バイオテクノロジー

NBRCニュース 第35号

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                   NBRCニュース No. 35(2015.10.1)
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 NBRCニュース第35号をお届けします。今号はアジアの微生物、微生物の保存
法の2つの連載をお届けします。最後までお読みいただければ幸いです。

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 内容
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 1.平成27年度NBRC微生物実験講習会のご案内
 2.新たにご利用可能となった微生物株
 3.アジアの微生物(13)
   アジアの発酵食品-ミャンマー続編-
 4.微生物の保存法(18)
   微細藻類の継代保存・培養に必要な資材
 5.NITEバイオテクノロジーセンター展示のお知らせ

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 1.平成27年度NBRC微生物実験講習会のご案内
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 微生物アンプルの復元・培養や微生物の保存方法等に関する講習会を開催し
ます。日本工業規格(JIS規格)や薬局方に用いられる細菌および糸状菌を用
いて、菌の取り扱いに関する実習を行います。皆様のご参加をお待ちしており
ます。 
 
 日時:1. 平成27年11月19日(木)10:30~17:30
    2. 平成27年11月20日(金)10:30~17:30
    各回、同じ内容です。
 場所:製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター
    千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8
 講習内容:微生物アンプルの復元や凍結保存法など(座学および実習)
 受講資格:NBRC株のユーザーあるいは今後使用する予定があり、大学等で微
      生物の取り扱い経験がある方
 募集人数:各回10名(最低履行人数は5名)
      定員になり次第、締め切らせていただきます。
 参加費用:7,800円(税込み)
 申込方法:NBRCのホームページに掲載している申込書をダウンロードしてい
      ただき、必要事項をご記入のうえ、faxあるいはe-mailでお申し
      込みください。
      https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/others/seminar.html
 募集開始:平成27年10月1日(木) 

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 2.新たにご利用可能となった微生物株
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◆ NBRC株、ゲノムDNA
 酵母 2株、糸状菌 23株、細菌 61株、ゲノムDNA 1種類が、新たにご利用可
能となりました。
 耐熱性の高エタノール発酵酵母Kluyveromyces marxianus NBRC 104275を公
開しました。この株はバイオエタノール生産に有用であり、耐熱性や多種糖資
化のメカニズム解明に繋がるとして山口大学とNITE等によりゲノム解析されま
した。また、セレブロシド生産酵母Pseudozyma aphidis NBRC 111112を公開し
ました。
 細菌では、繊維製品認証基準(SEKマーク)の試験対象菌種の同一由来株 
Moraxella osloensis NBRC 111460T、遺伝学研究に広く用いられている
Bacillus subtilis strain 168(NBRC 111470)、バニリン分解菌Pseudomonas  
sp. NBRC 111237を公開しました。

【詳細】
 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html

◆ RD株
 モンゴル由来株リストを初めて公開しました。モンゴル由来株には高塩濃度
の湖から分離したラビリンチュラ類や遊牧民の伝統食品由来の乳酸菌などがあ
ります。ベトナム由来株リストにツボカビ類 14株、ラビリンチュラ類 113株、
卵菌類 3株、藻類 3株を追加しました。是非、リストをご覧ください。

【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/new_rd.html

【RD株リスト】
 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/available_rd_list.html

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 3.アジアの微生物(13)
   アジアの発酵食品-ミャンマー続編-    (山口 薫、大野さやか)
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 アジアの発酵食品シリーズ第三弾は、またまたミャンマーです。2014年は
ミャンマー国土の最南部に位置し、海とタイに挟まれた細長い地域のタニン
ダーリ管区とパテインに近い西部地域を訪問しました。この地域特有というわ
けではありませんが、各種発酵食品のサンプリングを行い、そこから乳酸菌、
酵母、糸状菌を分離した結果をお伝えします。 

◆ Toddy juice(トディジュース)
 別名スカイビアと呼ばれるヤシ酒。ヤシの実のジュースではなく、朝、ヤシ
の葉の根元を切って、その下に太い竹筒の容器またはバケツをセットし、導管
液をためて、夕方回収したものです。容器の中で自然発酵しているようです。
この発酵に関わる微生物はどこから来るのかわかりませんが、ヤシの花の蜜を
吸いにきた虫に由来するのではないかと現地の人が言っていました。カ○ピス
サワーのような味がします。現地では適量飲むと健康によいと言われていま
す。Lactobacillus pentosusLactobacillus paracaseiLeuconostoc 
mesenteroidesFructobacillus属の新種と思われる株が分離されました。こ
れらは免疫機能を活性化させる機能が知られている種も含まれます。酵母はア
ルコール発酵に関与していると考えられるSaccharomyces cerevisiaeが分離さ
れました。

