バイオテクノロジー

NBRCニュース 第55号

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                      NBRCニュース No. 55(2019.2.1)
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 NBRCニュース第55号をお届けします。今号の連載記事はNBRCの菌株をちょっと変わった
視点でみる内容の「微生物あれこれ」とアーキアのメタン菌が登場する「細菌・アーキア
の分類群から見た培養方法の選び方」です。最後までお読みいただければ幸いです。

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 内容
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 1.新たにご利用可能となった微生物株
 2.微生物等の取扱い区分「BSL1*」のお知らせ
 3.微生物あれこれ(48)
    種名の付いていないNBRC株の名付け親になってみませんか
 4.細菌・アーキアの分類群から見た培養方法の選び方(3)
    メタン菌(アーキア)
 5.MALDI-TOF MS微生物迅速同定用ライブラリー追加提供
    (糸状菌Aspergillus niger類縁菌を追加)
 6.日本農芸化学会2019年度東京大会 大会シンポジウム
    「マイクロバイオーム研究から新産業創出に向けた技術的課題と取り組み」
    の開催のお知らせ
 7.NITEバイオテクノロジーセンターからの展示のお知らせ
 8.「かずさの森の微生物教室」のYouTube掲載のお知らせ
 9.システム更新による菌株発送の遅延について

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 1.新たにご利用可能となった微生物株
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◆ NBRC株
 糸状菌 3株、細菌 36株、アーキア 1株、微細藻類 9株、ファージ 1株が新たにご利用
可能となりました。
 細菌では、日本人の皮膚から分離されたアクネ菌を含むCutibacterium属 3株
(NBRC 113595NBRC 113596NBRC 113597)の他、同じく日本人の皮膚から分離された
Corynebacterium属 6株(NBRC 113590NBRC 113591NBRC 113592NBRC 113593NBRC 113659及びNBRC 113660)、Kocuria属 1株(NBRC 113594)、Staphylococcus属 2株
(NBRC 113599及びNBRC 113600)を公開しました。
 微細藻類では、外壁などの各種人工物表面から採取したもののうちApatococcus属 9株
(NBRC 103380NBRC 113309NBRC 113311NBRC 113319NBRC 113320NBRC 113322NBRC 113329NBRC 113331及びNBRC 113333)を公開しました。いずれの株も、温度とpHに
対する増殖試験を行っています。詳細に関してはお気軽にお問い合わせください。

【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html

◆ RD株
 前号でご紹介した、岩手県工業技術センターとの連携により収集したウルシ由来の細菌
と糸状菌に加え、今月から稀少なウルシ蜂蜜に由来する菌株を含む酵母(77株)について
提供を開始しました。

【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/new_rd.html
【RD株リスト】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/available_rd_list.html

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 2.微生物等の取扱い区分「BSL1*」のお知らせ
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 NBRCでは、微生物等の取扱い区分としてBSL1及びBSL2を設定していますが、新たにBSL1*
の区分を追加いたします。
 この度、BSL1のうちで、ヒトからの分離例があり、日和見感染症を起こす可能性がある
一部の細菌、古細菌について、バイオセーフティレベルを「BSL1*」に区分することにい
たしました。日和見感染症は、健康人に感染症を起こすことはほとんどない弱毒微生物が
抵抗力の低い人に起こす感染症(日本細菌学会「病原体等安全取扱・管理指針」より)、
とされております。
 なお、糸状菌、酵母、微細藻類については、BSL1*を設定しておりません。ご利用の際
の検討項目としてご参照ください。

