バイオテクノロジー

NBRCニュース 第4号

◆◇◆ NBRCニュース No. 4(2010.8.2)◆◇◆
 
 NBRCニュース第4号をお届けします。今号から新連載「微生物あれこれ」を
開始しました。NBRCの菌株担当者がそれぞれ担当している微生物について、い
ろいろな情報をご紹介いたします。連載第1回目はバイオ燃料生産用酵母
Saccharomyces cerevisiae 台研396株 (= NBRC 0216)の歴史です。微生物など
の生物遺伝資源を大切に保管し、将来へ伝えていくことの重要性をこの株の歴
史が伝えています。その他、連載「微生物の培養法」と「アジアの微生物」の
第2回をお届けします。最後までお読みいただければ幸いです。

(等幅フォントでご覧ください)

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 内容
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 1.新たにご利用可能となった微生物株(2010年5月29日~2010年7月30日)
 2.微生物あれこれ(1)
    酵母菌:台研396株 (= NBRC 0216)のお話
 3.微生物の培養法(2)
    好熱性菌の培養方法
 4.アジアの微生物(2)
    魅惑の原生林:ブルネイ
 5.スクリーニング株の内容を一部公開しました(約5,500株)
 6.微生物ゲノムデータベースDOGANをリニューアルします
 7. お盆期間中のNBRC微生物株・DNAリソースの発送休止について

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 1.新たにご利用可能となった微生物株(2010年5月29日~2010年7月30日)
 【詳細】http://www.nbrc.nite.go.jp/new_dna.html
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 酵母 4株、糸状菌 45株、藻類 1株、バクテリア 31株、微生物ゲノムDNA 6
種類を新たに公開しました。
 NBRCでは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)『タンパク質機能
解析・活用プロジェクト』で作製されたヒトGateway®エントリークローンの
分譲を行っています。6月30日には、新たに10,142クローンを追加し、約4万3
千クローンがご利用可能となりました。これらは、完全長ヒトcDNAからPCRに
より取得したORF領域のみがGatewayエントリーベクターにクローニングされた
ものです。インサートDNAは、Gatewayテクノロジーにより種々のデスティネー
ションベクター(発現ベクター)へ簡単に移入することができます。各クロー
ンの詳細や入手方法は下記のホームページをご覧下さい。
 http://www.nbrc.nite.go.jp/hgentry.html
 ※Gateway®はInvitrogenの登録商標です。

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 2.微生物あれこれ(1)
   酵母菌:台研396株 (= NBRC 0216)のお話       (川﨑浩子)
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 2005年に発表された「新・国家エネルギー戦略」では、二酸化炭素排出削減
および過度の化石資源への依存脱却が掲げられ、その対策の一つとしてバイオ
燃料に関する研究・開発が盛んに行われるようになりました。NBRCの酵母コレ
クションにもバイオ燃料生産やその研究に関する問い合わせが増えました。今
回、微生物あれこれの第1回目に登場するのは、バイオ燃料生産用酵母として
広く使用されている台研396株(Taiken No. 396)、すなわちSaccharomyces
cerevisiae NBRC 0216です。
Saccharomyces cerevisiae NBRC 0216
 この株が分離されたのは、日本が
台湾を統治していた時代のこと。当
時、台湾総督府中央研究所発酵工業
科研究室におられた中澤亮治博士が、
アルコール製造のための優良酵母を
探索されている中、台湾の清酒会社
の発酵糖蜜より、糖蜜発酵に最も適
した株として、台研396株を分離さ
れました。1933年(昭和8年)の日
本農芸化学会誌にその記録が残され
ています。その後、日本は第二次世
界大戦に突入します。
 1940年前後の戦時下の日本では 物資生産手段としての微生物工業への期待が
高まる一方、戦局はだんだんと厳 しさを増し、台研396株を含む物資生産微生
物の研究や保存は、内閣技術院の 研究費支援を受けた財団法人航空醗酵研究
所が管理するようになりました。航空機燃料としてのエタノール生産の研究に
使用されていたことがうかがえます。
 しかし終戦を迎え、内閣技術院が解散を命ぜられると同時に、研究費の支援
元を失った航空醗酵研究所は存廃の危機にさらされます。それを救ったのが、
現在の武田薬品工業株式会社の社長であった武田長兵衛氏でありました。航空
醗酵研究所は醗酵研究所(IFO、その後、発酵研究所)と名前を改め、初代の
所長に台研396株を分離した中澤博士が就任し、新たに微生物応用研究を開始
しました。
 その後、IFOは微生物コレクションと基礎研究を主体とする研究所に変貌しつ
つも、菌株は長い間IFOで大切に保管され、その間、国内外の多くの微生物研
究者に分与され、台研396株の研究も継続して行われてきました。
 2002年には、IFOの微生物株がNBRCに譲渡され、NBRCが微生物の保存事業を
開始し現在に至っております。そして今日、新エネルギー生産の時代を迎え、
再び、台研396株がバイオ燃料生産用酵母として地球の救世主になろうとして
います。約80年あまりの台研396株が歩んできた歴史にロマンを感じつつ、多
くの分離株から本株を見いだされた中澤亮治博士、そして戦時下、航空機の燃
料生産技術研究を支援してきた日本政府、敗戦後の研究所存廃の危機を救った
武田長兵衛氏、その後菌株を大切に管理し日本の研究者に頒布してきた発酵研
究所の研究者の方々の功績と尽力に感謝したいと思います。さらに先端技術と
融合して、新たな歴史を作ってくれることを期待しながら、これら大切な菌株
を引き続き皆様にお届けできるよう、これからも努力していきます。

