化学物質管理

CMC letter No.2_trial - [特集]国際的な既存化学物質点検作業の加速化への取組

化学物質のリスクを適切に管理するためには、まず、その判断の元となる化学物質の安全性に関する情報が必要ですが、現在は、まだ十分に収集されているとはいえない状況であるため、化学物質の安全性情報解明の加速化が国際的な課題となっており、日本を含む世界各国の政府と産業界で、この問題に積極的に取り組んでいます。

今回は、それらの取組とともに、関連するNITEの役割等をご紹介します。

日本では、昭和48年に化学物質の審査及び規制等に関する法律(化審法)が制定されました。この法律は、日本国内で製造または輸入される、人工的に作られた化学物質を対象にしている法律で、法律制定後に新たに存在する化学物質(新規化学物質)は、それを製造または輸入しようとする事業者等が、安全性に関する情報を国に提出し、審査を受けますが、法律ができる前に既に存在した化学物質(既存化学物質)については、これまでは国が中心となって安全性情報の収集を行ってきました。

このような法律は、世界各国にあり、その国によって対象となる物質は異なりますが、国際的にも、市場において広く使われている化学物質の多くが既存化学物質であることから、経済協力開発機構(OECD)では1990年の理事会決定に基づいて、1992年から、OECD加盟国の少なくとも1ヶ国(又はEU加盟国全体)で年間1000t以上生産されている既存化学物質(HPVC*1)について、有害性の初期評価を行うために必要なデータを加盟国で分担して収集し、評価を行うこととする、HPV点検プログラムを開始しました。プログラム対象は、現時点で4843物質となっており、2004年までに約500物質(日本は180物質)の初期評価を終え、2004年秋のOECD化学品合同会合での合意により、2010年までに新たに1000物質(日本担当分は96物質)についてデータを収集する目標を立てています。本プログラムはOECD加盟国の政府間の取組ですが、点検をより加速化するために、1999年からは、産業界もICCA*2イニシアティブにより積極的に参画し、有害性データの収集作業を分担しています。化学物質製造事業者等は当該化学物質のスポンサーとして国とともにSIAR*3及びSIAP*4がまとめられ、OECDの初期評価会合であるSIAM*5に提出することとされています。

Japanチャレンジプログラム

このように、既存化学物質の安全性情報の収集を更に促進する取組は、国際的に重要視されており、政府と産業界共同で進められています。日本においても、平成15年の化審法改正に際し、既存化学物質の安全性点検については、産業界と国の連携により計画的推進を図ることとする付帯決議が行われました。

これらを受け、平成17年、厚生労働省、経済産業省及び環境省の3省は、産業界と連携して、既存化学物質の安全性情報の収集を加速し、広く国民に情報発信を行うため、「官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム」(通称:「Japanチャレンジプログラム」)を開始しました。このプログラムでは、情報収集の対象とする既存化学物質を優先度に基づき分類し、リスクを考慮してより優先度の高い物質から、有機低分子化合物を中心に、国内年間製造・輸入量が1000t以上である物質(約700物質)を「優先情報収集対象物質」として選定し、このうち、OECDにおける取組等において情報収集予定がない166物質について、民間より「スポンサー」を募集する等、産業界と連携して2008年度を目途に、効率的に情報を収集していきます。

国は、上記166物質について、国際的なデータベース等を調査し、既存の安全性情報の有無や情報源等にかかる調査を行いました。情報収集項目は、OECDにおいて、高生産量化学物質の潜在的な有害性の初期評価に必要な情報として定められているデータセット(SIDS*6)に基づいています。

NITEでは、国の調査をサポートすると共に、それらの調査結果について情報発信を行っています。また、既存の安全性情報に関する問い合わせ窓口を設ける等、当プログラムに参画される事業者を支援しています。

当プログラムで収集された安全性情報は、国が一元的に管理し、HP等を活用して広く国民に発信していくこととしており、今後、NITEもこれら情報の整備・発信に貢献していきたいと考えています。

図1 試験実施から報告までの流れ(経済産業省「Japanチャレンジプログラム」HPスポンサーマニュアル(概要)より抜粋)

