バイオテクノロジー

NBRCニュース 第67号

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                      NBRCニュース No. 67(2021.2.1)
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 新型コロナウイルスの感染者が増加しております。皆様どうかご自愛ください。また、
感染拡大の中、ご尽力されている医療従事者の皆様に深く感謝申し上げます。NBRCでは、
緊急事態宣言下、感染拡大防止対策を施しながら通常業務を継続しておりますが、輸送関
連の遅延等により標品の到着に遅れが生じる場合がございます。お急ぎのところご迷惑を
おかけいたしますが、ご理解いただきますようお願いいたします。
 NBRCニュース第67号をお届けします。今号は連載「バイテク分析法」にて、ニキビの原
因菌として知られるアクネ菌の6つのサブタイプを簡便に識別する2つの手法をご紹介して
います。また、乳酸菌Lactobacillus属の再分類による学名変更やNBRC株の手数料改定に
関するお知らせも掲載しております。最後までお読みいただければ幸いです。

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 内容
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 1.新たにご利用可能となった微生物株
 2.バイテク分析法(11)
   Multiplex PCRとMALDI-TOF MSによるアクネ菌のサブタイプの識別
 3.Lactobacillus属の再分類による学名変更について
 4.MALDI-TOF MS微生物同定用ライブラリーの追加提供のお知らせ
   (Lactobacillus属)
 5.DBRPでNBRC保有のスクリーニング株(RD株)のデータを公開
 6.NBRCの広告掲載のお知らせ
 7.手数料改定のお知らせ
 8.年度末のNBRC株・DNAリソース・NBRC微生物カクテルの発送休止について

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 1.新たにご利用可能となった微生物株
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◆NBRC株
 糸状菌7株、細菌60株、アーキア4株が新たにご利用可能となりました。
 細菌では門レベルで新規であり、原核生物でありながら膜で覆われたゲノムを持つ
"Atribacter laminatus" NBRC 112890を公開しました。本菌群は世界中のメタンが蓄積す
る地下環境に普遍的に生息していることから、天然ガス田などにおける微生物活動に新た
な知見をもたらすことが期待されています。また、サンゴの粘液から分離された放線菌
Pseudokineococcus galaxeicola NBRC 109944を公開しました。

【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html

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 2.バイテク分析法(11)
   Multiplex PCRとMALDI-TOF MSによるアクネ菌のサブタイプの識別 (森脇芙美)
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 ヒトの身体には多くの微生物が生息し、マイクロバイオーム(微生物叢)を形成してい
ます。例えばヒトの皮膚のマイクロバイオームを構成する微生物にはニキビの原因菌とし
て有名な「アクネ菌」(Cutibacterium acnes)があります。
 アクネ菌は3つのサブタイプ(I、II、III)に分けられており1)、タイプIがC. acnes 
subsp. acnes、タイプIIがC. acnes subsp. defendens、タイプIIIがC. acnes subsp. 
elongatumと、それぞれ異なる亜種に分類されています。さらにこのサブタイプは、IA1、
IA2、IB、IC、II、IIIの6つに細分化されています。
 近年、ヒトの皮膚や腸内に存在するマイクロバイオームが、宿主であるヒトの健康に大
きな影響を与えていることが話題になっており、アクネ菌についても、サブタイプと皮膚
の状態との関係について研究が進められています2)。
 6つのサブタイプは、複数のハウスキーピング遺伝子と推定病原遺伝子を用いる
multilocus sequence typing(MLST)法により識別されますが、この方法は時間と手間が
かかります。そこで、簡便かつ迅速に6つのサブタイプを識別できるMultiplex PCRによる
方法と、MALDI-TOF MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計)
を用いる方法をご紹介します。
 Multiplex PCRによる方法は、6つの遺伝子(16S rRNA、ATPase、sodA、Fic family toxin、
atpDrecA)に特異的な複数のプライマーをミックスしてPCRを行います3)。増幅される
DNA断片のサイズとその組み合わせによって6つのサブタイプを識別できます。サブタイプ
別のDNA断片の組み合わせは以下のとおりで、1回のPCRで検出が可能です。

Type IA1…16S rRNA(677 bp)、ATPase(494 bp)
Type IA2…16S rRNA(677 bp)、ATPase(494 bp)、sodA(145 bp)
Type IB…16S rRNA(677 bp)、sodA(145 bp)
Type IC…16S rRNA(677 bp)、ATPase(494 bp)、Fic family toxin(305 bp)
Type II…16S rRNA(677 bp)、atpD(351 bp)
Type III…16S rRNA(677 bp)、recA(225 bp)

