バイオテクノロジー

規制(アメリカの場合)

アメリカは、エクソン・バルディーズ号事故において、最初に実用レベルでバイオレメディエーションを適用した国です。その後も石油流出事故時のバイオレメディエーションについての研究がUS-EPAなどで続けられており、バイオレメディエーションに関しては最も進んでいると言えるでしょう。そこで、ここでは、参考のためにアメリカの油防除体制とバイオレメディエーションに対する規制について見ていこうと思います。

(1)アメリカの油防除体制

【表1】OPA’90 の構成
第1章 油濁責任と補償
第2章 現行連邦法の改正
第3章 国際的油濁防止と防除
第4章 防止と防除
第5章 プリンス・ウィリアム湾条項
第6章 雑則
第7章 油濁研究・開発計画
第8章 トランス・アラスカ・パイプラインシステム
第9章 油濁責任信託基金の改正

石油流出事故が発生した場合の損害補償については、国際的な枠組みとして二つの条約(1992年 民事責任条約(CLC条約)、1992年 国際油濁補償基金条約(FC条約))がありますが、アメリカはこれら2条約に加盟しておらず、油濁対策では独自の道を歩んでいます。アメリカは、1989年のエクソン・バルディーズ号事故の反省から、それまでの油防除体制を全面的に見直し、その結果、制定されたのがアメリカ油濁法OPA’90(Oil Pollution Act,1990)です。OPA’90 以前のアメリカでは、油濁に関する連邦法と州法が入り乱れており、各法律の関係が明確ではありませんでした。この法体系の複雑さが、エクソン・バルディーズ号事故での対応の遅れに繋がり、被害を拡大させたと反省されました。そこで、油濁の防止と防除、責任および補償に関する法制度を一元化するために定められたのがOPA’90であり、1990年8月に発効されました。OPA’90 は【表1】に示すような9つの章からなります。なお、第5章と第8章はエクソン・バルディーズ号事故から設けられた地域条項です。

油濁責任と補償

OPA’90では、事故責任者の賠償義務がCLC条約よりも厳しいものになっており、責任限度額は、3000トンを超えるタンカーの場合は、1000万ドルまたは1トン当たり1200ドルで計算される金額の大きい方、3000トン以下のタンカーでは、200万ドルまたは1トン当たり1200ドルで計算される金額の大きい方となっています。アメリカの管理海域を航行する船舶は、この責任限度額の支払い能力を証明する証書を保持しなければなりません。事故が故意または過失によって起こった場合、責任限度額は適用されず、事故責任者は無限責任を負います。故意または過失がなくても、州によっては州法で無限責任を課している場合も多いです。州法とOPA’90の関係は、成立過程から議論がありましたが、連邦法が州法を拘束しないことになりました。そのため、OPA’90 で責任限度額が認められても、州法で無限責任を追及される可能性があります。またOPA’90 では、野生生物、水、土などの自然資源に対する損害および自然資源を回復するための費用も補償の対象となります。これらの自然資源に対する損害は、CLC条約では、請求者がその損害によって直接的な経済的損失を受けたことを証明できない限り認められないものです。これを見ても分かるとおり、OPA’90は野生生物や生態系の保護にも重点を置いた内容となっています。事故責任者から見ると、経済的損害の他に自然資源に対する損害についても補償義務を負わされることになり、かなり負担が重くなります。このように、OPA’90は事故責任者にとってかなり負担の重い内容であるため、船主責任相互保険組合(P&Iクラブ)は、アメリカに航行する船舶の保険引き受けを拒否しています。油の流出による損害および油の除去費用は最終的には事故責任者に請求されますが、事故責任者が速やかに費用を支払うとは限りません。そこで、OPA’90では費用の不足によって対応が遅れることがないように、国立油濁賠償信託基金の設立を定めています。油濁賠償信託基金は1事故につき10億ドルを上限として支払うことができ、事故が起こった場合、事故対応の現場責任者である連邦現場調整官は、自らの権限で信託基金から除去費用を調達できます。この基金は、当初、国内産および輸入石油1バレルあたり5セントの賦課金によって運営されていましたが、1994年12月31日をもって賦課金の徴収は終了しました。その後は、事故責任者から回収された賠償金と罰金によって運営されています。このようにアメリカは、国際条約よりも厳しい油濁法を持ち、独自の油濁賠償信託基金を設立しているため、1992年の油濁2条約には加盟していないのです。