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 3.微生物の培養法(2) 
   好熱性菌の培養方法                  (森 浩二)
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 至適増殖温度が45℃以上である菌を一般に好熱性菌と呼び、これが80℃以上
である場合に超好熱性菌と呼びます。超好熱性の細菌としては、Aquifex属や
Thermotoga属などが知られていますが、超好熱性菌の多くはアーキア(古細菌)
です。一方、50~60℃を至適増殖温度とする好熱性菌は細菌にもアーキアにも
広く存在します。これら好熱性菌は一般的に中温性菌より速く増殖しますが、
まれに増殖が遅い菌種や培養初期に遅延が生じる菌種も存在します。好熱性菌
の培養は、高温である以外は通常の菌の培養と何ら変わりはありません。この
ため、培養はいくつかの注意点さえ考慮すれば難しくありませんし、高温培養
が可能な恒温器以外に特別な機器は必要ありません。今回は好熱性菌の培養方
法とその注意点を紹介します。

<ジェランガムを使用した培養>

 寒天は菌をコロニー化させる際に培地のゲル化剤として一般的に使用されま
すが、50℃以上になると液化し始めるため、好熱性菌の培養には使用できませ
ん。ただし培地の組成にもよりますが、終濃度で2%の寒天を添加すれば、55℃
でも固化した状態を保ち、菌のコロニーを形成させることができます。さらに
高温域で培養を行う場合は、寒天の代わりにジェランガム(Gellan gum)を使
用します。ジェランガムは寒天より少量でゲル化し、一度ゲル化すると高温環
境に曝されても液化しません。そのゲル強度は培地中に含まれるカチオンや糖
の濃度によって決まります。特に2価のカチオンが存在すると低濃度でゲル強
度が上がるため、培地の種類と培養温度に合わせてMg2+やCa2+を添加します。
Thermus属の培養に使用するNBRCのNo. 867培地では、1.6%のジェランガム溶液
と、2 g/L MgSO4・7H2Oを添加して培地成分濃度を2倍とした溶液を別々にオー
トクレーブ滅菌し、等量で混合してプレートやスラントを作製します(終濃度
で0.8% ジェランガム、0.02% Mg2+となる)。ジェランガムやカチオンの濃度を
上げれば、より高温でもゲルの状態を維持できますので、上記濃度を基準に、
使用する培地と培養温度に合った条件を検討します。海洋性の培地では、2価
のカチオンが成分として十分に含まれているものもありますので、カチオン添
加の必要が無い場合もあります。

培地
<密閉系による培養>
 高温培養における問題のひとつは、蒸発で
す。蒸発によるプレートの乾燥を防ぐために
は、湿らせた脱脂綿等を入れた密閉容器内に
プレートを入れて培養します。スラント培養
は、嫌気性菌培養用などで使用されるスク
リューキャップ付試験管を利用して密閉して
行います。液体培地も同様で、嫌気性菌の培
養に使用する培養瓶を利用することで、極端
な液量の減少が防止できます。気相部にある
酸素などのガスが菌の増殖に必要な場合は、
窒素や空気ボンベのガスをゴム栓越しに瓶内
に注入加圧(1.2気圧程度)すると、培地中
に十分な酸素が行き渡り、静置のままでも培
養することが可能となります。
 上記以外にも恒温器の設定温度が目的とする温度になっているか(温度ムラ
や局所的に熱くなっていないか)、熱によって変性・変形しやすい素材のもの
を使用しないなどの注意も必要です。また、高温であるが故に火傷にも注意し
ましょう。

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 4.アジアの微生物(2)
   魅惑の原生林:ブルネイ              (鶴海泰久)
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 今回は、ブルネイ・ダルサラーム国(ブルネイ)をご紹介します。
 ボルネオ島の北側、フィリピン寄りに位置するブルネイは、三重県とほぼ同
じ面積に約40万人が住む国です。衛星写真をご覧いただくと、首都近郊を除く
国土のほとんどが深い緑の熱帯森林に覆われていることが分かります。豊富な
石油と天然ガス資源に恵まれて税金や福祉が無償のこの国では、国民が森林を
田畑に開墾する必要がありません。原生林は自ずと維持された訳です。インフ
ラが整った都市部と手付かずの原生林をあわせ持つブルネイは、生物資源の探
索に最適な国と言えます。お酒好きの私にとっての難点は、イスラム戒律が厳
しいため、お酒が入手困難なことぐらいです。

