政府によるGHS分類結果

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一般情報
項目 情報
CAS登録番号 96-33-3
名称 アクリル酸メチル
物質ID R02-B-020-MHLW, MOE
分類実施年度 令和2年度(2020年度)
分類実施者 厚生労働省/環境省
新規/再分類 再分類・見直し
他年度における分類結果 2011年度(平成23年度)   2006年度(平成18年度)   2020年度(令和2年度)  
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関連情報
項目 情報
分類に使用したガイダンス(外部リンク) 政府向けGHS分類ガイダンス(令和元年度改訂版(Ver.2.0))
国連GHS文書(外部リンク) 国連GHS文書
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物理化学的危険性
危険有害性項目 分類結果 絵表示
注意喚起語
危険有害性情報
(Hコード)
注意書き
(Pコード)
分類根拠・問題点
1 爆発物 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 分子内に爆発性に関連する原子団を含んでいないため、区分に該当しない。
2 可燃性ガス 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における液体であり、区分に該当しない。
3 エアゾール 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - エアゾール製品でないため、区分に該当しない。
4 酸化性ガス 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における液体であり、区分に該当しない。
5 高圧ガス 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における液体であり、区分に該当しない。
6 引火性液体 区分2


危険
H225 P303+P361+P353
P370+P378
P403+P235
P210
P233
P240
P241
P242
P243
P280
P501
引火点-3℃ (closed cup)、沸点80℃ (NFPA (14th, 2010)) に基づいて区分2とした。なお、UNRTDGにおいてUN 1919、クラス3、PG IIに分類されている。
7 可燃性固体 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における液体であり、区分に該当しない。
8 自己反応性化学品 タイプG
-
-
- - 分子内に自己反応性に関連する原子団として不飽和結合を含むが、安定剤入りの流通品はUNRTDGにおいてUN 1919、クラス3に分類されていることから、優先評価項目である自己反応性化学品には該当しないと考えられるため、タイプGとした。
9 自然発火性液体 区分に該当しない
-
-
- - 発火点が468℃ (NFPA (14th, 2010)) との情報より、常温で発火しないと考えられるため、区分に該当しない。
10 自然発火性固体 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における液体であり、区分に該当しない。
11 自己発熱性化学品 分類できない
-
-
- - 液体状の物質に適した試験法が確立していないため、分類できない。
12 水反応可燃性化学品 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 金属及び半金属 (B, Si, P, Ge, As, Se, Sn, Sb, Te, Bi, Po, At) を含んでいないため、区分に該当しない。
13 酸化性液体 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - フッ素及び塩素を含まず、酸素を含む有機化合物であるが、この酸素が炭素及び水素以外の元素と結合していないため、区分に該当しない。
14 酸化性固体 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - GHSの定義における液体であり、区分に該当しない。
15 有機過酸化物 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 分子内に-O-O-構造を有していない有機化合物であり、区分に該当しない。
16 金属腐食性化学品 分類できない
-
-
- - データ不足のため分類できない。
17 鈍性化爆発物 区分に該当しない(分類対象外)
-
-
- - 爆発性に関連する原子団を含まないため、区分に該当しない。

健康に対する有害性
危険有害性項目 分類結果 絵表示
注意喚起語
危険有害性情報
(Hコード)
注意書き
(Pコード)
分類根拠・問題点
1 急性毒性(経口) 区分3


危険
H301 P301+P310
P264
P270
P321
P330
P405
P501
【分類根拠】
(1)~(7) より、区分3とした。

【根拠データ】
(1) ラットのLD50: 277 mg/kg (ACGIH (7th, 2014)、MOE初期評価第7巻 (2009)、SIAR (2008)、CLH Report (2020)、AICIS IMAP (2014)、厚労省リスク評価書 (2016))
(2) ラットのLD50: 277~765 mg/kg (NITE初期リスク評価書 (2008))
(3) ラットのLD50: 280~420 mg/kg (CLH Report (2020))
(4) ラットのLD50: 300 mg/kg (ACGIH (7th, 2014)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (2004)、CLH Report (2020)、AICIS IMAP (2014)
(5) ラットのLD50: 750 mg/kg (厚労省リスク評価書 (2016))
(6) ラットのLD50: 765 mg/kg (SIAR (2008))
(7) ラットのLD50: 768 mg/kg (CLH Report (2020))
1 急性毒性(経皮) 区分4


