化学物質管理

CMC letter No.17(第17号)-[特集・1]アジアにおける化学物質管理に関する制度

韓国における化学物質管理に関する制度

化学物質管理センター 情報業務課

はじめに

NITE化学物質管理センターは、化学物質管理情報の整備、提供に係る国際整合性の確保等のため、必要な国内外の情報の収集、整理を行っています。

その一環として今年度は、当機構の保有するデータベース「化学物質総合情報提供システム(CHRIP)」の参考とするため、アジア各国のうち、大韓民国(以下、「韓国」という。)について、化学物質管理法令に関連するデータベースを調査しました。

1.韓国における化学物質管理関連法令

韓国の化学物質は種類や用途、成分等により異なる法律の下で管理されており、現在7部署所管の15法律が存在しています。さらに、「化学物質登録及び評価等に関する法律(化評法)」が国会で審議中であり、本年中に成立の予定とされています。

今回は、韓国における化学物質を管理する法律のうち、「有害化学物質管理法」、及び、今後成立予定の「化評法」について概観します。

2.有害化学物管理法について

有害化学物質管理法は化学物質による国民の健康や環境上の危害を防止し、有害化学物質を適切に管理することにより、国民が健康で快適な環境で生活できるようにすることを目的とする法律です。日本の毒劇法、化審法、PRTR制度、消防法の一部規制等に相当するもので、有害・危険物質規制のほか、新規物質の有害性審査、危害性(リスク)評価、流通量調査、排出量調査(PRTR)なども制度化されています。

有害化学物質管理法の法体系を図示すると、図1のようになります。


図1 有害化学物質管理法の法体系

有害化学物質管理法では、事業者が化学物質を製造・輸入する前に自ら化学物質の成分を確認し、既存化学物質と新規化学物質に区分して管理することとしており、当該物質が新規化学物質、有毒物、観察物質、取扱制限・禁止物質、事故警戒物質のいずれかに該当するか否かを確認し、その結果を環境部長官に提出することとされています。有害化学物質管理法における規制物質の定義及び規制内容は、図2のとおりです。


図2 有害化学物質管理法における規制物質の定義及び規制内容

現在、環境部で管理している既存化学物質は、有害化学物質管理法施行日(1991年2月2日)以前に国内で商業的に流通され、1996年12月23日に告示された化学物質(37,021物質)及び1991年2月2日以降に有害性審査を経て環境部長官が告示した化学物質等であり合計で44,000物質あります。

既存化学物質以外の物質を新規化学物質といい、新規化学物質は、製造・輸入する前に有害性審査を受けなければ国内流通させることはできません。また審査の結果、有毒物又は観察物質の指定の基準に該当する場合は、韓国国立環境科学院長が有毒物や観察物質に指定することができることとされています。さらに、人の健康や環境に対する危害が大きいと懸念される化学物質に対しては、危害性評価を実施できることとされ、危害性評価の結果により当該化学物質を取扱制限・禁止物質に指定、または、その他危害性を低減させるために必要な措置を取ることができるとされています。

事故警戒物質は、事故発生の可能性が高いと懸念される又は事故が発生した場合の被害が大きいと懸念される物質で、大統領令で定める規定数量以上を取り扱う者は、環境部令により、独自防除計画を策定し、環境部長官に提出することが義務づけられています。

化評法の制定により、有害化学物質管理法の有害性評価等の項目は、化評法に移管する予定とのことです。具体的には、新規物質の有害性審査、取扱制限・禁止物質の指定等の項目が化評法に移管されます。

3.化評法について

化評法の法案は、化学物質の登録、安全性審査及び危害性評価に関する事項を定め、化学物質の情報を提供することにより国民の健康と環境の保護を図ることを目的とする法案です。2011年2月に草案がパブリックコメントにおいて公表されました。その後、一連の改正を経て、2012年9月に国会に法案が提出されました。

化評法案では、対象物質として、新規化学物質だけでなく、既存物質も含めて登録、評価を行い、評価対象物質(化審法の優先評価化学物質の概念)、許可対象物質(REACH規則の認可物質)や制限・禁止物質(REACHの制限物質)を特定することとされています。

