化学物質管理

CMC letter No.14(第14号)- [特集・2]化学物質管理制度における新たな取組について

化学物質審査規制法における平成22年度スクリーニング評価結果

化学物質管理センター リスク評価課

はじめに

NITE化学物質管理センターは、経済産業省、厚生労働省、環境省とともに「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(以下、「化審法」という。)」のスクリーニング評価を実施しています。

本号では、昨年度実施されたスクリーニング評価の結果を解説します。

なお、この解説は、今年度の6月と7月に東京と大阪で開催された「NITE化学物質管理センター 成果発表会2011」でもご紹介させていただきました。

また、スクリーニング評価の手法については、前号(No.13)の特集をご参照ください。

1.評価の流れ

スクリーニング評価の対象

  • 対象となった化学物質
    平成22年4月1日までに公示された第二種監視化学物質(以下、「旧二監」という。)(1,070物質)及び第三種監視化学物質(以下、「旧三監」という。)(276物質)が対象となりました。
  • 評価の対象(人健康・生態)
    旧二監については、人健康、旧三監については生態を対象にスクリーニング評価を実施しました。スクリーニング評価は、原則、人健康、生態の双方のリスクの観点からそれぞれ独立に評価が実施されることになっていますが、今回は例外的に片方のリスクのみを評価することが審議会及びパブリックコメントを経て、決定されました。
  • 評価された化学物質の単位
    化学物質が規制等によって管理される単位は、まちまちです。昨年度のスクリーニング評価は、旧二監又は旧三監に指定された際の物質単位で実施されました。なお、スクリーニング評価は、原則、CAS番号単位で実施されることになっています。

スクリーニング評価の流れ

化審法におけるスクリーニング評価の流れ
図表1 化審法におけるスクリーニング評価の流れ

優先度マトリックスによる評価

  • 優先度マトリックスとは
    優先度マトリックス(図表2)を用いた評価の手法については、前号で詳細に解説されているため、そちらをご参照ください。

    優先度マトリックス
    図表2 優先度マトリックス

    また、優先度マトリックスによる評価対象物質は、旧二監が447、旧三監が166物質でした。
  • 有害性クラス付けに用いられた情報
    有害性の評価(有害性クラス付け:図表2横軸)には、化審法で旧二監及び旧三監指定された際にその根拠となった情報がそれぞれ用いられました。
    旧二監(人健康)については、一般毒性、生殖発生毒性、変異原性、発がん性に関する情報が、旧三監(生態)については、藻類、ミジンコ類、魚類の生態毒性に関する情報が用いられました。
    また、一部、化審法に基づき事業者から指定後に提供された情報や国によって今回追加収集された情報(生態のみ)も用いられました。
    また、根拠情報の中で一部については、情報を見直し、今回に限って、スクリーニング評価の対象から外された物質もありました(例えば、気道感作性が指定根拠であった物質)。
  • 暴露クラス付けに用いられた情報
    暴露の評価(暴露クラス付け:図表2縦軸)には、2種類の情報が用いられました。
    1つは化審法に基づき製造・輸入事業者から昨年度6月末までに届出がされた平成21年度実績の製造・輸入数量、都道府県別詳細用途別出荷数量の情報であり、もう1つは旧二監、旧三監の生分解性に関する情報です。
    図表3に示しましたように、前者の情報に、「スクリーニング評価用排出係数」を乗じて全国総排出量が推計されました。
    さらに、後者の情報で国によって「良分解性」判定とされている化学物質に環境での分解を考慮した値0.5が水域への排出量に乗じられました。
    その結果、得られた総量をオーダー単位(100トン~1,000トン以下など)に区分し、暴露クラスが付与されました。
    なお、次章のエキスパートジャッジのところで後述しますが、一部の化学物質については、PRTR届出排出量データに差し替えて、暴露クラスが付与されました。

    暴露クラス付けの流れ
    図表3 暴露クラス付けの流れ

  • 優先度
    旧二監、旧三監それぞれの物質は、得られた有害性クラス、暴露クラスに基づき図表2の優先度マトリックスを用いて、優先度「高」、「中」、「低」、「クラス外」に分けられました。
    結果は、図表4に示したとおり、優先評価化学物質相当とされる優先度「高」には、旧二監で52物質、旧三監で20物質が該当しました。

    優先度マトリックスによる評価結果
    図表4 優先度マトリックスによる評価結果

エキスパートジャッジ(専門家による精査)

