化学物質管理

CMC letter No.12(第12号)- [特集]化学物質審査規制法におけるリスク評価

化審法改正の概要

化学物質管理センター 安全審査課

「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(以下、「化審法」という。)」は、化学物質の環境を経由した人の健康と動植物の生息などへの被害を防止するため、製造、輸入に関し、必要な規制を行うことを目的としています。そのため、化審法では、難分解性、長期毒性、蓄積性に着目して、一定の有害性が認められる化学物質について、その製造、輸入者に製造数量等の届出を義務づけ、国が環境汚染の状況を監視しています。

2009年5月に公布された改正化審法では、「既存化学物質」まで、規制の対象に加え、さらにリスク評価に基づく化学物質管理が強化されました。この度の改正により、製造、輸入量や有害性に係るこれまでの知見から、優先的にリスク評価を行う必要がある化学物質(優先評価化学物質)を指定し、収集された有害性情報等によるリスク評価結果から、その程度に応じて必要な規制措置を講ずることになりました。

主な改正点は以下のとおりです。

  1. (1)既存化学物質を含むすべての化学物質について、1トン以上の製造・輸入を行った事業者は毎年度その数量等を届け出る義務があります。
  2. (2)その製造・輸入量やこれまでに知られている有害性に係る情報から、優先的に安全性評価を行う必要がある化学物質を「優先評価化学物質」に指定します。
    なお、「優先評価化学物質」の新設に伴い、「第二種監視化学物質」「第三種監視化学物質」は廃止されます。
  3. (3)リスク評価結果によっては、優先評価化学物質の製造・輸入事業者に有害性情報の提出や取扱事業者には、使用用途の報告を求めます。
  4. (4)優先評価化学物質に係る情報収集及び安全性評価を段階的に進め、人又は動植物への悪影響が懸念される物質については、これまでと同様、「特定化学物質」として製造・使用規制等の対象とします。
  5. (5)これまで規制の対象としていた「環境中で分解しにくい化学物質」に加え、「環境中で分解しやすい化学物質」についても対象としました。

この内容は、経済産業省のホームページを参考にしました。
http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/h21kaisei.html

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化審法におけるリスク評価

化学物質管理センター リスク評価課

1.リスク評価手法の概要

改正化審法では、国は事業者から届け出られた用途情報等を基に、「スクリーニング評価」により、一般化学物質から優先評価化学物質を選定します。さらに、優先評価化学物質については、より詳細なリスク評価である「リスク評価(一次)」を実施し、リスクの程度に応じて、化審法上の更なる措置を講ずることとなります。リスク評価(一次)では、すべての優先評価化学物質に適用でき、科学的で、効率的なリスク評価の実施が可能であることが求められます。そこで、優先評価化学物質を、第一段階(評価I)、第二段階(評価II)、第三段階(評価III)まで段階的にリスク評価を行い、リスクの懸念があると判断された化学物質については、さらに次の段階で評価を行う候補物質として絞り込んでいく評価体系を構築しました。その体系は以下のとおりです。

評価Ⅰ
:化審法の届出情報と公知の有害性情報を用いた評価により、多数の化学物質から、評価II以降の詳細な評価が必要な化学物質を絞り込む
評価Ⅱ
:評価Iで用いた情報に、PRTR情報や環境モニタリング情報等を追加し、詳細な評価を行い、第二種特定化学物質への該当性を判断する。
評価Ⅲ
:評価IIで判断できなかった場合に、産業界等から新たな暴露情報等を入手して再評価し、二特要件への該当性を判断する。なお、二特要件は本文中で解説します。


化審法におけるリスク評価の概要


リスク評価のイメージ

2.リスク評価手法の特徴

このリスク評価手法は、欧米のリスク評価技術を土台として構成していますが、ハザードの審査を基礎とした化審法の制度において、事前審査等においてリスク評価が求められている欧米の手法をそのまま適用することが困難です。そのため、化審法の届出制度等で得られる情報(排出量推計など)を活用してリスク評価を可能とするため、様々な仮定のもと、多段階の推計を行う手法となっています。

(1)届出情報の排出量推計への利用

化審法では、優先評価化学物質を製造・輸入する事業者に、毎年度製造数量・輸入数量及び都道府県別・用途別出荷数量の実績値の届出を義務付けています。この製造数量等から、環境への排出量を計算し、そこから環境中濃度を推計します。

その手順は以下のとおりです。

  1. (1)化学物質の用途ごとに排出係数を設定した用途分類別排出係数一覧表から、届出情報である用途と化学物質の物性に応じ、それぞれの使用段階から排出係数を選択します。
  2. (2)排出係数に製造・輸入数量をかけ、環境中への排出量を算出します。

この手順により、すべての優先評価化学物質について暴露状況を把握することが可能になります。

また、用途分類別排出係数一覧表には、化学物質の製造段階、調合段階、使用段階があり、また物理化学的性状(蒸気圧、水溶解度)も考慮されているため、それぞれの段階から環境媒体(大気、水域)別に排出量を推計することが可能になっています。なお、用途が不明など必要な情報が不足している場合は、安全側で評価を行うため、その用途において最も大きな排出係数を採用し、その結果、環境中への排出量も大きくなります。製造数量および用途等の届出情報は、監視化学物質のリスク評価の基本的な情報として最も重要なものになります。


排出量推計のイメージ

(2)リスクの指標は、地理的分布

優先評価化学物質は、リスクが十分に低いとは判断できず、更にリスク評価を行う必要がある化学物質です。さらに、その化学物質の製造、輸入、使用等の状況から、相当広範な地域の環境において人の健康又は生活環境動植物に対するリスクが懸念される状況にあるか、又はその状況に至ることが確実と予測された場合、第二種特定化学物質に指定されます。

特に、広範囲におけるリスクの懸念が、「二特要件(暴露)」と呼ばれており、優先評価化学物質がそのような状況にあるかを判別することが求められます。そのため、リスクが懸念される排出源の全国の箇所数、リスクが懸念される影響地域の全国の合計面積などを指標とすることで、地理的な分布で表現できるように工夫されています。

(3)評価結果の不確実性の明示

優先評価化学物質のリスク評価では、様々な仮定を設定しています。例えば、暴露評価では、届け出られた数量と用途から排出量を推計し、そこから環境中の濃度を求め、さらに、その値を用いて人や動植物の暴露量を推計しています。この手法は、優先評価化学物質の全てが、共通に有する情報を用いてリスク評価を行い、情報収集すべき対象をしぼり込む手段として一定の利点があります。

しかし、計算には、多くの仮定を置き、多段階の推計を重ねるため、暴露評価の結果には不確実性が含まれることになります。そのため、優先評価化学物質のリスク評価では、推計したリスク評価の結果のみの表現ではなく、そこに含まれる不確実性の程度を併せて表示することにしました。不確実性の程度を提示することは、意思決定において、リスク評価の結果に含まれる不確実性についても併せて、判断根拠として提供するとともに、不確実性の低減が必要な場合に収集すべき情報を明らかにすることが目的です。

3.おわりに

改正化審法では、優先評価化学物質の制度が創設され、リスク評価の対象となる化学物質の範囲が広がりました。化審法におけるリスク評価は国が実施しますが、それに利用する基本的な情報は、製造・輸入量と用途という事業者からの届出情報です。十分な情報がないと、実態以上に高リスク側に判定され、製造や使用に制約がかかる場合もあります。そこで、実態に即した適切なリスク評価を行うためには、化学物質の特性や用途情報が必要であり、製造・輸入事業者のみならず、サプライチェーンを通じた関係者の方々の協力が不可欠と考えています。

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