バイオテクノロジー

NBRCニュース 第76号

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                      NBRCニュース No. 76(2022.8.1)
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 NBRCニュース第76号をお届けします。今号では連載「あなたの活用例教えてください」
にて、微生物を用いてウメの調味液からDHAを生産する取り組みについて紹介いたします。
最後までお読みいただければ幸いです。

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 内容
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 1.新たにご利用可能となった微生物株
 2.あなたの活用例教えてください(5)
  使用済ウメ調味液からDHAを生産
  ~微生物を用いた高付加価値油脂の製造技術~
 3.NBRCヒト常在微生物カクテルを提供中!
  品質を向上させた改良版NBRC微生物カクテルも提供中!
 4.DBRPの検索がもっと便利に!
  ~絞り込み検索ができるようになりました~
 5.NBRCの展示について

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 1.新たにご利用可能となった微生物株
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◆NBRC株
 糸状菌10株、細菌8株が新たにご利用可能となりました。
 
【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html

◆RD株
 国立科学博物館より譲り受けた植物内生糸状菌180株の提供を新たに開始しました(NBRC
ニュース第58号「2.埋蔵菌プロジェクト」参照)。また、これまでに公開していたヒト
由来微生物株100株に加えて、新たにヒトの糞便から分離した細菌24株を公開しました。
今回の公開株には酪酸産生菌の分類群として知られるClostridiales目のLachnospiraceae
科及びRuminococcaceae科に属する10株に加え、Bacteroides属及びその類縁菌5株、
Erysipelotrichia綱に属する3株などが含まれています。マイクロバイオーム研究などに
ご活用ください。その他、果実や花などの植物由来酵母等20株についても新たに提供を開
始しました。

【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/new_rd.html
【RD株リスト】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/available_rd_list.html

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 2.あなたの活用例教えてください(5)
   使用済ウメ調味液からDHAを生産
   ~微生物を用いた高付加価値油脂の製造技術~
                (和歌山県工業技術センター食品開発部 中村 充)
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<ウメ産業の課題>
 和歌山県紀南地域における「ウメ栽培」は、収穫量、産出額、栽培面積のいずれも日本
一であり、これまでの国内ウメ産業を支えてきました。現在、ウメ加工品の約8割は「梅
干し」であり、中でも、鰹節やはちみつを加えて減塩調味する「調味梅干し」は、市場の
ニーズに幅広く応えることにより、市販されている梅干しの大部分を占めています。一方、
調味梅干しの製造過程では、高濃度の塩や糖を含む使用済みのウメ調味液が大量に排出さ
れます。これらの処理費用は、調味梅干しの製造コストを増大させる要因の一つとなって
いることから、ウメ調味液の様々な利活用技術が検討されてきました。しかしながら、未
だ解決に至っていないのが現状です。

 食品系未利用資源を活用しようとする場合、資源そのものが需要に見合うだけの量を供
給できるか、季節変動による成分の変化や産出量が変化しないか、といったことが重要に
なります。農産物の加工残渣の場合、その大半が収穫時期に一極集中してしまい、また、
腐敗しやすいものが多いため、その保存に冷凍や乾燥といった処理が必要になってしまい
ます。この点においてウメ調味液は、季節変動がなく年間を通じて十分量が得られ、なお
かつ、その塩分とpHから腐敗しにくく、工業的な観点で大きな優位性があります。そこで
我々は、バイオプロセスを用い、ウメ調味液を有価物へ変換できる技術の開発を目指しま
した。

<研究の背景>
 和歌山県工業技術センターでは、これまで様々な分離源から酵母などを採集し、微生物
ライブラリーを構築してきました。ウメ調味液を分離源とした酵母も保有しており、企業
への導入例もありますが、あくまでも活性汚泥処理の前処理としての利用であり、有価物
への変換での活用事例はありませんでした。一方、分離源はウメと異なるものの、ウメ調
味液を栄養源として利用できる酵母や、体内に油脂を蓄積できる酵母も分離することがで
きましたが、増殖性や耐塩性、油脂の付加価値などの観点から満足のいく結果は得られま
せんでした。そこで、(独)製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンターとの共同
研究を実施し、NBRC株、スクリーニング株(RD株)の中からウメ調味液を有価物に変換で
きる最適な株のスクリーニングを実施しました。

