バイオテクノロジー

NBRCニュース 第97号

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NBRCニュース 第97号
2026/02/02
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  1.  
  新たにご利用可能となった微生物株
微生物イメージ画像
◆NBRC株
   糸状菌68株、細菌196株、アーキア16株が新たにご利用可能となりました。
   糸状菌では、鞭毛が1本の遊走子を形成するコウマクノウキン門に属するBlastocladia属菌10株(NBRC 115043~NBRC 115052)を公開しました。純粋培養が難しいことから、カルチャーコレクションでの保存実績が限られています。また、菌類では珍しく乳酸発酵を行うという特徴があります。

   細菌では、カドミウムや銅、鉛などの重金属に対する耐性能と除去能を有することから、バイオレメディエーションでの活用が期待されるPriestia megaterium NBRC 114811を公開しました。また、タイのマングローブ林から分離され、抗腫瘍活性を示す物質を産生するStreptomyces sediminimaris NBRC 117131T、NBRC 117132を公開しました。

   アーキアでは、塩湖から分離された高度好塩性アーキアHalegenticoccus tardaugens NBRC 112515、NBRC 112517TおよびHalegenticoccus soli NBRC 112518T、NBRC 112519を公開しました。

【新たに分譲を開始した微生物資源】
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html

◆RD株
   果実や花などの植物から分離した乳酸菌38株とヒトの皮膚から分離した皮膚常在細菌12株の提供を新たに開始しました。

【新たに提供を開始したRD株】
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/new_rd.html

【提供可能なRD株リスト】
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/available_rd_list.html
  2.  
  微生物あれこれ(67)
                 見過ごされがちな培地成分の違い
       ~酵母探索で浮かび上がった培地中の生物由来成分の影響~
     
  (東洋大学 理工学部 応用化学科 准教授 峯岸 宏明)
   微生物培養に用いられる培地には、生物由来成分を含むものがあり、原料や製造条件の違いによって成分が一定にならない場合があります。そのため、同じ名称の培地であっても、必ずしも同一条件とは限りません。
   本稿では、日本酒開発を目的とした酵母探索の過程を通して、培地成分の違いがどのように問題として顕在化したかを紹介します。

日本酒醸造における酵母の役割
   
酵母菌 Saccharomyces cerevisiae はパン、ビール、ワインの製造には欠かせない酵母であり、こと日本酒の醸造においてはアルコール発酵を担うだけでなく、日本酒の香りや味わいの骨格を形づくる主要因子でもあります。とりわけ清酒酵母は、高濃度エタノールや低温環境下でも安定して発酵を進める能力に加え、酢酸イソアミルやカプロン酸エチルなどの吟醸香成分を効率よく生成する性質を持つため、酒質の個性を決定づける存在として重視されてきました。

   さらに、発酵過程で生じる有機酸や高級アルコール、含硫化合物、アミノ酸組成の変化は、香りの立ち上がりだけでなく、旨味・雑味・キレといった官能特性にも影響を与えます。したがって、日本酒の品質設計においては、酵母の選択と発酵条件の最適化が、原料米や麹の設計と並ぶ中核的な技術要素となっています。

   日本酒の醸造には、日本醸造協会が頒布する「きょうかい酵母」が広く用いられてきました。産地の酒米や飯米、水、麹菌(コウジカビ)に加え、各酒蔵が培ってきた伝統的な技術との組合せにより日本酒の多様性は生み出されています。仕込み配合、麹歩合、発酵温度、醪(もろみ)の管理、上槽や貯蔵条件といった工程ごとの微妙な差異は、吟醸香の強弱や輪郭といった香りの質、酸味・甘味のバランス、旨味の厚み、後味のキレにまで反映されます。

   同じ酵母を用いたとしても、原料と微生物の状態、工程管理の思想が異なれば、最終的な酒質は大きく変化し得ます。すなわち日本酒は、地域資源である米や水、微生物である麹菌や酵母、そして職人技が相互に作用して成立する、いわば「発酵の設計学」の結晶です。

