化学物質管理

カテゴリーアプローチによる化学物質の生物濃縮性予測に関する検討結果の公表について

「カテゴリーアプローチ」とは

カテゴリーアプローチは、構造類似性に対し有害性が類似または規則的なパターンを示す物質群をグループ化して評価を行う方法です。同じカテゴリーに属する類似物質の試験データを用いて未試験物質の有害性を推定(データギャップ補完)することができ、類似物質の選定の方法などエキスパートジャッジに基づいて評価が行われます。予測根拠の明示と透明性の高い議論を行うことができるため、国際的にも検討が進められています。

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「化学物質の生物濃縮性におけるカテゴリー分類」とは

生物濃縮性は、化学物質の食物連鎖による人体への蓄積を考える上で、非常に重要な指標です。多くのコスト(約700万円)と時間がかかる実測試験にかわり、生物濃縮性を予測する方法の一つとしてカテゴリーアプローチがあります。

化学物質の生物濃縮性の挙動は、主に生体膜透過におけるメカニズム(受動拡散、能動輸送など)と物質の反応性(生体内におけるたんぱく質結合性、代謝反応)の違いによって異なります。これらの要因に基づき、化学物質の生物濃縮性をそれぞれのカテゴリーに分類することが可能です。

生物濃縮性におけるカテゴリー分類の全体像

受動拡散が生体への取り込みの主要因である物質 カテゴリー1 生体膜透過において、ファンデルワールス力 が主要な分子間相互作用として働く物質(例 脂肪族、芳香族炭化水素および そのハロゲン化物) 2-A 生体膜透過において、・ファンデルワールス力・双極子一双極子相互作用が主要な分子間相互作用として働く物質(例 エーテル、 ケトン) 2-B 生体膜透過において、・ファンデルワールス力・双極子一双極子相互作用・水素結合性相互作用が主要な分子間相互作用として働く(窒素、酸素、硫黄に結合した水素を持つ)物質(例 アミド、 アルコール) カテゴリー3 水中(pH=7.0)でイオンとして存在し、生体膜透過に・イオン性相互作用が主要な分子間相互作用として働く物質(例 カルボン酸、アミン) 以上が予測方法 予測式 Read-across。 受動拡散が生体への取り込みの主要因で 生体内での反応性が高い物質 カテゴリー4 タンパク質結合性がある物質(例 チオール) カテゴリー5 生体内で代謝されることが知られている物質(例:エステル、リン酸エステル) 生体への取り込みの主要因が受動拡散ではない物質 カテゴリー6 傍細胞経由または能動輸送 膜動輸送で生体内に取り込まれる物質(例 糖、ペプチド、アミノ酸) 以上が予測方法 Read-across。 カテゴリー7 水中において容易に分解する物質(例 ハロゲン化ベンジル、ハロゲン化アリル)は分解物で評価。物質によっては複数のカテゴリーに該当するものもある。

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カテゴリーⅠ:「単純受動拡散カテゴリー」とは

化審法の既存化学物質安全性点検の魚類における濃縮度試験データを基に、カテゴリーⅠ:「単純受動拡散カテゴリー」に該当する物質(ヘキサクロロベンゼンなどの、脂肪族、芳香族炭化水素およびそのハロゲン化物)の定義および予測方法を検討し、報告書として取りまとめました。

これらの物質は、生体膜透過における他の分子との分子間相互作用が弱く、単純な拡散によって生体内に取り込まれるため、化学物質のlogPow*1logBCF*2との間に良好な相関関係があります。また、カテゴリーⅠに該当する分子構造(基本となる骨格及び官能基)と物理化学的性状(logPow、分子サイズ)が類似な物質は、類似の生物濃縮性を持つことも分かりました。これらのことから、カテゴリーⅠに該当する未試験の化学物質は、次の2つの手法を用いて予測することが可能となります。

(1)相関式を用いた生物濃縮性予測:
logPowを記述子とした相関式を用いて、未試験の化学物質の生物濃縮性を定量的に予測する。
(2) Read-across(類推)を用いた生物濃縮性予測:
生物濃縮性が既知の類似物質(分子構造及び物理化学的性質が類似の物質)を用いて、未試験の化学物質の生物濃縮性を類推する。未試験の化学物質の生物濃縮性は、類似物質が2物質以上ある場合は定量的、1物質の場合は定性的に予測する。

カテゴリーアプローチによる生物濃縮性予測に関する報告書(カテゴリーⅠ)【PDF:1.9MB】

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カテゴリーⅡ-A:「水素結合アクセプターによる双極子-双極子相互作用が受動拡散に影響を与える物質群」とは

化審法既存点検の濃縮度試験のデータを基に、双極子-双極子相互作用が生物濃縮性に与える影響について検討を行いました。その結果、双極子-双極子相互作用が生物濃縮性に与える影響は弱く、カテゴリーⅡ-Aに該当する物質はカテゴリーⅠと類似な生物濃縮挙動を持つことがわかりました。このことから、カテゴリーⅡ-Aに該当する物質は、カテゴリーⅠと同じ予測方法を用いて、未試験の化学物質の生物濃縮性を予測することが可能となります。

カテゴリーアプローチによる生物濃縮性予測に関する報告書(カテゴリーⅡ-A)【PDF:1.5MB】

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カテゴリーⅡ-B:「水素結合ドナーによる水素結合性相互作用が受動拡散に影響を与える物質群」とは