<必要とされる株の性能>
 使用済みのウメ調味液は、メーカーや種類によって異なりますが、概ね、塩分が約5%、
全有機炭素濃度が100,000 ppm以上あるため、原液で微生物培養をすることはできません。
そこで水で希釈しますが、工業的にはできる限り希釈倍率の低い、つまり、高塩分、
低pH、高炭素濃度の状態で生育できる株を使用する必要があります。本事業では、使用済
みのウメ調味液を「処理する」という側面も持つため、溶解している炭素成分をどれだけ
消費できるかという性能が必要です。微生物を培養した後のウメ調味液がただの塩水にな
っており、そのまま河川放流が可能になるのが理想です。一方、「有価物への変換」とい
う観点で見ると、より付加価値の高い物質を高生産できる性能が求められます。工業技術
センターでは、以前から油脂酵母のスクリーニングや組換え技術の開発を実施しており、
技術的な蓄積を有していたため、本事業での有価物のターゲットは「油脂」に設定し、対
象微生物を油脂生産微生物類としました。有用株の選抜試験は、耐塩性の有無と油脂の種
類及び生産性を一次選抜の要件とし、また、ウメ調味液での増殖性と炭素除去率を要件と
した二次選抜を設定しました。

<NBRC株とRD株からの選抜>
 一次選抜においては、油脂酵母では、Cryptococcus属、Lipomyces属、Rhodotorula属、
Yarrowia属、Rhodosporidium属からNBRC株合計150株を対象とし、1~3%の塩分濃度範囲
で培養試験を行いました。その結果、塩分2%で生育可能な株が4株、1%で生育可能な株
が41株あることが分かりました。また、これらの選抜株が産生する油脂の分析を行ったと
ころ、いずれの株もオレイン酸やパルミチン酸などが主成分であることが分かりました。
一方、油脂酵母以外の微生物株では、海洋性微生物であるAurantiochytrium類(NBRC株30
株、RD株80株)を対象として同様に一次選抜を行いました。これらのAurantiochytrium類
について、Hsp90遺伝子に基づく系統解析を行ったところ、DHA生産性の系統を含むグルー
プ、スクアレン生産性の系統を含むグループ、新規系統群の3グループに分かれることが
分かりました。これらのグループごとに培養試験を実施してみると、耐塩性は高いものの
耐酸性が低いものが多く、DHA生産性の系統を含むグループのみ酸性条件のウメ調味液で
増殖できることが分かりました。

 一次選抜で油脂酵母15株とAurantiochytrium類10株を選抜し、増殖性と炭素除去率に重
点を置いた二次選抜を行いまいた。二次選抜では、培養特性を詳細に調べた後、不足して
いる栄養素や最適pHなども詳細に調べ、増殖と水処理を両立できる株の選定を行いました。
その結果、Aurantiochytrium類2株(ともにRD株)を本事業における最適株として選抜し
ました。一方の株は、DHA生産株でありながらウメ調味液の炭素除去能が高く、増殖性が
非常に高いことが特徴であり、もう一方の株は、スクワレンの生産量が高いことが選定理
由となりました。

<さいごに>
 今回の事業では、NBRC株やRD株の油脂生産微生物を対象として、ウメ調味廃液での培養
に適した株の選抜を実施しました。同様の取り組みについて、自然界の微生物を対象にす
る場合、分離源や採取場所を特定することで地域性を持った微生物をスクリーニングする
ことができます。しかし、これには多くの労力を要し、また油脂生産微生物のみを収集し
ていくのは非常に困難です。しかしながら、NBRC株やRD株には、対象となる微生物が遺伝
子情報とともに数多く保存されているため、より効率の高い選抜試験を実施することがで
きました。現在、弊所では、選抜した2株を用い、ウメ調味液での培養試験や油脂生産に
関するデータを蓄積しています。現状では、実験室レベルにおいて、ウメ調味液1トンか
らDHAを15 kg程度生産できる培養技術を構築しました。今後、これらの技術を社会実証に
繋げていくため、広報活動を強化し、企業との連携を目指していきたいと考えています。