警告
H312 P302+P352
P362+P364
P280
P312
P321
P501
【分類根拠】
(1)~(4) より、区分4とした。

【根拠データ】
(1) ウサギのLD50: 1.3 mL/kg (1,239 mg/kg) (ACGIH (7th, 2014))
(2) ウサギのLD50: 1,243 mg/kg (ACGIH (7th, 2014)、MOE初期評価第7巻 (2009)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (2004))
(3) ウサギのLD50: 1,250 mg/kg (SIAR (2008)、NITE初期リスク評価書 (2008)、AICIS IMAP (2014))
(4) ラットのLD50: 1,300 mg/kg (ACGIH (7th, 2014))
1 急性毒性(吸入:ガス) 区分に該当しない
-
-
- - 【分類根拠】
GHSの定義における液体であり、区分に該当しないとした。
1 急性毒性(吸入:蒸気) 区分3


危険
H331 P304+P340
P403+P233
P261
P271
P311
P321
P405
P501
【分類根拠】
(1)~(7) より、区分3とした。
なお、ばく露濃度が飽和蒸気圧濃度 (113,956 ppm) の90%よりも低いため、ミストがほとんど混在しないものとしてppmを単位とする基準値を適用した。

【根拠データ】
(1) ラットのLC50 (4時間): 1,000 ppm (ACGIH (7th, 2014))
(2) ラットのLC50 (4時間): 1,350 ppm (産衛学会許容濃度の提案理由書 (2004)、厚労省リスク評価書 (2016)、ACGIH (7th, 2014)、MOE初期評価第7巻 (2009))
(3) ラットのLC50 (4時間): 1,600 ppm (厚労省リスク評価書 (2016)、MOE初期評価第7巻 (2009))
(4) ラットのLC50 (蒸気、4時間): 5.7 mg/L (1,618.8 ppm) (SIAR (2008)、AICIS IMAP (2014))
(5) ラットのLC50 (4時間): 6.5 mg/L (1,846 ppm) (SIAR (2008))
(6) ラットのLC50 (4時間): 750~1,810 ppm (NITE初期リスク評価書 (2008))
(7) ラットのLC50 (鼻部ばく露、4時間): < 3,000 mL/m3 (3,000 ppm) (MAK (DFG) (2019))
(8) 本物質の蒸気圧: 86.6 mmHg (25℃) (HSDB (Access on April 2020)) (飽和蒸気圧濃度換算値: 113,956 ppm)
1 急性毒性(吸入:粉塵、ミスト) 分類できない
-
-
- - 【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
2 皮膚腐食性/刺激性 区分1


危険
H314 P301+P330+P331
P303+P361+P353
P305+P351+P338
P304+P340
P260
P264
P280
P310
P321
P363
P405
P501
【分類根拠】
(1)~(4) より、区分1とした。

【根拠データ】
(1) OECD TG 404に準拠したウサギを用いた皮膚刺激性試験において強度刺激性と判定されている。なお、1時間の半閉塞及び閉塞適用では一部の動物に皮膚表面の壊死、4時間の閉塞適用では全ての動物で壊死がみられている (SIDS (2008)、REACH登録情報 (Access on June 2020))。
(2) 本物質をウサギに半閉塞適用した皮膚刺激性試験 (BASF法) において強度刺激性と判定されており、15分~20時間の適用により壊死や強度の浮腫を生じる (SIDS (2008)、MAK (DFG) vol.6 (1994)、NITE初期リスク評価書 (2008)、REACH登録情報 (Access on June 2020))。
(3) 本物質は皮膚、気道を刺激し、眼を重度に刺激し、眼や皮膚に付くと発赤や痛みを生じる (MOE初期評価第7巻 (2009))。
(4) 本物質 (0.5 mL) を半閉塞適用したOECD TG 404相当のウサギを用いた皮膚刺激性試験において強度刺激性と判定され、紅斑及び浮腫の平均スコアはそれぞれ2.17 (最大3) 及び2.44 (最大4) と報告されている (AICIS IMAP (2014))。

【参考データ等】
(5) EU-CLP分類でSkin Irrit. 2 (H315)に分類されている (EU CLP分類 (Access on June 2020))。
(6) 本物質は皮膚と粘膜に対して可逆性の刺激物である (ACGIH (7th, 2014))。
3 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 区分1