緊急時対応計画

OPA’90では、流出油から海洋を守るための防除手段をとる権利と義務が大統領に課せられています。アメリカの沿岸200海里以内で流出事故が発生した場合、大統領は防除のための適切な措置を講じなければなりません。大統領が具体的な防除手段をとるための国家システムが、(1)国家緊急時対応計画(NCP: National Contingency Plan)、(2)地域緊急時対応計画(RCP: Regional Contingency Plan)、(3)地区緊急時対応計画(ACP: AreaContingency Plan)の3つのレベルの緊急時対応計画です。

(国家緊急時対応計画:NCP)

NCPは、油あるいは有害物質の流出事故が発生した場合の国家レベルの対応計画です。流出事故に対応する組織および対応手段について定められており、連邦機関と州政府の役割を調整し、各機関が統合的に対応できる体制の構築を目指しています。この計画でユニークな点は、「自然資源受託者」の規程です。自然資源受託者とは、自然資源の保護を受託した者の意で、緊急時計画の策定や事故の対応において自然資源の保護が計られるよう努める責任を負っています。自然資源受託者には、連邦政府、州、ネイティブアメリカン、外国人の項があり、連邦政府の受託者は大統領によって任命されます。油濁2条約や日本の国内法など油濁法の多くは、人間の被害に主眼を置いています。その中で、自然資源の保護を明記したNCPの規程は、環境保護の観点からは先駆的なものです。NCPには、流出事故時に使用することのできる化学処理剤、バイオレメディエーション剤などの製品リスト(NCP Product Schedule)が作成されています。NCP製品リストに登録されるためには、NCPで定められる所定の情報をUS-EPAに提供しなければなりません。しかし、この製品リストは、US-EPAが使用を推奨する製品を示すものではなく、NCPが求める情報が提出された製品のリストという意味しかありません。NCP製品リストに登録されるために必要な情報については後の項で述べます。

(地域緊急時対応計画:RCP)

RCPは、アメリカ本土10地域とアラスカ、カリブ海、太平洋の合計13の地域別に作成された緊急時対応計画です。RCPは、連邦と州の代表者で構成される地域対応チームと地域に該当する州の共同作業によって作成されます。RCPの最大の目的は、連邦と州の役割を調整し、統一的な対応を可能にすることにあります。そのため、RCPの内容はNCPと矛盾してはならず、地区緊急時対応計画(ACP)と整合性がとれていなくてはなりません。

(地区緊急時対応計画:ACP)

ACPは、連邦現場調整官の指揮のもと、連邦、州、地方の有資格者からなる地区委員会によって作成されます。ACPは、沿岸警備隊、US-EPA、NOAA、地元の諸グループ、連邦、州、地方の政府機関、自然資源受託者の助言を受けて作成され、産業界、大学組織、その他様々な組織からの情報提供も奨励されています。なお、ACPは、想定される最悪の流出事故に対応できることが前提となっています。ACPには、環境的あるいは経済的に被害を受けやすい地域、防除活動における関係機関の責任、使用可能な資機材、化学処理剤その他の汚染軽減化物質のリスト、汚染軽減化物質を使用する際の手順、ボランティアの活用方法、他の対応計画との連携についての記述が含まれます。また、野生生物の保護、救護活動、保護すべき地域について定めた付属文書も作成されます。一般に、バイオレメディエーション剤は汚染軽減化物質の一種であるとみなされるため、使用の可否、使用可能な製品リストおよび使用手続きがACPに記載されます。

(船舶および施設の対応計画)

一定の要件を満たすタンカーおよび石油関連施設は、最悪の流出事故が発生した場合を想定し、それに対応できる緊急時対応計画を作成しなければなりません。

流出事故に対応する組織

流出事故に対応する組織には、主に以下のようなものがあります。

(連邦現場調整官:FOSC:Federal On-Scene Coordinator)