左:ヤシの葉の付け根からジュースを集めているところ、右:発酵中の様子

     (左)ヤシの葉の付け根からジュースを集めているところ
     (右)発酵中の様子

◆ Khaung yay(コンユエ)
 お米で作ったお酒です。味も見た目も甘酒に似ています。今回、このお酒の
スターター(タセイ;Tasey)をもらうことができました。この場合のスター
ターとは、穀類のデンプン糖化やアルコール発酵等の発酵プロセスに必要な微
生物を米粉の上に生育させ、小さく丸いケーキに固めたもので、餅麹と呼ば
れ、お酒等を作る際に使われます。タセイは粗く砕いたお米を団子状に丸めた
もので籾殻を周りにつけてありました。
 糸状菌は、タセイのみ分離を行い、Rhizopus oryzaeR. microsporusMucor属、Aspergillus属が分離されました。これらは古くから東南アジアの発
酵食品に関与していることが知られており、糖化を行っていると考えられまし
た。
 酵母は、タセイからSaccharomycopsis fibuligeraが分離されました。本種
は先行研究で東南アジアの餅麹から主糖化菌として分離されることが報告され
ており(1-3)、コンユエ製造における糖化も本種が関わっていることが示唆
されました。また、タセイとコンユエの両方からアルコール発酵に関与すると
考えられるS. cerevisiaePichia kudriavzeviiが分離されました。前回の
「アジアの微生物(12)アジアの発酵食品―ミャンマー編―」に述べたとおり、
P. kudriavzeviiはミャンマーの他のいくつかの発酵食品より分離されていま
す。分離方法によって、ある種が優先的に分離されている可能性も考えられる
ものの、複数回のサンプリングを通して、ミャンマーの多くの発酵食品からP. 
kudriavzeviiが分離されたことは興味深いです。
 乳酸菌はタセイからPediococcus pentosaceusが分離されました。本種は、
東南アジアの国のお酒やお酢のスターターから分離されることがこれまで
の研究により報告されていましたが(1, 3, 4)、今回、ミャンマーのスター
ターにも存在することが示されました。コンユエからは、Lactobacillus 
fermentumLactobacillus helveticusが分離されました。

         タセイ

                 タセイ      

◆ Mont hin ger(モヒンガー)
 発酵したお米の麺。日本のそうめんに非常によく似ていますが、発酵してい
るため麺だけ食べてみると少し酸味があります。ナマズの濃厚な黒いスープで
温かい麺としていただきます。地域やお店によって味がそれぞれ異なり、ミャ
ンマーの朝食の定番です。今年はモヒンガー工場に行く機会があり、いろいろ
な工程のサンプルをもらうことができました。お米を1日水につけた後、粉に
して水で練って2日間置き、細く成形して茹でます。練った状態で2日間置いて
いる時に発酵していると考えられます。Lactococcus lactisLactobacillus 
pentosusLactobacillus plantarumLeuconostoc citreumの他2種の乳酸菌
が分離されました。この他、酢酸菌のAcetobacter malorumも分離されました。
酵母も多様な種が分離され、Saccharomycetaceaeの新属と思われる2種が分離
されました。また、バナナのような非常に甘い香りを発するGeotrichum 
fragransが分離されました。糸状菌はMucor属が分離されました。モヒンガー
の酸味やおいしさは多様な微生物が複雑に絡み合ってできているのかもしれま
せん。

         モヒンガーの麺を茹でるところ

           モヒンガーの麺を茹でるところ

 これら分離された菌株は、スクリーニング株(RD株)として提供可能です。
ご興味がございましたら、ご遠慮なくお問い合わせいただけたら幸いです。

【文献】
(1)小崎, 内村(1990), 日本醸造協会誌 85:818-824
(2)内村, 小島, 小崎(1990), 日本醸造協会誌 85:881-887
(3)内村, 新村, 小原, 小崎(1991), 日本醸造協会誌 86:62-67
(4)内村, 岡田, 小崎(1991), 日本醸造協会誌 86:55-61

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 4.微生物の保存法(17)
   微細藻類の継代保存・培養に必要な資材        (関口弘志)
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 最近、「藻類を培養したいのですが、どのようなものを用意すれば良いで
しょうか?」という問い合わせが寄せられるようになってきました。藻類の培
養には光及び温度が必要です。特に光環境の整備は他の微生物と最も異なる点
です。そこで今回は、環境維持に必要な資材とそのポイントを説明します。

