの報告がある(EU RAR (2008)、NICNAS PEC (2001)、REACH登録情報 (Accessed Sep. 2022))。 (3)33 ppm(男性)と59 ppm(女性)のベンゼン蒸気にばく露された溶媒を扱う作業者が蒸気にばく露されている間に眼刺激を生じたとの報告がある(ATSDR (2007))。 |
4 | 呼吸器感作性 | 分類できない |
- |
- | - | 【分類根拠】 データ不足のため分類できない。 |
4 | 皮膚感作性 | 区分に該当しない |
- |
- | - | 【分類根拠】 (1)より、区分に該当しない。なお、新たな知見に基づき、分類結果を変更した(2022年度)。 【根拠データ】 (1)モルモット(n=15)を用いたMaximisation試験(OECD TG 406相当、皮内投与:原液)において、惹起後48時間後の陽性率は0%(0/15例)であったとの報告がある(REACH登録情報 (Accessed Sep. 2022)。 |
5 | 生殖細胞変異原性 | 区分1B |
危険 |
H340 | P308+P313 P201 P202 P280 P405 P501 |
【分類根拠】 (1)、(2)より、ベンゼンはヒト及び実験動物に染色体異常・小核形成を誘発する。さらに、(3)より生殖細胞への影響を示す報告もある。よって、区分1Bとした。なお、新たな知見に基づき、分類結果を変更した(2022年度)。 【根拠データ】 (1)ベンゼンに慢性ばく露されたヒトでは、ベンゼン及び/又はその代謝物が主に染色体異常を生じるとの報告が25報以上ある。また、ヒトの末梢血リンパ球と骨髄細胞で頻繁に染色体異常がみられる(ATSDR (2007)、IARC 120 (2018))。 (2)ベンゼンはマウスの骨髄細胞で染色体異常、小核形成及び姉妹染色分体交換を誘発し、またラット、ウサギ及びチャイニーズハムスターの骨髄細胞で染色体異常を誘発する。染色体異常は長期間ばく露の後、特に末梢血白血球数の減少によって特徴づけられる毒性が現れる場合に生じる(IARC 120 (2018))。 (3)マウスの精原細胞を用いた染色体異常試験(単回経口投与、220~880 mg/kg)では、染色体異常の発生頻度増加が用量依存的に認められた。同時に骨髄細胞における染色体異常も同じ用量範囲で調べられ、影響は精原細胞ではやや弱いが、ベンゼンは骨髄細胞と精原細胞で染色体異常を誘発すると結論された(EU RAR (2008)、NICNAS PEC (2001))。 【参考データ等】 (4)EU CLP分類(Accessed Aug. 2022)ではMuta. 1Bに分類されている。 |
6 | 発がん性 | 区分1A |
危険 |
H350 | P308+P313 P201 P202 P280 P405 P501 |
【分類根拠】 (1)、(2)よりヒトでの発がん性の十分な証拠、(3)の既存分類の結果、(4)の労働基準法施行規則別表第1の2 において、「ベンゼンにさらされる業務による白血病」が業務上疾病の対象になっていることから区分1Aとした。 【根拠データ】 (1)症例報告及び一連の症例でベンゼンにばく露されたヒトで白血病(多くは急性骨髄性白血病(AML))が報告された。ベンゼンががんを生じるという最も極力な疫学的証拠は、様々な産業界と地理的な場所で実施されたコホート研究において、ベンゼンへの職業ばく露が白血病(主にAML)による死亡リスクを増加させることが示されたことによる。症例対照研究からもベンゼンへのばく露が白血病のリスクを増加したことが報告されたが、これらはばく露の定義が不十分で複合ばく露であったため、これらの研究結果の利用には制限がある(NTP RoC 15th (2021))。 (2)ベンゼンの発がん性について、ヒトで十分な証拠がある。ベンゼンは成人で急性骨髄性白血病(AML)を生じる。非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ性白血病、多発性骨髄腫、慢性骨髄性白血病、小児のAML、及び肺がんに対して、ベンゼンばく露と正の相関がみられた。IARCの作業グループのうちの少数派がベンゼンは非ホジキンリンパ腫も生じるとの見解を、別の少数派は肺がんには正の相関はみられないと見解を示した(IARC 120 (2019))。 (3)国内外の評価機関による既存分類として、IARCでグループ1に(IARC 120 (2018))、EPAでカテゴリーK/L(”Known Carcinogen”)に(IRIS (1990))、NTPでKに(NTP RoC 15th (2021))、ACGIHでA1に(ACGIH (7th, 2001))、日本産業衛生学会で第1群に(産衛学会発がん性物質の提案理由書 (1997))、EUでCarc. 1Aに(CLP分類結果 (Accessed Sep. 2022))、DFGでカテゴリー1に(List of MAK and BAT values 2020)、それぞれ分類されている。 (4)労働基準法施行規則別表第1の2 において、「ベンゼンにさらされる業務による白血病」が業務上疾病の対象になっている(労働基準法施行規則別表第1の2(Accessed Sep. 2022))。 |
7 | 生殖毒性 | 区分2 |
警告 |
H361 | P308+P313 P201 P202 P280 P405 P501 |
【分類根拠】 (1)~(3)より、ラット及びウサギを用いた吸入ばく露による発生毒性試験において、母動物に一般毒性がみられる用量で、奇形影響(胸骨分節欠損、波状肋骨、外脳症等)、吸収増加及び胎児死亡の増加がみられたことから、区分2とした。 【根拠データ】 (1)ラットを用いた吸入ばく露による発生毒性試験(妊娠6~15日、100~2,200 ppm、6時間/日)において、明瞭な母動物毒性がない中用量(300 ppm)以上で、胎児に胸骨分節の骨化遅延がみられ、母動物毒性(体重増加抑制、嗜眠)がみられる高用量(2,200 ppm)で胎児に低体重、頭臀長の減少、胸骨分節欠損の頻度増加がみられたとの報告がある(NITE 初期リスク評価書 (2008)、ATSDR (2007))。 (2)ラットを用いた吸入ばく露による発生毒性試験(妊娠6~15日、10~500 ppm、7時間/日)において、母動物に体重増加抑制/体重減少がみられる中用量(50 ppm)以上で、軽微な影響(生存胎児の体重減少、肋骨等の骨化遅延、軽微な腎盂拡張・側脳室拡張等の変異増加)がみられ、高用量(500 ppm)では波状肋骨、前肢の骨化順序の違い、胎児の異常 (外脳、側脳室・第3脳室の拡張)がみられたとの報告がある(NITE 初期リスク評価書 (2008)、ACGIH (7th, 2001)、ATSDR (2007))。 (3)ウサギを用いた24時間連続吸入ばく露による発生毒性試験(妊娠7~20日、155、313 ppm、24時間/日)において、母動物毒性(体重増加抑制)がみられた高用量(313 ppm)で流産及び吸収胚増加、死亡胎児数の増加がみられたとの報告がある(NITE 初期リスク評価書 (2008)、ACGIH (7th, 2001)、ATSDR (2007))。 【参考データ等】 (4)ラットを用いた吸入ばく露による一世代生殖毒性試験(交配10週間前~哺育20日、1~300 ppm、交配前及び交配期間:6時間/日、5日/週、妊娠期間及び哺育期間:6時間/日、7日/週)において、最高濃度(300 ppm)で親動物に有害影響はみられなかったが、児動物には雄児に体重低値と肝臓絶対重量減少がみられたとの報告がある(NITE 初期リスク評価書 (2008))。 (5)マウスを用いた吸入ばく露による発生毒性試験(妊娠6~15日、500 ppm)において、母動物に異常はみられなかったが、胎児に体重低値と僅かな骨格変異がみられたとの報告がある(NITE 初期リスク評価書 (2008)、ATSDR (2007))。 (6)ヒトの生殖影響に関して、月経不順や精液の質に対する影響、自然流産の割合の増加、出生時体重の減少などベンゼンの生殖系への影響を示す報告もあるが、すべて混合ばく露の事例で、他の交絡因子による調整が適切でない、調査人数が少ない、ばく露期間が明確でないなど限界があり、ヒトでの生殖・発生毒性についてばく露量との関連を含め明確に判断することはできない(NITE 初期リスク評価書 (2008)、EU RAR (2008))。 |
8 | 特定標的臓器毒性(単回暴露) | 区分1(心血管系、中枢神経系)、区分3(麻酔作用、気道刺激性) |
危険 警告 |
H370 H336 H335 |
P308+P311 P260 P264 P270 P321 P405 P501 P304+P340 P403+P233 P261 P271 P312 |