FOSCは、地区緊急時計画に対応する地区ごとに1人ずつ任命されており、事故に対応するための強大かつ幅広い権限を持っています。海洋の場合、これらの地区は沿岸警備隊の管区と一致しており、その地区の沿岸警備隊司令官がFOSCの任務に就きます。なお、陸での流出事故の場合、US-EPAの担当官がその任に当たります。FOSCには、主に次の4つの役割があります。

アセスメント(Assessment)
FOSCは、防除活動の始めに、流出油の量、流出油の性質、有害性、防除に必要な資材、事故責任者と地元機関の対応能力などを調査し、人員、装備、資材などの必要量を把握します。
監視(Monitoring)
事故責任者や地元機関によって行なわれる防除活動を監視します。
防除活動の援助(Response Assistance)
アセスメントの結果、防除活動に連邦政府の援助が必要だと判断した場合には、FOSCは必要な資材、人材、装備を調達します。必要な場合には、油濁賠償信託基金から資金を引き出すこともできます。
評価(Evaluation)
FOSCは、事故の後に行なわれたすべての活動について報告書を作成しなければなりません。報告書は、関係諸機関に配布され、緊急時対応計画の改善に利用されます。

(国立対応センター:NRC: National Response Center)

NRCは、沿岸警備隊職員と海洋科学技術者によって24時間体制で運営される連邦機関です。流出事故に関する通報はすべてNRCが受け付けており、NRCへの通報によってNCPが発動されます。通報を受けたNRCは、その地区のFOSCに事故の発生を連絡します。NRCは、事故の状況、必要な資機材、事故責任者に関する情報収集も行ない、データベース上で流出事故に関する報告書を管理します。

(国家対応チーム:NRT: National Response Team)

NRTは16の連邦省庁の代表者からなる組織で、US-EPAと沿岸警備隊によって共同主催されています。連邦レベルでの計画立案と調整はNRTによって行なわれます。NRTは直接事故に対応することはありませんが、情報の提供、対応計画の作成、事故対応訓練プログラムの開発を通じて、流出事故対策に関与します。地域対応チーム(RRT: Regional ResponseTeam)によるRCPの立案をサポートし、NCPと矛盾しないかどうかの判断も行ないます。NRTには、それぞれ事故対応、事故準備、科学・技術に関する情報を収集する3つの委員会があります。科学・技術委員会では、防除技術に関する情報を収集しており、開発された技術の評価を行なっています。技術に関する情報は、事故の対応でそれらの技術を採用するかどうかの判断に利用できるよう、RRTおよび関連諸機関に提供されます。したがって、バイオレメディエーションもNRTによって防除技術としての評価が行なわれ、その情報が関連諸機関に提供されているのです。

(地域対応チーム:RRT: Regional Response Team)

RRTは、RRPに対応する13の地域に1チームずつ存在し、NRTを構成する16連邦省庁の現地事務所代表者と該当する州の代表者で構成されています。RRTは、主に以下の4つの役割を担っています。

対応(Response)
RRTは、NRTと同様、直接事故に対応することはありません。技術的アドバイス、装備、人材を提供することによって、事故への対応を手助けします。RRTは、現場調整官の要請にどれだけ応えられるかについて情報交換する場にもなっています。
計画(Planning)
RRTは、事故対応時における連邦と州の役割を明確にするために、RRPを作成します。事故後は、現場調整官の報告書から地域の対応に問題がなかったかを検証し、必要に応じてRRPを改善します。
訓練(Training)
防除活動において、連邦、州、地方行政機関の間で統制のとれた対応ができるかどうかを確認するために、RRPのシミュレーション訓練を行ないます。訓練の結果、問題が発見された場合には、問題が解消されるようにRRPを変更します。
調整(Coordination)
連邦省庁と州から提供される防除のための物的資源および知的資源のうち、その地域内で利用可能なものを確認します。地域内で利用できる物が少なすぎる場合、RRTは連邦政府あるいは州政府に必要な援助を求めることができます。

