化学物質管理

CMC letter No.7(第7号) - [特集・1]NITE化学物質管理センターの国際的な取り組み

OECDの活動とNITE化学物質管理センターの取り組み

経済協力開発機構(OECD:Organization for Economic Cooperation and Development)の化学物質管理に関する活動

OECDでは、環境問題への関心の高まりを受けて、1970年代から化学物質の性状を調べるための試験方法の確立、 化学物質管理を効率的かつ有効に行うための取り組みなどを続けています。具体的には、化学物質の性状を調べるための標準的な試験方法を定めたテストガイドラインや、化学物質の試験を行う実験施設の基準を定めた優良試験所基準(GLP)がOECD理事会決定、理事会勧告などを経てとりまとめられ、世界の化学物質管理政策に大きな影響を与えてきました。

化学物質管理に関するOECDの組織

EHS環境保健安全プログラム(EHS)とは

この化学物質管理に関するプログラムがEHSプログラムです。このEHSプログラムでは、環境政策委員会(EPOC)と化学品委員会の共同で開催される化学品合同会合の下に、専門のタスクフォースやワーキンググループなどが設置され、先の活動に加え、新しい種類の化学物質(新規化学物質)を製造する前に行う審査制度を国際的に調和させるための検討や、高生産量化学物質(HPV:1カ国での年間生産量が1,000トン以上の化学物質)に関する安全性の点検作業、化学物質に関する情報共有、環境汚染物質排出移動登録(PRTR)制度の構築や改善、 化学物質の分類と表示の調和(GHS)の検討などが行われています。

NITE化学物質管理センターの取り組み

NITE化学物質管理センターは、技術的な基盤の整備を目的とした化学物質総合管理のナショナルセンターとして、化学物質に関する知見、化学物質総合情報提供システム(CHRIP)などのデータベースによる情報発信の知見や実績、及び化学物質関連の法律(化審法、化管法)支援で培った今までの経験を活かし、前述のEHSプログラム下における国際的な化学物質管理に関連する活動に協力しています。

具体的には以下の通りです。

  1. (1)新規化学物質タスクフォースでの、届出の簡素化を目指したプロセスや定義などの検討
  2. (2)GLP(優良試験所基準)ワーキンググループでの加盟国GLP監視当局のレベルを確認するための合同査察や文書の保存マニュアルの作成などについての検討
  3. (3)グローバルポータルステアリンググループでの、既存化学物質のハザード情報などに関するデータベースを一括して検索できるポータルサイトの構築・運用についての検討
  4. (4)(Q)SARグループでの、加盟国にある化学物質の分解性・毒性等の情報や、予測計算システム(Q)SARを総合的かつ有機的に見ることができるツールボックス作成の議論
  5. (5)PRTRタスクフォースでの、排出量推計手法(RETs)に関するガイダンス文書、PRTRデータの質の向上などについての議論

世界の化学物質管理政策に大きな影響を与えているOECDの活動に、NITE化学物質管理センターの知見や経験を活かして協力していくことも、化学物質総合管理のナショナルセンターとしての役割のひとつと考え、今後もOECDの活動に取り組んでまいります。

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OECD eChemPortalとNITE化学物質管理センターとの関わり

eChemPortalとは

OECDでは、加盟国や国際機関が有している、既存化学物質のハザード情報などに関するデータベースを一括して検索できるポータルサイト(名称:eChemPortal ~a Global Portal to Information on Chemical Substances~)を構築し、2007年6月13日にインターネットを通じて公開しました。

eChemPortalは2段階に分けて構築される予定で、公開中の第1版は、名称(Chemical name)、別名(Synonym)及びCAS番号から、無料で情報検索できるものです。eChemPortalから、NITE化学物質管理センターの化学物質総合情報提供システム(CHRIP)で公開している“既存化学物質安全性点検データ(分解性・蓄積性の情報)”(英語版)を閲覧できます。eChemPortal自体は英語で情報提供されていますが、検索は日本語でも可能です。

OECD eChemPortalのトップページ

OECD eChemPortal参加データベース紹介のページ

eChemPortalの開発経緯

OECDでは、より広い枠組みであるIFCS(化学物質の安全性に関する政府間フォーラム)などで、HPV(高生産量既存化学物質)点検情報が一括して閲覧できるデータベースの構築は途上国支援につながり重要である、との議論を受け、IFCSへの貢献・加盟国政府への支援を行う目的で、2004年に同ポータルサイトの構築を検討するステアリンググループを設置し、作業を開始しました。