化審法既存点検の濃縮度試験のデータを基に、水素結合性相互作用が生物濃縮性に与える影響について検討を行いました。その結果、カテゴリーⅡ-Bに該当する物質(フェノール、アミン、アルコールなど)は、カテゴリーⅠ及びⅡ-Aの場合とは異なり、化学物質のlogPow*1とのlogBCF*2との間の相関が弱く、logPow及びカテゴリーⅠ及びⅡ-Aの予測に用いる相関式から期待される値よりも実測値が低濃縮傾向にあることが分かりました。また、カテゴリーⅡ-Bに該当する分子構造(基本となる骨格及び官能基)と物理化学的性状(logPow、分子サイズ、pKa*3)が類似な物質は、類似の生物濃縮性を持つことも分かりました。これらのことから、カテゴリーⅡ-Bに該当する未試験の化学物質は、次の2つの手法を用いて予測することが可能となります。

(1)カテゴリーⅠ及びⅡ-Aの相関式を用いた生物濃縮性予測:
カテゴリーⅠ及びⅡ-Aの相関式を用いて生物濃縮性の最大値(logBCFmax)を算出し、「未試験の化学物質の生物濃縮性はlogBCFmax未満である」と定性的に予測する。
(2) Read-across(類推)を用いた生物濃縮性予測:
生物濃縮性が既知の類似物質(分子構造及び物理化学的性質が類似の物質)を用いて、未試験の化学物質の生物濃縮性を類推する。未試験の化学物質の生物濃縮性は、類似物質が2物質以上ある場合は定量的、1物質の場合は定性的に予測する。

カテゴリーアプローチによる生物濃縮性予測に関する報告書(カテゴリーⅡ-B)【PDF:2.5MB】

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カテゴリーⅢ:「イオン性官能基によるイオン性相互作用が受動拡散に影響を与える化学物質群」とは

化審法既存点検の濃縮度試験のデータを基に、カテゴリーⅢに該当する物質(カルボン酸、スルホン酸、4級アミンなど)の生物濃縮性に影響を与えるパラメータについて、検討を行いました。その結果、これらの物質の生物濃縮性に影響を与えると考えられるパラメータ(logPowpKalogD*4)とlogBCFとの間の相関は弱く、これらの物質(パーフルオロ酸を除く)の生物濃縮性は、経験則として全て低濃縮傾向(logBCF<3)にあることが分かりました。また、カテゴリーⅢに該当する分子構造(基本となる骨格及び官能基)と物理化学的性状(分子サイズ、pKa)が類似な物質は、類似の生物濃縮性を持つことも分かりました。これらのことから、カテゴリーⅢに該当する未試験の化学物質は、次の2つの手法を用いて予測することが可能となります。

(1) 経験則を踏まえた定性的な生物濃縮性予測:
カテゴリーⅢに該当する物質(パーフルオロ酸を除く)は、全て低濃縮傾向(logBCF<3)であるという経験則を踏まえ、「未試験の化学物質の生物濃縮性(logBCF)は3未満である」と定性的に予測する。
(2) Read-across(類推)を用いた生物濃縮性予測:
生物濃縮性が既知の類似物質(分子構造及び物理化学的性質が類似の物質)を用いて、未試験の化学物質の生物濃縮性を類推する。未試験の化学物質の生物濃縮性は、類似物質が2物質以上ある場合は定量的、1物質の場合は定性的に予測する。

カテゴリーアプローチによる生物濃縮性予測に関する報告書[カテゴリーⅢ]【PDF:1.5MB】

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カテゴリーⅤ:「生体内での代謝によって排出され易く生体内に濃縮されにくいことが知られている化学物質群」とは

化審法既存点検の濃縮度試験のデータを基に、生体内での代謝によって排出され易い物質の生物濃縮性について検討を行いました。その結果、カテゴリーⅤに該当する物質(エステル、リン酸エステル、アミド化合物など)は、化学物質のlogPowlogBCFとの間の相関が弱く、logPow及びカテゴリーⅠ及びⅡ-Aの予測に用いる相関式から期待される値よりも実測値が低濃縮傾向にあることが分かりました。カテゴリーⅤに該当する化学物質は、極性または水素結合性の官能基を持つことから、受動拡散において双極子-双極子相互作用または水素結合性相互作用が主要に働くカテゴリーⅡ-A またはⅡ-B に該当するが、生物濃縮性に生体内での代謝が影響するため、これらの物質よりも生物濃縮性が小さくなったと考えられます。そのため、カテゴリーⅤに該当する物質は、カテゴリーⅡ-B に該当する物質と同様に次の2つの方法を用いて、生物濃縮性を予測することが可能となります。

(1)カテゴリーⅠ及びⅡ-Aの相関式を用いた生物濃縮性予測:
カテゴリーⅠ及びⅡ-Aの相関式を用いて生物濃縮性の最大値(logBCFmax)を算出し、「未試験の化学物質の生物濃縮性はlogBCFmax未満である」と定性的に予測する。
(2) Read-across(類推)を用いた生物濃縮性予測:
生物濃縮性が既知の類似物質(分子構造及び物理化学的性質が類似の物質)を用いて、未試験の化学物質の生物濃縮性を類推する。未試験の化学物質の生物濃縮性は、類似物質が2物質以上ある場合は定量的、1物質の場合は定性的に予測する。

カテゴリーアプローチによる生物濃縮性予測に関する報告書[カテゴリーⅤ]【PDF:1.3MB】

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脚注

  1. *1*1a *1b 化学物質の疎水性を表す値(化学物質の1-オクタノールと水との間の分配係数の対数値)
  2. *2*2a *2b 化学物質の生物濃縮性を表す値(化学物質の魚体中濃度と水中濃度の比の対数値)
  3. *3 化学物質の解離性を表す値(化学物質の酸解離定数)
  4. *4 化学物質の解離性(pKa)を考慮した化学物質の疎水性を表す値

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