 次にMALDI-TOF MSを用いた方法ですが、細胞中の全タンパク質を対象にした通常の指紋
判定法(参考:NBRCニュース第50号「バイテク分析法(6)MALDI-TOF MSを用いた微生物
同定法(その1)~基礎知識編~」NBRCニュース第52号「バイテク分析法(7)MALDI-TOF
 MSを用いた微生物迅速同定法(その2)~実践編~」)では、6つのサブタイプを識別する
ことは困難です。そこで報告されているのが、MALDI-TOF MSによって検出される特定のタ
ンパク質に注目した方法です4)。サブタイプごとにAntitoxinとCsbD-like-proteinの特
徴的な検出ピーク(m/z値)があるので、その組み合わせによって、タイプIA1、II、III
とそれ以外のIA2、IB、ICを識別することができ、さらにリボソームタンパク質由来の検
出ピーク(m/z値)を組み合わせることにより、6つのサブタイプを識別できます。サブタ
イプ別の検出ピークの組み合わせは以下のとおりです。

Type IA1…m/z 7035、7180
Type IA2…m/z 7005、7180、11200、16168、19707
Type IB…m/z 7005、7180、11200、16154、19707
Type IC…m/z 7005、7180、11214、16154 or 17905、19679
Type II…m/z 6986、7251 or 7265
Type III …m/z 7005、7180 or 7238

 このように、Multiplex PCRによる方法とMALDI-TOF MSを用いる方法で、簡便かつ迅速
にアクネ菌の6つのサブタイプを識別することができます。NBRCでは、ご紹介したサブタ
イプのうちIA1、IA2、IB、IIの菌株を保有しています(サブタイプはNBRC Culture カタ
ログの各菌株Comment欄より確認できます)。属するサブタイプを明らかにしたアクネ菌
の分離株の公開も順次進めていきますので、是非ご利用ください。また、現在、MALDI-
TOF MSを用いた、より簡便な指紋判定法のためのライブラリーを開発中です。アクネ菌と
他の細菌種の識別、並びにタイプIとIIの識別に成功していますので、是非ご期待くださ
い。

【文献】
1) Dekio et al. (2019). Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 69, 1087-1092.
2) Zhao et al. (2020). Antonie van Leeuwenhoek. 113, 377-388.
3) Barnard et al. (2015). J. Clin. Microbiol. 53,1149-1155.
4) Teramoto et al. (2019). Proc. Jpn. Acad. Ser. B. 95, 612-623.

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 3.Lactobacillus属の再分類による学名変更について
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 乳酸菌の中では最も大きな属であったLactobacillus属が、ゲノム解析に基づく分類学
的な検証の結果、新しく提案された23属を含む25属に再分類されました(Zheng et al., 
2020)。これに伴い、NBRC株の学名を変更すると共に、学名の新旧対応表を以下のウェブ
ページに掲載しました。菌株の検索にご活用ください。今後はRD株についても順次、学名
の変更を進めて参ります。

【Lactobacillus属の再分類に伴う学名変更の新旧対応表】
 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/information/20210201.html
【参考文献】 Zheng, J. et al. (2020). Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 70, 2782-2858.

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 4.MALDI-TOF MS微生物同定用ライブラリーの追加提供のお知らせ
   (Lactobacillus属)
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 NBRCは迅速な微生物同定を技術的に支援するため、MALDI-TOF MS微生物同定用ライブラ
リーを構築し公開しています。この度、Lactobacillus属(※)57株を用いてブルカー社製
MALDI Biotyper(R)用マススペクトル・ライブラリーを作成し公開しました。これらの
菌株については、ビオメリュー社および島津製作所社製SARAMIS(TM)用のSuperSpectraラ
イブラリーも現在準備中です。是非ご利用ください。

※3.に記載のZheng et al., 2020により異なる属に再分類された種を含む。

【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/industry/maldi/maldi.html

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 5.DBRPでNBRC保有のスクリーニング株(RD株)のデータを公開
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 NBRCでは2019年6月から「生物資源データプラットフォーム」(Data and Biological 
Resource Platform:DBRP)を運用しています。DBRPは、2万株以上の微生物資源とその関
連情報(微生物の特性情報、オミックス情報など)を一元的に検索することができるデー
タプラットフォームです。

 DBRPでは、NBRC株、企業、公設試験研究機関が保有する菌株情報に加え、2021年1月27日
から、国内で分離されたNBRC保有のスクリーニング株(RD株)約3万株の情報を新たに公
開しました。国内由来のRD株は、国内の強酸性温泉地等の様々な環境や、土壌・植物・発
酵食品・海水といった多様な分離源から分離された菌株で、新製品開発のためのスクリー
ニング材料として年間使用料(700円/株・年)をいただいて提供しています。分類学的に
新規と推定される微生物(※)が多数含まれる未知の可能性を秘めたコレクションです。
 これにより、これまではエクセルファイルのみで情報提供を行っていたRD株をウェブサ
イトから手軽に検索できるだけでなく、NBRC株や企業、公設試験研究機関が保有する菌株
と一緒に「土壌」という分離源や「Saccharomyces」という属名などをキーワードとして
検索することが可能となり、菌株を選択する幅が格段に広がります。
 DBRPの情報をご活用いただくことで、イノベーションの創出につながることを期待して
おります。また、企業や研究機関で保有する生物資源の利活用やビジネス機会の創出をお
考えの方は、DBRPへの積極的な情報提供をお願いします。