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 3.NBRCヒト常在微生物カクテルを提供中!
  品質を向上させた改良版NBRC微生物カクテルも提供中!   (三浦隆匡)
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 日頃よりNBRC微生物カクテル(1)をご愛顧いただき誠にありがとうございます。NBRC
ニュース 第65号「バイテク分析法(10) ヒト常在菌NBRC微生物カクテルの提供に向けて
」(2)でご紹介した「NBRCヒト常在微生物カクテル」(Cell-Mock-003およびDNA-Mock-003)
を、2022年1月13日から提供開始しております(3,4)。

 NBRCヒト常在微生物カクテルは、微生物細胞の混合方法を改良したことにより、構成微
生物の混合比率の検出値が従来品と比較して理論値により近づき、ロット間のばらつきを
抑えることにも成功しています(5)。加えて、NBRCヒト常在微生物カクテルが、ヒトマイ
クロバイオーム(※1)解析により取得した試験データの妥当性を評価するための「もの
さし」となる参照用サンプルとして、高精度、高品質であることを実証した論文も発表さ
れました(6)。これらにより、NBRCヒト常在微生物カクテルとヒトマイクロバイオーム解
析のための推奨分析手法(SOP)(7,8)を組み合わせて試験を行うことで、ヒトマイクロバ
イオーム研究を高い精度と信頼性をもって実施できる環境が整いました。

 さらに、2022年7月28日には、NBRCヒト常在微生物カクテルで用いた混合方法を適用し
混合比率を理論値に近づけた「改良版NBRC微生物カクテル」(Cell-Mock-002およびDNA-
Mock-002)の提供を開始しました。改良版NBRC微生物カクテルでは、NBRCヒト常在微生物
カクテルとの間で共通する種を同じ株にするため、2種のNBRC株の変更も行いました(1)。

 微生物叢解析手法の評価やデータの品質管理などの参照用サンプルとして、これらの微
生物カクテルを是非ご活用ください。NBRC微生物カクテルのご購入は下記ウェブページを
ご覧ください。

【NBRC微生物カクテル】https://www.nite.go.jp/nbrc/industry/microbiome/cocktail.html

 なお、現行版NBRC微生物カクテル(Cell-Mock-001およびDNA-Mock-001)の提供は、本
年9月30日または標品の在庫がなくなった日のいずれか早い日をもって終了いたしますの
で、ご利用の際はご注意ください。

※1 ヒトの体に生息する微生物の集団「微生物叢(そう)」のこと。

【引用】
(1) https://www.nite.go.jp/nbrc/industry/microbiome/cocktail.html
(2) https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/others/nbrcnews/news_vol65.html#news65_2
(3) https://www.nite.go.jp/nbrc/industry/microbiome/cocktail20220113.html
(4) https://www.nite.go.jp/nbrc/information/release/2011320113.html
(5) 三浦隆匡ら、第26回腸内細菌学会学術集会.(2022年7月)
(6) Tourlousse D. M. et al., Microbiology Spectrum, 10: e01915-21 (2022)
(7) Tourlousse D. M. et al., Microbiome, 9:95 (2021)
(8) https://jmbc.life/news/images/2021.06.30.pdf

【謝辞】
 NBRCヒト常在微生物カクテルは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機
構(NEDO)の「NEDO先導研究プログラム/新産業創出新技術先導研究プログラム/ヒトマ
イクロバイオームの産業利用に向けた、解析技術および革新的制御技術の開発」(2018年
度~2020年度)による支援を受け、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)、一
般社団法人日本マイクロバイオームコンソーシアム(JMBC)、および国立研究開発法人理
化学研究所(RIKEN BRC-JCM)と共同で開発されました。

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 4.DBRPの検索がもっと便利に!
   ~絞り込み検索と同義語検索ができるようになりました~
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 DBRP(Data and Biological Resource Platform:生物資源データプラットフォーム)
は、5万株以上の微生物資源とその関連情報(微生物の特性情報、オミックス情報など)
を一元的に検索することができるデータプラットフォームです。

 2022年5月のDBRPの検索画面リニューアルに続き、6月には検索機能を大幅に強化しまし
た。

強化ポイント① ~絞り込み検索~
 検索結果の絞り込み検索ができるようになりました。例えば、検索結果として表示され
た微生物株のリストに対し、分離源、酸素要求性や属名などの複数のプルダウンメニュー
で絞り込みができます。もちろん、これまでのようにDBRPに登録しているコレクション毎
の表示やゲノムデータの件数などでソートして絞り込むこともできます。
 
