バイオテクノロジー

NBRCニュース 第14号

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                   NBRCニュース No. 14(2012.3.30)
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 NBRCニュース第14号をお届けします。アンケートへのご協力、まことにあり
がとうございました。皆様の感想をいただき、たいへん励みになりました。ご
意見を参考に、より役に立つ情報を提供していきたいと考えております。NBRC
ニュースに対するご希望やご意見がございましたら、いつでも編集局へご連絡
ください。

(等幅フォントでご覧ください)

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 内容
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 1.新たにご利用可能となった微生物株(2012年1月21日~2012年3月21日)
 2.微生物あれこれ(11)
    子実体を形成する細菌、Myxobacteria
 3.微生物の培養法(7)
    カビに分生子を作らせやすい培養法
 4.カルタヘナ法-はじめての産業利用申請-(4)
    経済産業省への申請手続きについて
 5.NITEバイオテクノロジーセンターの出展のお知らせ

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 1.新たにご利用可能となった微生物株(2012年1月21日~2012年3月21日)
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 酵母 48株、糸状菌 6株、細菌 22株、アーキア 1株、微生物ゲノムDNA2種類
を新たに公開しました。
 公開した48株の酵母は、NBRCが油脂生産性酵母の取得を目的として独自に分
離したCryptococcus属およびRhodotorula属です。また、それらの菌株の脂質
生産性についての評価報告も掲載しておりますので、是非ご覧ください。
 
【新規公開株一覧】 
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html
【油脂生産酵母の評価報告】 
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/support/fatyeast.html

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 2.微生物あれこれ(11)
    子実体を形成する細菌、Myxobacteria         (宮下美香)
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 一般的な細菌は形態的な特徴が乏しいため、細胞の形や色などの情報に基づ
いて同定することができません。そんな細菌のなかでも、形態的な特徴が豊富
な分類群としては放線菌が知られており、二次代謝産物の探索源としても有名
です。しかし形態的にユニークな分類群は他にもあります。今回は、そのひと
つである粘液細菌(Myxobacteria)についてご紹介します。
 Myxobacteriaは、環境の変化に応じて細胞同士が連絡を取り合い、滑走運動
により集合して肉眼で観察可能な大きさの子実体を形成します。生活環が真核
生物である細胞性粘菌と非常に良く似ていますが、MyxobacteriaはDelta-
proteobacteriaMyxococcales目に属する細菌です。Myxobacteriaが初めて観
察されたのは19世紀初めで、報告したのは細菌学者ではなく植物学者でした。
その特徴的な形態のために細菌だとは認知されず、その後約1世紀にわたって
菌類であると考えられていました。現在でも使われているMyxobacteriaの幾つ
かの種名は、菌学者によって菌類の一種として報告された名前です。19世紀終
わりから20世紀初めにようやく、それらの種は細菌でありMyxobacteriaの一種
であると認識されました。
 古くから用いられている分離方法も一般的な細菌とは異なり、天然基質上に
現れた子実体を、実体顕微鏡下で観察しながらごく細くした針で直接釣り上げ
る方法が用いられます。また捕食性があり滑走運動で移動するという性質を利
用して、餌となるバクテリアを合成培地上に塗りつけ、その上に分離源となる
土壌などを置き、餌に誘われて出てきたところを釣り上げる方法など、Myxo-
bacteria独特の性質を利用した方法が確立されています。
 Myxobacteriaは土壌や植物表面、海洋などさまざまな自然環境にはば広く分
布しています。しかし、例えば木片上に出現した子実体を合成培地に移した途
端、子実体を形成しなくなる、または生育しなくなるということが多々ありま
す。子実体の形態が複雑な種ほどその傾向が高く、私も以前分離を試みた際、
イネ科植物の根元付近に出現した桜色の子実体は、培地での生育が上手く得ら
れずに幻の分離株となってしまいました。

