バイオテクノロジー

NBRCニュース 第34号

 

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                   NBRCニュース No. 34(2015.8.3)
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 NBRCニュース第34号をお届けします。今号は微生物あれこれ、微生物の培養
法の2つの連載をお届けします。最後までお読みいただければ幸いです。

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 内容
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 1.新たにご利用可能となった微生物株
 2.微生物あれこれ(31)
   ヒト糖鎖合成関連遺伝子Gateway (TM) エントリークローン
 3.微生物の培養法(17)
   マイコプラズマの培養と保存
 4.NITEフレンドシップデイ開催のお知らせ
 5.NITEバイオテクノロジーセンター展示のお知らせ

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 1.新たにご利用可能となった微生物株
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◆ NBRC株、ゲノムDNA
 糸状菌 75株、細菌 70株、アーキア 2株、藻類 1株、ゲノムDNA 2種類が、
新たにご利用可能となりました。
 DHAやEPAの生産菌として知られるラビリンチュラ類 55株(NBRC 110806~
110810、110812~110861)を公開しました。これら55菌株は、ラビリンチュラ
類のほぼ全ての既知系統群を網羅しており、スクリーニングの際のリファレン
ス菌株セットとしてご利用いただけます。
 細菌には、アルカン、テレフタレートの分解能を持つ菌株(NBRC 105758~
105769、107749)、ゲノムDNAにはGenolevures Consortiumにてゲノム解析さ
れている酵母 2株(NBRC 0622G、1400G)が含まれます。

【詳細】
 http://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html

【ラビリンチュラ類の詳細】
 http://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/use/labyrinthulea.html

◆ RD株
 国内由来の酵母、放線菌、酢酸菌や、モンゴル産の乳酸菌などが新たにご利
用可能となりました。

【詳細】 http://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/new_rd.html

【RD株リスト】
 http://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/available_rd_list.html

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 2.微生物あれこれ(31)
   ヒト糖鎖合成関連遺伝子Gateway(TM)エントリークローン(藤田克利)
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 NBRCニュースNo.17「微生物あれこれ(14)ヒト関連DNAリソース」で、番外
編としてNBRCが分譲している微生物以外の生物遺伝資源をご紹介しました。今
回はそのパート2として、ヒト糖鎖合成関連遺伝子Gateway(TM)クローン(以下
糖鎖Gateway(TM)クローン)をご紹介します。
 糖鎖Gateway(TM)クローンは、名前の通り、糖鎖に関連した遺伝子をGateway
(TM)エントリーベクターにクローニングしたものです。糖鎖は、核酸、タンパ
ク質同様に全ての生物が持っている生体高分子で、第三の生命鎖とも呼ばれて
います。細胞は脂質二重膜で作られた細胞膜に包まれており、膜には多数の膜
タンパク質が存在します。糖鎖はこの脂質や膜タンパク質に結合した形で存在
し、細胞膜の表面に隙間なく生えており細胞の表面は糖鎖で覆われています。
また糖鎖は核酸やタンパク質と異なり、枝分かれした複雑で多様な構造をとる
ことができます。細胞表面の糖鎖は、細胞の種類識別や、細胞間コミュニケー
ション等に重要な役割を果たしています。
 その一例として、赤血球の表面に生えている糖鎖の違いで分かれるABO式血
液型があります。この血液型では基本の糖鎖の形があり、基本形だけが生えて
いる赤血球を持つ場合をO型としています。基本形の先にN-アセチルガラクト
サミンという単糖が1個ついた糖鎖だけを持っている場合はA型、ガラクトー
スという単糖が1個ついた場合はB型、AとBの両方をもつ場合をAB型としてい
ます。
 分泌タンパク質・細胞膜タンパク質ではそのほとんどに糖鎖が付加されてい
ることが明らかになりつつあります。糖鎖がタンパク質に結合することで、生
体内でのタンパク質の機能・局在性・安定性等に関与しています。糖鎖をタン
パク質や脂質に付加するために、様々な種類の糖転移酵素などの糖鎖合成関連
酵素が働いています。糖鎖が正常に付加されないなどの異常が生じると、癌、
糖尿病、感染症などの病気が引き起こされるほか、糖鎖に関連する遺伝子異常
によって、重篤な先天性疾患が起きることが知られています。

