NBRCニュース 第81号
今号の内容
1.
新たにご利用可能となった微生物株
糸状菌では、カマドウマ科の昆虫の排泄物から分離された新属新種Unguispora rhaphidophoridarum(NBRC 114905~114907)を公開しました。本種は、昆虫の腸内では酵母様の生活をし、腸外では腐生性の糸状菌として生活する菌類です。菌類の多様な生態と進化の解明に寄与することが期待される菌株です。
細菌では、あいち産業科学技術総合センター食品工業技術センターから寄託された酢酸菌6株を公開しました。これらには、食酢醸造の主要菌として分離された株(NBRC 115931, 115933)や、セルロースフィルムを形成する株(NBRC 115932, 115934, 115936)、桜の花から分離された株(NBRC 115935)があります。また、ミツバチの腸管から分離され、炭素源としてフルクトースを好む乳酸菌(fructophilic lactic acid bacteria)(NBRC 115637)を公開しました。
【新たに分譲を開始した微生物資源】
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html
◆RD株
果実や花などの植物から分離した乳酸菌26株(RD015405~015430)を新たに公開しました。
【新たに提供を開始したRD株】
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/new_rd.html
【提供可能なRD株リスト】
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/available_rd_list.html
細菌では、あいち産業科学技術総合センター食品工業技術センターから寄託された酢酸菌6株を公開しました。これらには、食酢醸造の主要菌として分離された株(NBRC 115931, 115933)や、セルロースフィルムを形成する株(NBRC 115932, 115934, 115936)、桜の花から分離された株(NBRC 115935)があります。また、ミツバチの腸管から分離され、炭素源としてフルクトースを好む乳酸菌(fructophilic lactic acid bacteria)(NBRC 115637)を公開しました。
【新たに分譲を開始した微生物資源】
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html
◆RD株
果実や花などの植物から分離した乳酸菌26株(RD015405~015430)を新たに公開しました。
【新たに提供を開始したRD株】
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/new_rd.html
【提供可能なRD株リスト】
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/available_rd_list.html
2.
微生物あれこれ(59)
分類学的記載のためのminimal standards
(玉澤 聡)
原核生物(バクテリアおよびアーキア)の新種候補株の分離培養に成功したけれど、新種提案論文のためにどのようなデータを提示すれば良いか悩むという方もいらっしゃるのではないでしょうか。本記事では、分類学的記載のためのminimal standards(最小基準)について、最近報告されたメタン生成アーキアを例に簡単にご紹介いたします。
原核生物の学名は国際原核生物分類命名委員会(International Committee on Systematics of Prokaryotes; ICSP)が規定する国際原核生物命名規約(International Code of Nomenclature of Prokaryotes; ICNP)に則って命名する必要があります。具体的には、提案する学名がICSPの機関雑誌であるInternational Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology(IJSEM)誌に掲載される、またはIJSEMが発行するvalidation listに掲載されることで正式な学名として認められます(参考:NBRCニュース第8号「細菌の新種提案のための菌株寄託」、第79号「原核生物のphylumの名前が変わりました」)。ICSPでは、分類学的記載のためのminimal standardsを分類群毎に提案しており、学名記載の実質的な教科書になっています。minimal standardsは、その分類群の専門家により構成されるICSPの小委員会によって提案されます。分野と関連技術の進歩に基づいて必要に応じて改訂され、適切な雑誌に掲載されるべきであるとの理念により随時論文として公表されています。
2023年4月25日にメタン生成アーキアのminimal standards、「Proposed minimal standards for description of methanogenic archaea」が発表されました(1)。これは、1988年4月1日に発表された「Proposal of minimal standards for describing new taxa of methanogenic bacteria」(2)から実に35年振りの改訂版です。余談ですが、今では使われることの無くなったmethanogenic bacteriaという表記が使用されており(現在はmethanogenic archaeaやmethanogen)、題名からも長い歴史が感じられます。
