化学物質管理

CMC letter No.7(第7号) - [所長室から]

連載第3回 今あなたが飲もうとしているお茶の中にも…

今回はゼロリスクに関するお話です。高校の化学で最初に習うアボガドロ数。こんな計算もできるんだ、と感心した方もいらっしゃると思います。

オシッコと富士の高嶺の雪の水分子には、名前が書いていないので、区別はつかないのですが、そう言われてみると、ゼロ暴露はあり得ない。

中学生の頃に以下のような問題を聞いたことがある。

(問)もし、あなたが太平洋に向かってオシッコをして、そのオシッコが地球上の水と均等に混ざりあったとすれば、地球上のどこでもコップ一杯の水を汲んだ時、先ほどのあなたのオシッコ中水分子がそのコップの中にいくつ含まれるか?

さっそく計算してみよう。

まず、地球上には、その大部分が海水であるが1.4×1024グラムの水が存在すると言われている。ということは、これを水の分子量18グラムで割って、アボガドロ数(6.02×1023個)を掛ければ、地球上の水分子の数となる。

(1.4×1024g)÷18g×(6.02×1023個)=4.7×1046

 

次に、一回のオシッコの量を計算しやすいように360ミリリットルと仮定すれば20モルになるから、その水分子の数は以下のようになる。

(6.02×1023個)×20=1.2×1025

また、コップ一杯は180ミリリットルであるから、これは10モルで、その水分子の数は以下のようになる。

(6.02×1023個)×10=0.6×1025

したがって、地球上全体の水と先ほどのオシッコ360ミリリットルが混ざり合う確率は、

(1.2×1025個)÷(4.7×1046個)

あり、これがコップ一杯で180ミリリットルであるから、そのコップ一杯に含まれるオシッコ中水分子の数は、 (1.2×1025個)÷(4.7×1046個)×(0.6×1025個)=約1,500個

となる。

(答)何と、柿田川の湧水であろうと、ペルシャ湾の海水であろうと、バイカル湖の湖水であろうと、キリマンジャロの雪であろうと、日本海溝最深部の深海水であろうと…、1回のオシッコ(360ml)が地球上の水と均等に混ざれば、コップ一杯のその海水や雪などの中には、平均約1,500個のオシッコ中水分子が含まれることになる。

地球上の水全体と均等に混ざっても約1,500個であるから、もし、私が谷川岳の頂上からオシッコをすれば、何カ月後には東京の金町浄水場からの上水道を利用している人は、何十万個、何百万個の私のオシッコ中水分子を飲んでいるはずである。

この約1,500個という数字については、当時は、まだ中学生でアボガドロ数を習っていなかったが、とても驚いた覚えがある。

それもこれも、あまりに分子の一つ一つは小さくて、物質というものは、数えられないくらいのたくさんの分子があつまって、我々の五感に感じるものになっているということなのである。

さて、我々が目にするものは、ごくごく微量に見えても分子の数で考えれば途方もなく膨大な数の集合である。もちろん、実際に毒性などの影響が発現する場合も、途方もなく多くの数の分子に暴露された場合であって、そこに閾値というものが現れる。

富士山のイメージ図 アボガドロ数を考えれば、何に対してもゼロ暴露というものはあり得ないし、日常生活の上でも常にいろいろなものに暴露されているということと、閾値の存在に対する理解が重要であろう。

そう、あなたが今飲もうとしているお茶の中にも、私だけでなくあなたやいろいろな人のオシッコの水分子が、少なくとも…個、入っているのである。

とにかく、ゼロ暴露というものはあり得ない…。

[化学物質管理センター 所長 坂口正之]

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