 ブルネイは、マレーシア・インドネシアの三ヵ国でボルネオ島の自然保護と
持続可能な利用を目的とする「ハート・オブ・ボルネオ」プロジェクトを実施
中です。2007年に安倍首相(当時)がボルキア国王からプロジェクトへの協力
を要請されたことを受けて、NITEは産業一次資源省との共同による微生物探索
事業を開始しました。ブルネイ政府は生物資源の維持管理とともに、自国の専
門家育成を切望しており、私たちも微力ながら協力したいと考えています。幸
いに現地のスタッフは積極的で技術の習熟も早く、大いに期待しています。

ブルネイ:マングローブ林

 
 私は昨年末から2回の予備調査に参加しました。20代の林業局の職員ととも
に高温多湿の熱帯雨林に入り、木製の梯子を昇り降りしつつ採集するのは体力
的につらいですが、厚く堆積した落葉層にはどんな菌がいるのだろうと心が躍
ります。東部のテンブロン州には、マングローブ林と自然公園に指定された原
生林が拡がっています。タンニンで茶色く染まった川を渡り、大量に水泡が溜
まった場所へ案内された時には、思わず声が出ました。この水泡からはこれま
で見たことのない菌類胞子が次々と見つかりました。原生林の土壌は酸性に傾
いており、既知の種とは異なる放線菌や細菌が多数分離されています。日本に
は約1200株を移転して解析中ですので、近い将来にご報告できると思います。
これらの菌株のご提供につきましても、交渉を進めております。

 なお、共同探索の模様は現地大使館員の方が主筆をつとめている「ブルネイ
よいとこ南の風通信」で写真ニュースの中に掲載されています。ご関心をお持
ちの方はこちらもご閲覧ください。

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 5.スクリーニング株の内容を一部公開しました(約5,500株)
 【詳細】http://www.bio.nite.go.jp/nbdc/dist.html
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 NBRC番号を付与している微生物株とは別に、属レベルまで同定された株を安
価にご利用いただける、通称・スクリーニング株の提供を行っています。この
たび日本国内で収集した菌株の一部について提供可能な菌株リストを公開しま
した。これらは、国内の様々な分離源から取得された微生物で、分類学的に新
規な株も多数含まれております。リストはエクセル形式になっており、学名、
分類群、分離源、培養温度、特徴、性質などで検索することが可能になってお
ります。是非ご利用下さい。

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 6.微生物ゲノムデータベースDOGANをリニューアルします
 【詳細】http://www.bio.nite.go.jp/dogan/top
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 NITEではNBRCが保有する微生物のゲノム解析を行い、塩基配列、遺伝子の機
能、プロテオームデータを独自のデータベースDOGAN(Database Of the
Genomes Analyzed at NITE)で公開しています。このたび、遺伝子情報の表示
機能等を充実させ、デザインも一新したDOGANをリニューアル公開します。新
たに追加された機能については、次号で詳しくご紹介いたします。

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 7.お盆期間中のNBRC微生物株・DNAリソースの発送休止について
 【詳細】http://www.nbrc.nite.go.jp/holiday_sv.html
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 NBRCでは下記のお盆期間中、送付後の微生物の品質を確保するため、微生物
株・DNAリソースの発送を一時休止させていただきます。

 発送休止期間:平成22年8月6日(金)~平成22年8月13日(金)

 上記発送休止期間中にお急ぎでご利用になりたい場合は、電話(0438-20-
5763)にてご相談ください。また、発送以外のご依頼・お問合せ等につきまし
ては、通常通り対応させていただいております。ご利用の皆様には、ご不便を
お掛けいたしますが、何卒ご了承いただきますようお願い申し上げます。

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 編集後記
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 第4号にして、受信登録会員が1,000人を突破しました。毎回、掲載内容で頭
を悩ましている編集局にとって、少しずつながらも購読数が上がっていること
は大変励みになっています。ありがとうございます。リクエストやご意見・ご
要望がありましたら、是非お送りください。(SB)

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・偶数月の1日(休日の場合はその翌日)に発行します。第5号は10月1日に発
 行予定です。
・ホームページ(http://www.nbrc.nite.go.jp/nbrcnews.html)にて、NBRCニ
 ュースのバックナンバーを公開しています。こちらでは解説写真なども掲載
 しております。

編集・発行
 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジー本部
 生物遺伝資源部門(NBRC)メールマガジン編集局
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