バイオテクノロジー

NBRCニュース 第53号

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                      NBRCニュース No. 53(2018.10.1)
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 このたびの台風と地震により、被災された地域の皆様、関係者の皆様に心よりお見舞い
申し上げます。被災地の一日でも早い復興をお祈りいたします。
 今号(NBRCニュース第53号)から「細菌・アーキアの生育の仕方から選ぶ保存方法」の
新連載を開始しました。最後までお読みいただければ幸いです。

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 内容
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 1.新たにご利用可能となった微生物株
 2.細菌・アーキアの生育の仕方から選ぶ保存方法(0)
    はじめに
 3.細菌・アーキアの分類群から見た培養方法の選び方(2)
    放線菌(グラム陽性・高GC細菌)
 4.平成30年度NBRC微生物実験講習会のご案内
 5.MALDI微生物同定用ライブラリー(Acinetobacter属細菌)を新たに公開しました
 6.微生物カクテルを試験提供します
 7.NITEバイオテクノロジーセンターからの展示のお知らせ

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 1.新たにご利用可能となった微生物株
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◆ NBRC株、ゲノムDNA
 糸状菌 4株、細菌 41株、アーキア 2株、微細藻類 1株、ゲノムDNA 5株が新たにご利用
可能となりました。
 細菌では、新規系統の微好気性鉄酸化細菌Ferrigenium kumadai NBRC 112974、酵素ジ
ュースより分離した乳酸菌Lactobacillus kosoi NBRC 113063を公開しました。また、
Acinetobacter属16株を公開しました(NBRC 110498NBRC 110512NBRC 110605)。これ
ら16株は、抗生物質感受性の情報をオンラインカタログ各菌株のComment欄に掲載してい
ます。

【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html

◆ RD株
 近年、注目を集めている腸内細菌(28属104株)の提供を開始致しました。これらは、
日本人の糞便から分離した微生物株です。腸内での優占種に加え、肥満との関連性や免疫
機能の抑制作用等が示唆されている種が含まれます。ヘルスケア分野における研究開発の
新たなソースとしてご利用下さい。

【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/new_rd.html
【RD株リスト】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/available_rd_list.html

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 2.細菌・アーキアの生育の仕方から選ぶ保存方法(0)
   はじめに                          (宮下美香)
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 培養した菌株を全て同じやり方で保存したら「復元してこない株があった」なんて経験
はないでしょうか。それぞれの株に適した培養条件があるように、保存や保存用標品の調
製にも、それぞれに適した方法があります。微生物の保存方法には、長期的な保存が可能
な凍結保存法や真空乾燥保存法、中期的な保存が可能な軟寒天保存法や流動パラフィン重
層法、短期的に維持する継代培養法などがあります。NBRCの細菌・アーキアは主に-80℃
のディープフリーザーや液体窒素タンクでの凍結保存と、液体乾燥(L-乾燥)保存で維持
しています。
 新連載「細菌・アーキアの生育の仕方から選ぶ保存方法」では、適用範囲が広く長期的
な保存が可能である凍結保存法を中心に、培養形態や生育の様子に応じた凍結用標品の調
製方法の選び方や注意点などを紹介していきます。これらの保存方法の詳細については、
過去にお届けした連載「微生物の保存法」で紹介していますので是非ご参照ください。こ
こで紹介する保存方法の選び方は、NBRCニュース第50号から掲載している連載「細菌・ア
ーキアの分類群から見た培養方法の選び方」で紹介しているグループに対応していますの
で、併せてご覧いただければ幸いです。

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 3.細菌・アーキアの分類群から見た培養方法の選び方(2)
    放線菌(グラム陽性・高GC細菌)              (田村朋彦)
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 放線菌は、グラム陽性細菌のうち、ゲノム中のGC含量(%)が高いグループである
Actinobacteria門のActinobacteria綱に含まれる菌群を指し、菌糸状に生長する菌から菌
糸状にならない球菌、桿菌まで様々な形態の菌が含まれます。放線菌は様々な場所から分
離されますが、土壌にも多く生息し、土臭さのもとである「ゲオスミン」を生産すること
で知られております。