(地区委員会:Area Committee)

地区委員会は、連邦、州、地方行政機関の有資格職員からなる委員会で、FOSCと共にその地区のARPを作成します。地区委員会には多くのNGOがオブザーバーとして参加しており、脆弱性の高い海岸の指定や野生動物の保護についての助言を与えています。その地区で油処理剤やバイオレメディエーション剤の使用を許可するかどうかについても地区委員会で決定され、ARPに記述されます。

(MSRC: Marine Spill Response Corporation)

MSRCは、OPA’90に対応して石油業界が設立した民間の非営利組織です。大規模な石油流出事故に対応することを目的として設立されましたが、最近は顧客の求めに応じてあらゆる規模の流出事故に対応するようになっています。米国沿岸を東部、西部、南部の3地域に分け、地域対応センターを設置して防除体制を整えています。

流出事故への対応体制

流出事故が起こった場合、最初に対応するのは、事故責任者、事故責任者との契約業者、地区の消防署、警察署、地区の担当職員などです。事故責任者または発見者は、事故の発生を国立対応センター(NRC: National Response Center)に通報しなければなりません。NRCは、通報を受けるとすぐにその地区の連邦現場調整官(FOSC: Federal On-SceneCoordinator)に連絡します。FOSCは、事故責任者および地元組織による対応状況を監視し、必要に応じて資器材を調達したりアドバイスを与えたりします。しかし、事故責任者が不明な場合、事故責任者や地元の対応能力を超えると判断された場合、流出油が公共の健康と生活に脅威をもたらす場合には、FOSCが防除活動の指揮を執ります。

事故の対応にあたっては、FOSC、州の現場調整官、事故責任者の3者からなる合同事故対策統括本部が作られ、重要事項の決定、資源管理、対応活動の調整や対応方針の決定が行なわれます。3者の間で合意が得られなかった事項については、FOSCが最終的な決定権を持ちます。したがって、バイオレメディエーション適用の可否も、最終的にはFOSCの判断によって決定されるのです。この統括本部の下には、計画、実行、現場サポートおよび財務の4 部門を担当するセクションが設置され、事故の対応にあたります【表2】。

【表2】NCP§300.915(d)バイオレメディエーション剤に求めるデータ
(1)名称、銘柄または商標。販売名。
(2)製造業者、輸入業者または販売店の名称、住所、電話番号。
(3)卸売業者または販売代理店の名称、住所、電話番号。
(4)貯蔵および現場適用時の取扱い上の注意と作業者に対する注意。貯蔵温度の上限と下限。
(5)貯蔵寿命。
(6)推奨される適用手順、濃度。塩濃度、水温、汚染の種類、その他適用条件ごとに推奨される使用条件。
(7)バイオレメディエーション剤の有効性。付属書C に記載された有効性試験の方法を使用。
(8)バイオレメディエーション剤の毒性(保留)。
(9)生物添加剤
微生物製剤は以下の情報を備えること。
  1. (A) 微生物以外の全成分の化学名と重量百分率の一覧表。
  2. (B) 全微生物の種ごとの一覧表。
  3. (C) それぞれの種のパーセンテージ。
  4. (D) 添加物を使用する時の最適pH、最適温度、最適塩濃度。添加物の効果が最適条件時の半分になるpH、温度、塩濃度の上限と下限。
  5. (E) もしあるなら、必要な栄養塩。
  6. (F) サルモネラ菌、糞便性大腸菌、赤痢菌、凝結酵素陽性ブドウ球菌、ベータ溶血性連鎖球菌の計数法。
酵素製剤は以下の情報を備えること。
  1. (A) 酵素以外の全成分の化学名と受領百分率の一覧表。
  2. (B) 酵素名。
  3. (C) 国際生化学連合(I.U.B)番号。
  4. (D) 酵素を分離した生物
  5. (E) 酵素単位。
  6. (F) 比活性。
  7. (G) 添加物を使用する時の最適pH、最適温度、最適塩濃度。添加物の効果が最適条件時の半分になるpH、温度、塩濃度の上限と下限。
  8. (H) 酵素の貯蔵寿命。
  9. (I) 酵素の最適貯蔵条件。
(10)栄養塩添加剤は以下の情報を備えること。
  • 全成分の化学名と重量百分率の一覧表。
  • 栄養塩添加剤の最適貯蔵条件。