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構造活性相関手法を活用した既存化学物質の評価

図2 構造活性相関による既存化学物質安全性点検の現状及び目標 化審法が対象とする3万種類以上の既存化学物質のうち、これまでに約1500物質の安全性点検が終了しています。化学物質によるヒト健康や環境へのリスクをできるだけ低減させるためには、残りの未点検既存化学物質においても、リスクの可能性が高い物質を早急に特定し、適切な管理を行うことが必要です。

NITE構造活性相関チームでは、国からの受託事業(NEDO「既存化学物質安全性点検事業の加速化」プロジェクト)として、化審法で取得された試験データを解析し構造活性相関手法の高精度化に役立てる活動と共に、「NITE構造活性相関委員会」を立ち上げ、構造活性相関手法を活用し未点検既存化学物質の分解性・蓄積性を実際に評価する活動を行っており、来年1年間で年間生産量10t以上の約5500物質について一次評価を終了することを目標としています。

こうした化学物質管理行政における構造活性相関手法の活用は、REACH*7の影響もあり近年国際的にも盛んになっています。当チームは、上述した国内活動での経験を活かし、OECD構造活性相関プログラムにおける構造活性相関行政利用のための国際基準やガイダンス文書の作成にも協力しています。

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データベース等による安全性情報の整備
(3省共同化学物質データベース等)

平成15年の化審法改正において、動植物への影響についても評価の対象となるなど、今後ますます国際的に調和のとれた評価が求められるともに、所轄官庁である厚生労働省、経済産業省、環境省の3省がそれぞれ独自に収集並びに蓄積している化審法新規化学物質の届出情報や化審法既存化学物質安全性点検情報等のデータを統合し、3省間でデータを相互に共有・利用することによる迅速かつ効率的な化学物質の評価・管理の必要性が高まってきています。

図3 3省共同化学物質データベースとNITE既存データベースとの連携の未来像 NITEでは、3省からの依頼・要請に基づき、事業者から提出された新規化学物質の届出データや、既存化学物質の安全性点検情報等の有害性や評価結果等に関する情報を一元的に管理し、新規化学物質の事前審査・確認や既存化学物質の安全性点検を効率的に実施するとともに、化学物質の有害性情報等に関する情報公開を推進することを目的とした、化審法を共管する3省が共同で使用可能なデータベースシステム(3省共同化学物質データベース)を構築中です。

NITEはこれまでも、化審法の運用における届出・審査関連の窓口のNITEへの事実上の一本化に対応してきました。さらに本システムが完成すれば3省の化審法関係情報がNITEにおいて一元的に管理されることとなり、同時に、さまざまな分野での活用による化学物質管理の高度化・迅速化も期待できると考えています。

また、データベースに蓄積された情報は、構造活性相関手法の精度向上のための検証に活用可能であるとともに、公開可能な情報は、NITEの公開データベースであるCHRIP(化学物質総合情報提供システム)との連携により、広く利用できる情報として提供します。

*1 HPVC
:「High Production Volume Chemicals」の略。高生産量化学物質=OECD加盟国の少なくとも1ヶ国(又はEU加盟国全体)で年間1000t以上生産されている既存化学物質。
*2 ICCA
:「International Council of Chemical Associations」の略。国際化学工業協会協議会。
*3 SIAR
:「SIDS Initial Assessment Report」の略。OECDHPV点検プログラムでの初期評価レポート。
*4 SIAP
:「SIDS Initial Assessment Profile」の略。SIARの概要、評価要旨。
*5 SIAM
:「SIDS Initial Assessment Meeting」の略。OECD初期評価会合。
*6 SIDS
:「Screening Information Data Set」の略。OECDにおいて、高生産量化学物質の潜在的な有害性の初期評価に必要な情報として定められているデータセット
*7 REACH
:「Registration,Evaluation and Authorisation of Chemicals」の略。EUの新化学品規制案の中の化学物質の登録、評価、許可を一つに統合したシステム案。

お問い合わせ

独立行政法人製品評価技術基盤機構 化学物質管理センター
TEL:03-3481-1977  FAX:03-3481-2900
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