 このように子実体形成能が失われやすいことや、培養・保存の取り扱いが一
般的な細菌とは異なることなどから、分類学的な研究はあまり活発とは言えま
せん。一方、細胞間情報伝達のモデル生物として研究されたり、二次代謝産物
の探索源として注目されるなど、学術的な知見を得る対象として、そして産業
上有用な潜在能力を保持する分類群としての魅力があります。幾つかの種につ
いてはゲノム解析もされており、ゲノムサイズは軒並み9Mb以上、大きいもの
ではSorangium cellulosumの13Mbと、細菌の中では最も大きいゲノムを有して
います。
 自然環境中には分離培養されていない様々なMyxobacteriaの存在が確認され
ています。ゲノム情報などから知見が得られ、株化する技術が進めば、より多
様なMyxobacteriaを利用できるようになるのも遠い未来の話ではないかもしれ
ません。


幻の分離株

合成培地上
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 3.微生物の培養法(7)
    カビに分生子を作らせやすい培養法         (伴さやか)
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 子嚢菌類の無性胞子(ここでは分生子)を形成させる培養法の問い合わせが
多く寄せられています。ここではその一般的な注意点について触れさせていた
だきます。しかし、多くのAspergillusPenicilliumのように、簡単に分生子
ができる種を除き、ちょっとした培養条件や菌株の状況などの違いに左右され
る為、「こうすれば必ず分生子ができる」という答えはありません。ここに挙
げる方法も、経験上こうした方が良いという程度のものであることをご了解く
ださい。

(1) 栄養基質
 一般的に、糸状菌の分生子形成は栄養成分がうすい培地の方が良好です。自
分の生存が危うくなると休眠、子孫を残す、または場所を移そうとして分生子
を形成するようです。NBRCで推奨する糸状菌類の指定培地はほとんどポテトス
クロース寒天培地(PSA)ですが、これは生育することを確認した培地だとお
考えください。多くは、代用としてポテトデキストロース寒天培地(PDA)を
使用できます。しかし、PDAは富栄養過ぎるため、概して分生子形成は悪くな
ります。胞子が必要な場合はポテトキャロット寒天培地(PCA)麦芽エキス
培地(MA)三浦のLCA培地*などの培地をお奨めします。また、その菌が生息
していた自然環境に培養条件をあわせる事も効果的で、分離源を基質として培
養すると分生子形成が活発になることがあります。NBRCオンラインカタログで
検索していただくと、大半のNBRC株について分離源(Source of Isolation)
情報をご覧いただけます。植物病原菌の場合は宿主植物の生葉を加えると良い
わけですが、カーネーション、アジサイ、ヨシなど、オートクレーブに耐え得
る厚くて丈夫な種類の葉が用いられます。

(2) 通気性の確保
 CladosporiumMyrotheciumのような環境菌(空中菌)や、Eurotiumなどの
好乾燥性菌の場合、培地は容器内に結露や曇りがなくなるまで十分に乾かした
ものを用います。試験管(斜面培地)の場合はシリコセンより綿栓の方がより
通気性が良いです。ただし、綿栓はオートクレーブ直後は濡れていますので、
常温で一晩から1日以上置いて乾燥させてください。シャーレ(平板培地)の
場合も同様で、蓋をシールなどで密封しない方が良いようです。雑菌の混入が
気になる時は、シャーレをタッパーなどの密閉容器に入れておきます。
 逆に、水生不完全菌の胞子形成誘導には、くり抜いた寒天培地ディスクを、
滅菌水に浸して培養する方法などがあります。

スラント内の結露
左から作製後一晩、1週間、1ヶ月
冷蔵保管されたスラント。矢印部分に結露。
胞子形成比較
同じ条件の培地に結露にみたてた滅菌水を少量添加すると、胞子量が減少した。
(Myrothecium verrucaria NBRC 6113)
(3) 光と傷
 比較したことはありませんが、暗い培養庫の中に置くよりも、自然光(ブラ
ックライトや蛍光灯でも可)を当てた方が良いそうです。また、継代などの作
業で培地の一部を切り出すと、その切り口に分生子が形成されることが時々観
察されます。

 その他、L-乾燥標品で保存された菌株の場合、復元時には菌懸濁液をあまり
希釈しすぎず、菌密度を高くすると分生子の形成が良かった経験もあります。
植え継ぎの際は、なるべく分生子そのものや分生子を形成している部分を移植
すると良いです。
 分生子を作らせる培養方法の他、どの菌株が分生子を良く作る株か、という
お問い合わせも多くいただきます。お気軽に電話またはメールでお問い合わせ
ください。