危険
H318 P305+P351+P338
P280
P310
【分類根拠】
(1)~(4) より、区分1とした。

【根拠データ】
(1) ウサギを用いた眼刺激性試験 (ドレイズ法) において、刺激性スコアは66 (最大110) であり、強度の刺激性 (Severely) と判定されている (SIDS (2008)、MAK (DFG) vol.6 (1994)、NITE初期リスク評価書 (2008)、REACH登録情報 (Access on June 2020))。
(2) 本物質は皮膚、気道を刺激し、眼を重度に刺激し、眼や皮膚に付くと発赤や痛みを生じる (MOE初期評価第7巻 (2009))。
(3) 本物質 (0.1 mL) をウサギの眼に投与した眼刺激性試験で適用72時間後の平均スコアは角膜混濁、虹彩、結膜発赤、結膜浮腫の平均スコアはそれぞれ2.33 (最大3)、1 (最大1)、2 (最大2)、3 (最大3)であった (AICIS IMAP (2014))。
(4) 本物質は皮膚腐食性物質 (区分1) に区分されている。

【参考データ等】
(5) OECD TG 437に準拠し、ウシ角膜を用いたin vitro眼損傷性試験 (BCOP) において、平均刺激性スコア(IVIS)は12.55であり、区分1は否定された (REACH登録情報 (Access on June 2020))。
(6) 本物質は皮膚と粘膜に対して可逆性の刺激物である (ACGIH (7th, 2014))。
(7) EU-CLP分類でEye Irrit. 2 (H319)に分類されている(EU CLP分類 (Access on June 2020))。
4 呼吸器感作性 分類できない
-
-
- - 【分類根拠】
データ不足のため、分類できない。
4 皮膚感作性 区分1A


警告
H317 P302+P352
P333+P313
P362+P364
P261
P272
P280
P321
P501
【分類根拠】
区分1、区分1Aまたは区分1Bを指示するデータが混在するが、(1) より産衛学会 感作性分類 皮膚第2群に指定されていることから、ガイダンスに従い区分1Aとした。

【根拠データ】
(1) 本物質は産衛学会 感作性分類 皮膚第2群に指定されている (日本産業衛生学会学会誌 (2010))。
(2) ボランティア30人に20%の本物質溶液を2日間塗布した結果、10人に刺激反応がみられ、2%溶液では22人中2人にアレルギー反応がみられた (MOE初期評価第7巻 (2009))。
(3) TG 429に準拠したマウス局所リンパ節試験 (LLNA) において陽性と判定され、EC3は19.6%と報告されている (AICIS IMAP (2014)、REACH登録情報 (Access on June 2020))。
(4) 本物質 (1%/ワセリン、20%/オリーブ油) はヒトのパッチテストで陽性を示し、他のアクリル酸及びメタクリル酸と交差反応が報告されている (AICIS IMAP (2014))。
(5) モルモットを用いた皮膚感作性試験 (Split Adjuvant test) で陽性と判定されている (REACH登録情報 (Access on June 2020))。
(6) モルモットを用いた皮膚感作性試験 (Polak test、改変ドレイズ法、改変マキシマイゼーション法) において陽性と報告されている (SIDS (2008)、MAK (DFG) vol.16 (2001)、NITE初期リスク評価書 (2008)、REACH登録情報 (Access on June 2020))。
(7) 本物質はモルモットにおいて感作性を有し、他のアクリル酸及び関連化合物と交差反応を示す (ACGIH (7th, 2014))。

【参考データ等】
(8) モルモットを用いた皮膚感作性試験 (Open epicutaneous test) において陰性と報告されている (SIDS (2008)、MAK (DFG) vol.16 (2001))。
(9) EU-CLP分類でSkin Sens. 1 (H317)に分類されている (EU CLP分類 (Access on June 2020))。
5 生殖細胞変異原性 区分に該当しない
-
-
- - 【分類根拠】
(1)、(2) より、 区分に該当しない。

【根拠データ】
(1) in vivoにおいて、マウスの経口および吸入による骨髄細胞を用いた2件の小核試験で陰性の報告がある (NITE初期リスク評価書 (2008)、MOE初期評価第7巻 (2009)、SIDS Dossier (2008)、SIAR (2008))。なお、別系統のマウスを用いた腹腔内投与による骨髄細胞を用いた小核試験で陽性の報告もあるが、試験詳細が不明であり、小核の出現の増加と投与量に明確な用量依存性はなかった (NITE初期リスク評価書 (2008)、SIAR (2008))。
(2) in vitroにおいて、細菌の復帰突然変異試験でほとんどが陰性、哺乳類培養細胞の遺伝子突然変異試験で陰性、陽性の報告、染色体異常試験で陽性の報告がある (NITE初期リスク評価書 (2008)、MOE初期評価第7巻 (2009)、SIDS Dossier (2008)、SIAR (2008))。
6 発がん性 区分1B