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(2)バイオレメディエーションに対する規制

NCP 製品一覧表(NCP Product Schedule)

既に述べたように、NCPには流出事故発生時に使用することのできる化学処理剤その他の汚染軽減物質の製品一覧表が作成されています。この製品リストは、水浄化法(CleanWater Act)§311(d)(2)およびOPA’90§4201(a)に基づいて、US-EPAが作成し管理しているものです。バイオレメディエーション剤も汚染軽減物質の一種とみなされ、リストに含まれています。このリストは、US-EPAが使用を推奨する製品という意味ではなく、NCP§300.915で定める必要なデータがUS-EPAに提出された製品という意味でしかありません。§300.915は、分散剤、界面活性剤、凝集剤、バイオレメディエーション剤、燃焼剤、吸着剤の6つのパートに分かれており、バイオレメディエーション剤に必要なデータは (d)に記されています(【表2】)。

§300.915では、バイオレメディエーション剤の有効性に関する情報が求められていますが、その試験方法はNCPの付属書Cで述べられています。方法の概略を【図1】に示しました。きれいな天然海水に人工的に風化させたアラスカ・ノーススロープ原油と製剤(必要ならば栄養塩)を加え、20℃、200rpmで培養します。コントロールとして、(1)海水+風化原油、(2)海水+風化原油+栄養塩のフラスコも用意します。培養開始から0日目、7日目、28日目にサンプリングして原油成分の抽出し、抽出内部標準物質を添加してGC/MSでアルカンとPAHを測定し、統計的手法を用いて製剤の有効性評価を行ないます。なお、安全性試験の方法については、“Reserved(保留)”となっています。

流出事故が起こった時、NCP製品一覧表のどの製品を使用できるかは、RRPおよびARPに記載されています。NCP製品の事前使用許可計画は地域委員会が作成し、EPAと州のRRTメンバーおよび自然資源受託者に再検討され、承認されるとRRPおよびARPに組み込まれるのです。事前許可計画の承認にあたって、有効性および安全性に関する追加情報がRRTから求められることもあります。事前使用許可された製品は、OSCの判断によって特別の許可なしに使用することができます。

事前使用許可を受けていないNCP一覧表の製品は、OSCが必要だと判断すれば、RRTと自然資源受託者の同意を得て使用することができます。またNCP一覧表にない製品でも、OSCが必要だと判断すれば使用されることがあります。その場合、OSCはその情報を速やかにRRTと自然資源受託者に知らせなければなりません。

