バイオテクノロジー

規制(日本の場合)

微生物によるバイオレメディエーション利用指針

平成17年3月に経済産業省及び環境省より「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」が告示されました。本指針は、微生物を利用するバイオレメディエーションの中でも特にバイオオーグメンテーションを実施する際の安全性の確保に万全を期すための指針です。バイオオーグメンテーションは、一般的に、自然環境から分離した特定の微生物を選択して培養されたものを意図的に一定区域に導入することによって、汚染された土壌、地下水等の浄化を図ろうとするものです。この際、生態系への影響及び人への健康影響に関する評価を実施してから利用することが好ましく、経験の浅い事業者にとってもわかりやすい基本的な考え方(指針)を示すことが必要とされました。本指針では、バイオレメディエーション事業の一層の健全な発展及びバイオレメディエーションの利用の拡大を通じた環境保全に資することを目的とし、安全性の評価の手順として、(1)浄化事業計画の作成、(2)生態系等への影響評価の実施、(3)浄化事業の実施、(4)国による確認等が定められています。

一方、バイオスティミュレーションが対象とされていないのは、もともとその環境に存在した微生物の数が添加する栄養塩等または酸素の供給によって影響を受け、その処理の停止とともに微生物の構成は元の状態に復帰すると考えられるためです。しかし、本指針の本文(第6章第4バイオスティミュレーションの扱い)およびその解説において、バイオスティミュレーションにおいても化学物質の添加(栄養の添加)に関しては同指針に準じた内容で自主的な安全管理を行うことが望ましいということが記載されています。すなわち、バイオレメディエーションでは、その実効性が重視されるのは当然でありますが、それに加え、実施にあたって生態系等の環境に対し安全性が確保されているかが重要な事柄となります。

経済産業省 Web サイト
「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」について
http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/bio/cartagena/anzen-shinsa2.html#shishin

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環境庁(当時)による「油流出事故に対するバイオレメディエーション技術検討調査」

油汚染された海岸でバイオレメディエーションを行う場合は、これまで述べてきたとおり、現段階ではバイオオーグメンテーションではなくバイオスティミュレーションの使用が想定されます。したがって、上記の指針の対象ではありません。海岸の石油汚染に対するバイオスティミュレーションに関しては、現在のところ、「指針」も含めて規制は存在していないといってよいでしょう。また、バイオレメディエーション剤(栄養塩等)に関しても、油処理剤で見られるような(油処理剤の散布 【表1】油処理剤の規定および技術基準 参照)規制はありません。1997年のナホトカ号事故事故では、一部の漁協や地方公共団体でバイオレメディエーションのテストが行われました。このとき、環境庁(当時)と水産庁から連名で出された通達では、バイオレメディエーションの実施に慎重な姿勢が窺えますが、どのようなときに実施が許されるかといったような具体的な指示はありませんでした。そのため、バイオレメディエーションの実施は、地元の漁協や地方自治体の判断に委ねられたのです。

環境庁は、その後、海岸油汚染に対するバイオレメディエーションについての調査を行い、「海岸の油汚染へのバイオレメディエーション技術の適用に当っての留意点」をまとめました。この「留意点」は、環境庁で集められた調査資料をもとに、ガイドラインの前段階として、バイオレメディエーション実施者が検討すべき事項をまとめたものです。ここで示された「留意点」は6項目あり、「バイオレメディエーション適用可能性の検討」の4項目、「現場の汚染油等を用いた実験」の2項目に分かれています(【表1】)。「留意点1」では海岸の種類などからバイオレメディエーションの適用場所を検討し、「留意点2」では「留意点1」で検討された場所の汚染状況および自然条件の調査を行うことを勧めています。「留意点3」はバイオレメディエーション剤の安全性の検討で、散布を想定される微生物についての項もありますが、欄外の「解説」には「今後の研究開発の方向性を示す目的で設定したものであり、現時点での現場での使用を想定したものでない」と記されています。そして、「留意点1~3」の検討結果を踏まえ、「留意点4」ではバイオレメディエーション使用の適否を判断することになっています。ここでは、バイオレメディエーションの効果が期待でき、かつ環境に与える悪影響の恐れがないような条件が設定できなければ、バイオレメディエーションの使用を控えるよう求めています。

