微生物が鉄を腐食するメカニズムを立証し英国科学誌に論文掲載
公表日
平成30年10月22日(月)
本件の概要
報道発表資料
発表日:平成30年10月22日(月)
- タイトル:
- 微生物が鉄を腐食するメカニズムを立証し英国科学誌に論文掲載
- 発表者名:
- 独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター
- 資料の概要:
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NITE(ナイト)[独立行政法人 製品評価技術基盤機構 理事長:辰巳 敬、本所:東京都渋谷区西原]のタンカーや石油コンビナートなどで鉄をボロボロに腐食してしまう微生物のメカニズムを立証した論文が、英国科学誌に掲載されました。これは、石油備蓄タンクから分離した微生物のゲノム配列をもとにその微生物が生成する鉄腐食に関与する酵素を特定し、この酵素の働きによって水素が生成し、この水素と水中の二酸化炭素により微生物が増殖しやすくなることを明らかにしたものです。この研究成果は、微生物による鉄腐食を防止する技術の開発につながることが期待されます。NITEではこの鉄腐食能を持つ微生物を分譲しています。
- 1.鉄は、私たちの生活において最も大量に使用されている金属です。一方で、鉄は環境中で酸化され、錆びてボロボロになることがあります。また、タンカーや石油コンビナートなどの石油備蓄タンクで、一般的な錆びによる劣化では説明できない局所的かつ急速に鉄の腐食が進んだ事例が頻繁に報告されており(図1)、その対応コストを含む経済的損失は、全世界で年間百兆円に上るとされています。このような急速な鉄の腐食の原因の一つとして微生物が関与していると考えられていましたが、そのメカニズムは明らかになっていませんでした。
- 2.NITEは、産業に関わる微生物の収集・保存・提供を通してバイオ産業の発展に貢献するため、経済産業省の知的基盤整備施策の下、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクト(※1)に参画し、これまでに水素と二酸化炭素で生育する微生物であるメタン生成菌を分離し、この微生物に激しい鉄腐食を引き起こす性質があることを突き止めていました。さらに、ゲノム解析を行い鉄腐食に関連する遺伝子を予測していましたが、その機能の直接的な証明は得られていませんでした。
- 3.このたび、NITEは、変異株を用いた研究により、鉄腐食を引き起こすメタン生成菌(Methanococcus maripaludis OS7株)の鉄腐食能に関連する遺伝子領域(MICアイランド)を特定しました。この遺伝子領域には酵素であるヒドロゲナーゼ(MICヒドロゲナーゼ)を生成する遺伝子が含まれており、このMICヒドロゲナーゼが細胞外に排出され、鉄から電子を抜き取ることで水素イオンから水素を生成することが立証されました(図2)。
- 4.また、このMICヒドロゲナーゼの働きで生成した水素によってメタン生成菌が増殖しやすくなり、これにより鉄腐食が急速に進行する環境が生まれます。そのため、鉄と水が豊富に存在する石油タンクや石油パイプラインのような環境下では、このようなメタン生成菌が増殖しやすくなり、鉄腐食が急速に進むと考えられます。NITEでは鉄腐食能を持つ微生物を分譲しており、企業・大学等での研究に利用されています(※2)。
- 5.微生物が鉄腐食を引き起こすメカニズムが解明され英国科学誌(※3)に掲載されたことで、鉄腐食を防止する技術の開発につながることが期待されています。NITEは、産業活動に影響を与える可能性のある微生物の解析を通して微生物による被害を未然に防ぐことや検出技術の開発に貢献するとともに、国内バイオ産業の促進に貢献します。
- 図1 微生物による鉄腐食の事例 図2 メタン生成菌による鉄腐食機構
(※1 NEDOプロジェクト)
平成17年度-平成20年度 微生物を利用した石油の環境安全対策に関する調査/石油関連施設微生物腐食対策 (プロジェクト番号P05032)
(※2 鉄腐食能を持つ微生物の分譲)
論文で報告した株はMethanococcus maripaludis NBRC 103642です。微生物の分譲をご希望の方は下記のURLよりご確認の上、お申し込みください。
(http://www.nbrc.nite.go.jp/NBRC2/NBRCCatalogueDetailServlet?ID=NBRC&CAT=00103642)
(※3 英国科学誌)
本成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に10月11日付け(日本時間)で掲載されました。
タイトル:An extracellular [NiFe] hydrogenase mediating iron corrosion is encoded in a genetically unstable genomic island in Methanococcus maripaludis.
著者名:鶴丸博人1 伊藤尚文2 森浩二 若井暁3 内山拓4 飯野隆夫5 細山哲 安宅花子 西嶋桂子 三瀬美也子 清水愛 原田健史 堀川博司 市川夏子 関川智洋6 神野浩二 谷河聡 山崎純 佐々木和実 山崎秀司 藤田信之7 原山重明8
所属:独立行政法人製品評価技術基盤機構
現所属:1鹿児島大学 2熊本大学 3神戸大学 4バイオインダストリー協会 5理化学研究所 6にいがた産業創造機構 7東京農業大学 8中央大学
https://doi.org/10.1038/s41598-018-33541-5
発表資料
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- 独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 計画課
-
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