化学物質管理

CMC letter No.2_trial - [巻頭言]知らぬが仏?~化学物質の情報を正しく知ることの重要性~

独立行政法人製品評価技術基盤機構 理事 野中哲昌野中哲昌
独立行政法人製品評価技術基盤機構
理事

化学物質は、その取扱いや管理の方法によっては、人の健康や環境への影響をもたらすおそれがあります。一方で、その優れた機能性により幅広い産業で基幹的素材となっており、国民生活にも密着した存在となっています。化学製品は、排気排水とは異なり、含まれる有害物質をできるだけ少なくすればいい公害対策とは違う視点での評価や管理が必要となるのです。きちんと管理しながら上手にその有用性を使っていくことが大事なのです。

そしてきちんとした管理を行うためには、化学物質の特性、有害性、使用実態等の情報を正しく知ることが必要です。有害性がわかっている化学物質であればどのようにその有用性を使えばいいかががわかります。化管法の指定化学物質や化審法の監視化学物質はその有害性がある程度明らかになってすでに管理下にある化学物質です。気をつけて使えばいいのです。一方、有害性がわからない化学物質は、管理のしようがありません。監視化学物質の使用を止めて有害性がわかっていない化学物質を利用するのは愚かなことです。

ところが、国民生活や産業活動において利用されている化学物質の多くは、人の健康や環境に対する有害性・リスクが未だ明らかになっていません。法律制定時の既得権でしかない「既存化学物質」が評価されないまま平気で使われています。最も強い猛毒も含まれる「天然化学物質」は、評価されることなく安全な物質の代名詞になっています。では「新規化学物質」ならば事前審査制度もあり大丈夫なのでしょうか?化審法はあくまで一度環境に出て薄まった状態での環境・健康リスクを評価するだけの法律です。労働安全衛生法も変異原性のチェックだけです。新規化学物質の審査も、その有害性・リスクの評価の範囲は限定的なのです。

何故こんな状況が許されているのでしょうか?急性毒性等の一部の有害性を除けば、化学物質と実際の健康・環境被害との因果関係が明らかになりにくい。だから、平気なのです。強い発がん性が明らかといわれるタバコですらやめられない。因果関係が実感できないための安心感、知らないことによる幸福を享受しているのです。

但し、誤解をしてはいけません。有害性がわからない化学物質でも、実際にその姿がわかれば、その大部分のリスクは小さく通常の利用であれば問題ないことが明らかになるはずです。そして、法的規制が必要な深刻なリスクが明らかな化学物質以外は、化学物質を取り扱う関係者が情報を共有しそれぞれの用途(使用状況)に応じてきめ細かく適切な管理を自主的にしていくことが、最も望ましいのです。

情報がまだ得られていないから、不安になるのです。そして、そうした不安につけ込んで、詐欺まがいの製品も世の中に氾濫しています。国も同じです。ダイオキシンや環境ホルモンに投じた資金がすべて妥当であったのか、同じ資源をもっと有効に使うべきではなかったのか真剣に反省し考える必要があるのかもしれません。

未だ科学的に解明されていない分野も多く存在しています。そうした分野の研究も重要です。でもそれ以上に、まず官民で力を合わせて現在得られている知見を利用して身の回りに使われている膨大な化学物質を地道に正しく知ろうとすることが必要なのではないでしょうか。既存化学物質点検を今後拡大しようとするJAPANチャレンジプログラム等はこうした地道な動きの第一歩だと言えます。

米国環境保護庁では、何百人ともいわれる技術者が民間からの情報に基づき化学物質のリスク評価に日々取り組み化学物質管理を推進しています。残念ながら日本にはこのような体制はまだありません。「知らぬが仏」はもうたくさんです。関係機関が省庁を越えて連携し地道なリスク評価を継続的に実施していく体制が必要です。

NITEは、個々の化学物質について、科学的知見に基づいた客観的な情報を収集整備提供します。JAPANチャレンジプログラム等においても中心的役割を果たし、また、化審法審査やリスク評価支援、PRTR関連業務等を行いながら、地道なリスク評価の動きにも積極的に参加していきます。そして、環境リスクのみならず化学物質リスク全般に総合的に対応できるリスク評価/リスク管理体制が我が国に確立されることを目指し、関係者の皆様と共に日々努力をしていこうと考えておりますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。

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