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 3.微生物あれこれ(48)
   種名の付いていないNBRC株の名付け親になってみませんか(小牧久幸、山口 薫)
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 分類学的に新しい菌株を発見し、学名を付けて新種として提案する。承認されれば、命
名者として自分の名前が残り名誉なことなので、新種を提案してみたい研究者は多いと思
います。その一方で「微生物を分離したことなんてないから、私には絶対無理!」とか、
「新種を見つけようと思って、微生物の分離を始めても、そう簡単には見つからないだろ
う」と思われがちで、ハードルの高いテーマかもしれません。でも、‘新種になりそうな
菌株’がNBRCから入手できるとしたら、どうでしょう。ちょっと耳寄りな情報を紹介しま
す。
 NBRC株の多くは種レベルまで同定されていますが、生理活性物質等産生の付加情報があ
る菌株や、論文に掲載されている菌株の中には、属名までしか決められていない菌株もあ
ります。実はこの中に新種になりそうな株が含まれているのをご存知でしょうか。試しに
‘NBRC Culture カタログ検索’の学名の欄に「Streptomyces sp.」と入力し、検索して
みてください。約120株がヒットします。これらに種名が付いていない理由は、(1)既知
種の可能性が高いけれど種レベルの同定が済んでいない、(2)新種である可能性が高い
ので未だ種名が決まっていない、のどちらかです。(1)と(2)のどちらなのか、
16S rRNA遺伝子(16S rDNA)塩基配列で調べてみましょう。個々のNBRC No.をクリックす
ると、各菌株の詳細情報(Catalogue Detail Information)が表示されます。その一番下
にSequencesの欄があり、16S rDNAをクリックすると配列が出てきます。この配列を
16S rDNA配列に基づく同定検索データベースEzTaxon-e、即ちEzBioCloudの‘16S-based ID
(https://www.ezbiocloud.net/identify)’で解析すれば、既知種(基準株)との類似
性が分かります(注1)。例えばStreptomyces sp. NBRC 3110は既知種(Streptomyces 
alboflavus)に対して100%の類似性を示すので、新種となる可能性は低そうですね(注2)。
一方、Streptomyces sp. NBRC 101162は既知種(Streptomyces ferralitis)に対する類
似性が97.8%です。Meier-Kolthoffらの論文(Arch Microbiol. 195, 413-418, 2013)に
よると、放線菌では16S rDNA配列の類似性が99.0%以下ならば別種と推定されるため、
NBRC 101162は新種になる可能性が高いと考えられます(注3)。

 このようにして新種になりそうな株を選んで購入すれば、手間と熟練を要する菌株分離
に時間を費やすことなく、直ぐに新種提案のための研究に着手できます。今回はStrepto-
myces属を例に説明しましたが、他の属でも同様に種名が付いていない(属名+sp.で示さ
れる)株からお宝(新種候補株)が見つけられるかもしれません。
 このほか、スクリーニング株(RD株)には、2002年度から2007年度に新エネルギー・産
業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトで実施した「ゲノム情報に基づいた未知微生
物遺伝資源ライブラリーの構築」で収集された特殊環境に生息する新規微生物や、アジア
諸国の日本とは異なる気候に生息する新規微生物が含まれています。お問い合わせいただ
ければ、「○属の16S rDNA塩基配列の類似性が○%以下の菌株をリストアップしてほしい」
という要望にも対応可能です。
 NBRCの未同定株を使って、どんどん新種を提案してください。名付け親、募集中です。
同じ菌株を使って新種提案を検討している人がいるかもしれないので早い者勝ちです。

(注1)アクセスにはアカウント登録が必要です。
(注2)16S rDNA配列の類似性が高くても、それだけでは種を同定できないので、NBRC 3110
    がStreptomyces alboflavusとは限りません。
(注3)検索結果は2019年1月現在のデータです。

【NBRC Culture カタログ検索】
 http://www.nbrc.nite.go.jp/NBRC2/NBRCDispSearchServlet?lang=jp
【スクリーニング株(RD株)とは】
 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/index.html
【「ゲノム情報に基づいた未知微生物遺伝資源ライブラリーの構築」に関する詳細】
 https://www.nite.go.jp/nbrc/industry/other/project_genome.html
【アジア諸国での微生物資源収集に関するプロジェクトの概要】
 https://www.nite.go.jp/nbrc/global/asia/index.html

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 4.細菌・アーキアの分類群から見た培養方法の選び方(3)
   メタン菌(アーキア)                     (森 浩二)
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 メタン菌は系統的にアーキアのユーリアーキオータ門に属する微生物群で、嫌気環境下
においてメタン生成を伴う呼吸でエネルギーを獲得して増殖します。メタン菌はこれまで
に様々な嫌気環境から分離されていますが、生理的に非常に多様な微生物群でもあります
(参考:NBRCニュース第43号「微生物あれこれ(39)」まだまだ広がる?メタン菌の多様
性)。一見するとメタン菌用の培地は大変複雑に感じると思いますが、嫌気環境の作製を
含めて古くから変わっていません。また、メタン菌の培養に適した嫌気環境を作るスキル
があれば、全ての嫌気性微生物の培養ができると言っても過言ではありません。メタン菌
の培養方法は、嫌気環境を確保できる密閉培養器で液体培養することが基本になります。
また、水素+二酸化炭素を利用したメタン生成の場合は培養後に陰圧に、それ以外の基質
を利用したメタン生成の場合は培養後に陽圧に培養器内が変化するため、十分な気相部を
確保して培養します。植菌などは、ガス透過性が低いブチルゴム栓越しに注射器を使って
行います。培地は以下の項目に配慮して、それぞれの分類群にあったものを選択します。

