化学物質管理

CMC letter No.3(第3号) - [特集・1]化学物質管理センターは今

連載第2回 安全審査課~化審法施行支援とその取り組み~

安全審査課は、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(以下、化審法)の適正な運用を確保するために、技術的な側面から支援しています。新規化学物質の審査・確認の支援をはじめとして、同法の遵守及び施行に関する業務に貢献しています(図1参照)。

本号では、安全審査課の業務についてご紹介します。

図1 化審法の施行を多面的にサポート

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1.化学物質管理に関する法施行支援

化審法は、ポリ塩化ビフェニル(PCB)*1による環境汚染問題を契機として、PCBと類似の性状を持つ化学物質(難分解性、高蓄積性、長期毒性を有するもの)による環境汚染防止を目的に、昭和48年に制定されました。新たに化学物質を製造・輸入する前にその安全性を審査し、PCBと類似の性状を持つ化学物質については製造・輸入、使用などを規制しました。

その後、昭和61年の法改正で、高蓄積性ではないが難分解性及び長期毒性を有する化学物質(第二種特定化学物質及び指定化学物質(現在の第二種監視化学物質))の監視制度が導入されました。平成15年には、化学物質管理に関する国際動向及びOECD勧告を受けてさらに改正され、化学物質の動植物への影響に着目した審査・規制制度や、環境中への放出可能性に着目した審査制度などが新たに導入されました。

化審法は大きく分けて、新規化学物質の事前審査制度と化学物質の性状等に応じた規制の2つの部分からなります(図2参照)。

図2 化審法の全体像

1)新規化学物質などの審査の支援

法律に基づき届出された新規化学物質の安全性試験データ、審査結果等のデータを収載したデータベースを整備し、新規化学物質などの審査の効率化を図っています。平成16年度からは、厚生労働省、経済産業省、環境省共同データベース(3省共同化学物質データベース)を構築し、平成18年度から共用を開始しました。

このデータベースの活用等を通じて、新規化学物質等の審査に必要な情報を調査し、安全性に関する審査資料を作成しています。また、届出事業者からの事前相談、届出時のヒアリングなどを行うとともに、届出者との相談・連絡窓口となっています。さらに、新規化学物質の告示名称を作成しています。

なお、3省共同化学物質データベースは以下のURLで公開しています。ご参照の上、ぜひご活用ください。
http://www.safe.nite.go.jp/kasinn/db/dbtop.html

2)優良試験所基準(GLP)制度に係る業務

化審法では、新規化学物質等の審査に使用される安全性データは、優良試験所基準(GLP)に適合した試験施設で試験して得られたものであることとされています。安全審査課は、このGLP試験施設への査察等を行い、試験成績の信頼性・国際整合性の確保に努めています。

3)国際機関の活動への参画等

法規制の国際的な整合性の確保等に資するため、OECD EHS(Environmental Health and Safety)プログラム関係会合(新規化学物質タスクフォース、GLPワーキンググループ、テストガイドラインワーキンググループ、HPVグローバルポータルステアリンググループ、(Q)SAR専門家会合)に参加して情報収集等を行っています。

また、国際整合性を図るため、既存化学物質*2にCAS番号*3やIUPAC名称*4を付与し、公表しています。さらに、既存化学物質の安全性点検の優先順位付け等の基礎資料となる製造・輸入量実態調査を支援するとともに、適切な法施行の確認のための立入検査を実施しています。なお、これらの業務は平成18年度からNITE生活・福祉技術センターと連携して実施しています。

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2.構造活性相関に関する取り組み

物質の化学構造上の特徴(または物理化学定数)と生物学的活性(各毒性エンドポイント等)との相関関係を構造活性相関といいます。すでに有害性実測試験が実施された化学物質の試験データセットを用いて、こうした相関関係を明らかにすることにより、化学物質の有害性を化学構造や物理化学定数から予測する構造活性相関モデルを作成することができます。