◆気相条件
 菌糸状に生長する放線菌の多くは、培地中に基生(基底)菌糸を形成し、その上(空気
中)に気菌糸を伸ばして胞子を形成することからも分かるように好気性です。試験管で固
体培養する場合は通気性のあるシリコ栓でも十分生育しますが、より通気性の高い綿栓を
用いたり、斜面より平板培養を行った方が、生育が良好な場合があります。2週間以上培
養が必要な菌種の場合、培地が乾燥しすぎないように注意してください。一方で、平板培
養で培地表面に水滴がある場合、栄養菌糸は生長しますが、形態分化(胞子形成)が進み
にくくなることがありますので、胞子形成をさせたい場合はクリーンベンチでシャーレの
フタを開けて培地表面を少し乾かしてから使うなど調整を行います。液体培養の場合は、
振とう培養などで空気を供給する必要があります。また、菌糸状に生長する放線菌の中で
もActinomyces属は嫌気性であるため、嫌気ジャーを用いて培養する必要があります。
 多くの菌糸状にならない放線菌は、嫌気的条件下でも生育しますが、好気的条件の方が
良好に生育します。一方で、ニキビの原因菌として知られるアクネ菌を含むCutibacterium
属やPropionibacterium属は好気的条件下ではほとんど生育しないので、平板や斜面培養
は嫌気ジャーを用いて行い、液体培養は試験管に培地を半分以上いれて静置するか、また
は嫌気ジャーを用いて行います(参考:NBRCニュース第6号「微生物あれこれ(3)」ニキ
ビの原因菌:アクネ菌)。

◆培地
 菌糸状の放線菌は、一般的にはYeast extract-Malt extract培地(NBRC培地227培地)、
Yeast extract-Starch培地(266培地)、Maltose-Bennett's培地(231培地)、Bennett's
培地(228培地)で良好に生育します。NBRCで保存している菌糸状の放線菌のうち、2/3
程度の株で上記4種類を指定培地としています。この他にTSA培地(Trypticase Soy Agar)
(230培地)、R2A培地(849培地)、オートミール培地(8245304培地)等の一般的な
細菌で使用されている培地でも培養が可能です。放線菌の場合、最も旺盛に生育する培地
が胞子形成に適した培地とは限りません。胞子形成を優先させるのであれば、培地を2~5
倍程度薄めて培養を行う方が良い場合があります。この場合、菌体量と胞子形成がトレー
ドオフの関係となりますので、どちらを優先させたいか、使用目的に合うように調製する
必要があります。
 菌糸状にならない放線菌は、他の細菌と同様に802培地、LB培地(275培地)、TSA培地
(230培地)で培養することができます。

◆培養温度
 放線菌の培養温度はそれらの採集地(生息環境)が重要な情報となります。土壌から分
離された放線菌の多くは10~35℃付近で生育が可能です。至適温度は25~30℃ぐらいです
が、20~25℃で極端に生育が落ちることはほとんどありません。高温時のコンポストから
多くの放線菌が検出されるという報告があるように、種類としては限られていますが、至
適温度が45℃以上、あるいは生育限界温度が55℃以上の好熱性の放線菌もいます。Cryo-
bacterium属は南極土壌や氷河から分離される菌で、培養温度は10℃となっています。同
じく、氷河から分離されたFrigoribacterium属は15℃前後で生育します。Nocardioides属
は、通常25~30℃で良好に生育しますが、氷河から分離された株は15℃前後で生育します。
海水、地下水、魚などから分離された放線菌は15~20℃ぐらいが至適温度となっている場
合があります。

◆塩濃度
 海洋環境からもStreptomyces属、Micromonospora属などの菌糸状の放線菌が分離される
ことがありますが、ほとんどの株は生育に海水や塩化ナトリウムを必要としません。一方
で、近年、海水や塩化ナトリウムを必要とする放線菌が知られてきています。その多くは
菌糸状にならない放線菌ですが、Salinispora属の様に海洋環境に特化した菌糸状の放線
菌もいます。また、塩湖等のように海水に比べて遙かに高い塩濃度の場所からも放線菌が
分離されています。その中でもActinopolyspora属は培養に20~30%の塩化ナトリウムを
必要とします。本菌は固体培地で培養を行うと塩化ナトリウムの結晶が析出し、そのまわ
りに白い綿のように生育するのが特徴です。

◆pH
 一般的にはpH 6~8で良好に生育し、至適pHは7の場合がほとんどです。pH 9付近でも生
育する耐アルカリ性の放線菌は多く存在しますが、中性で生育しない好アルカリ性の放線
菌はほとんど知られていません。一方で、Streptacidiphilus属、Actinospicaceae科、
Catenulisporaceae科のように好酸性放線菌(pH 7では生育しない)も多く存在していま
す。指定培地のpHが特に酸性である場合はその指定培地に従って培養してください。

