バイオテクノロジー

ヨウ素酸化細菌の腐食機構

水溶性ガス田からの金属腐食菌の分離で、ヨウ素酸化細菌がヨウ素イオン存在下で鉄を腐食させることを示しました。この腐食機構を詳しく調べるため、電気化学的試験を実施しました。実際の腐食環境では、クロム鋼製の圧入配管においても腐食が観察されていることから、ステンレス鋼のような耐食性を示す合金に対しても、本細菌が腐食を誘導し得るかについて電気化学的な検討を行いました。

電気化学試験は、【図1】に示すように、作用電極としてステンレス鋼電極を使用し、試験液にはヨウ素イオンを含んだかん水を用いて開放回路電位(オープンサーキット・ポテンシャル)を測定しました。

【図1】ステンレス鋼試験片電極を用いたヨウ素酸化細菌培養液の電気化学試験

電位が安定後、各分離株を接種しました(【図2】)。

黒で示したところが無菌対照区で、顕著な電位変化は観察されませんでした。オレンジで示したヨウ素イオン酸化能をもたないdMB-MAT35株においても顕著な電位の変化は観察されませんでした。一方、ヨウ素酸化細菌dMB-MAT32株は、接種直後から電位の貴化が観察されました。この電位貴化現象は、隙間腐食や孔食といった局部腐食につながり、腐食リスクの増大を示しています。さらに、ヨウ素酸化細菌dMB-MAT3株では最も激しい電位の挙動が観察されました。接種直後、電位の貴化がわずかに見られた後、急激な電位の低下が観察され、その後電位の上昇・低下を繰り返し、最終的に低い電位を維持しました。このような挙動は、ステンレス鋼表面の不動体被膜の破壊による電位の急激な低下、再不動体化、不動体被膜の破壊を示しています。不動体被膜の破壊を示しているということは、すなわち、本細菌によりステンレス鋼電極に腐食が生じていることを示しています。

【図2】ヨウ素酸化細菌の金属腐食能の電気化学的評価:ステンレス鋼に対する腐食誘導の評価

次に、このステンレス鋼の腐食がヨウ素酸化細菌による分子状ヨウ素の生産に依存しているかどうか調べるために、様々な濃度のヨウ素溶液(トリヨード溶液、KI3)中でのステンレス鋼電極の開放回路電位の挙動を検討しました。1-2mMのヨウ素溶液中では電位貴化のみが観察され、3mM以上のヨウ素溶液では顕著な電位の上下動、すなわち、腐食の誘導が観察されました(【図3】)。

この挙動は【図2】で示したdMB-MAT3株での挙動とよく一致することから、dMB-MAT3株存在下では3mM以上の分子状ヨウ素が生産されている可能性が考えられます。しかし、dMB-MAT3株の試験系には、1mMのKI3しか添加されておらず、試験液全体で3mMという分子状ヨウ素を生産することはできません。

【図3】ヨウ素溶液中でのステンレス鋼電極の電位挙動

以上の結果から次のようなモデルが考えられました(【図4】)。dMB-MAT32株は、ヨウ化物イオンから分子状ヨウ素を生産することで、ステンレス鋼の腐食に直接関与せず遊離した分子状ヨウ素による腐食を誘導していると推定されます。一方で、ステンレス鋼に腐食を誘導したdMB-MAT3株では、ヨウ素イオンの酸化を行うとともに、その分子状ヨウ素を何らかの方法で菌体周辺に留め、金属表面において局所的に分子状ヨウ素の濃度が高い領域を作り出して腐食を誘導している可能性が考えられます(【図4】)。

【図4】ヨウ素酸化細菌(IOB)による推定の腐食メカニズム
 

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