バイオテクノロジー

環境脆弱性の調査

脆弱性地図(センシティビティ・マップ)

海岸に流出油が近づいてきた場合には、オイルフェンスで海岸を保護し、できるだけ油が漂着しないようにしなければなりません。しかし、前にも述べたとおり、大量の油が流出した場合、すべての海岸を保護することはほとんど不可能です。このとき、どこを優先的に守るべきなのか、その指針を示すのが脆弱性地図です。

脆弱性地図とは、油汚染に対する感受性とクリーンアップの難易度によって海岸を分類し、それぞれの海岸線がどのタイプに属するのかを色分けなどによって示した地図で、その他に生物の生息場所やレジャー施設・養殖場などの人工施設の位置も示されています。脆弱性地図を見れば、どの海岸線が油汚染に弱いかを知ることができ、油汚染に弱い生物の生息場所や経済的に重要な施設の位置なども確認することができます。こうした情報をもとに、どこを優先的に守るべきかを判断するのです。

米国やカナダでは、1970年代中頃から脆弱性地図の有効性が認識されはじめ、石油流出事故に対応する手段として、脆弱性地図の作成・整備事業が進められてきました。海洋気象局(National Oceanic and Atmospheric Administration:NOAA)の主導のもとに作成された米国の環境脆弱性地図は、ESI マップ(Environmental Sensitivity Index Map)と呼ばれ、その手法は多くの国の脆弱性地図作成に取り入れられています。このESI マップでは、地図上に次の3つの情報が提供されています。

【表1】ESI マップの海岸ランキング表
脆弱性 ESI No. 海岸の種類 地図上の色
表の上から下へ脆弱性が高くなることを表す矢印 1A 開放性の岩石海岸 濃紫色
1B 開放性の固い人工構造物(コンクリート、金属、木)
2A 開放性の波食台地(基盤岩、泥、粘土) 薄紫色
2B 開放性の断崖、急勾配の斜面(粘土)
3A 細~中粒の砂浜海岸 青色
3B 断崖、急勾配の斜面(砂)
4 粗粒の砂浜海岸 水色
5 砂礫海岸 青緑色
6A 礫海岸 緑色
6B 置き石海岸 黄緑色
7 開放性の干潟 オリーブ色
8A 閉鎖性の岩石海岸、断崖(基盤岩、泥、粘土) 黄色
8B 閉鎖性の固い人工構造物(コンクリート、金属、木) 桃色
8C 閉鎖性の置き石海岸
8D 植物の生えた急勾配の崖
9A 閉鎖性の干潟 オレンジ色
9B 植物の生えた低い土手
10A 海水、汽水の湿地 赤色
10B 淡水の湿地 紫紅色
10C 木本植物の生える湿地 赤茶色
10D 低木、潅木の湿地帯 茶色

 

1)海岸の種類
油汚染に対する感受性、油汚染の持続性、クリーンアップ作業の難易度によって海岸をランク付けし、海岸線を色分けして示しています(【表1】)。
 
2)生物資源情報
油汚染に弱い動物の生息領域の情報です。地図に添付された別表から、生息密度、種の状態(危機に瀕しているかどうか)、営巣・産卵・育児・巣立ちの時期、その領域を利用する季節を参照することができます。
 
3)人間の海岸利用状況
海水浴場、マリーナなどのレジャー区域、取水口、漁場などの資源採集区域、国立公園などの自然管理区域、考古学的・歴史的な遺跡など人間による海岸利用状況の情報です。

これらの情報を含む地図をあらかじめ作成しておくことにより、石油流出事故が起きた場合に、どこを優先的に油汚染から守ればよいかを迅速に判断することが可能になります。【表1】では、表の下にいくほど油汚染に対する感受性が高く、クリーンアップ作業も難しいため、当然、表の下の方に分類される海岸ほど油汚染を防ぐ優先順位は高くなります。しかし、たとえ海岸の種類としては脆弱度が低かったとしても、付近に海鳥や海獣類の生息地があり、彼らがそこを利用しているシーズンだったとしたら、その領域は優先的に守られるべきでしょう。養殖場や取水口などがあった場合も同様です。米国では、このようなESI マップが米国沿岸全域にわたって整備されており、石油流出事故が起きた場合、迅速に対応できるようになっているのです。

一方、日本でも1995年5月に発行されたOPRC条約(エクソン・バルディーズ号事故を契機に発行された「1990年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約」:大規模流出事故への対応手段として脆弱性地図の作成が勧められている)を受けて、【表2】に示すような4つの省庁・機関で脆弱性地図の作成が進められています。

 
【表2】日本で作成中の脆弱性地図
作成機関 名称 説明
環境省 脆弱沿岸海域図 1994年度から環境庁委託事業として各自治体等において収集された情報を環境省がとりまとめたもの。
海上保安庁 沿岸海域環境保全情報 1997年から開始され、海上保安庁水路部が整備を進めている。海上保安庁の保有する電子海図等の情報と、各省庁・自治体等が保有する情報を収集し、GIS上にデータベースとして管理し、地図画像情報等に加工して提供しようとするもの。
(社)日本海難防止協会 沿岸域環境保全リスク情報マップ 1995年度から東京湾、伊勢湾、大阪湾を対象とした試作図が作られ、1998年度からはナホトカ号で被害を受けた日本海沿岸域の実用図の整備が行われている。米国のESIマップを参考にして作成されている。
水産庁 漁業影響情報図 1997年から5カ年計画で、(財)漁業油濁被害救済基金に委託して作成されたもの。漁場、養殖場などの漁業関連情報を収集・整理して作成。

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