2023年版では、カテゴリー別にそれぞれ2~7の解析項目が明示され、「Mandatory」、「Recommended」、「Optional」の付記とともに表として大変わかりやすくまとめられています。例えば、「Phylogeny」のカテゴリーでは、「16S rRNA gene-based phylogeny; Mandatory」、「McrA gene-based phylogeny; Optional」、「Phylogenomic analysis; Recommended」と記されており、解析項目とその要否が一目瞭然です。ここに全てを挙げることは出来ませんが、1988年版では必須項目であったグラム染色は「Optional」に、溶菌に対する感受性(Susceptibility to lysis)は「Recommended」に変わりました。G+C含量については、化学分析は「Optional」に、ゲノムデータからの算出方法が「Mandatory」となりました。また、分離培養が困難なメタン生成アーキアを集積培養によりCandidatus taxa※として提案するためのminimal standardsが明記され、上述の分離株のminimal standardsとは別の表にまとめられています。その他の内容も盛りだくさんですのでぜひ原著をご覧ください。
今回はメタン生成アーキアのminimal standardsに焦点を当てましたが、分類群によってその項目は異なりますので、研究対象に該当する論文を探してみてください(残念ながら全ての分類群が網羅されている訳ではありませんので、見つからない場合もあります)。35年を経て改訂されたメタン生成アーキアのminimal standardsですが、当時と変わっていない点も多いことがとても印象的でした。科学の発展に向けて議論し尽くしたであろう過去と現在の議場に思いを馳せてご紹介いたしました。
※ 分離培養に成功していない原核生物のうち、既知分類群に含まれないことが推定される場合に与えられる暫定的な分類群のこと
【文献】
(1) Prakash et al. (2023). Int J Syst Evol Microbiol, 73, 005500.
(2) Boone and Whitman (1988). Int J Syst Evol Microbiol, 38, 212-219.
原核生物の学名は国際原核生物分類命名委員会(International Committee on Systematics of Prokaryotes; ICSP)が規定する国際原核生物命名規約(International Code of Nomenclature of Prokaryotes; ICNP)に則って命名する必要があります。具体的には、提案する学名がICSPの機関雑誌であるInternational Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology(IJSEM)誌に掲載される、またはIJSEMが発行するvalidation listに掲載されることで正式な学名として認められます(参考:NBRCニュース第8号「細菌の新種提案のための菌株寄託」、第79号「原核生物のphylumの名前が変わりました」)。ICSPでは、分類学的記載のためのminimal standardsを分類群毎に提案しており、学名記載の実質的な教科書になっています。minimal standardsは、その分類群の専門家により構成されるICSPの小委員会によって提案されます。分野と関連技術の進歩に基づいて必要に応じて改訂され、適切な雑誌に掲載されるべきであるとの理念により随時論文として公表されています。
2023年4月25日にメタン生成アーキアのminimal standards、「Proposed minimal standards for description of methanogenic archaea」が発表されました(1)。これは、1988年4月1日に発表された「Proposal of minimal standards for describing new taxa of methanogenic bacteria」(2)から実に35年振りの改訂版です。余談ですが、今では使われることの無くなったmethanogenic bacteriaという表記が使用されており(現在はmethanogenic archaeaやmethanogen)、題名からも長い歴史が感じられます。
2023年版では、カテゴリー別にそれぞれ2~7の解析項目が明示され、「Mandatory」、「Recommended」、「Optional」の付記とともに表として大変わかりやすくまとめられています。例えば、「Phylogeny」のカテゴリーでは、「16S rRNA gene-based phylogeny; Mandatory」、「McrA gene-based phylogeny; Optional」、「Phylogenomic analysis; Recommended」と記されており、解析項目とその要否が一目瞭然です。ここに全てを挙げることは出来ませんが、1988年版では必須項目であったグラム染色は「Optional」に、溶菌に対する感受性(Susceptibility to lysis)は「Recommended」に変わりました。G+C含量については、化学分析は「Optional」に、ゲノムデータからの算出方法が「Mandatory」となりました。また、分離培養が困難なメタン生成アーキアを集積培養によりCandidatus taxa※として提案するためのminimal standardsが明記され、上述の分離株のminimal standardsとは別の表にまとめられています。その他の内容も盛りだくさんですのでぜひ原著をご覧ください。
今回はメタン生成アーキアのminimal standardsに焦点を当てましたが、分類群によってその項目は異なりますので、研究対象に該当する論文を探してみてください(残念ながら全ての分類群が網羅されている訳ではありませんので、見つからない場合もあります)。35年を経て改訂されたメタン生成アーキアのminimal standardsですが、当時と変わっていない点も多いことがとても印象的でした。科学の発展に向けて議論し尽くしたであろう過去と現在の議場に思いを馳せてご紹介いたしました。
※ 分離培養に成功していない原核生物のうち、既知分類群に含まれないことが推定される場合に与えられる暫定的な分類群のこと
【文献】
(1) Prakash et al. (2023). Int J Syst Evol Microbiol, 73, 005500.