◆基礎培地
 基礎となる培地は様々な種類が提案されていますが、特殊なpHや高塩濃度条件を除けば、
基本的には海洋から分離した微生物のための塩化ナトリウムなどの塩分を加えた培地とそ
れ以外に大別でき、濃度に多少の差はあるものの含まれる成分は概ね同じです。様々な微
量元素を含んだ溶液とビタミン溶液も必須ですが、厳密な濃度までこだわる必要性はあり
ません。嫌気度の指標薬として1 mg/Lのレサズリンを添加し、このレサズリンの色が無色
であることがメタン菌の培養における嫌気度の必須条件です。この嫌気度を確保するため
に、還元剤として硫化ナトリウムとシステイン塩酸塩を添加します。
◆メタン生成基質と炭素源
 メタン菌のメタン生成の基質は限られ、主に水素+二酸化炭素、酢酸、メチル化合物
(メタノール、メチルアミン類など)の3種類になります。この基質資化性はメタン菌の
分類で明確に分かれますので、増殖させたいメタン菌が決まれば使用する基質も決まりま
す。炭素源としては主に二酸化炭素を要求するため、気相部に二酸化炭素を含んだものを
使用するか、重炭酸塩を含んだ培地とします。二酸化炭素以外にも酢酸を炭素源として利
用できるメタン菌もいます。
◆気相条件
 気相部は空気から嫌気的なガスに置換する必要があり(参考:NBRCニュース第2号「微
生物の培養法(1)」嫌気性菌の培地調製法)、主に使用される気相は水素+二酸化炭素、
窒素+二酸化炭素、窒素の3種類になります。水素+二酸化炭素をメタン生成の基質とし
て使用する場合は、これらのガス成分が必須です。培養器内を1.5気圧程度にガスを充填
することで水素が効果的に培養液中に供給され、水素+二酸化炭素を基質とするメタン菌
を効率よく培養することができます。二酸化炭素については、炭素源として必須ですが、
重炭酸塩でも代替可能です。一方で、多くのメタン菌用の培地は炭酸緩衝液によりpHを調
整しています。気相の二酸化炭素と液中の重炭酸イオンでpHを調整していることが多いた
め、培地調製時に確認が必要ですし、メタン菌の二酸化炭素消費によりpHが著しく変化す
ることもあるので注意が必要です。
◆増殖促進因子
 これまでに述べた無機・有機化合物以外にも、酵母エキス、ペプトン、ルーメン液、補
酵素Mなど加えることで、増殖が著しく促進するメタン菌もいます。

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 5.MALDI-TOF MS微生物迅速同定用ライブラリー追加提供
   (糸状菌Aspergillus niger類縁菌を追加)
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 NBRCは迅速な微生物識別の技術的支援として、MALDI-TOF MS微生物同定用ライブラリー
を構築し公開しています。今回新たに、糸状菌Aspergillus niger類縁菌のMALDI-
TOF MSライブラリーを作成し、2月14日に公開を予定しています。是非ご利用ください。

【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/industry/maldi.html

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 6.日本農芸化学会2019年度東京大会 大会シンポジウム
   「マイクロバイオーム研究から新産業創出に向けた技術的課題と取り組み」
   の開催のお知らせ
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 2019年3月27日に開催される日本農芸化学会2019年度東京大会において、マイクロバイ
オーム関連のシンポジウムが開催されます。当シンポジウムでは、マイクロバイオームの
産業化に向けた動向や課題解決への取り組みについて、各分野の研究者から発表が行われ
る予定です。NBRCからは「計測レファレンスの必要性とMock Communityの提供に向けた取
り組み」について講演いたします。ご興味のある方はふるってご参加ください。
 参加申し込みは以下の情報をご覧ください。

