バイオテクノロジー

NBRCニュース 第63号

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                      NBRCニュース No. 63(2020.6.1)
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 新型コロナウイルス感染症によって亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますと
ともに、罹患された方々には心よりお見舞い申し上げます。また、医療従事者をはじめ、
このような時にも私達の暮らしや社会を支えてくださっているエッセンシャルワーカーの
皆様には深く感謝申し上げます。一日も早くこの事態が終息し、平穏な生活を取り戻せる
ように、気を緩めずにがんばっていきましょう。
 NBRCニュース第63号をお届けします。今号は連載「微生物あれこれ」の記事を2本、掲
載しています。1つは新型コロナウイルスの分類や特徴について、もう1つは微生物腐食に
関与する菌について、ご紹介しています。また、NBRCの研究成果を紹介する新連載「外部
発表のご紹介」を開始します。最後までお読みいただければ幸いです。

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 内容
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 1.新たにご利用可能となった微生物株
 2.微生物あれこれ(50)
   新型コロナウイルスについて
 3.微生物あれこれ(51)
   鉄を腐らせる微生物
 4.外部発表のご紹介(1)
   新種Streptomyces lydicamycinicusの提案およびそのポリケタイドや
   非リボソームペプチド化合物の生合成遺伝子クラスター
 5.新型コロナウイルスに対する代替消毒方法の有効性評価の検討について
 6.「緊急事態宣言」解除に伴う寄託・分譲業務等の再開のお知らせ

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 1.新たにご利用可能となった微生物株
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◆ NBRC株
 細菌43株が新たにご利用可能となりました。
 チベットの氷河の氷から分離されたFlavobacterium psychrotoleransの分類学的基準株
NBRC 113060を公開しました。また、サイレージづくりに使用されるビール粕から分離さ
れたVagococcus silage NBRC 113536や、キョンの糞便から分離されたWeissella muntiaci 
NBRC 113537を公開しました。

【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html

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 2.微生物あれこれ(50)
   新型コロナウイルスについて                (藤田 克利)
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 世界保健機関(World Health Organization:WHO)は、新型コロナウイルス(Corona-
virus)による感染症が世界的に流行している状態、つまりパンデミックを宣言しました。
このウイルスによる感染症(病名)はWHOによりCoronavirus disease 19(COVID-19)と
名付けられました(1)。数字の19は、中国で最初に本感染症が確認された2019年を示して
います。また、このウイルス自身の名称は、ウイルスの系統分類を行っている国際ウイル
ス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses:ICTV)により、
SARS-CoV-2と決められました(2)。SARSはお聞きになったことがあるかと思いますが、
2002~2003年にアジアを中心に流行した感染症、重症急性呼吸器症候群(Severe acute 
respiratory syndrome:SARS)のことです。その原因ウイルスは、それまでに知られたヒ
トに感染するコロナウイルスとは異なるため、SARSとCoronavirusのCoとVの文字から
SARS-CoVと命名され、Severe acute respiratory syndrome-related coronavirus
(SARSr-CoV)と名付けられた種に分類されました。新型コロナウイルスもこの種
SARSr-CoVに含まれ、ICTVにより2番目のSARSウイルスという意味で、SARS-CoV-2と命名さ
れたという訳です。
 そもそも今回のSARS-CoV-2を含むコロナウイルスとはどういったウイルスでしょうか。
ウイルスは表面の膜(エンベロープ)の有無と、ゲノムを構成している核酸の種類がDNA
かRNAかで先ず分けられます。核酸も一本鎖か二本鎖か、RNAの場合は、宿主内でそのまま
mRNAになるプラス鎖か、宿主内でmRNAとして働く相補鎖を合成する必要があるマイナス鎖
かで分けられます。コロナウイルスはエンベロープを持つ一本鎖プラス鎖RNAウイルスで、
ヒトと動物に感染するニドウイルス目のコロナウイルス科に分類されます。コロナウイル
スはアルファからデルタの4属に分かれ、ヒトに感染するコロナウイルスはアルファコロ
ナウイルス属のHuman coronavirus 229E、Human coronavirus NL63と、ベータコロナウイ
ルス属のHuman coronavirus OC43、Human coronavirus HKU1の4種類が風邪の原因の一つ
として知られていました。SARS-CoVはベータコロナウイルス属に分類され、ヒトに感染す
る5番目のコロナウイルスです。今回現れたSARS-CoV-2は6番目ではなく7番目で、SARS-CoV
とSARS-CoV-2の間の6番目のコロナウイルスは2012年に発生した中東呼吸器症候群(Middle 
East respiratory syndrome:MERS)の原因ウイルスMERS-CoVです。このウイルスはベー
タコロナウイルス属のMiddle East respiratory syndrome-related corona-virus
(MERSr-CoV)という別の種に属します。
 2002年のSARS、2012年のMERSの流行から、近いうちに新しいコロナウイルスによる感染
症が発生すると2年前に懸念されていました(3)。今回残念ながら的中してしまったわけで
す。21世紀は感染症との新しい戦いが始まると予測され、菌による感染症対策として、抗
生物質が効かない多剤耐性菌に対する取り組みが日本でも進められています。ウイルス感
染症対策としてインフルエンザにはタミフルを始め、数多くの薬が実用化され、アビガン
が新型鳥インフルエンザの流行に備えて備蓄されてきています。コロナ感染症については
対策が緒に就いたばかりで、人類の多くが免疫を持たないため、流行は未だ続くでしょう。
長い感染症との戦いが本格的に始まったと考えるべきです。