   その一方で近年、蔵の環境に由来する蔵付き酵母や、花など自然界から分離した酵母を用いて、酒質の個性や地域性を前面に出す酒造りが試みられています。これらの酵母は、「きょうかい酵母」とは異なり、香気成分の組成や生成タイミング、酸生成の傾向、発酵速度の立ち上がりなどに差が生じることがあります。その結果、従来の酒質設計では得にくかった香味バランスが実現され、これまでにない味わいの日本酒が誕生しています。

キャンパス内からの酵母分離と評価
   
われわれは大学オリジナルの日本酒開発のために、キャンパス内から S. cerevisiae の分離を行ってきました。分離方法としてはNBRCニュース第42号の「微生物の培養法(21)Saccharomyces cerevisiaeの選択分離法」を参考にしつつ、独自の培養方法と培地組成を用いました。しかしながら、自然界から S. cerevisiaeを分離すること、なかでも清酒醸造に耐えうる性質を持つ酵母の獲得は容易ではありませんでした。

   花サンプルと各種培地の組合せにより、3年間で約50株を分離しましたが、そのうち清酒醸造が可能と判断された株は7株程度でした。これらの中から、ホトケノザ、ヤマユリ、アジサイ由来の株を用い、埼玉県越生町(おごせまち)の(有)佐藤酒造店の協力を得て、大学オリジナルの日本酒「越生梅林エスティ」が誕生しました(図1)。
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図1. 東洋大学川越キャンパス内に自生するヤマユリから分離した酵母で造られた越生梅林エスティNo.2

   さらに、越生町の越生梅林は関東三大梅林の一つとして知られており、佐藤酒造店の敷地内にも多くの梅が植栽されています。こうした環境に着目し、白梅および小梅の花から採取した酵母についても検討を進めた結果、梅の花由来酵母を用いた日本酒の開発に至りました。

   このような酵母探索においては、多数の酵母株を比較・選別する過程で、清酒醸造試験に進む前段階として、まず培地上での増殖性や生理特性を指標とした評価が行われます。そのため、酵母探索において培養に用いる培地条件は、単なる培養手段ではなく、酵母の性質を見極めるための前提条件となります。

培地成分の違いと酵母増殖への影響
  
 酵母株の評価や性状解析では、生理・生化学試験のためにさまざまな培地が用いられます。なかでも、酵母の増殖には汎用的にYPD培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、2 %グルコース)が使用されることが多いですが、用いられる酵母エキスやペプトンの種類は、ラボの慣習や入手性によって研究者ごとに大きく異なります(私見)。

   われわれは “Methods in Yeast Genetics” に記載のBacto™ Yeast Extract、Bacto™ Peptone、D(+)-glucoseを用いてきましたが、実験室酵母BY4742株、基準株JCM 7255T、きょうかい701号、焼酎用2号、ぶどう酒用1号、さらに分離株(ヤマユリ酵母)においても、株ごとの増殖に差が認められました(図2)。
 
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図2. Bacto™ Yeast Extract、Bacto™ PeptoneによるYPD培地(pH 5.5)を用いて25℃、24時間の静置培養を行った。①実験室酵母BY4742株(一倍体)、②基準株 JCM 7255T、③きょうかい701号、④焼酎用2号、⑤ぶどう酒用1号、⑥ヤマユリ酵母

   こうした株ごとの増殖の差の理由を考える上で、筆者が好塩性古細菌を扱ってきた経験が一つの手がかりになりました。好塩性古細菌の分野では、ペプトンの銘柄によって増殖が大きく変化することが知られており、経験的にBacto™ Peptoneは避けられることが多くあります。実際、Bacto™ Peptoneには胆汁末由来と考えられる抱合胆汁酸が混入し得ることが報告されており、2 %添加条件では、培地中の総胆汁酸濃度が200 μM以上になり得ることが示されています(1)。

   そこで、ペプトン中に含まれる胆汁酸の影響を確認する目的で、Bacto™ Peptoneの代わりにBD Difco™ Oxgallを添加した培地を用いて培養を行いました。その結果、BY4742株およびぶどう酒用1号で増殖が著しく低下し、胆汁酸が酵母の増殖に影響し得ることが示唆されました。