糖タンパク質と糖鎖合成関連酵素の図

          糖タンパク質と糖鎖合成関連酵素

 糖鎖は複雑な糖の連結構造を持つために解析が困難な分子です。そのため産
業技術総合研究所(産総研)が中心となったNEDO糖鎖プロジェクトでは、ヒト
ゲノム解析の結果をもとに糖転移酵素などの糖鎖合成関連遺伝子のクローニン
グを実施し、さらにそれらの酵素活性ドメインのみをGateway(TM)エントリー
ベクターに入れた糖鎖Gateway(TM)クローンを構築しました。NBRCは、産総研
よりプロジェクトの成果である150種類のクローンの寄託を受け分譲していま
す。本クローンから種々の発現系ベクターに容易に遺伝子を移入することがで
きますので、試験管内で糖鎖を合成することが可能です。これにより上述の疾
患研究及び創薬・診断薬開発が進むことが期待されます。

【ヒト糖鎖合成関連遺伝子Gateway(TM)クローン】
  http://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/dna/hggentry.html

【糖鎖関連遺伝子データベース(GlycoGene DataBase, GGDB)】
 http://jcggdb.jp/rcmg/ggdb/

【文献】
 産業技術総合研究所(2008)、きちんとわかる糖鎖工学、白日社

 Gateway(TM)はThermo Fisher Scientific社の商標です。

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 3.微生物の培養法(17)
   マイコプラズマの培養と保存              (資延淳二)
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 マイコプラズマは、合成培地での培養が可能な微生物で細胞の大きさが最も
小さい種を含む細菌です。細胞が小さいため、液体培養をしても培地が濁らな
いことや、寒天平板培養のコロニーの確認に顕微鏡が必要など、一般的な細菌
と異なる部分もあります。今回は、マイコプラズマの培地調製や培養での注意
点をご紹介いたします。

◆ 培地の調製
 マイコプラズマの培養に使われる培地はPPLO Broth(Difco)、またはHeart
Infusion Broth(Difco)にウマ血清と新鮮酵母エキス(FYE)を添加したもの
(NBRC medium No. 246267)が主になります。ウマ血清は、マイコプラズ
マの増殖に必要なコレステロールなどを補うために添加しますが、そのままで
は増殖を阻害することがあるため、使用前には非働化と呼ばれる工程(56℃の
湯煎で30分間加熱する)により血清に含まれる補体の不活化をします。その後
フィルター滅菌(0.22 µm)をして遠沈管に分注し凍結保存します。FYEはパン
の醗酵に使われているドライイーストから抽出します。ドライイースト250 g
を1 Lの沸騰蒸留水にかくはんしながら徐々に加えます(25% FYE)。一度にた
くさん入れてしまうとダマとなってしまいますので、ご注意下さい。30分間
100℃の湯浴で加熱しながらかくはんした後、酵母残渣を遠心分離またはガー
ゼなどでろ過して除きます。そしてフィルター滅菌(0.22 µm)をして遠沈管
に分注し凍結保存しています。酵母残渣を除去しても、フィルターが詰まりま
すので、その都度新しいフィルターに交換します。FYEは、凍結融解を繰り返
したものや長期保管していたものを使うとマイコプラズマの増殖が極端に悪く
なるため、毎回の培地調製で使い切る量を分注して保管します。培地の他の添
加物として酢酸タリウムやペニシリンなどの抗生物質がありますが、これらは
雑菌の繁殖を抑えるためのものなので、純粋培養物であれば加えなくても増殖
への影響はありません。

◆ 培養・保存
 培養手順は一般的な細菌と違いはないですが、乾燥標品や凍結標品から復元
する場合、寒天平板培地では生育が見られないことが多いため、液体培地に接
種した方がよいです。液体培地で復元させた株を寒天培地に植えれば問題なく
生育します。微好気環境で培養すると増殖のよい種が多いので、NBRCでは簡便
にその環境を作れるアネロパック・微好気(三菱ガス化学)を用いています。
培養期間は数日から2週間以上かかるものもありますが、培養期間の短いもの
は増殖後の死滅が早いため、植え継ぎや保存などの作業を早めに行います。保
存方法についても一般的な細菌と同様の手順で保存することが可能です(NBRC
ニュースNo. 1No. 17)。液体培養から保存する場合、マイコプラズマは細
胞が小さくて沈殿しづらいので長めに遠心分離して(約14,000×g、20分)集
菌します。凍結保存する場合は、培地に血清が含まれていますので増殖の良い
株では培養液をそのまま凍結することも可能です。

◆ 生育の確認
 液体培養では、一般的な細菌のように目視で分かるほどの濁度が生じないの
で、生育の確認のためにpH指示薬としてフェノールレッド(0.002%)を入れた
培地に、グルコース(0.5%)またはL-アルギニン塩酸塩(0.2%)を加えて培
養する方法があります。培地は以下の方法で作製します。