【文献】
 (1) World Health Organization.(最終訪問日:2020年5月9日)
   https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019
 (2) Coronaviridae Study Group of the International Committee on Taxonomy of 
   Viruses (2020). Nature Microbiology 5, 536-544.
 (3) Johns Hopkins Center for Health Security (2018). The Characteristics of 
   Pandemic Pathogens.

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 3.微生物あれこれ(51)
   鉄を腐らせる微生物                     (森 浩二)
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 鉄腐食性メタン菌Methanococcus maripaludis (NBRC 102054NBRC 103642NBRC 105639)は、2010年に内山らによって報告されたメタン菌で、NBRCで実施した微生物
腐食研究成果のひとつです(プロジェクトアーカイブス参照)。このメタン菌は、特殊な
ヒドロゲナーゼを使って金属鉄に作用することで水素を作り出し、この水素を基質とした
メタン生成からエネルギーを獲得することで増殖していると考えられています。
 金属腐食とは通常の金属の耐用年数よりも著しく速く金属が劣化していく現象ですが、
このうち微生物活動で誘引される金属腐食は微生物腐食と呼ばれ、100年以上前から知ら
れていました。微生物が関与したであろう腐食現場を検証することで微生物腐食を起こす
悪玉菌や、その現象のモデルが推定されてきましたが、実際には多くの微生物学者は微生
物腐食現象を懐疑的に考えていました。なぜならば、微生物の様々な可能性に疑いは無く
ても、ありとあらゆる場所に存在する微生物が腐食の現場に居合わせたに過ぎず、直接的
に微生物が金属に作用した証拠は無いと考えていたからです。鉄イオンを酸化・還元する
ことでエネルギーを獲得する微生物の存在は古くから知られており、様々な微生物が分離
されていましたが、金属鉄そのものに微生物が影響を及ぼすことは難しいと考えられてき
ました。金属鉄に直接作用するような微生物腐食の原因菌となり得る微生物の分離は2004
年にDinhらによる硫酸塩還元細菌とメタン菌の報告(1)が最初です。これに次いで、腐食
性メタン菌M. maripaludisとその腐食に関与する遺伝子(2,3)が報告されたことにより、
微生物腐食現象を純粋分離された菌を使って初めて再現することが出来ました。この発見
により、多くの微生物学者が微生物腐食に興味を持つようになり、その結果、新たに微生
物腐食に関与する微生物として金属鉄に直接作用する鉄酸化細菌、嫌気性酢酸生産細菌、
硝酸塩還元細菌などが分離されました。また、腐食性メタン菌M. maripaludisで見いださ
れた金属鉄から直接電子を抜き取る能力は、微生物電池、燃料用水素生産、細胞外電子伝
達の分野においても注目されています。
 NBRCで続けていた微生物腐食研究は、2018年に腐食性メタン菌M. maripaludisのヒドロ
ゲナーゼによる鉄腐食機構を提案すること(3)で一区切りとなりました。これまでに得ら
れた特異なヒドロゲナーゼを生産するメタン菌(4、5)やその検出技術(6)に関わる知見等
が、社会実装に向けた足がかりとなることを期待しています。一方で、これまでに得られ
た知見は様々な微生物腐食のひとつの現象に過ぎず、微生物腐食防止は今後も微生物学、
材料工学、電気化学などの様々な分野の研究者や技術者が協調して取り組んでいかなけれ
ばならない課題のひとつです。
画像:Methanococcus maripaludis
【文献】
(1) Dinh et al. (2004). Nature 427, 829-832.
(2) Uchiyama et al. (2010). Appl. Environ. Microbiol. 76, 1783-1788.
(3) Tsurumaru et al. (2018). Scientific Reports 8, 15149.
(4) 特許第4798367号, 新規微生物、当該微生物腐食による耐食性の評価方法、当該微生
  物による腐食の判定方法、及び、当該微生物を用いたガス中の二酸化炭素の低減方法.
(5) 特許第5441049号, 新規ヒドロゲナーゼ、ヒドロゲナーゼ産生方法、及び、水素発生
  方法.
(6) 特許第5629867号, 鉄腐食性メタン生成菌の検出方法.