公表されている「スクリーニング評価の基本的な考え方」において、「(優先度が)「中」、「低」区分についても、必要に応じて優先度の高いものから順に、3省の審議会において専門家による詳細評価を行うこととする。
その結果「中」に分類されるものでも、当該詳細評価を踏まえ3省の審議会において必要性が認められれば、優先評価化学物質に選定する。
」との記載があります(括弧書き及び下線は著者追記)。
本章は、この記載に該当する部分の解説です。
化審法所管3省は、審議会において、この評価のことを「エキスパートジャッジ」と呼んでいます。
なお、エキスパートジャッジに関する1月21日の審議会資料においては、「今回の」という枕詞があり、さらに変更される可能性が示唆されています。

  • 有害性に関するエキスパートジャッジ
    有害性については、図表5の左側に示しましたように、人健康において、4つの観点から、また生態において1つの観点から検討され、人健康については、(ア)発がん物質として、閾値のあることが知られていないなど、慎重な検討が必要との観点から14物質が抽出され、また(イ)有害性評価値が非常に低い物質という観点から、8物質が抽出され、計21物質がエキスパートジャッジの対象となりました。
    なお、生態の観点からは対象となる化学物質はありませんでした。

    エキスパートジャッジの種類
    図表5 エキスパートジャッジの種類

  • 暴露に関するエキスパートジャッジ
    暴露については、図表5の右側に示しましたように、PRTRデータ(排出量)と環境モニタリングデータ(環境中濃度)の2つの観点が示されました。
    前者は、PRTR届出排出量データで差し替えた際の暴露クラスによって、優先度が「中」「低」から「高」に変わる化学物質が精査され、2物質が該当し、エキスパートジャッジの対象となりました。
    なお、環境モニタリングデータについては、リスク評価手法の検討後に検討するとし、検討されませんでした。
    結果として、エキスパートジャッジによって、優先度「中」であった23物質が優先評価化学物質相当とされました。

2.評価結果のまとめ

昨年度の評価結果のまとめを図表6に示しました。

昨年度のスクリーニング評価結果のまとめ
図表6 昨年度のスクリーニング評価結果のまとめ

審議の結果を受け、平成23年4月1日に計88物質が優先評価化学物質として公示されました。これらは今年度リスク評価にかけられることになります。

おわりに

上記のとおり、当センターは旧二監、旧三監のスクリーニング評価を実施しました。今年度は、その経験を踏まえ、すでに事業者からの製造・輸入数量等の届出の終えた一般化学物質、優先評価化学物質の評価に取り組んで参ります。

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PRTR届出書新様式への二次元コードの導入

化学物質管理センター リスク評価課

はじめに

化管法(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律)では、一定の条件を超える事業者(事業所)は、特定化学物質の排出・移動量について、国への報告が義務付けられています。平成22年度は、約38,000の事業所が届出を行っています。

届出の方法は、

  1. ①インターネットを介して電子的に提出する「電子届出」
  2. ②CD-RやFDなどの磁気媒体に特定のファイル形式で記録し提出する「磁気届出」
  3. ③届出様式に記入し紙媒体で提出する「書面届出」の3種類があります。

届出から集計・公表までをスムーズに行うためには、電子届出の普及が不可欠です。

NITEでは、書面で届出を行っている事業所に電子届出を採用するお願いのダイレクトメールを毎年送付したり、講演会で電子届出のメリットを説明するなど、これまでも電子届出率アップに努力してきました。

その結果、国への届出では驚異的とも言えるほどその割合を順調に伸ばしてきたところですが、近年、電子届出率は約50%で頭打ちとなっていました。

別途行った調査によると、社内セキュリティや決裁の関係で電子届出が不可能であったり、PCや担当者の交代時の手続きが煩雑と感じているなどの理由から電子届出に踏み切れないと言った回答も多く、これ以上の普及は望めないのが現状のようです。

そこで、電子届出と同様な効果が期待できる方策として、届出書様式への二次元コード(注)の付与アイデアを考え経済省・環境省に働き掛けを行い、その結果、平成22年の化管法施行規則改正の際に、書面届出の様式に二次元コード記載欄を設けることを実現し、PRTR届出作成支援プログラムの開発を行いました。

国への申請書や届出書に二次元コードが採用されたのは化管法が始めてであり、他の法令に基づく申請書や届出書にも利用していただくことを期待して、同プログラムの普及にも努めています。