 放線菌はほとんどの株が一般的な方法で培養可能ですが、世界中の様々な場所から分離
されていることもあり、なかには特殊な方法でしか生育しないユニークな株もいます。
NBRCでは、培養方法を可能な限り一般化しています。しかし、一部の株については、特殊
な培地でしか生育しない株もありますので、まずはNBRCが指定する方法で培養してから、
次にみなさまの目的に応じた方法をお試しください。

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 4.平成30年度NBRC微生物実験講習会のご案内
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 微生物アンプルの復元・培養や微生物の保存方法等に関する講習会を開催します。日本
工業規格(JIS規格)や日本薬局方に指定されている細菌および糸状菌を用いて、微生物
の取り扱いに関する実習を行います。皆様のご参加をお待ちしております。

 日  時:1回目 平成30年11月15日(木)10:30~17:30
      2回目 平成30年11月16日(金)10:30~17:30
      両日程とも同じ内容です。
 場  所:製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター
      千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8
 講習内容:微生物アンプルの復元や凍結保存法など(座学および実習)
      実習は、ダミーアンプルを用いたガラスアンプルの開封の他、アンプルから
      の復元方法、凍結標品の作製について行います。NBRCで行っている操作をク
      リーンベンチ内で各自に作業していただく形式で、比較的初歩的な内容にな
      ります。例えば、NBRCニュース「一般的な細菌の凍結保存法」に記載されて
      いる操作を各自に作業していただくイメージです。
 受講資格:NBRC株のユーザーあるいは今後使用する予定があり、大学等で微生物の
      取り扱い経験がある方
 募集人数:各回10名(最低履行人数は5名)
      定員になり次第、締め切らせていただきます。
 参加費用:8,300円(税込)
 申込方法:以下のウェブページに掲載している申込書をダウンロードしていただき、
      必要事項をご記入のうえ、e-mailあるいはfaxでお申し込みください。
      
      【URL】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/others/seminar.html

 募集開始:平成30年10月1日(月)

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 5.MALDI微生物同定用ライブラリー(Acinetobacter属細菌)を新たに公開しました
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 NBRCは迅速な微生物識別の技術的支援として、MALDI-TOF MS微生物同定用ライブラリー
を構築し公開しています。今回新たに、Acinetobacter属細菌29種74株によるMALDI-
TOF MSライブラリーを追加しました。是非ご利用ください。

※内容についての詳細は、以下のウェブページに掲載しております。

【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/industry/maldi/maldi.html

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 6.微生物カクテルを試験提供します
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 NBRCでは、マイクロバイオームの産業利用支援を目的として、マイクロバイオーム分析
における計測レファレンス用微生物カクテルを作製しています。この度、当該カクテルを
提供する際の制度設計等を検討するために、試験提供により当該カクテルを評価していた
だく事業者を公募します。皆様のご応募お待ちしております。

※公募要領等やお申し込み方法についての詳細は、以下のウェブページに掲載しておりま
す。

【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/industry/mockcommunity.html

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 7.NITEバイオテクノロジーセンターからの展示のお知らせ
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 以下に出展いたします。ブースではお立ち寄りいただいた皆様からのご相談やご質問に
もお答えします。是非お越しください。

BioJapan 2018
 日程:平成30年10月10日(水)~12日(金)
 場所:パシフィコ横浜 ブース番号:D-12
    https://www.ics-expo.jp/biojapan/main/

日本防菌防黴学会 第45回年次大会
 日程:平成30年11月13日(火)~14日(水)
 場所:タワーホール船堀(東京都江戸川区)ブース番号:39
    http://www.saaaj.jp/conference/

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 編集後記
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 今年から、子供の学校で保護者のサークル活動に参加しています。有志参加のゆるやか
な集まりで、わきあいあいと楽しく活動しています。文化祭の時にサークルで作ったお菓
子を販売するのですが、器具の消毒やラベルの表示など販売するために守るべきルールが
たくさんあり、安全に製品をお客様に届けることは大変だなと改めて実感しています。文
化祭に向けて千枚以上のクッキーを焼くことになり、どれほど大変なのか今から武者震い
しているところです。それでも、大人になってからサークルのメンバーで調理実習のよう
にお菓子を作るのは新鮮で、そして試作した焼きたてのクッキーはとてもおいしいです。
(NI)

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  https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/others/nbrcnews/nbrcnews.html
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 ・掲載内容は予告なく変更することがございます。掲載内容を許可なく複製・転載さ
  れることを禁止します。
 ・偶数月の1日(休日の場合はその前後)に配信します。第53号は2018年12月3日に配信
  予定です。

  編集・発行
    独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター
    NBRCニュース編集局(nbrcnews@nite.go.jp)
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