*水生不完全菌類のための一寒天培地、三浦・工藤、日菌報、116-118 (1970)
 現場で使える植物病原菌類解説、植物病原菌類談話会編 (2010)

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 4.カルタヘナ法-はじめての産業利用申請-(4)
    GILSP遺伝子組換え微生物について          (坂本俊一)
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 今回は、GILSP遺伝子組換え微生物について説明します。GILSP遺伝子組換え
微生物は、カルタヘナ法第12条に基づき経済産業大臣への確認申請を必要とし
ない事例の1つで、「産業利用二種省令*」別表第1号に「特殊な培養条件下以
外では増殖が制限されること、病原性がない等のことのため最小限の拡散防止
措置を執ることにより使用等ができるものとして大臣が定めるもの」として位
置付けられ、その拡散防止措置の内容として7項目が定められています。その
全てを満たす設備等を用いて自主的な管理の下でGILSP遺伝子組換え微生物の
第二種使用等をすることができます。
 GILSP遺伝子組換え微生物の具体的内容は、「遺伝子組換え生物等の第二種
使用等のうち産業上の使用等に当たって執るべき拡散防止措置等を定める省令
別表第一号の規定に基づき経済産業大臣が定めるGILSP遺伝子組換え微生物」
(GILSP告示*)で定められています。告示には別表第一「宿主・ベクター」
と別表第二「宿主・ベクター用挿入DNA」があり、これらの任意の組合せで構
成されるものをGILSP遺伝子組換え微生物と定めています。
 別表第一で注意が必要なのは、宿主とベクターの組合せは切り離すことがで
きないという点です。また宿主は特別な場合を除いて株まで指定されており、
たとえ同じ種であっても別の株はGILSP遺伝子組換え微生物にはなりません。
 別表第二で注意が必要なのは、挿入DNAの由来生物が決められているという
点です。その挿入DNAの一部では、アミノ酸の変異が指定されている場合があ
り、GILSP遺伝子組換え微生物として挿入DNAを使用する場合は、その変異が別
表第二のとおりであるかを確認しておく必要があります。
 なお厚生労働大臣が定めるGILSP遺伝子組換え微生物も経済産業大臣が定め
たものとみなしますが、「宿主・ベクター」と「宿主・ベクター用挿入DNA」
の組合せは任意ではなく限定されています。
 GILSP遺伝子組換え微生物でない場合は、カルタヘナ法第13条に基づく大臣
確認申請が必要となります。大臣確認申請の手続きについてはNBRCニュース第
13号をご覧ください。
 最後に、GILSP告示は定期的に改正されますので、最新のものを確認して申
請の必要性の有無を判断していただけるようお願いします。

*「産業利用二種省令」と「GILSP告示」は、バイオセーフティクリアリング
ハウスのホームページ(http://www.biodic.go.jp/bch/)で確認できます。

 今回で、「カルタヘナ法-はじめての産業利用申請-」の連載は最後となり
ます。法律の説明など、分かりにくいところが多々あったかと思いますが、ご
不明な点がありましたら、nite-cartagena@nite.go.jpまで、お気軽にお問い
合わせください。

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 5.NITEバイオテクノロジーセンターの出展のお知らせ
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 以下の展示会に出展いたします。是非お立ち寄り下さい。

微生物データベースの将来に関するフォーラム(日本菌学会主催)
 日程:2012年5月28日(月)
 場所:玉川大学講堂
    http://www.tamagawa.ac.jp/sisetu/gakujutu/alsrc/forum/
microbial_db_forum.htm

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 編集後記
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 今回もチョコレートのお話です。チョコレートを作るには、まず収穫した固
いカカオの実の中身を取り出し、バナナの葉などに包んで発酵させるそうです
(方法は他にもあります)。発酵には酵母、酢酸菌などの細菌や糸状菌などさ
まざまな微生物が関係しているようです。発酵後に乾燥、焙煎され・・・と工
程を経ておなじみのチョコレートになります。カカオの実は発酵を経ずに焙煎
して食べられることもあるそうですが、その場合はあのチョコレートの味や香
りは出ないそうです。チョコレートも微生物と深い関わりがあります。(NK)

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・偶数月の1日(休日の場合はその前後)に配信しております。第15号は6月1
 日に配信予定です。

編集・発行
 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター
 NBRCニュース編集局(nbrcnews@nite.go.jp)
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