(注)二次元コードとは、QRコードなどのように水平方向と垂直方向に情報をもつコード方式の総称です。(QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です。)

1.PRTR届出作成支援プログラムの特徴

基本機能

  • 届出書の構成に合わせた入力画面
    届出書の項目構成に合わせた入力画面となっており、ワープロソフトや表計算ソフトで入力するのと同様の操作感覚で届出書が作成できます。
  • 印刷時に文字サイズやレイアウトを自動調整
    届出書を印刷する際、文字サイズを自動調整する機能が備わっており、書面届出で使用されるワープロファイルの様に面倒な文字サイズ調整やレイアウト変更などが必要ありません。
  • プルダウン選択式による簡単入力
    物質名称、公共用水域への排出先の河川・湖沼・海域等名称、届出先などの項目は選択方式を採用し、誰でも簡単に入力できるうえ、記載ミスの防止にも役立ちます。
  • 記入内容のチェック機能
    必須項目の未記入、有効数字の桁合わせ、「届出先と業種」や「郵便番号と住所」の不一致などのチェック機能が備わっており、確認作業の負担軽減を図っています。
  • 変更届出書や次年度の届出書の容易な作成
    作成した届出書はファイルとして保存することが可能です。
    後日これをもとに必要な部分を変更するだけで、変更届出書の作成や次年度の届出書が簡単に作成できます。

施行令改正に伴う親切機能

  • 選択方式の採用による負荷軽減
    ①下水道への移動先の下水道終末処理施設名の項目は、プルダウンの選択方式を採用しています。
    ②廃棄物として事務所外へ移動する際の廃棄物の処理方法と廃棄物の種類は、チェックボックスの選択方式を採用しています。
  • 二次元コード印刷機能を装備
    届出書を作成する際、入力した届出内容のみが二次元コード化され、届出書の下端に自動的に印刷されます。

届出書作成を支援する親切機能

  • 複数事業所管理機能を装備
    1人の担当者が複数の事業所の届出書の作成を行っている事業者用に、複数事業所を管理する機能が備わっており、届出書作成の負担軽減を図っています。

燃料小売業用排出量算出機能

全届出の約半数を占める燃料小売業を営む事業者用に、燃料の受入量/給油量を入力するだけで大気への排出量を計算する機能が備わっており、簡単に届出書を作成できます。

2.PRTR届出作成支援プログラムを利用することによる効果

届出・受付における負担の軽減

書面届出においては、必須項目の記入漏れ、番号と名称の不一致などにより、届出内容の照会や変更届出などが発生しています。PRTR届出作成支援プログラムではファイル出力や印刷の段階でチェック機能がはたらき、上記ケアレスミスを発見できます。このことにより届出内容の照会や変更届出の提出などの件数が減ることになり、事業者、自治体、事業所管大臣の事務処理に係る労力の低減を図っています。

コスト削減・信頼性の向上

書面による届出書は、電子届出などで提出された届出と合わせて記録、集計するために電子化を行っています。従来の電子化は、キー入力により行っていましたが、今回書面届出書に付加された二次元コードをPRTR届出作成支援プログラムと同時に開発した専用プログラムで読み込こむことにより、入力データを瞬時に復号化することができます。これにより、コスト削減、電子化作業時間の短縮を図り、事務処理の効率及び正確性の向上を実現しています。

PRTR届出作成支援プログラムの入力画面と印刷例

3.PRTR届出作成支援プログラム普及への取組

届出・受付における負担の軽減

PRTR届出作成支援プログラムは、政省令改正の周知を行うダイレクトメールと一緒に、化管法制定後届出をしたことのある約3万の全事業者又は事業所にCD-Rを配布しました。インストールプログラムと操作マニュアルはNITEのホームページからもダウンロードできます。
http://www.prtr.nite.go.jp/prtr/shien.html

また、PRTR届出作成支援プログラムのインストールや操作方法で不明な点がある場合、気軽に電話やメールなどで質問ができるよう問い合わせ窓口を設けています。

PRTRプログラムサポート:
03-5738-5482(平日9:00 12:15、13:15 17:30)
prtr_td@nite.go.jp

お問い合わせ

独立行政法人製品評価技術基盤機構 化学物質管理センター
TEL:03-3481-1977  FAX:03-3481-2900
住所:〒151-0066 東京都渋谷区西原2-49-10 地図
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