バイオテクノロジー

バイオレメディエーション技術の現状

どのように行うか?

石油は大昔から天然に産出しており、植物油に代表されるように、生物も油を合成することができます。油は自然界にとって珍しいものではなく、昔から慣れ親しんできたものなのです。そのため、自然界には油を利用できる微生物が多数生息しています。通常、自然界では石油の供給が少ないため、石油分解菌は常に石油の枯渇した状態に置かれています。そこに石油流出事故が起きて石油が供給されると、石油分解菌は増殖を開始します。実際、石油で汚染された地域の微生物群集を調べると、石油分解菌が優占的になっていることが多いです。流出した石油が少量であれば、石油分解菌によって石油は速やかに分解されます。日本近海では、毎年数百件もの油汚染が発生していますが、海洋の石油濃度が著しく上昇しないのは、石油分解菌によって分解されているからです。しかし、大規模流出事故が起きて大量の石油が供給された場合には、石油分解菌といえども速やかな分解は難しくなり、分解が途中で止まってしまいます。これは、石油分解菌の増殖を制限する要因が「石油」から他の要因に移ったためです。すなわち、エネルギー源である石油が十分あったとしても、栄養塩や酸素など他の要素が枯渇してしまったために、石油分解菌は増殖できなくなったのです。

海岸では、窒素やリンなどの栄養塩の枯渇が制限要因となる場合が多いです。そのため、バイオレメディエーションでは不足する栄養塩の供給が基本となります。

油が地中に浸透している場合は、酸素が制限要因になる場合もあります。そのため、工場跡地などの土壌浄化の場合には、土壌を耕作したりパイプで空気を送り込んだりして酸素を供給します。しかし、海岸では生態系に与える影響が心配されることから、このような作業はなかなか行いにくいです。海岸の場合、潮間帯であれば潮汐の作用によってある程度酸素が供給されるため、どうしても地中の油を除去しなければならない場合の他は、敢えて酸素を供給する必要はないでしょう。

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いつ行うか?

海洋の石油流出事故への対応は、大きく2つのステージに分けることができます。最初のステージは海上での防除活動であり、後半のステージは海岸クリーンアップです。最初のステージ、海上での防除活動は、流出油の拡散を防ぎ汚染の拡大を防止することが最も重要な課題となります。油を回収するのも回収油を利用するためではなく、汚染の拡大を防止するためという意味合いが強いです。そのため、海上での防除活動では何よりも迅速な対応が求められます。したがって、海上での防除活動には浄化速度の遅いバイオレメディエーションは向いていません。海上では、油回収装置や油吸着材を使って速やかに油を回収した方がよいのです。

残るは後半のステージ、海岸クリーンアップです。エクソン・バルディーズ号事故事故では、海岸クリーンアップにバイオレメディエーションが使用され、“成功”を収めました。石油流出事故にバイオレメディエーションを適用するのであれば、海岸クリーンアップに使うのが適当でしょう。それでは、他のクリーンアップ技術と比較して、バイオレメディエーションを使うメリットはあるのでしょうか?

既に述べたとおり、バイオレメディエーションは重度に汚染された場所には向いていない技術です。特に、油が塊になっている場合や漂着油の層が厚い場合、バイオレメディエーションでは浄化が遅々として進みません。これは、油の内部では微生物が増殖しにくいからであり、分解に必要な酸素や水分の供給もされにくいからです。分解は主に油の表層からしか進みません。そのため、油の層が厚いほど、バイオレメディエーションでは浄化されにくいのです。油が塊になっている場合や油の層が厚い場合は、漂着油の多くを人の手などで比較的容易に回収することができるため、人手による回収など他のクリーンアップ手段を用いた方が効率よく浄化が進められます。

しかし、クリーンアップが進み残留油が少なくなると、人の手で油を除去することは徐々に困難になってきます。低圧常温水流や吸着材などが使われることもありますが、海岸を完全にきれいにすることは難しいです。重機や高圧熱水洗浄などの方法ではより多くの油を除去することができますが、生態系に大きなダメージを与える可能性が高いです。従来の技術で、環境を破壊することなく海岸に取り残された油を浄化するのは難しいのです。

バイオレメディエーションは、栄養塩散布作業を行なうだけであれば、環境を大きく破壊することはありません。しかも、海岸に取り残された少量の油の分解はバイオレメディエーションの得意とするところです。したがって、バイオレメディエーションは他の方法で油を取り除いた後、さらに浄化が必要な場合に使用するべきです。

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