危険
H350 P308+P313
P201
P202
P280
P405
P501
【分類根拠】
ヒトでの発がん性に関する情報はない。既存分類は、(1) のとおり分類され、マウスでは発がん性が認められていないが、本物質は厚生労働省が定める化学物質による労働者の健康障害を防止するための指針の対象物質であり、ラットでは雌雄ともに鼻腔腫瘍が発生しており、IARCでも動物での発がん性の証拠は十分と評価している。以上のことから、有害性評価小検討会の審議を経てヒトにおける懸念から同省が指針を出したことを重視し、区分1Bとした。

【根拠データ】
(1) 国内外の分類機関による既存分類では、IARCでグループ2B (IARC 122 (2019))、ACGIHでA4 (ACGIH (7th, 2001))、産衛学会で第2群B (産業衛生学会誌許容濃度の勧告 (2004年提案))、EPA (IRIS) でD (not classifiable as to human carcinogenicity) (IRIS (1990)) に分類されている。
(2) 本物質は労働安全衛生法第28条第3項の規定に基づき、厚生労働大臣が定める化学物質による労働者の健康障害を防止するための改正指針の対象物質である (令和2年2月7日付け健康障害を防止するための指針公示第27号)。
(3) 雌雄のラットに本物質を104週間吸入ばく露した発がん性試験で、雌雄とも鼻腔に腫瘍の発生が認められ、雄では鼻腔に扁平上皮がんの発生率の有意な増加が認められた。雌では、鼻腔に扁平上皮がんの発生がみられ有意差は認められなかったが、この腫瘍は背景データにおいて発生のない極めて稀な腫瘍であった。この結果から、雄ラットに対するがん原性を示す証拠 (clear evidence of carcinogenic activity)、及び雌ラットに対するがん原性を示唆する証拠 (some evidence of carcinogenic activity) が得られたと結論された (厚労省委託がん原性試験結果 (2017)、IARC 122 (2019))。
(4) 雌雄のラットに本物質を24ヵ月間吸入ばく露した発がん性試験で、雄で軟部組織 (皮膚又は皮下組織) 肉腫及び悪性白血病腫瘍 (白血病、リンパ腫、リンパ肉腫) の有意な発生率の増加、雌で下垂体腺腫の有意な発生率の増加が認められた (IARC 122 (2019))。
(5) 雌雄のマウスに本物質を雄は94週間、雌は97週間吸入ばく露した発がん性試験では、雌雄とも腫瘍の発生増加はみられなかった (厚労省委託がん原性試験結果 (2017)、IARC 122 (2019))。
7 生殖毒性 区分に該当しない
-
-
- - 【分類根拠】
(1)~(3) より、生殖毒性が認められていないことから、区分に該当しないとした。なお、新たな情報として、(1)、(3) が得られたことから旧分類から分類結果を変更した。

【根拠データ】
(1) ラットを用いた吸入経路による2世代生殖毒性試験 (OECD TG 416) において、親動物毒性 (体重増加抑制、摂餌量減少、鼻部の病理組織学的傷害) がみられる用量においても生殖能に対する影響はみられていないが、児動物で体重増加抑制がみられている (MAK (DFG) (2019))。
(2) 雌ラットの妊娠6~20日に吸入ばく露した発生毒性試験において、母動物毒性 (体重増加抑制、摂餌量減少) のみられる用量で胎児体重の有意な低値がみられた。最高用量群の胎児1例に奇形がみられたが、本物質に起因したものではないと考えられており、胚/胎児の死亡、奇形の発生に影響はみられていない (厚労省リスク評価書 (2016)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (2004)、MOE初期評価第7巻 (2009)、SIDS (2003)、MAK (DFG) (2019))。
(3) 雌ウサギの妊娠6~28日に吸入ばく露した発生毒性試験において、母動物毒性 (嗅上皮の変性と萎縮) がみられる用量においても発生影響はみられていない (MAK (DFG) (2019))。
8 特定標的臓器毒性(単回暴露) 区分1 (呼吸器)