【プロジェクトアーカイブス~微生物腐食~】
 https://www.nite.go.jp/nbrc/industry/other/mic2009/index.html

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 4.外部発表のご紹介(1)
   新種Streptomyces lydicamycinicusの提案およびそのポリケタイドや
   非リボソームペプチド化合物の生合成遺伝子クラスター     (小牧久幸)
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 本号からNBRCの研究成果を紹介する連載を開始します。初回は、リジカマイシン類縁体
を生産する放線菌が新種であることを報告するとともに、その二次代謝産物生合成遺伝子
クラスターを近縁種と比較した論文をご紹介します(編集局)。

◆Komaki, Hosoyama, Igarashi, Tamura (2020)
 Streptomyces lydicamycinicus sp. nov. and its secondary metabolite biosynthetic 
 gene clusters for polyketide and nonribosomal peptide compounds.
 Microorganisms 8, 370.
 https://www.mdpi.com/2076-2607/8/3/370

 研究した菌株は、富山県立大学のグループが海水から分離した新規リジカマイシン類縁
体生産菌Streptomyces sp. TP-A0598(= NBRC 110027)です。この菌株は16S rRNA遺伝子
(16S rDNA)塩基配列の解析でStreptomyces angustmyceticusの基準株に対して99.93%の
相同性を示しました(配列の違いはわずか1塩基でした)。しかし、表現形質が異なるこ
とからS. angustmyceticusではなく、他の近縁種にも分類されなかったので、新種に分類
することを提案し、“Streptomyces lydicamycinicus”と命名しました。次に、二次代謝
産物の中でポリケタイドと非リボソームペプチドに着目し、その生合成に関与する遺伝子
クラスターをS. angustmyceticus NBRC 3934(分類学的基準株) と“S. lydicamycinicus” 
TP-A0598の間で比較しました。両菌株で生産物が同じ遺伝子クラスターは5種類だけで、
それ以外に、“S. lydicamycinicus”TP-A0598には4種類、S. angustmyceticus NBRC 3934
には8種類の遺伝子クラスターが存在し、その生産物の構造は全く異なると推測されまし
た。つまり近縁な種であっても別種ならば異なる二次代謝産物を生産する可能性がありま
す。また、株間で二次代謝産物が異なるかどうかは、16S rDNA塩基配列の相同性ではなく、
ゲノム配列の相同性と比例するという結果も論文中で示しています。
 放線菌の分類では菌の性状比較が重視されてきましたが、ゲノム配列から推定される二
次代謝産物が共通しているかどうかも分類の指標になると感じています。今後の研究成果
にもご期待ください。

