バイオテクノロジー

NBRCニュース 第78号

NBRCニュース 第78号
2022/12/1
    今号の内容
  1. 
  新たにご利用可能となった微生物株
◆NBRC株
   糸状菌23株、細菌28株、微細藻類3株が新たにご利用可能となりました。
   糸状菌では、地衣類に多く含まれることが知られているポリオール(リビトールやマンニトールなどの多価アルコール)の同化能に関する研究に使用された、地衣類から分離された菌類17菌株(NBRC 113718~113733, NBRC 113944)を公開しました。

   細菌では、オーストラリアのミツバチから分離された乳酸菌(NBRC 114991, 114992, 115004)およびカジノキの実から分離された乳酸菌(NBRC 114433~114437)を新たに公開しました。これらは、グルコースを炭素源として最も好む一般的な乳酸菌とは異なり、炭素源としてフルクトースを好む(fructophilic)乳酸菌であることが報告されています。また、最も長い微生物種名であるMyxococcus llanfairpwllgwyngyllgogerychwyrndrobwllllantysiliogogogochensisを含む粘液細菌5株(NBRC 114350~114352, 114505, 111985)を公開しました。粘液細菌は多様な二次代謝を有することが知られており、海洋由来であるNBRC 111985は、寒天培地で培養すると寒天をクレーター状に分解していきます。ちなみに「Llanfairpwllgwyngyllgogerychwyrndrobwllllantysiliogogogoch」は英国にある地名です。

【新たに分譲を開始した微生物資源】
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html

◆RD株
   果実や花などの植物から分離された乳酸菌20株(RD015385~015404)を新たに公開しました。

【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/new_rd.html
【RD株リスト】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/available_rd_list.html
  2. 
  埋蔵菌プロジェクト(4)
     
  フェア(FAIR)原則と埋蔵菌
     
(国立科学博物館 細矢 剛)
   「埋蔵菌」とは実によいネーミングです。本来は世の中を回ることによって経済に貢献するはずが、地中に埋められたまま誰からも知られずに、利用されずにいる資金が「埋蔵金」であれば、研究に使用され、遺伝子配列があるなど付加価値がありながら、誰からも知られずに埋もれている菌株はまさに「埋蔵」菌です。

   実は、研究成果や研究データにも同様のものがあり、それらが問題になっています。それを解決するべく唱えられているのが「FAIR原則」(https://biosciencedbc.jp/about-us/report/fair-principle/)です。これはFindable(見つけられる)、Accessible (アクセスできる)、Interoperable(相互運用可能)、Reusable(再利用可能)の頭文字を取ったものです。例えば、数万件のデータをもとに論文を書いても、その成果論文が海外の山奥の図書館にあり、見つけられなければ、その成果を役立てることはできません。でも、何らかの形でデジタル化され、その情報がネットに出ていれば、少なくとも見つけることができます。しかし、せっかく所在が分かった論文が日本と国交のない国にしかなければそこにたどり着くことができません(アクセスできません)。それをなんとか手に入れたとしましょう。しかし、その結果が棒グラフや折れ線グラフで示されていただけでは、傾向がわかるだけで、データを見て、自分のデータと比較することができません。よしんば、粗データが(supplementary dataなどで)別途公開されていたとしても、それがJPGやPDFだったら、相互利用性がありません。運良くCSVなどで利用できるとしても、そこに「無断使用禁止」と書かれていたら再利用可能性がありません。

   科学を前進させるためには、データを一から取り直すのではなく、すでにあるデータを活用することも必要です。そのために、FAIRの原則が生まれました。論文やデータをデジタル化してDigital Object Identifier(DOI)やCCライセンスを与えることなどは、そのために有効です。今日、多くの論文はそのように書かれていますし、データは再利用可能な形でsupplementary dataとなっています。データそのものを出版するデータペーパーのようなカテゴリーもできてきました。

   さて、今回公開することとなったスクリーニング株(RD株)はイヌガヤ(Cephalotaxus harringtonia)の内生菌です。この植物は日本由来ですが、フランスにも分布しており、公開する微生物は、日本とフランスにおけるイヌガヤの葉の内生菌相を比較するために国内のイヌガヤから分離したものです(1)。菌株からはITSの遺伝子配列が得られ、それをもとに菌相を比較しましたが、そのもととなった菌株は埋蔵されたままでした。共著者のDupont氏と菌株の公開に合意することができ、幸い、NBRCのプロジェクトにより、日の目を見ることになりました。このような形で、FAIRの原則を物理的な材料のレベルで実践できることは大変ありがたいことです。エンドファイトは生きた植物に内生するという、腐生菌(落ち葉や倒木などに生える菌)とは異なる生態的機能があるため、代謝物や酵素などにも異なるものが期待されています。これが公開され、再利用も可能となることによって、新たな知見が生まれることを祈念します。
画像_イヌガヤ
筑波実験植物園内にあるイヌガヤ。この針葉からも菌株が分離された。
【文献】
(1) Langenfeld, A. et. al. (2013). Fungal Biology, 117, 124-136.