【分類根拠】 ヒト知見において(1)、(2)より、中枢神経系、心血管系への影響及び麻酔作用がみられ、(3)、(4)より、気道への刺激性がみられたことから、区分1(心血管系、中枢神経系)、区分3(麻酔作用、気道刺激性)とした。なお、新たな知見に基づき分類結果を変更した。 【根拠データ】 (1)単回ばく露において、125 mg/kg 以上のベンゼンを摂取した場合、死亡例が見られている。ヒトの死亡は呼吸停止、中枢神経抑制、又は心血管虚脱に起因するとされてきた。ベンゼンの致死用量での事故的な摂取及び/又は意図的な自殺により、よろめき歩行、嘔吐、浅く速い脈拍、嗜眠、意識喪失に続きせん妄、肺炎、虚脱、中枢神経抑制から昏睡及び死亡がみられた。致死量の摂取は視覚障害及び/又は興奮と多幸感を生じ、その後全く突然に疲労、疲労感、眠気、痙攣、昏睡及び死亡に変化することがあるとの報告がある(ATSDR (2007))。 (2)ベンゼンの急性毒性は、中枢神経系への影響及び麻酔作用で、即効的かつ用量依存的であり可逆的である。急性中毒による死亡例は、重篤な中枢神経障害や心臓不整脈による心肺停止であるとの報告がある(NITE 初期リスク評価書 (2008))。 (3)ベンゼン蒸気は、60 ppm以上では皮膚、鼻、口、喉に刺激性を示す(NITE 初期リスク評価書 (2008))。 (4)高濃度のベンゼン蒸気は眼、鼻、気道の粘膜を刺激するとの報告がある(EU RAR (2008))。 |
9 | 特定標的臓器毒性(反復暴露) | 区分1(造血系、免疫系、中枢神経系) |
危険 |
H372 | P260 P264 P270 P314 P501 |
【分類根拠】 (1)~(4)より、ヒト知見において造血系、免疫系、中枢神経系への影響がみられ、(5)~(8)より、動物知見においても造血系、免疫系への影響がみられたことから区分1(造血系、免疫系、中枢神経系)とした。なお、(6)でみられた生殖器への影響はより長期で行われた(7)ではみられていないため、標的臓器として採用していない。新たな知見に基づき分類結果を変更した。 【根拠データ】 (1)ベンゼンへの慢性ばく露は再生不良性貧血、汎血球減少症、又は貧血、白血球減少症及び血小板減少症のいずれかを組合せた病態など基本的に血液毒性を生じる。ベンゼンの慢性ばく露は白血病のリスク増加と関連するとの報告がある(IPCS PIM 063 (Accessed Sep. 2022))。 (2)ヒトの職業ばく露知見において、米国とカナダでの化学工業と石油精製場の3つの研究の結果から造血器系への影響を指標にしたNOAELが0.5 ppm超が得られ、中国・上海市の工場でベンゼンにばく露された作業者の横断研究の結果からリンパ球数の減少を指標にしたLOAEL 7.6 ppmが得られている。また、中国・天津市の横断研究で、更に低い濃度でベンゼンの血液毒性が報告されており、LOAELは1 ppmであるとの報告がある(NITE 初期リスク評価書 (2008))。 (3)最も重大な健康影響は、血液毒性、免疫毒性、神経毒性および発癌性である。骨髄への影響としては、再生不良性貧血を引き起こす骨髄抑制、染色体変化および発癌性の3つがみられたとの報告がある(EHC 150(1993))。 (4)エストニアのベンゼン製造石油化学工場では、2-16ppmのレベルに数年間ばく露された労働者の61%に、シフト終了時の頻繁な頭痛、疲労感、睡眠障害、記憶喪失が発生したとの報告が、ノルウェーの石油製品タンカー9隻の甲板員を対象とした調査では、0.3ppmを超えるベンゼンにばく露した5/11人の労働者が頭痛、めまい、吐き気を報告したのに対し、0.3ppmにばく露した10人には中枢神経系の訴えがなかったとの報告がある(AICIS PEC(2001))。 (5)マウスを用いた飲水投与による28日間免疫毒性試験において、8 mg/kg/day(90日換算:2.49 mg/kg/day、区分1の範囲)で 末梢血WBC、LC、RBC の減少(大球性貧血)、B-、T-リンパ球マイトジェンによる脾臓リンパ球増殖反応亢進、リンパ球混合培養(MLC)反応亢進、細胞傷害性T リンパ球(CTL)反応亢進(25:1 E:T 比)が、40 mg/kg/day(90日換算:12.4 mg/kg/day、区分2の範囲)でB-、T-リンパ球マイトジェンによる脾臓リンパ球増殖反応抑制、MLC 反応抑制、抗羊赤血球抗体価の抑制が、180 mg/kg/day(90日換算:56 mg/kg/day、区分2の範囲)で脾臓重量の減少、肝臓重量の増加、CTL 反応抑制(25:1 E:T 比)がみられたとの報告がある(NITE 初期リスク評価書 (2008)、食安委 清涼飲料水評価書 (2008))。 (6)ラットを用いた強制経口による103週間反復経口投与試験(5日/週)において、25 mg/kg/day(ガイダンス換算:17.9 mg/kg/day、区分2の範囲)で雌ではWBC 減少が、50 mg/kg/day(35.7 mg/kg/day、区分2の範囲)で雄ではWBC 減少(用量依存性)、胸腺・脾臓リンパ組織枯渇がみられたとの報告がある(NITE 初期リスク評価書 (2008)、食安委 清涼飲料水評価書 (2008))。 (7)マウスを用いた13週間反復吸入ばく露試験(蒸気、6時間/日、5日/週)において、0.975 mg/L(300 ppm、ガイダンス換算:0.696 mg/L、区分2の範囲)で雌雄では胸腺萎縮、雄では骨髄細胞密度低下、脾臓動脈周囲リンパ組織、枯渇、脾臓髄外造血亢進、下顎/腸間膜リンパ節リンパ組織枯渇、精巣萎縮/変性、精巣上体管内精子減少、精子形態異常の増加、雌では卵巣のう腫がみられたとの報告がある(NITE 初期リスク評価書 (2008))。 (8)マウスを用いた70週間反復吸入ばく露試験(蒸気、6時間/日、5日/週)において、0.975 mg/L(300 ppm、ガイダンス換算:0.696 mg/L、区分2の範囲)で貧血、LC 減少、好中球増多(核左方移動)、骨髄過形成・脾臓過形成がみられたとの報告がある(NITE 初期リスク評価書 (2008))。 |
10 | 誤えん有害性 | 区分1 |
危険 |
H304 | P301+P310 P331 P405 P501 |
【分類根拠】 (1)、(2)より、区分1とした。 【根拠データ】 (1)本物質は炭化水素化合物である。粘性率0.604 mPa.s(25℃)及び密度0.8756 g/cm3(20℃)(HSDB (Accessed Sep. 2022))より、動粘性率は0.69 mm2/sと算出される。 (2)液体のベンゼンを直接肺に誤えんした場合、肺組織との接触部位で直ちに肺水腫と出血を生じる(EU RAR (2008)、NICNAS PEC (2001))。 |
危険有害性項目 | 分類結果 | 絵表示 注意喚起語 |
危険有害性情報 (Hコード) |
注意書き (Pコード) |
分類根拠・問題点 | |
---|---|---|---|---|---|---|
11 | 水生環境有害性 短期(急性) | 区分2 |
- |
H401 | P273 P501 |
魚類(ニジマス)96時間LC50 = 5.3 mg/L(環境省初期評価, 2003、NITE初期リスク評価書, 2007、CERI有害性評価書, 2006、AICIS IMAP, 2001、CEPA PSAR, 1993、EURAR, 2008、SIAR, 2005)であることから、区分2とした。 |
11 | 水生環境有害性 長期(慢性) | 区分2 |
- |
H411 | P273 P391 P501 |
慢性毒性データを用いた場合、急速分解性がなく(BODによる分解度:39~41%(METI既存点検結果, 1979))、魚類(ファットヘッドミノー)の32日間NOEC = 0.8 mg/L(NITE初期リスク評価書, 2007、CERI有害性評価書, 2006、EURAR, 2008、SIAR, 2001)から、区分2となる。 慢性毒性データが得られていない栄養段階(藻類)に対して急性毒性データを用いた場合、急速分解性がなく、藻類(ムレミカヅキモ)の72時間ErC50 = 29 mg/L(環境省初期評価, 2003、NITE初期リスク評価書, 2007、CERI有害性評価書, 2006、EURAR, 2008、HSDB, 2022)から、区分3となる。 以上の結果を比較し、区分2とした。 |
12 | オゾン層への有害性 | 分類できない |
- |
- | - | 当該物質はモントリオール議定書の附属書に列記されていないため。 |
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