【図1】NCP の付属書C §4 . 0 の
バイオレメディエーション製剤有効性試験の概略

NETAC の評価マニュアル

【表3】NETACの評価マニュアル
Base Tier(基本段階):製品情報の確認
製造業者から提供される情報をもとに製品の安全性を評価します。製造業者に求められる情報は、以下のようなものです。
  • 製品の組成
  • NCP 製品一覧表への記載証明
  • 病原性生物が含まれていないという証明
  • 既存の規制リストに載っている有害物質を使用していないという証明
  • 含有化合物の危険性/便益性に関する情報
TierⅠ(段階1):フィージビリティ-調査(製品情報による適用可能性の評価)
製造業者から提供される情報をもとに製品の有効性を評価します。製造業者に求められる情報は、以下のようなものです。
  • 詳細な使用説明書(過去の使用状況も含む)
  • ラボ実験、フィールド試験の実績
  • 文献検索による成分の安全性情報の再確認
  • 魚類、無脊椎動物(海水、淡水)への急性/慢性毒性データ
  • 実験を行なった組織とその技術レベル
TierⅡ(段階2):実験室レベル実験
実験室レベルの実験で製剤の有効性と安全性を評価します。必要な実験は、以下です。
  • 有効性試験(方法はNCP付属書Cと同じ)
  • 安全性試験
    Mysidopsis bahia(アミ)、Menidia berylina(トウゴロウイワシ)を用いた96時間急性毒性試験と7日間慢性毒性試験を行なう。
TierⅢ(段階3):フィールドシミュレーション試験
実際のフィールドを模したシミュレーションシステムで、有効性と安全性の評価試験を行なう。想定されるシミュレーションシステムには、以下のようなものがあります。
  • 洋上
  • 湿地
  • 小石海岸
  • 砂浜海岸
  • 内陸海岸
  • マングローブ
  • 北極地域
  • 土壌
これらのシミュレーションシステムを用いてTier㈼と同様の有効性試験と安全性試験を行う。
TierⅣ(段階4):フィールド試験
人為的に油を流した実際のフィールドで、製品の有効性と安全性の評価試験を行う。フィールド試験を行うためには以下の情報が必要です。
  • RRT の事前許可
  • サンプリング計画
  • 試験区画の管理計画
  • 製品の使用方法
  • モニタリング項目
必要と思われるパラメータ:微生物数、微生物活性、残留油濃度、
  • 水質(温度、塩分、酸素濃度、水深)
  • 気象条件
  • 毒性データ
  • 生息生物数の変化
  • 富栄養化指標(栄養塩濃度、クロロフィル濃度)
  • 視覚的観察

国立環境技術応用センター(NETAC: National Envirionmental Technology Applications Center)は、エクソン・バルディーズ号事故を契機に、US-EPAの協力を得てバイオレメディエーション剤の評価マニュアルを作成し、1993年7月に発表しました。この評価マニュアルは、製品情報の確認(Base Tier)、製品情報からの適用可能性の検討(Tier㈵)、実験室レベルでの試験(Tier㈼)、フィールドシミュレーション試験(Tier㈽)、フィールド試験(Tier㈿)の5段階からなっています(【表3】)。この評価マニュアルは、バイオレメディエーション剤を使用する上で絶対に必要なものではありません。しかし、バイオレメディエーション剤の事前承認において、RRTがNETAC評価マニュアルに沿った試験を求める場合もあります。

ASTM (American Society for Testing and Materials) のスタンダードガイド

ASTMは、材料、製品、システム、サービスなどの基準を開発する非営利団体で、1898年に設立されました。100以上の国から3200名以上の製造者、ユーザー、政府関係者、学術関係者などがメンバーとして参加しており、様々な分野のスタンダードガイドを開発しています。石油流出事故対応技術に関する分野もあり、バイオレメディエーションのスタンダードガイドも作成されています。法的な拘束力はありませんが、参考として紹介します。

流出油バイオレメディエーションに関するASTMスタンダードガイドは、「流出油バイオレメディエーション使用に関する生態学的考察のための基準ガイド-砂浜と礫海岸」というタイトルが付けられています。これは、バイオレメディエーションの具体的な適用手順ではなく、流出油にバイオレメディエーションを適用する際の注意事項です。主な内容を【表4】にまとめました。