危険
H370 P308+P311
P260
P264
P270
P321
P405
P501
【分類根拠】
(1)、(2) より、ヒトにおいて呼吸器への刺激性がみられるとの情報があり、(3)、(4) より、実験動物において区分1~2の用量で呼吸器、肺への影響がみられたとの情報があったことから、区分1 (呼吸器) とした。新たな情報源 (1)、(2) の追加により、旧分類から分類結果を変更した。

【根拠データ】
(1) ヒトが75 ppm (0.264 mg/L相当) の本物質を吸入ばく露された場合に、眼、鼻、肺への刺激がみられたとの報告がある (ACGIH (7th, 2014))。
(2) ヒトが70 ppm (250 mg/m3) と 140 ppm (500 mg/m3) の本物質にばく露された場合に、上気道及び結膜に刺激がみられたとの報告がある (NITE初期リスク評価書 (2008))。
(3) 本物質のラット、マウス及びハムスターの吸入ばく露試験で1.0~10.9 mg/L (区分1~2の範囲) で眼や鼻の炎症、呼吸困難がみられた。1.9 mg/L (区分1の範囲) 以上では死亡例があり、死亡した動物では心臓の拡張やうっ血、肺のうっ血や充血、浮腫がみられ、と殺した動物でも肺に斑状の変化があった(SIDS Dossier (2003))。
(4) 本物質のラットの吸入毒性試験では、10.8 mg/L (区分2の範囲) で呼吸困難、横隔膜呼吸、喘鳴、呼吸音、赤く膿んだような目や鼻、流涎、土気色の皮膚、立毛、過剰興奮、振戦、全身状態の悪化がみられた (MAK (DFG) (2019))。
9 特定標的臓器毒性(反復暴露) 区分1 (呼吸器)


危険
H372 P260
P264
P270
P314
P501
【分類根拠】
(1)、(2) より、ヒトにおいて呼吸器への影響がみられるとの情報があり、実験動物においては (3)~(5) より、区分1の用量で呼吸器への影響がみられるとの情報があったことから、区分1 (呼吸器) とした。旧分類では腎臓も標的臓器としていたが、ヒトでの影響についての十分な証拠が得られなかった。情報の再検討の結果、旧分類から分類結果を変更した。

【根拠データ】
(1) 化学繊維工場の労働者195人を対象に、本物質及びアクリル酸 (CAS番号 79-10-7) の平均ばく露濃度が21.3、1.0 mg/m3 のA群51人、4.7、5.2 mg/m3のB群62人、アクリル酸のみのばく露 (11.2 mg/m3) のC群22人、非ばく露の対照群60人について自覚症状を調べたところ、咳、息切れ、痰、咽頭痛は主に本物質にばく露されていたA群に限られた。また、咽頭部の充血、胸部レントゲンでの肺紋理の発生率もA群で有意に高かった (MOE初期評価第7巻 (2009))。
(2) アクリル酸エステル製造工場で実施された前向き疫学研究 (ばく露群60人、対照群60人、両群の平均年齢40才、本物質への平均ばく露期間13年) では、ばく露群の約40%に眼や喉の灼熱感、刺激性の咳や頭痛、吐き気やめまい、皮膚の違和感の訴えがあり、トリグリセライド、単球の増加がみられた (MOE初期評価第7巻 (2009))。
(3) 本物質のラットの90日間吸入ばく露試験では、242 ppm (0.852 mg/L相当 [90日換算0.568 mg/L]、区分2の範囲) 以上で眼、鼻の刺激及び呼吸困難、鼻腔の嗅上皮の萎縮と壊死、626 ppm (2.2 mg/L相当 [90日換算1.47 mg/L]、区分2超の範囲) で気管炎、肺の充血、気管支肺炎がみられた (MAK (DFG) (2019))。
(4) 本物質のラットの2年間吸入ばく露試験では、15 ppm (0.0528 mg/L相当、区分1の範囲) 以上で嗅上皮萎縮、45 ppm (0.158 mg/L相当、区分1の範囲) で鼻粘膜の基底細胞過形成がみられた (NITE初期リスク評価書 (2008)、MOE初期評価第7巻 (2009)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (2004))。
(5) 本物質のラットの104週間吸入ばく露試験では、40 ppm (0.141 mg/L相当、区分1の範囲) 以上で嗅上皮の萎縮や再生、基底細胞や呼吸上皮杯細胞の過形成及び呼吸上皮化生、160 ppm (0.563 mg/L相当、区分2の範囲) で鼻腔の扁平上皮や移行上皮の過形成、扁平上皮化生、移行上皮や嗅上皮の炎症、腺の変性、炎症性ポリープ、甲介の癒着及び鉱質沈着がみられた (厚労省委託がん原性試験結果 (2016))。