強化ポイント② ~同義語検索~
 DBRPに同義語辞書(※1)を搭載いたしました。これまでは「収録データ全文検索」で
「ワイン」を検索するとカタカナの「ワイン」の記載のあるデータのみが検索結果として
表示されていましたが、今回の強化により「wine」の検索結果も併せて表示されるように
なりました。これにより、表記の違いによる検索漏れが大幅に軽減され、検索の幅が格段
に向上しました。

 これまで以上に検索しやすくなったDBRPをぜひ一度ご利用ください。今後も搭載する機
能やデータを更新し、ユーザーの皆様の利便性を高める取り組みを続けてまいります。
DBRPに対するご意見、ご要望がありましたら、お気軽に窓口bio-dbrp【@】nite.go.jp
(メールを送信される際は@前後の【】を取ってご利用ください)までご連絡ください。

【DBRPトップページ】https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/top

※1同義語辞書は、ライフサイエンス辞書プロジェクト
( http://www.life-science-dictionary.com )で得られた研究成果を利用しています。

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 5.NBRCの展示について
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 以下のイベント・学会にて、出展または発表いたします。ぜひご参加ください。

2022年度(第36回)日本放線菌学会
 日時:2022年9月14日(水)~16日(金)
 会場:福井県国際交流会館(福井県福井市宝永3-1-1)
 URL:https://www.s.fpu.ac.jp/saj36th/

令和4年度日本植物病理学会関東部会
 日時:2022年9月15日(木)~16日(金)
 実施形態:オンライン
 URL:https://ppsj.org/pdf/meeting/2022kanto.pdf

トーゴーの日シンポジウム2022
 日時:2022年10月5日(水)
 実施形態:オンライン
 URL:https://biosciencedbc.jp/news/20220628-01.html

BioJapan 2022
 日時:2022年10月12日(水)~14日(金)
 会場:パシフィコ横浜(神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1)
 URL:https://jcd-expo.jp/ja/

第74回日本生物工学会大会
 日時:2022年10月17日(月)~20日(木)
 実施形態:オンライン(プログラムの一部は対面で実施)
 URL:https://www.sbj.or.jp/2022/

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 編集後記
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 今年はあっという間に梅雨が明け、例年以上に長い夏になりそうです。炎天下の中、通
勤しなくて済むテレワークはとても快適ですが、エアコンを付けないと身の危険を感じる
ほど部屋が暑いです。節電も大事ですが、無理せず夏を乗り越えられたらと思います。
(MH)
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微生物に関する情報、ツールを公開しています。ぜひご活用ください!
●微生物情報の検索は「DBRP(生物資源データプラットフォーム)」
 https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/top
▲NBRC株の検索、ご依頼は「NBRCオンラインカタログ」
 https://www.nite.go.jp/nbrc/catalogue/NBRCDispSearchServlet?lang=ja
◆微生物の復元、培養、保存法の紹介動画
 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/support/ampoule.html
■微生物の有害情報の検索は「M-RINDA」
 https://www.nite.go.jp/nbrc/mrinda/
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 ・画像付きのバックナンバーを以下のサイトに掲載しております。受信アドレス変更、
  受信停止も以下のサイトからお手続きいただけます。
  https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/others/nbrcnews/nbrcnews.html
 ・NBRCニュースは配信登録いただいたメールアドレスにお送りしております。
  万が一間違えて配信されておりましたら、お手数ですが、以下のアドレスにご連絡
  ください。
 ・ご質問、転載のご要望など、NBRCニュースについてのお問い合わせは、以下のアド
  レスにご連絡ください。
 ・掲載内容を許可なく複製・転載することを禁止します。
 ・NBRCニュースは偶数月の1日(休日の場合はその前後)に配信します。次号
  (第77号)は2022年10月3日に配信予定です。

  編集・発行
   独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター(NBRC)
   NBRCニュース編集局(nbrcnews【@】nite.go.jp)
   (メールを送信される際は@前後の【】を取ってご利用ください)
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お問い合わせ

独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター  生物資源利用促進課
TEL:0438-20-5763  FAX:0438-52-2329
住所:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 地図
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