化学物質の有害性評価において構造活性相関は、実験用生物を用いずに、多種の物質を安価で短期間のうちに評価できるという利点を持つ代替試験法の一種と見なされており、多くの国において実測試験の優先順位付けに用いられています。また、米国の有害物質規制法やカナダの環境保護法における新規化学物質の審査では、生産量の低い化学物質の特定のエンドポイントにおいて実測試験の代わりに構造活性相関による評価が用いられています。

安全審査課は化学物質管理における構造活性相関の活用に関して、以下のような取り組みを行っています。

1)生分解性・生物濃縮性予測手法に関する研究*5

化審法で取得された既存・新規化学物質の生分解性・生物濃縮性の実測試験結果と構造活性相関モデルの予測結果を比較検討することにより、各モデルの予測精度・適用範囲・欠点などを明らかにしています。これらの検討結果は、モデルの改良やその使用方法の検討の際に役立てられています。

また、従来の手法では予測が困難である化学物質の加水分解性を精度良く予測するため、量子化学計算に基づく反応解析を用いた加水分解予測システムの開発を行っています。

2)構造活性相関の行政利用に関する検討

外部有識者から成る「構造活性相関委員会」を設置し、構造活性相関による有害性評価を、我が国の化学物質管理行政において、どのように使用すべきかについて検討を行っています。

未点検既存化学物質の実測試験優先度の検討

安全性点検が実施されていない既存化学物質の生分解性・生物濃縮性を構造活性相関モデルの予測結果及び専門家による総合判断を基に評価し、優先的に実測試験をすべき物質の検討を行っています。また、これに使用する構造活性相関モデルを選定するため、OECD(Q)SARバリデーション原則に基づき、モデルのバリデーションを行っています。

例えば、分解性点検が未実施の第2類から第5類に属する既存物質で、平成13年度実績における年間の製造・輸入量の合計が10トン以上確認されたものは2,220物質あり、このうち、これまでに化学構造が特定可能な1,598物質について、選定されたソフトウェアを用いて生分解性の予測を行いました(図3参照)。

このほか、選定されたソフトウェアについての情報等は、以下のURLをご参照して、ぜひご活用ください。
http://www.safe.nite.go.jp/kasinn/qsar/qsar_screening.html

図3 構造活性相関を活用した分解性予測の対象領域

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3.おわりに

化学物質管理においては、国際的な化学物質のリスク評価に基づく適切なリスク管理の重要性に対する認識の高まりがあります。化審法もこのような国際的な動向を考慮して「リスク」を適切に管理するという観点からの、より効率的・効果的な審査規制制度を取り入れたものに改正されています。化学物質管理の流れは今後もハザード評価からリスク評価へと移行していくものと予想されますが、化学物質管理の目的は、化学物質による環境汚染の防止であり、国民の安全・安心を確保することであることに変わりはないと思われます。適切な化学物質管理を実現するためには、行政による規制だけでなく、化学物質管理への自主的取り組みがますます重要となることは言うまでもなく、今後のさらなる取り組みが期待されています。安全審査課は、化審法の施行に関し、新規化学物質の審査全般に関する事前の相談・連絡窓口となるなど、技術的側面からの審査支援業務を通じて、化審法の適切な理解の促進に寄与するとともに、安全性の確保と届出者の負担軽減に貢献できればと考えています。また、化審法に関する情報を提供していますので、以下のURLを参照するなどぜひ活用してください。
http://www.nite.go.jp/chem/kasinn/kasinn_index.html

*1
ポリ塩化ビフェニル(PCB):化学的に安定な性質を持つため、トランスやコンデンサに使用されていました。
ポリ塩化ビフェニル(PCB)
*2
既存化学物質:昭和48年当時、業として製造・輸入・使用されていた化学物質について、通商産業大臣(当時)が事業者より報告させたものを整理し、既存化学物質名簿に収載して公示したもの。(法附則第2条)
*3
CAS番号:CAS登録番号ともいう。米国化学会のChemical Abstracts Serviceが化学物質に対して付与している固有の番号。(例:アクリロニトリル 107-13-1)
*4
IUPAC名称:IUPAC(国際純正応用化学連合)命名法による名称。
*5
本研究は、NEDO第2プロジェクト『既存化学物質安全性点検事業の加速化』の一環として行われています。

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