【参考データ等】
(6) 化学品製造工場における、10人の製造作業者、4人の間欠ばく露者、以前にごく少量のばく露があった1人のインダストリアルハイジニストを対象とした8週間以上にわたるケース・クロスオーバー研究では、肺機能検査の一つであるスパイロメトリー検査とメタコリン吸入試験において作業開始前、作業中及び作業後での変化はみられなかった。但し、事前の調査では、研究対象者の50%、製造に関わる全ての作業者の60%が研究開始時に気管支過敏反応を訴えていた (産衛学会許容濃度の提案理由書 (2004)、MAK (DFG) (2019))。
(7) 本物質のラットの13週間飲水投与試験では、20 mg/kg (区分2の範囲) で尿細管の拡張、好酸性円柱の発生等の腎障害がみられた。しかし、試験に用いたラットの系統に通常発生する自然発生的な腎臓病変であり、投与による影響ではないと考察されている (NITE初期リスク評価書 (2008))。
10 誤えん有害性 分類できない
-
-
- - 【分類根拠】
データ不足のため分類できない。

環境に対する有害性
危険有害性項目 分類結果 絵表示
注意喚起語
危険有害性情報
(Hコード)
注意書き
(Pコード)
分類根拠・問題点
11 水生環境有害性 短期(急性) 区分2
-
-
H401 P273
P501
魚類(シープスヘッドミノー)96時間LC50 = 1.1 mg/L(SIAR, 2003)であることから、区分2とした。
11 水生環境有害性 長期(慢性) 区分2


-
H411 P273
P391
P501
慢性毒性データを用いた場合、急速分解性がなく(OECD TG301D におけるBODによる28日間分解度:59.8%(SIAR, 2003))、甲殻類(オオミジンコ)の21日間NOEC = 0.36 mg/L(MOE既存点検結果, 1999、MOE初期評価第7巻, 2011、NITE初期リスク評価書, 2008)から、区分2となる。
慢性毒性データが得られていない栄養段階に対して急性毒性データを用いた場合、急速分解性がなく(OECD TG301D におけるBODによる28日間分解度:59.8%(SIAR, 2003))、魚類(シープスヘッドミノー)の96時間LC50 = 1.1 mg/L(SIAR, 2003)から、区分2となる。
以上の結果から、区分2とした。急速分解性の判断に用いる情報の再検討により、旧分類から分類結果が変更となった。
12 オゾン層への有害性 分類できない
-
-
- - 当該物質はモントリオール議定書の附属書に列記されていないため。


分類結果の利用に関する注意事項:
  • 政府によるGHS分類結果は、事業者がラベルやSDSを作成する際の参考として公表しています。同じ内容を日本国内向けのラベルやSDSに記載しなければならないという義務はありません。
  • 本分類結果は、GHSに基づくラベルやSDSを作成する際に自由に引用又は複写していただけます。ただし、本分類結果の引用又は複写により作成されたラベルやSDSに対する責任は、ラベルやSDSの作成者にあることにご留意ください。
  • 本GHS分類は、分類ガイダンス等に記載された情報源と分類・判定の指針に基づき行っています。他の文献や試験結果等を根拠として使用すること、また、ラベルやSDSに本分類結果と異なる内容を記載することを妨げるものではありません。
  • 「危険有害性情報」欄及び「注意書き」欄のコードにマウスカーソルを重ねると、対応する文言が表示されます。Excel fileでは、コード及び文言が記載されています。
  • 「分類結果」欄の空欄又は「- 」(ハイフン)は、その年度に当該危険有害性項目の分類が実施されなかったことを意味します。
  • 「分類結果」欄の「※」はJISの改正に伴い、区分がつかなかったもの(「区分に該当しない(分類対象外を含む)」あるいは「分類できない」、もしくはそのいずれも該当する場合)に表示するものです。詳細については分類根拠を参照してください。

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