 基礎培地:PPLO Broth 21 g、フェノールレッド 20 mg、グルコース 5 g
      (またはL-アルギニン塩酸塩 2 g)、蒸留水 700 mL
      pH調製不要(できた培地はオレンジから薄い赤色)
 添加物: ウマ血清(非働化済み)200 mL、25% FYE 100 mL

 基礎培地をオートクレーブ滅菌して冷却後、添加物を無菌的に加えます。

 生育するとグルコースを分解する種(Mycoplasma pneumoniaeなど)は培地
の色が黄変し、アルギニン分解性のある種(M. oraleなど)は濃い赤色となり
ます。培養中の炭酸ガスの作用でも培地の色の変化(赤色が薄くなる)が若干
生じてしまうため、接種していない培地も陰性対象として比較しながら観察を
行うようにします。寒天平板培地での培養でも目視でのコロニー確認が難しい
ため、実体顕微鏡で観察を行います。液体培養液から10の6~8乗程度まで段階
希釈し、各希釈液から10 µLを採取して寒天培地へ滴下します。塗り広げると
コロニーが探せなくなるので、そのまま培養します。接種量を10 µLとしてい
るのは、実体顕微鏡下で観察する時の視野に滴下箇所を収めることができ、コ
ロニー形成数を計測し易いためです。生菌数測定が不必要であれば、希釈培養
液100 µLを流し込むような方法でもかまいません。マイコプラズマのコロニー
の特徴は、目玉焼き状の形状になることですが、M. pneumoniaeのように培養
に時間がかかるものでは、目玉焼き状にならないこともあります。

       Mycoplasma pneumoniae NBRC 14401の培養2週間のコロニー画像

          Mycoplasma pneumoniae NBRC 14401
        培養2週間のコロニー画像(Bar: 500 µm)

【文献】Razin, S. (1978). Microbiol. Rev. 42: 414-470.
    (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC281436/)

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 4.NITEフレンドシップデイ開催のお知らせ
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 NITEの日頃の活動をみなさまに知っていただくために、今年もフレンドシッ
プデイを8月16日に開催します。身近な物を使った体験型の実験、工作教室な
ど、子どもから大人までみんなが楽しめるイベントを用意しています。夏休み
の自由研究にも役立つかもしれません。皆様のお越しをお待ちしています。

 日程:平成27年8月16日(日)10:00~17:00
 場所:独立行政法人製品評価技術基盤機構
    東京都渋谷区西原2-49-10
 詳細:http://www.nite.go.jp/koho/event/friendship/2015.html

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 5.NITEバイオテクノロジーセンター展示のお知らせ
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 以下に出展いたします。お立ち寄りいただいた皆様からのご相談やご質問に
もお答えします。是非お越しください。

2015年度(第30回)日本放線菌学会大会
 日程:平成27年9月7日(月)~8日(火)
 場所:富山国際会議場
    http://www.pu-toyama.ac.jp/BR/saj2015/

BioJapan2015
 日程:平成27年10月14日(水)~16日(金)
 場所:パシフィコ横浜
    http://www.ics-expo.jp/biojapan/main/

第67回日本生物工学会大会
 日程:平成27年10月26日(月)~28日(水)
 場所:城山観光ホテル
    http://www.sbj.or.jp/2015

アグリビジネス創出フェア2015
 日程:平成27年11月18日(水)~20日(金)
 場所:東京ビッグサイト東6ホール
    http://www.agribiz-fair.jp/

 環境バイオテクノロジー学会、ラビリンチュラ・シンポジウムの弊所ブース
にお立ち寄りいただいた皆様、まことにありがとうございました。

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 編集後記
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 建築物の温度上昇抑制を図る省エネルギー法として緑のカーテンが知られて
います。ゴーヤやアサガオが有名ですがここ数年パッションフルーツも仲間入
りしました。パッションフルーツは熱帯性の植物で南国のイメージがあります
が川崎の我が家でも収穫することができました。花は時計草に似ていてとても
きれいです。皆様もお試しください。(HF)

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 ス変更、受信停止も以下のサイトからお手続きいただけます。
 http://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/others/nbrcnews/nbrcnews.html
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・偶数月の1日(休日の場合はその前後)に配信します。第35号は10月1日に配
 信予定です。

編集・発行
 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター
 NBRCニュース編集局(nbrcnews@nite.go.jp)
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