バイオテクノロジー

石油分解菌の特性の解明

分離した石油分解菌を原油を含む液体培地で培養し、原油中のどの炭化水素成分が分解されるかを調べました。アルカン分解細菌については、原油中のn-アルカン及び分岐鎖アルカンの分解を調べました。一方、PAH分解細菌と判定されたものについては、各種PAHs/PACsを用いた生育試験を実施して、その分解活性を確認しました。さらに、活性が高いと考えられるPAH分解細菌については、原油に含まれる芳香族炭化水素の分解についても詳細な検討を行いました。

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原油を用いた分解活性測定

原油を用いて、アルカン分解細菌の分解活性を調べた例を【図1】は示しています。既知のアルカン分解細菌であるAlcanivorax属やMarinobacter属が分離されました。それ以外に、これまでアルカン分解細菌として報告のない属に類縁の菌株の単離に成功しました。Gammaproteobacteriaの占める割合が多かったですが、それ以外にもAlphaproteobacteriaActinobacteriaFlavobacterium等、多様な菌種が存在することが明らかになりました。やはり特筆すべきはAlcanivoraxです。今回分離した石油分解菌の中で、分岐鎖アルカンを分解できたのはAlcanivorax属の株のみでした。

【図1】原油を用いた分解活性測定

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アルカン分解細菌の分解活性

主要なアルカン分解細菌として、既知の Alcanivorax属や Marinobacter属、及び本調査でインドネシア海水から新規に分離した Oceanobacteria関連株が挙げられます。これら菌株の系統樹を【図2】に示します。青字のものが本調査で新規に分離した菌株であり、これらの分解活性を【図3】に示します。

【図2】得られたアルカン分解菌の 16S rRNA 遺伝子配列に基づく系統樹

Int J Syst Evol Microbiol. 61:375-80. 2011. Teramoto et. al.
【図3】得られたアルカン分解菌の示したアルカン及び分岐アルカン分解活性の比較

Microbiology 155, 3362-3370. 2009. Teramoto et. al.

本調査で新規に分離した菌株のアルカン分解活性を30℃で測定し、 Alcanivorax の基準株であるA. borkumensis SK2株の活性と比較しました。原油乳化能力はほとんどすべてのAlcanivorax属の菌株で検出され、そのほかの属の菌株からは検出されませんでした。Oceanobacter属関連株は、直鎖アルカンの分解に関して、A. borkumensis SK2と同等の高い活性を示しました。Alcanivorax 属の菌株も、2lA10株を除外してA. borkumensis SK2と同等の活性を示しました。Marinobacter sp. 2M3は最も低い直鎖アルカン分解活性を示しましたがMarinobacter属類縁株 2M26、2M46、2M48、2M49は Alcanivorax sp. 2lA10よりも高い直鎖アルカン分解活性を示しました。分岐鎖アルカンの分解に関しては、すべてのAlcanivora 属細菌が分解活性を示す一方、Oceanobacter 関連株やMarinobacter 属細菌では検出されませんでした。したがって、Alcanivorax 属細菌は、温帯海域の石油分解の研究で既に報告されているように、熱帯海域でも重要な分岐アルカン分解細菌であることが考えられます。

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各種多環芳香族炭化水素を用いた生育試験

芳香族化合物分解細菌については、各種PAHs/PACsに対する生育試験を寒天培地及び液体培地で行いました(【図4】)。その結果、特にフェナントレンを炭素源として生育できる菌株が多く、ほとんどの菌株で単離の際に炭素源として用いたPAHs/PACs以外に少なくとも2種類のPAHs/PACsを生育に利用できることが明らかになりました。さらに、数多くの菌株で、微生物による分解が比較的困難だと考えられており、海洋からの分解細菌がほとんど単離されていない高分子のPAHs(フルオレンやピレン)に対して生育することが確認できました(【図5】)。

【図4】各種多環芳香族炭化水素を用いた生育試験
【図5】各種多環芳香族炭化水素を用いた生育試験

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芳香族炭化水素分解細菌の分解活性

インドネシア海水から分離された芳香族炭化水素分解細菌の中で、高い分解能力をもっていると予想されたのが、Altererythrobacterに類縁の、1/E25株です(【図6】)。この株の原油中の芳香族炭化水素の分解能力を、温帯から分離されたCycloclasticus属 A5株の分解能力と比較したところ、Cycloclasticus属の方が高いことが分かりました(【図7】)。

【図6】16S rRNA遺伝子配列に基づいたインドネシア単離株1lE25株と
Altererythrobacter属とErythrobacter属基準株の分子系統樹

【図7】芳香族炭化水素分解菌の分解活性

なお、インドネシア海域から採取した漂着油において、1/E25株に近縁の株が優占化していることが示されました。

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まとめ

以上から、インドネシア海水から分離したアルカン分解細菌は以下のような特性を持っていると考えれられます。

アルカン分解細菌のまとめ

  • Alcanivorax のみが、分岐鎖アルカンの分解能力をもっていました。
  • インドネシア海水から分離できなかったOceanobacterは、Alcanivoraxと同等のn-アルカン分解活性を示しました。
  • Marinobacterのn-アルカン分解活性は、Alcanivorax及びOceanobacterよりも劣っていました。

また、インドネシア海水から分離した芳香族炭化水素分解細菌は以下のような特性を持っていると考えられます。

芳香族炭化水素分解細菌のまとめ

  • ほぼすべての分離株が数種のPAHs/PACsを資化できました。
  • PAH分解細菌のなかで四環PAH(ピレン)を分解できる菌株の比率が高かったです。
  • フルオランテン、フェノチアジン、ピレン等の難分解性化合物を用いた単離菌株は、広い生育基質特性を持っていました。
  • インドネシア分離株では、25℃より30℃での活性の方が高い株が多く存在しました。

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