(2) Boone and Whitman (1988). Int J Syst Evol Microbiol, 38, 212-219.
3.
アインシュタインがNBRCへ潜入取材!!
公式YouTubeチャンネルより配信
バイオテクノロジーセンター(NBRC編)では、職員とのやりとりでの予期せぬ事態に大爆笑の場面も。国際評価技術本部センター(NLAB)を紹介するNLAB編も併せて公開しておりますので、是非ご覧ください。
【バイオテクノロジーセンター(NBRC編)】
https://youtu.be/oTvEqcN44cQ
【国際評価技術本部(NLAB編)】
https://youtu.be/a2cL7LUv8N8
【バイオテクノロジーセンター(NBRC編)】
https://youtu.be/oTvEqcN44cQ
【国際評価技術本部(NLAB編)】
https://youtu.be/a2cL7LUv8N8
4.
しずおか有用微生物ライブラリーの微生物データを追加しました
DBRP(Data and Biological Resource Platform:生物資源データプラットフォーム)にて公開している静岡県の「しずおか有用微生物ライブラリー」コレクションに、カキ果実から分離された乳酸菌1株のデータを追加しました(2023年4月26日)。
この株は、実際にビール製造に利用されたことのある株で、静岡県内で生産、製造を行う方を対象に分譲されています。ご興味のある方は、こちらでお申し込み先、ご利用条件などご確認ください。DBRPに登録されたデータは、こちらからご覧ください。
・Lacticaseibacillus casei TIG-0429
【DBRPトップページ】
https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/top
【しずおか有用微生物ライブラリー】
https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/dataview?dataId=COLL0000200000001
【Lacticaseibacillus casei TIG-0429】
https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/dataview?dataId=STSP0000200000429
・Lacticaseibacillus casei TIG-0429
【DBRPトップページ】
https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/top
【しずおか有用微生物ライブラリー】
https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/dataview?dataId=COLL0000200000001
【Lacticaseibacillus casei TIG-0429】
https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/dataview?dataId=STSP0000200000429
5.
NBRCの展示について
以下のイベントにて展示、発表等を行います。ぜひご参加ください。
第122回日本皮膚科学会総会
日時:2023年6月1日(木)~6月4日(日)
会場:パシフィコ横浜(神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1)
URL:https://jda122.jp/index.html
NITEの参加形態:口頭発表
日本微生物資源学会第29回大会
日時:2023年6月21日(水)~6月23日(金)
会場:文部科学省研究交流センター(茨城県つくば市竹園2-20-5)
URL:https://www.jsmrs.jp/ja/#jsmrs29
NITEの参加形態:口頭発表、ポスター発表
第27回腸内細菌学会学術集会
日時:2023年6月27日(火)、28日(水)
会場:タワーホール船堀(東京都江戸川区船堀4-1-1)
URL:https://bifidus-fund.jp/meeting/index.shtml
NITEの参加形態:ブース出展
第2回国際発酵・醸造食品産業展
日時:2023年8月2日(水)~4日(金)
会場:東京ビックサイト 東展示棟(東京都江東区有明3-11-1)
URL:https://hakkoexpo.jp/
NITEの参加形態:ブース出展、セミナー
第122回日本皮膚科学会総会
日時:2023年6月1日(木)~6月4日(日)
会場:パシフィコ横浜(神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1)
URL:https://jda122.jp/index.html
NITEの参加形態:口頭発表
日本微生物資源学会第29回大会
日時:2023年6月21日(水)~6月23日(金)
会場:文部科学省研究交流センター(茨城県つくば市竹園2-20-5)
URL:https://www.jsmrs.jp/ja/#jsmrs29
NITEの参加形態:口頭発表、ポスター発表
第27回腸内細菌学会学術集会
日時:2023年6月27日(火)、28日(水)
会場:タワーホール船堀(東京都江戸川区船堀4-1-1)
URL:https://bifidus-fund.jp/meeting/index.shtml
NITEの参加形態:ブース出展
第2回国際発酵・醸造食品産業展
日時:2023年8月2日(水)~4日(金)
会場:東京ビックサイト 東展示棟(東京都江東区有明3-11-1)
URL:https://hakkoexpo.jp/
NITEの参加形態:ブース出展、セミナー
6.