   さらに、カゼイン、獣肉、魚、大豆などを原料とする28種のペプトンを用いて6株の増殖を比較しました。その結果、一般化は難しいものの、S. cerevisiaeの培養では、動物由来ペプトンよりも植物由来ペプトンを用いた方が増殖への影響が少ない傾向が認められました。大豆ペプチドについては、凍結解凍ストレス耐性の向上(2)、脂質滴の形成の抑制 (3)、低温条件での増殖促進(4)が報告されており、今回の観察とも整合的です。

   また、これらペプトンのうち、6株すべてで増殖が良好であった2種のペプトンを用いて培地条件を揃えた上で、次に、S. cerevisiaeを原料とした14種の酵母エキスについても比較を行いました。その結果、酵母エキスの種類を変えた場合にも株間で増殖差が認められました。

培地条件の揺らぎが酵母探索に与える影響
  
 単に同じ培地名「YPD培地」を用いるだけでは、実際の培養条件を同一とみなすことはできません。培地を「糖・窒素源・ビタミンの足し算」としてのみ捉えると、こうした差異は見落とされがちです。しかし実際には、ペプトンや酵母エキスが持ち込む遊離アミノ酸比、オリゴペプチド組成、微量金属、核酸関連成分、脂質関連成分といった「見えない微量成分」が、株ごとの代謝に作用し、増殖や発酵表現型を左右し得ます。

   とくにペプトンは、原料や製造プロセスによって組成が揺らぐ複合素材であり、同じ名称であっても中身は一定ではありません。酵母エキスについても、ロット差が発酵の再現性や生産性に影響し得ることが、産業発酵の文脈で指摘されています(5)。

   酵母探索の過程では、こうした培地条件に関する前提が、酵母株の評価や選別結果そのものに影響を及ぼす可能性があります。そのため、少なくともメーカー名、品番、グレード、ロットを明記し、「同一条件で比較した」と言える実験系を整えることが、酵母株の比較や酒質設計を前に進めるための実務的な基盤になると考えられます。
 
【参考】
(1) 諸富, 境谷, 佐藤, 高橋, 牧野. (1996) 日本細菌学雑誌 51, 1043–1047.
DOI: 10.3412/jsb.51.1043
(2) Izawa, S., Ikeda, K., Takahashi, N. and Inoue, Y. (2007) Applied Microbiology and Biotechnology 75, 533-537.
DOI: 10.1007/s00253-007-0855-6
(3) Ikeda, K., Kitagawa, S., Tada, T., Iefuji, H., Inoue, Y. and Izawa, S. (2011) Applied Microbiology and Biotechnology 89, 1971-1977.
DOI: 10.1007/s00253-010-3001-9
(4) Kitagawa, S., Sugiyama, M., Motoyama, T. and Abe, F. (2013) Biotechnology Letters 35, 375-382.
DOI: 10.1007/s10529-012-1088-z
(5) Zhang, J., Reddy, J., Buckland, B. and Greasham, R. (2003) Biotechnology and Bioengineering 82, 640-652.
DOI: 10.1002/bit.10608  
  3.  
  NITEのイノベーション支援サイトをリニューアルしました
     
  ~標準化・適合性評価を使って企業による社会実装を後押しする「チームNITE」~
 NITEは令和3年8月から、各地域の行政機関等と連携し標準化や認証・認定等の適合性評価制度を構築することによって、有望な技術や製品の実用化を支援する「チーム NITE」の取組を進めています。この活動を通じて、企業による社会課題の解決と新規産業の創出を支援してきました。 

   令和7年6月、政府が公表した「新たな国際標準戦略」では、「バイオエコノミー」が8つの重要領域の一つに位置づけられたことから、標準化や適合性評価制度の構築の支援ニーズが増えてくる分野と考えています。 

   そのような中で、「チームNITE」活動をより広く知っていただくために、Webサイトをリニューアルいたしました。

   「チームNITE」とは
   新しい技術やサービスを社会に広げるには、安全性や信頼性を示す必要があります。しかし、評価方法や制度が整っていない場合も少なくありません。