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 5.新型コロナウイルスに対する代替消毒方法の有効性評価の検討について
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 NITEは、経済産業省の要請を受け、新型コロナウイルスに対するアルコール以外の消毒
方法の選択肢を増やすため、有識者からなる「新型コロナウイルスに対する代替消毒方法
の有効性評価に関する検討委員会」を設置し、界面活性剤(台所用洗剤等)、次亜塩素酸
水、第4級アンモニウム塩等の物資の有効性評価を行っています。議事録や結果は、順次、
NITEの検討委員会ポータルサイトにて公開しています。これまでの検討により、いくつか
の物資に新型コロナウイルスに対する効果が確認されました。
 NITEおよび経済産業省は、有効性評価の経過や結果について国民に向けて速やかに発信
してまいります。

【検討委員会ポータルサイト】
 https://www.nite.go.jp/information/koronataisaku20200522.html

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 6.「緊急事態宣言」解除に伴う寄託・分譲業務等の再開のお知らせ
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 新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく「緊急事態宣言」を受け、NBRCおよび特
許微生物/特許生物寄託センターは一部業務を縮小および停止しておりましたが、5月25
日の全国での解除を受けて再開いたします。一方で、3密回避のため引き続き交代でテレ
ワークを実施しますので、通常よりも手続きにお時間を頂く可能性がございます。大変ご
迷惑をおかけいたしますが、ご理解いただきますようお願いいたします。
 なお、新型コロナウイルスの影響を受けた企業活動等を支援するため、一部NBRC株の無
償提供と生物遺伝資源バックアップ無償保管サービスは引き続き行っております。詳細は
以下のウェブページをご参照ください。

◆NBRCの再開する業務◆
・微生物の寄託
・NBRC株の分譲
・DNAリソースの提供
・NBRC微生物カクテルの提供
・スクリーニング株(RD株)の提供
・生物遺伝資源バックアップサービスの新規受付
・その他サービス(証明書、L-乾燥標品調製、継続保管)の新規受付

【寄託・分譲業務等の再開に関する詳細】
 寄託:https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/information/covid-19_announce2.html
 分譲業務等各種サービス:
 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/information/holiday.html
【一部NBRC株の無償提供】
 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/information/covid-19_announce.html
【生物遺伝資源バックアップ無償保管サービス】
 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/information/covid-19_announce3.html
【問い合わせ先】
 メール:nbrc@nite.go.jp
 お問い合わせフォーム:https://www.nite.go.jp/cgi-bin/contact/?cid=00000148&lang=0

◆特許微生物/特許生物寄託センターの再開する業務◆
・生存確認試験の実施を伴う業務(受託証発行、菌株の分譲、証明書発行など)
・終了通知の発行

【問い合わせ先】
 メール:npmd@nite.go.jp
 お問い合わせフォーム:https://www.nite.go.jp/cgi-bin/contact/?cid=00000150&lang=0

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 編集後記
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 「緊急事態宣言」を受けて、私も勤務のほとんどがテレワークになりました。はじめは
通勤時間0分で、起きてすぐに仕事ができるので快適でしたが、日々を重ねるうちに、一
人暮らしのテレワークはなかなか孤独で人と話したくてしょうがなくなりました。職場に
出勤していた時は、一人になりたくて電子顕微鏡室にこもって観察する日もあったのに
なぁ。(KY)

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 ・掲載内容は予告なく変更することがございます。掲載内容を許可なく複製・転載さ
  れることを禁止します。
 ・偶数月の1日(休日の場合はその前後)に配信します。第64号は2020年8月3日に配
  信予定です。

  編集・発行
   独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター(NBRC)
   NBRCニュース編集局(nbrcnews@nite.go.jp)
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