NITE化学物質管理センターは、CHRIPや化学物質の安全性情報を広く国民に発信するための「3省共同化学物質データベース」を運用している知見を活かし、経済産業省とともに、eChemPortal構築の議論にはじめから参加・協力してきました。また、日本語検索機能の構築に際し、OECD事務局からの要請により、日本語の化学物質名称とCAS番号の対比一覧を提供し、協力してきました。eChemPortalは、日本語検索の機能が加わったことで、日本人にとってより使いやすいシステムになりました。

eChemPortalのこれから

現在ステアリンググループでは、参加データベースの負担を軽減するため、検索に必要な参加データベースのカタログ更新の自動化や、化学物質名称とCAS番号だけでなく、各種エンドポイントからも検索できる第2版の構築についての検討がなされています。NITE化学物質管理センターは、わが国の化学物質の管理に携わる人々に対し、化学物質の安全性情報などを引き続き発信していくとともに、これらの情報を検索できる国際的なeChemPortalがより使いやすいものとなるよう、引き続きこのステアリンググループでの検討に参加・協力してまいります。

「3省共同化学物質データベース」:厚生労働省、経済産業省及び環境省が構築したデータベース

3省共同化学物質データベースのトップページ

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OECD(Q)SARアドホックグループでの活動

OECDと(Q)SAR

化学物質の安全性を迅速かつ低コストで評価するために、構造活性相関を用いた手法の確立が急務となっており、OECDは構造活性相関の行政利用を推進するために(Q)SARグループを2003年1月に設立し、以下の3つのワークアイテムに関する活動を行ってきました。

ワークアイテム1
:(Q)SARバリデーション原則の確立
ワークアイテム2
:(Q)SAR行政利用のための各種ガイダンス文書の作成
ワークアイテム3
:(Q)SARアプリケーションツールボックスの開発

ワークアイテム1は2004年に、ワークアイテム2は2006年に終了し、現在はワークアイテム3のツールボックスに関する活動を中心に行っています。

NITE化学物質管理センターの取り組み

NITE化学物質管理センターは、わが国の化学物質管理活動における構造活性相関の活用方法を検討しており、OECDの(Q)SAR活動には2003年の活動開始当初から参加しています。

(Q)SARアプリケーションツールボックスは、化学物質の有害性評価に関する実測試験データ及び構造活性相関モデルを多方面から収集・搭載することにより、有害性情報の入手性を向上させることがひとつの目的とされています。また、有害性評価に関する実測試験のない化学物質のデータギャップを補完するカテゴリーアプローチの実施を支援する機能が重視されています。2007年1月の会合では、開発中のツールボックス(評価版)を出席者に説明し、今後の開発活動について議論しました。続いて、2007年4月の会合では、システム構築の受注者であるBourgas“Prof. Assen Zlatarov”University(ブルガス大)のMekenyan教授が、ツールボックスの評価版についてデモンストレーションを行いながら、詳細な機能や操作方法の説明を行い、出席者各自が持参したノートパソコンには、ツールボックス評価版がインストールされ、実際の操作方法について確認を行いました。さらに、ステアリンググループメンバー(デンマーク、ドイツ、日本、オランダ、米国、ECB等)は、前回の会合で各自のPCにインストールされたツールボックスの試用体験について発表を行いました。

日本からは、NITE化学物質管理センターが、化審法の生物濃縮性試験データをツールボックスにインプットし、カテゴリー化を実証した例について、デンマーク及びICAPO(動物保護国際委員会)からは、エームス試験をツールボックスで解析した実例について発表しました。

その結果、ツールボックスで示されたカテゴリーアプローチの方法論は透明性が高くかつ合理的であり、種々のエンドポイントで活用できることが実証されました。一方、データの質や追加すべき機能など細部について各国から多数の意見がありましたが、ツールボックスにおけるカテゴリーアプローチの方法論は参加国に強く支持されました。また、カテゴリー形成の重要性が認識され、今後カテゴリー形成に関する詳細な検討が開始されることとなりました。

今後、EU(欧州連合)では、REACHの届出にツールボックスを活用する予定としており、ツールボックスは世界の化学物質管理活動において広く使われることが予想されます。NITE化学物質管理センターとしては、ここで検討されているカテゴリー作成の方法論及びツールボックスの機能に基づき、化審法の試験データにより生分解性及び生物濃縮性のカテゴリーを具体的に作成することを構造活性相関委員会で検討する予定にしています。検討結果は、既存化学物質の優先順位付けや、構造活性相関を活用した化審法審査スキーム案の作成に活用するとともに、OECDのツールボックス開発やカテゴリー形成の方法論の検討に関する議論に役立ててまいります。

アプリケーションツールボックスによる濃縮性解析結果

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