○日本農芸化学会2019年度東京大会
 日時:2019年3月27日(水)午前
 場所:東京農業大学 世田谷キャンパス
 シンポジウム番号:4S19

【詳細】 http://www.jsbba.or.jp/2019/program_jsbba_symp.html#meeting

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 7.NITEバイオテクノロジーセンターからの展示のお知らせ
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 以下に出展いたします。ブースでは皆様からのご相談やご質問にもお答えします。是非
お越しください。

第5回インターフェックス大阪
 日時:2019年2月20日(水)~22日(金)
 場所:インテックス大阪 ブース番号:2号館9-35
    https://www.interphex-osaka.jp/ja-jp.html

第13回日本ゲノム微生物学会年会
 日時:2019年3月6日(水)~8日(金)
 場所:首都大学東京 南大沢キャンパス
    https://www.sgmj.org/sgmj2019/

日本農芸化学会2019年度東京大会
 日時:2019年3月25日(月)~27日(水)
 場所:東京農業大学 世田谷キャンパス  桜丘アリーナ(体育館2F)
    http://www.jsbba.or.jp/2019/exhibition.html
 
 ※一般講演では、NEDO委託事業「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発/高生
  産性微生物創製に資する情報解析システムの開発」で得られた成果について、「大腸
  菌による植物アルカロイド生産を題材とした人工代謝経路の実証」(講演番号4D1a10)
  と題してNBRCスタッフが口頭発表を行います。

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 8.「かずさの森の微生物教室」のYouTube掲載のお知らせ
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 NBRCでは、毎年千葉県と協力して、子ども達の夏休み期間中に、千葉県夢チャレンジ体
験スクール「かずさの森の微生物教室」を開催しています。2018年度は7月25日に中高生
を対象に、7月27日に小学生を対象に開催し、多くの方々にご参加いただきました。参加
者のアンケートには、「知っているようで、知らない微生物を知れて良かった」、「微生
物に興味をもって理科が大好きになった」などの声が寄せられました。この度、小学生を
対象とした教室の様子をYouTubeにアップロードしました。以下URLよりご覧いただけます。

【URL】 https://youtu.be/gHEqjoLj8gU

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 9.システム更新による菌株発送の遅延について
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 以下の期間は、弊機構のシステム更新のため菌株を発送するまでに通常よりもお時間を
頂く可能性がございます。大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解いただきますようお
願いいたします。

期間(予定)
2019年3月  4日(月)~2019年3月  8日(金)
2019年3月 18日(月)~2019年3月 29日(金)

※上記期間中も菌株の分譲は行います。
 なお、最新の情報は以下URLをご確認ください。

【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/information/holiday_2018.html

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 編集後記
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 木更津の自宅の周りの雑草対策として、防草シートをDIY用品店で購入して張っていま
したが、昨年夏の台風や暴風雨によってあっけなく剥がされてしまいました。おまけに、
海の潮しぶきも風に飛ばされて、家の外壁や窓、車までにも付着してベタベタに・・・。
2018年の世相を表す漢字である「災」について、些細ですが私自身もこの漢字の一端を垣
間見る出来事になりました。ただ、この漢字の選定には、「災い転じて福となす」という
思いが込められているのだそうです。なので、めげずに外壁や窓の洗浄を行い、防草シー
トの地面接着強化に引き続き取り組んでいます。作業中、ふと庭を眺めると、種が風に飛
ばされてきたのか、綺麗な花が咲いていました。(AY2)

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 ・画像付きのバックナンバーを以下のサイトに掲載しております。受信アドレス変更、
  受信停止も以下のサイトからお手続きいただけます。
  https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/others/nbrcnews/nbrcnews.html
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  ください。
 ・ご質問、転載のご要望など、NBRCニュースについてのお問い合わせは、下記のアド
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 ・掲載内容は予告なく変更することがございます。掲載内容を許可なく複製・転載さ
  れることを禁止します。
 ・偶数月の1日(休日の場合はその前後)に配信します。第56号は2019年3月29日に配
  信予定です。

  編集・発行
    独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター
    NBRCニュース編集局(nbrcnews@nite.go.jp)
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TEL:0438-20-5763  FAX:0438-52-2329
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