登録対象の既存化学物質は、化評法が制定される際に環境部長官が関係省庁と協議して、指定・告示する予定とのことです。また、評価対象物質は、2013年中にリスト案が発表され、その後2013年末から2014年前半頃にリストが公開される予定です。

化評法の下位法令や指針書は、化評法の法案が国会を通過した後で公表されます。指針書は、リスク評価法、登録審査、試験法、試験の代替法、許可、企業及び担当公務員の業務処理等、十数項目が含まれ、全て完成した時点で公開されます。

現在国会に提出されている化評法の法案概要及び特徴として、以下のような点があげられます。

①化学物質製造等の報告に関する規定

化学物質を年間1トン以上製造・輸入する者は、用途、製造輸入数量等を2年ごとに環境部長官へ報告することが義務付けられます。(法案第8条)

②登録対象既存化学物質の指定に関する規定

環境部長官は、既存化学物質について、国内流通量、有害性及び危害性に関する情報を勘案し、登録対象既存化学物質として指定等します。(法案第9条)

③化学物質の登録に関する規定

新規化学物質又は登録対象既存化学物質を年間1トン以上製造・輸入しようとする者は、予め、環境部長官への登録申請が義務づけられます。なお、人の健康や環境への被害が大きいと認定され環境部長官が指定・告示した物質については、年間1トン未満であっても登録が必要です。登録対象既存化学物質には、大統領令により登録猶予期間が設けられ、当該期間中は登録せずに製造・輸入できます。(法案第10条)

④化学物質の登録の免除

全量輸出等の所定の要件を満たし登録免除確認を受けた場合、登録せずに製造・輸入することができます。(法案第11条)

⑤登録義務の不履行に対する措置等

登録せずに化学物質の製造・輸入を行った場合、製造・輸入、使用、販売の中止、回収等の措置を命じられることがあります。(法案第13条)

⑥登録申請時の提出資料

登録申請する際には、次の事項を記載した申請書を提出します。(法案第14条)

  1. 一 製造・輸入者の名称、所在地、代表者名
  2. 二 化学物質の名称、分子式、構造式等の識別情報
  3. 三 化学物質の用途
  4. 四 化学物質の分類表示
  5. 五 化学物質の物理化学的特性
  6. 六 化学物質の有害性
  7. 七 化学物質の危害性(年間100トン以上の場合)

⑦登録申請時の資料提出方法

登録猶予期間内に、登録対象既存化学物質の登録を申請する場合には、製造・輸入者は共同で登録申請資料を提出することができます。(法案第15条)

⑧既存登録資料の共同活用

化学物質を登録しようとする者は、既に提出された登録申請資料がある場合に、当該資料の所有者から使用同意を得て、そのデータを活用することができます。そのため、同じ化学物質の登録の有無等を環境部長官に照会できることとされています。他の登録者が提出した資料については、所有者の承諾を受けて自らの登録申請の目的で活用できます。登録後15年が経過した資料は、承諾を得ずに活用できます。(法案第16条)

⑨脊椎動物の試験データの共同利用等

脊椎動物の試験データに該当する登録申請資料が既に存在する場合、動物試験を最小限にするため、データ所有者の使用承諾を受け、当該資料を自らの登録申請の目的に活用することができます。使用承諾を求められた者は、正当な理由なく承諾を拒否できません。正当な理由なく拒否した者は、当該資料を登録申請目的で提出することができなくなります。(法案第17条)

⑩有害性審査

環境部長官には、登録された化学物質の有害性審査を行う義務があります。環境部長官は、登録した者に、審査に必要な資料の提出を命じることができます。(法案第18条)

⑪有毒物の指定

環境部長官は、提出された登録申請資料を検討して化学物質の有害性審査を実施し、その結果に基づいて有毒物に指定等することができます。(法案第19条)

⑫有害性審査結果の公開

環境部長官には、有害性審査を完了した化学物質の名称、有害性、有毒物該当の有無等を告示することが義務づけられます。告示する化学物質の名称が秘密保護の対象の場合 には総括名称で告示されます。(有害物の場合を除く。)(法案第20条)