【表4】ASTM の流出油バイオレメディエーションに関するスタンダードガイドの概要
バイオレメディエーションに関する一般的な考察
  • 最初の防除技術としてではなく、より長期的な海岸清掃方法として用いられてきました。
  • 通常、海岸の物理的破壊は最小限に抑えられます。
  • 自然状態での微生物分解よりも早く油が除去され、正しく使用された場合、有害な影響はほとんどないようです。したがって、本来なら数年をかかる有毒成分(低~中程度の分子量の芳香族炭化水素など)の除去を、より迅速に終えるために役立ちます。一方、高分子量成分の除去にはあまり効果的ではありません。
  • 嫌気的条件下では生分解速度は著しく遅くなります。
  • バイオレメディエーションの効果は、石油分解菌数、栄養塩濃度、残留油の微生物分解性に左右されます。
  • バイオレメディエーションは、化学的安全性と作業の安全性の両方を理解する専門家の指導のもとに行われなければなりません。
  • バイオレメディエーションは、軽度の油汚染に有効であり、重度に汚染された海岸はあらかじめ大まかに油を取り除いてから適用した方がよいです。
背景
  • 添加する栄養分は生物にとって有害である可能性があり、添加する外来微生物は一時的に生態系のバランスを壊す可能性があります。硝酸性窒素はメトヘモグロビン血症などの血液疾患を引き起こす危険性があり、高濃度のアンモニアは生物に有害な影響を与えるため、窒素をはじめとする栄養塩の濃度はモニタリングする必要があります。製造者は安全性と有効な使用法を確立する必要があり、使用者はそれを守らなければなりません。
  • バイオスティミュレーションは、海岸での油の生分解促進に有効であることが示されてきました。バイオスティミュレーションは、分解菌の増殖にラグタイムがあるため、効果を発揮するまでに時間がかかります。ただし、病原性微生物が増殖する可能性もあるため、微生物のモニタリングも行っておく必要があります。
  • バイオレメディエーションが効果を発揮するまでには、通常数週間かかります。アスファルト状マットはバイオレメディエーションには適しません。
  • 栄養塩の添加は、富栄養化に伴う藻類の異常増殖や酸素欠乏を引き起こす可能性があります。 また、栄養塩中の成分が、ある種の生物にとって有害である場合もあります。
  • 石油流出事故におけるバイオレメディエーションのフィールド適用では、これまでに有害な影響は確認されていません。
  • バイオレメディエーションにおけるモニタリングパラメータとしては、以下のようなものがあります:肉眼観察、温度、塩分濃度、酸素濃度、海の状態、風速、炭化水素濃度、アンモニア性窒素濃度、硝酸性窒素濃度、リン酸濃度、毒性(4日間急性毒性または7日間慢性毒性)、微生物数、微生物活性。
勧告
  • バイオレメディエーションは、大まかな油の除去が行われた後の海岸修復法の一つと考えるべきです。
  • バイオレメディエーションは、適切な技術的知見を持つ者のもとで、健康と安全に配慮した方法に従って実施されなければなりません。
  • 汚染の量や種類、状況に応じた時間が必要です。
  • 緊急時対応計画の中で、適切なバイオレメディエーション剤の選択は不可欠なものです。 選択の際には、効果、毒性、人体や環境への影響について再検討する必要があります。
  • 汚染濃度、アンモニア態窒素、硝酸態窒素、リン酸、周囲に及ぼす毒性などの精密なモニタリング計画を作成する必要があります。

ASTMスタンダードガイドでは、バイオレメディエーションを大まかな油の除去が終了した後の二次的な浄化手段と位置付けています。また、これまでのフィールド適用事例では、環境および人に対する悪影響は確認されていませんが、安全性確認のために栄養塩、微生物、毒性などのモニタリングが必要だと述べています。その他の点についても、概ね、ここまでに述べてきたことと一致しています。

ここまでに述べていない点として、病原性微生物の増殖可能性に触れています。ASTMスタンダードでは、栄養塩の添加が病原性微生物の増殖につながる可能性もあるため、微生物状況のモニタリングを行なう必要があると述べています。しかし、実際の環境中には無数の種類の微生物が生息しており、個々の種類の増殖をすべて正確に把握することは実質的には不可能です。したがって、これまでに知られている特定の病原性微生物について増殖をモニタリングするしかないでしょう。

一方で、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE: Denaturing gradient gel electrophoresis)という方法が開発され、微生物相の変化をモニタリングできるようになってきました。これは、微生物の種類を識別することができるDNA配列(多くの場合16S rDNA)をPCR法で増幅させ、ゲル上でバンドとして検出する方法です。特定のバンドが濃くなっていた場合、そのDNAを持つ微生物の数が増えたと判断できるのです。石油汚染を受けた海洋では、この方法でAlcanivolax属、Cycloclasticus属など特定の石油分解菌の増殖が確認されることが多いです。バイオレメディエーションの実施期間中はDGGEによって微生物相の変化を観察し、石油分解菌以外のバンドが濃くなってきた場合には、そのバンドに由来する微生物を同定して病原性の有無を確認すべきかもしれません。しかし、一般的には、石油分解菌以外の微生物の増殖が確認されることはあまりありません。

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