バイオテクノロジー

リグノセルロース系バイオマスの酵素糖化

第二世代バイオエタノール生産は、一般に以下に示す工程で構成されます。微生物やその酵素は特に"糖化"と"発酵"の工程で重要な役割を担いますが、"前処理"工程に微生物を活用する研究も進められています。現在、"酵素糖化"工程の効率化が特に重要であるとされています。

画像:リグノセルロース系バイオマスの酵素糖化

リグノセルロース糖化における前処理の重要性

第二世代のバイオエタノール生産では"前処理"とよばれる工程が必須です。リグノセルロース系バイオマスを細かく砕いて、前処理を施さずに十分量の糖化酵素で処理をしたとしますと、実際にはごくごく一部しか糖化することはできません。その主な理由はヘミセルロースやリグニン成分の存在にあります。それらを除去するために必要とされるのが"糖化前処理"あるいは単に"前処理"と呼ばれる工程です。この処理が強いとセルロースも失われてしまいますが、弱いと酵素糖化処理が効かなくなります。またバイオマス種によって条件は異なりますし、方法によっては処理可能な規模に制限があります。投入エネルギーや設備コストも含めた微妙なバランスの上での選択が必要となってきます。

画像:リグノセルロース糖化における前処理の重要性2

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セルロース結晶にからみつくヘミセルロースとリグニン

植物を構成するセルロース結晶の最小単位は一般的に数十nm(1 / 100,000ミリメートル)の幅の微細な結晶繊維です。これがさらに集まって束として存在しています。ですがセルロース微結晶繊維同士が安定にくっついていられるわけではありません。これは紙が水に溶けることでイメージできると思います(紙はセルロース微細繊維の不織布のようなものです)。植物体内でその微結晶繊維を束ねる役割をするのがヘミセルロースやリグニンです。セルロース微結晶繊維に絡み付くようにヘミセルロースやリグニンが分布しているのです。またそれらは、植物の種類あるいはその部位に特有な秩序で編み込まれています。これが細胞壁のしなやかな力学物性や外敵の侵入を防ぐために重要な役割を担っています。このヘテロな固体としてのリグノセルロースが糖化酵素の基質なのです。

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ヘミセルロースとリグニン

セルロース分子は前述の通り直鎖高分子で、分子と分子の間には一般的に共有結合は存在しません。水素結合等の分子間力でパッキングし、結晶化しています。一方でヘミセルロースやリグニンは様子が異なります。ヘミセルロースは、キシロースやマンノース等のやはり単糖を主成分とする多糖質ですが、直鎖高分子ではなく、枝を有しています。その枝の構成成分は複数あり、植物の種類や部位によって異なっています。つまりヘミセルロースは化学構造が複雑な多糖質で、セルロースのように結晶化はしません。

一方リグニンは多糖質ではなく、フェノール骨格を有する複雑な化学構造を持つ物質で、いわゆるポリフェノールの重合したもののひとつです。リグニンとヘミセルロース間には共有結合が存在します。これらがセルロース微結晶繊維を包み込むように存在しています。

加水分解酵素にはそれぞれに基質特異性がありますので、化学構造上複雑なヘミセルロースやリグニンを酵素だけで分解除去しようとすると非常に多くの種類の酵素が必要になってきます。ですがこれらを除かない限りは、セルロースは埋もれていてそれを分解する酵素(セルラーゼ)はアタックできません。そこで"酵素糖化"処理の前になんらかの"前処理"が必要になるのです。

画像:ヘミセルロースとリグニン1

画像:ヘミセルロースとリグニン2

自然界では、リグノセルロースは膨大な種類の微生物によってゆっくりとゆっくりと分解されていきます。植物は、微生物に容易に分解されないように、あるいはそれらの侵入を許さないように、さらには折れないようにリグノセルロースで構成される細胞壁を進化させてきましたが、その原石から微生物の力を借りて、私たちの生活を支える宝石とも言えるエネルギーを取り出そうと私たちは試行錯誤しているのです。

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