※リボソームRNA遺伝子塩基配列解析による評価

【DBRPトップページ】 https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/top
【RD株に関するコレクション情報ページ】
 https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/dataview?dataId=COLL0000000000002
【スクリーニング株(RD株)の提供】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/index.html
   
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 6.NBRCの広告掲載のお知らせ
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 以下の学会はオンライン開催となりましたので、年会要旨集に広告を掲載いたします。

第15回日本ゲノム微生物学会年会(オンライン開催)
 日程:2021年3月4(木)~3月6日(土)
 口頭発表:ライブ配信2021年3月4日(木)~3月6日(土)
 ポスター発表:2021年3月4日(木)~3月18日(木)(予定)
 URL:https://bunsei.phar.kyushu-u.ac.jp/sgmj2021/

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 7.手数料改定のお知らせ
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 NBRCでは、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針(平成22年12月7日閣議決
定)※」に基づき受益と負担の適正化を考慮し、実費を勘案した手数料を利用者の皆様
にご負担いただいております。この度、直近の実費に基づき見直した結果、2021年4月1日
より手数料を改定させていただくことになりました。
 新しい手数料の額などの詳細は、以下のURLよりご確認ください。今後も円滑な事業継
続に努めて参りますので、利用者の皆様にはご理解とご協力を賜りますよう、何卒宜しく
お願い申し上げます。

2021年4月1日より手数料を改定する業務
◆NBRC株の分譲関連
◆DNAリソースの分譲関連
◆生物遺伝資源バックアップサービス
◆NBRC微生物カクテルの提供
◆L-乾燥標品の調整サービス
◆継続保管

【NBRCの手数料改定に係るお知らせおよび手数料一覧】
 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/information/amendment_of_fee_2021.html
 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/charge/fee.html

※独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針(平成22年12月7日閣議決定)」において、
「特定の者が検査料、授業料、利用料、配布価格、技術指導料等を負担して実施する事業
については、受益者の負担を適正なものとする観点から、その負担の考え方を整理し、こ
れに基づき、国民生活への影響に配慮しつつ検査料等の見直しを行う。」とされておりま
す。

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 8.年度末のNBRC株・DNAリソース・NBRC微生物カクテルの発送休止について
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 システム更新作業のため、以下の日程で発送を休止いたします。大変ご迷惑をおかけい
たしますが、ご理解いただきますようお願いいたします。
 なお、オンラインでの分譲受付を近日開始する予定です。詳細は臨時号等にてご連絡い
たします。

発送休止期間:2021年4月1日(木)~4月6日(火)

※4月の手数料改定以降に依頼書を受領したものについては、改定後の手数料を適用しま
 す。改定後の手数料は「8.各種手数料改定のお知らせ」をご覧ください。
※クレジットカード払いの場合は、別途、発送日をご連絡いたします。
※分譲受付が集中する場合や、分譲標品の形態等により、発送日が前後することがござい
 ます。

【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/information/holiday.html

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 編集後記
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 我が家はこの時季、子どもたちが順番にインフルエンザに罹ることが多いですが、今年
はコロナ対策が功を奏しているのか、誰も体調を崩していません。小学校も例年なら学級
閉鎖続出ですが、今年はインフルエンザで休んでいる子が全くいないと聞きます。感染症
対策の重要性を改めて実感しました。コロナはそう簡単には治まりそうにありませんが、
今年のインフルエンザのように抑えこめる日が来ることを祈りたいです。(MH)

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 ・画像付きのバックナンバーを以下のサイトに掲載しております。受信アドレス変更、
  受信停止も以下のサイトからお手続きいただけます。
  https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/others/nbrcnews/nbrcnews.html

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  万が一間違えて配信されておりましたら、お手数ですが、下記のアドレスにご連絡
  ください。
 ・ご質問、転載のご要望など、NBRCニュースについてのお問い合わせは、下記のアド
  レスにご連絡ください。
 ・掲載内容は予告なく変更することがございます。掲載内容を許可なく複製・転載さ
  れることを禁止します。
 ・偶数月の1日(休日の場合はその前後)に配信します。第68号は2021年3月31日に配
  信予定です。

  編集・発行
   独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター(NBRC)
   NBRCニュース編集局(nbrcnews@nite.go.jp)
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独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター  生物資源利用促進課
TEL:0438-20-5763  FAX:0438-52-2329
住所:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 地図
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