⑬危害性評価

環境部長官には、製造・輸入量が年間100トン以上又は有害性審査の結果必要と認められる場合には、危害性評価を実施することが義務づけられます。

環境部長官は、登録した者に、危害性評価に必要な資料の提出を命じることができます。

環境部長官は、危害性評価の結果、危害性を最小限に抑えるために必要な措置を実施できます。(法案第23条)

なお、化評法においては、「危害性」とは、化学物質の毒性等、人の健康や環境へ被害を与える程度をいうものと定義されています。(法案第2条)

⑭許可対象物質の指定

環境部長官は、有害性審査及び危害性評価の結果、危害性が懸念される物質については、当該物質を許可対象物質に指定できます。(法案第24条)

⑮制限・禁止物質の指定

環境部長官は、有害性審査及び危害性評価の結果、危害性が認められた物質、国際条約等により製造・輸入等が禁止又は制限された物質については、制限・禁止物質として指定できます。(法案第26条)

⑯化学物質の情報提供

化学物質(混合物を含む。)を譲渡する者は、相手方に当該化学物質の登録番号、名称、有害性及び危害性に関する情報等の提供が義務づけられます。(法案第28条)

⑰ITシステムの構築運営

環境部長官には、製造・輸入等の報告、及び、登録申請等の業務を電子的に処理するため、情報処理システムを構築・運営することが義務づけられます。(法案第31条)

化評法のITシステムは、報告書作成システム、登録・評価システム、ポータルシステムという3部で構成され、その中でも、報告書作成システムは、産業界が報告・登録書類作成のため外部から利用可能なシステムになります。

⑱グリーンケミストリーセンターの運営等

環境部長官は、化学物質の有害性と危害性による被害を防止するため、技術開発等の専門機関を指定・運営することができます。グリーンケミストリーセンターは、化学物質の情報の整備、有害性審査及び危害性評価、化学物質の危害性低減及び事前予防等に関する技術開発等の業務を遂行できます。(法案第32条)

4.化学物質管理関連法令データベース

韓国国立環境科学院(NIER)では、化学物質情報システム(NCIS: National Chemical Information System) というデータベースを保有しています。NCISでは、韓国国内で流通実績のある4万3千種類の化学物質及び有害化学物質管理法等の規制情報及び有害性情報を提供しています。

NCISは、検索機能のほか規制物質のリスト検索が可能である等のいくつかの機能が付与されており、メイン画面で直接検索する以外にも様々な詳細検索を行うことができます。また、化学物質に関連した法令情報サイト、GHS分類関連サイト等へのリンクが充実しており、化学物質管理のポータルサイトとしての役割も果たしています。

有害化学物質管理法に基づく規制物質リストは、NIERからNCISを通して公表されています。環境部長官は、有害化学物質管理法により化学物質のリストを一般人が簡単に利用できる方法で提供することとされていますが、同法施行令によってNIERの院長に委任され、NIERが構築したNCISを通して一般に提供しています。
NCIS のURL:
http://ncis.nier.go.kr/ncis/Index

有害化学物質管理法における取扱制限・禁止物質等の指定・告示は環境部のホームページを通して公表されており、当該ホームページから取扱制限・禁止物質のリストを検索し、更新情報も確認することができます。
環境部のURL:
http://www.me.go.kr/web/71/me/gosi/gosiUserList.do

また、有害化学物質管理法における有毒物、観察物質の指定・告示はNIERのホームページを通して公表されています。
NIERのURL:
http://www.nier.go.kr/eric/portal/kor/if/if-m2/nier-if-07.page

規制物質の告示は韓国の電子官報によっても公表されています。電子官報のサイトは韓国行政安全部法務担当官室で運営されており、韓国のほとんどの告示、公告を入手することができます。これにより、規制化学物質の更新情報等も検索することができます。なお、言語は韓国語のみとなっています。
電子官報のURL:
http://gwanbo.korea.go.kr/main.gz

5.まとめ

化学物質管理センターは、今後とも、国内外の化学物質管理に関係する方々にとって有用かつ信頼性の高い情報を継続的に発信する等、様々な場面を活用して、化学物質管理の普及啓発に取り組んで参ります。

*本稿でご紹介した内容は、株式会社三菱化学テクノリサーチへの委託による平成24年度大韓民国の化学物質管理に係るデータベース調査に関する委託事業報告書に基づくものです。

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