   チームNITEは、こうした課題に対し、標準化や認証・認定などの適合性評価制度(製品やサービスが基準を満たしていることを証明する仕組み)の構築を通じて、技術の社会実装を後押しするNITEの支援体制です。

   製品やサービスの信頼性向上や市場での差別化を実現するため、課題整理から評価方法の検討、人材育成、運用体制づくりまでを、一体的に支援します。

▼ 新サイトはこちら
https://www.nite.go.jp/nite/innovation/index.html

▼リーフレットも併せてご覧ください
https://www.nite.go.jp/data/000159642.pdf
 
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評価制度構築支援リーフレット

   「チームNITE」活動にご興味のある方、ご相談をご希望される方は、以下まで、ご連絡をお願いいたします。

   「チームNITE」窓口:teamnite@nite.go.jp

 【参照】
(1) 内閣官房 知的財産戦略本部「新たな国際標準戦略」
  4.  
  DBRP(生物資源データプラットフォーム)~更新情報のお知らせ~
■岐阜大学高等研究院 微生物遺伝資源保存センター(GCMR)のGTC株を追加公開(2025年12月23日)

   岐阜大学高等研究院 微生物遺伝資源保存センター(GCMR)では、日和見感染菌を含む広汎な病原細菌を維持・提供しています。

   このたび、GCMRが保有する132株の微生物情報と33件のゲノム配列を含むゲノム解析情報がDBRPから新たに閲覧可能となりました。
   今回追加したのは、気道や肺から分離された菌株や、ペニシリンやマクロライドに耐性を示す菌株です。

   DBRPに登録したGCMR(GTC株)の情報は下記URLをご参照ください。

【GCMR(GTC株)コレクション情報】
https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/dataview?dataId=COLL0001100000001

【2025年12月23日に追加されたGCMR(GTC株)のリスト】
https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/releasedatalist?releaseId=20251223_gifu-univ
  5.  
  YouTubeで楽しく学ぶPSA培地の調製方法
   多くの糸状菌はジャガイモ由来の成分を含む培地で良好に生育することが知られており、Potato Dextrose Agar(PDA)培地や Potato Sucrose Agar(PSA)培地が広く用いられていますが、PSA培地は市販されていません。

   NBRCはPSA培地のレシピをウェブサイト上で公開していますが、「ジャガイモエキスの具体的な作り方や、作業時の注意点が分かりにくい」という声が、多く寄せられていました。

 そこで今回、PSA培地の作り方を分かりやすく解説した動画を、NITE公式YouTubeチャンネルにて公開しました。実験初心者の方にも理解しやすいよう、料理番組風の構成で、手順やポイントを丁寧に紹介していますので、ぜひご参考ください。

▶動画はこちら
【NBRC】ポテトスクロース寒天培地(PSA)の作製方法
  6.  
  NBRCが展示、発表等を行うイベントについて
   以下のイベントにて発表を行います。ぜひご参加ください。

日本農芸化学会 2026年度 京都大会
   日時:2026年3月9日(月)~12日(木)
   会場:同志社大学
      今出川キャンパス(京都府京都市上京区今出川通り烏丸東入)
      室町キャンパス(京都府京都市上京区烏丸通上立売下ル御所八幡町103)
   URL:https://www.jsbba.or.jp/2026/
   NITEの参加形態:口頭発表
 
   編集後記
   寒さが一層強くなってきました。培養している微生物たちはそんな外気をものともせず一定の温度でぬくぬくと生育していくので少し羨ましくなります。いや、その後の顛末を考えると羨ましくはないですね。。。
   ヒトはそんなわけにはいきませんので、適度に運動しながら体調管理に気をつけたいものです。脚のトレーニングは真面目に取り組むといろいろと数値が下がるのでおすすめです。(MY)
微生物情報の検索は「DBRP(生物資源データプラットフォーム)」
NBRC株の検索、ご依頼は「NBRCオンラインカタログ」
微生物に関するご相談は「微生物コンシェルジュ」
微生物の有害情報の検索は「M-RINDA」
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・NBRCニュースは偶数月に配信しています。次号(第98号)は2026年3月下旬の配信を予定しています。

編集・発行
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