「認定制度創設30周年記念イベント講演会」参加者募集のお知らせ
(NITE認定センターからのご案内)
2022年にNITE認定センター(IAJapan)は創立20周年、IAJapanが運営する「産業標準化法試験事業者登録制度(JNLA)」は創設25周年を迎えました。さらに、2023年には同じく「計量法校正事業者登録制度(JCSS)」が創設30周年を迎えます。これらを記念して、日本における認定制度への理解を促進するとともに、さらなる発展を目指して講演会を開催します。国内認定制度の歴史や未来、活用事例、さらに関連分野の国内外の最新動向をご紹介しますので、ぜひご参加ください。
日時:2023年6月15日(木)13:00~16:50(予定)
2023年6月16日(金)13:00~17:00(予定)
実施形態:オンラインによるライブ配信(Webexウェビナー)
定員:各日1,000名
対象者:適合性評価及び認定・認証制度について興味のある方
参加費:無料
イベント詳細:
https://www.nite.go.jp/iajapan/information/iajapan30th_event.html
申込方法:以下URLより事前の参加登録をお願いいたします。開催日毎の登録が必要です。
https://www.nite.go.jp/iajapan/information/30th_kouenkai.html
プログラム(予定):
https://www.nite.go.jp/data/000145658.pdf
日時:2023年6月15日(木)13:00~16:50(予定)
2023年6月16日(金)13:00~17:00(予定)
実施形態:オンラインによるライブ配信(Webexウェビナー)
定員:各日1,000名
対象者:適合性評価及び認定・認証制度について興味のある方
参加費:無料
イベント詳細:
https://www.nite.go.jp/iajapan/information/iajapan30th_event.html
申込方法:以下URLより事前の参加登録をお願いいたします。開催日毎の登録が必要です。
https://www.nite.go.jp/iajapan/information/30th_kouenkai.html
プログラム(予定):
https://www.nite.go.jp/data/000145658.pdf
編集後記
編集後記を書くにあたり、「書くことがないな・・・」と毎回思っています。関西人の癖で、つい話のオチを探しすぎでしょうか、、(汗)。今回も2個程書いたものをボツにしました(笑)。日常生活の中から、ちょっと笑える楽しいネタを見つけられるようになりたいなと思います。(KM)
編集後記を書くにあたり、「書くことがないな・・・」と毎回思っています。関西人の癖で、つい話のオチを探しすぎでしょうか、、(汗)。今回も2個程書いたものをボツにしました(笑)。日常生活の中から、ちょっと笑える楽しいネタを見つけられるようになりたいなと思います。(KM)
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・掲載内容を許可なく複製・転載することを禁止します。
・NBRCニュースは偶数月の1日(休日の場合はその前後)に配信します。次号(第82号)は2023年8月1日に配信予定です。
編集・発行
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター(NBRC)
NBRCニュース編集局(nbrcnews【@】nite.go.jp)
(メールを送信される際は@前後の【】を取ってご利用ください)
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