「留意点5」と「留意点6」は、バイオレメディエーションの有効性と安全性を確認するため、現場の汚染油を用いた分解実験の実施を求めるものです。「留意点5」は現場環境を想定した室内実験、「留意点6」は現場での小規模野外実験となっています。環境庁では、その後、この「留意点」に従ってバイオレメディエーション技術の評価試験が行われ、「油流出事故に対するバイオレメディエーション技術検討調査」としてまとめられました。環境庁の「留意点」は、現場環境を想定した室内実験を求めるなど、バイオレメディエーション実施へのハードルが比較的高いところに設定されているといえるでしょう。

【表1】海岸の油汚染へのバイオレメディエーション技術の適用に当っての留意点(環境庁)
留意点1 適用場所の想定 バイオレメディエーションによる汚染油の処理の実施可能性を検討する際には、まず現場を踏査し、適用場所を想定します。
想定適用場所(海岸)は、㈰砂質海岸、㈪礫質海岸、㈫岩石海岸、㈬泥質海岸、㈭生物生成海岸、㈮人工構造物(「平成4年度大規模流出事故に伴う海洋環境被害対策調査報告書」P216, P220)に分類し、他の処理・除去方法との比較考察を行う。
留意点2 汚染状況等調査 汚染湯の状況、水質、生物の生息状況、波の状況や地形等想定適用場所の現況を把握します。
油汚染の状況については、生物分解が行われる場所及びその周辺での汚染の分布、濃度、成分構成等を調査します。
生物の生息状況は、有用生物、石油分解菌等について調査します。
その他、波の状況、潮の干満や地形についても調査します。
留意点3 バイオレメディエーション剤の安全性評価 次の情報に基づいて、散布する剤の安全性を評価します。
  • 名称、銘柄等
  • 製造業者、輸入業者、販売業者等の氏名、住所、電話番号等
  • 貯蔵方法、保存年限
  • 作業従事者の安全性を確保するためのデータ
  • 適用手順、使用条件、濃度管理方法
  • 有効性を証するデータ
  • すべての成分等の化学名(微生物の場合学名)、重量百分率
評価項目及び判定基準は次の通り。
窒素、リン等の栄養塩類 形状及び構成比が明らかであること
微量元素 形状及び構成比が明らかであること
界面活性剤、油親和剤等 所定の用量で用いた場合、環境基準値は水産用水基準値を上回らないこと。基準値等がない場合には、生体影響試験の結果で専門家が判断します。
重金属等の不純物 所定の用量で用いた場合、環境基準値を上回らないこと
微生物(生菌) 分類学上の位置が確定していること
いわゆる病原菌ではないこと
汚染現場の環境で成育できること
環境中でのモニタリング方法が確立していること
留意点4 バイオレメディエーション使用適否の検討と適用技術の選択 現場での分析の結果に基づいて、現場の油の生物分解がバイオレメディエーション製剤の適用(栄養剤等を補給すること)によって活性化する可能性があるか否かを評価します。
栄養剤等を添加しても代替手段(放置も含む)と比較して浄化が進む可能性がないと判断された場合、又は、代替手段(放置も含む)と比較して当該適用が現場の水生生物等生態系に影響を及ぼすおそれがありそれを防ぐ手段がない場合には、バイオレメディエーションの適用は行いません。
留意点5 現場の汚染油を用いた室内実験 室内で適用現場と同等の条件を作って実験し、散布剤が有効性を発揮すること及び環境保全上支障がないことを確認します。
室内実験では、汚染油(成分)の消長を具体的に明らかにする必要があります。また、有効性を保つために必要な散布剤の散布濃度・量を決定するなど、現場小規模実験(留意点6)の設計に必要なデータを収集します。
実験の結果には、散布条件下での汚染油の主な成分別の消長等の定量的データに基づき、当該剤が有効であるとの考察、有効性を保つための栄養塩類濃度等の条件、その条件を現場で達成するための手法、現場での周辺環境への影響がないとする根拠等が含まれていなければなりません。
留意点6 現場における小規模野外実験 現場における小規模野外実験は、現場適用の可否を判定するために行うものであるとともに、実際の適用計画の設計に必要なデータを収集するものです。
実施に当たっては、処理区外に悪影響を及ぼさないよう適切なモニタリングを行いつつ、適切な散布量を確保します。
処理区のほか、処理区の影響を受けない場所に対照区を設け、実施前、実施後(処理区)、実施後(対照区)の比較考察を行う。

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