(1)光環境に関して
 基本的にどんな種類の光源でも構いませんが、実験室内では人工光を使用す
るケースが大半だと思われます。人工光に関してはこれまでは蛍光灯を使用す
ることが多かったのですが、近年はLEDを使用するケースが増えているようで
す。実際に我々も、一部の機器にはLEDを導入しています。
 同時に、光量への配慮が必要となります。まず、明るさの単位に関してです
が、一般的なものとして照度の単位であるルクス(Lux)が挙げられますが、微
細藻類の培養においては光合成に必要なスペクトルを考慮した光合成有効光量
子束密度(PPFD; Photosynthetic Photon Flux Density, 単位
 [μmol/m^2/sec])を用いることが一般的です。しかしながら、PPFD計は照度
計よりも高価であることが多いため、照度計の値からおおよその数値に変換し
て代用することもできます。但しこの場合、光源の種類(主にスペクトル特性
が異なる)を考慮して変換することが必要となります。強すぎる光は葉緑体が
強光阻害を起こしてしまうため、光合成生物の培養においては逆効果となって
しまうことに留意してください。あくまでも目安となりますが、特に培養初期
には30 μmol/m^2/sec程度の光量で培養を行うことをおすすめします。
 また、安定的に微細藻類を維持する際には、光源の明期と暗期を設けるケー
スもあります。その場合には24時間で任意に電源をON/OFFするタイマーを導入
します。ちなみに、NBRCでは継代保存株は明暗周期を各12時間に設定していま
す。

藻類培養用照明器具の例

       LED照明の例            蛍光灯照明の例

(2)温度維持に関して
 温度維持は基本的に他の微生物と同様です。培養を行う微細藻類に適正な温
度を維持できるものであれば培養室自体の空調(エアコン)でも個別の培養庫
(インキュベーター)でも問題ありませんが、光源が発する熱を考慮する必要
があります。特に、インキュベーターに光源を入れて使用する際には、設定温
度がインキュベーターの冷却能力を超えないようにすることが必要となりま
す。この点において、光源の種類は極力発熱が抑えられたものを使用すること
をお勧めします。なお、植物用のインキュベーターはこの点が考慮されている
ので温度管理に関しては安心であると言えます。

(3)培養容器
 シャーレ、試験管、フラスコ、培養ボトル等、培養スケールも各種あります
が、いずれの場合にも光の透過性と通気性(空気交換性)に配慮する必要があ
ります。その為、容器自体は透明であり、容器のキャップ等が通気性に配慮さ
れたもの(通気フィルターが装着されたキャップ)を用います。例えばスク
リューキャップ式の容器でも、キャップを緩めれば十分に通気しますが、培地
の蒸発や外部からのコンタミネーションなどを誘発する原因となってしまうた
め、あまりお勧めできません。

藻類の培養容器の例

        (左)組織培養フラスコ(通気対応品)
        (中央)三角フラスコ(キャップ通気加工済み)
        (右)通気対応10Lタンク

 以上が微細藻類の培養に必要な資材となりますが、個人的な印象として、微
細藻類の培養を新たに始めるからと言って特別に必要となるものは光源くらい
であり、培養方法に関しては他の微生物とあまり差が無いと思っています。何
かお困りの際はお気軽にNBRCにお問い合わせください。

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 5.NITEバイオテクノロジーセンター展示のお知らせ
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 以下に出展いたします。お立ち寄りいただいた皆様からのご相談やご質問に
もお答えします。是非お越しください。

BioJapan2015
 日程:平成27年10月14日(水)~16日(金)
 場所:パシフィコ横浜
    http://www.ics-expo.jp/biojapan/main/

第67回日本生物工学会大会
 日程:平成27年10月26日(月)~28日(水)
 場所:城山観光ホテル
    http://www.sbj.or.jp/2015

アグリビジネス創出フェア2015
 日程:平成27年11月18日(水)~20日(金)
 場所:東京ビッグサイト東6ホール
    http://www.agribiz-fair.jp/

 2015年度(第30回)日本放線菌学会大会の弊所ブースにお立ち寄りいただい
た皆様、まことにありがとうございました。

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 編集後記
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 今年の夏の始まりはとても暑かったように記憶していますが、あっという間
に秋が来てしまったように思います。気温の変化が激しいですが、皆様はいか
がおすごしでしょうか。私は創刊号から務めたNBRCニュース編集局長を前号で
退任しました。今号から新しい編集局長の下、さらに誌面の充実を図っていき
ますので、今後もご愛顧くださいますよう、よろしくお願いいたします。(YN)

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 信予定です。

編集・発行
 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター
 NBRCニュース編集局(nbrcnews@nite.go.jp)
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