【提供可能なRD株リスト】
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/available_rd_list.html
  3. 
  DBRPのリニューアル
     
  リンク情報のグラフィカル表示への変更とNBRC株情報更新のお知らせ
   DBRP(Data and Biological Resource Platform:生物資源データプラットフォーム)は、5万株以上の微生物資源とその関連情報(微生物の特性情報、オミックス情報など)を一元的に検索することができるデータプラットフォームで、どなたでも無料でご利用いただけます。
●リニューアルのお知らせ
   DBRPの各情報ページ下部にある「このデータにリンクしている情報」の表示をリニューアルしました。DBRPでは、10種類の情報を収録しており、微生物株情報を起点に各種情報をリンクしていますが、ユーザーの皆様から寄せられた「DBRP内の情報のリンクが分かりにくい」というご意見をもとに、「このデータにリンクしている情報」の表示をリスト表示からグラフィカルな表示に変更しました。DBRPのトップページもしくは一例のURL※1から是非お試しください。
●NBRC株情報更新のお知らせ
   2022年11月24日にNBRC株の情報更新を行いました。菌株情報の更新や追加に加え、NBRCヒト常在微生物カクテル※2に関する株や、放線菌の画像なども追加しています。今回の更新でDBRPの全情報数は100,580件、うち微生物株情報は58,134件、文献情報(論文、特許など)は7,715件、解析情報(ゲノム、画像など)は8,795件になりました。

   リニューアルしたDBRPはいかがでしょうか?今後もユーザーの皆様のご意見を積極的に取り入れ、ユーザーフレンドリーなサイト構築を目指します。新しいDBRPに対するご意見、ご要望がありましたら、お気軽に窓口bio-dbrp【@】nite.go.jp(メールを送信される際は@前後の【】を取ってご利用ください)までご連絡ください。

※1
【DBRPトップページ】https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/top
【一例】NBRC株微生物株情報ページ(下部参照)
https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/dataview?dataId=STNB0000000100959

※2
【DBRPのNBRCヒト常在微生物カクテルページ】
https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/dataview?dataId=ATAP0000200000012
【NBRCヒト常在微生物カクテルのご紹介】
https://www.nite.go.jp/nbrc/industry/microbiome/cocktail20220113.html
  4. 
  「微生物有害情報リスト」をリニューアルしました!
     
  (2022年10月25日公開)
   NBRCニュース第77号でお知らせしたとおり、微生物有害情報データベース(M-RINDA)で公開している、細菌/真菌の危険度分類や法規制情報を一元化した「微生物有害情報リスト」を2022年10月25日にリニューアルいたしましたので、その内容についてご紹介します。
   今回のリニューアルでは、より使いやすく、より分かりやすくなるように、細菌リストのレイアウトや情報の記載方法などを一新するとともに、新機能として、リストに掲載している細菌の正名や異名の情報を1クリックでまとめて表示することができるようになりました。

【主な変更点】
・出典資料に掲載されている別名や旧分類名等を記載する「別名等」欄を新設
・出典資料に記載情報がないが、その異名に記載/参照情報がある場合は「‡」(ダブルダガー)記号を追記
・正名行には異名を、異名行には正名を記載する「正名/異名」欄を新設し、正名と異名を相互にリンク
※旧リストでは、異名行から正名行へのリンクのみでした。
・関連する学名の情報をまとめた表を「学名詳細ページ」(別ウィンドウ)に表示する機能を追加し、それぞれの学名に対して、各出典資料で指定されている法令やBSL分類等の情報を一括で確認可能に

   詳しい利用方法についてはヘルプページをご参照ください。

   分類体系の変更により学名が変わった菌種の場合、出典資料によって記載されている学名が異なる場合がありますので、リスク情報を確認する際には必ず「学名詳細ページ」にてご確認ください。
【有害情報リストと学名詳細ページの表示例】
   今後も更新を続け、皆様のお役に立つ情報の提供や内容の充実に努めてまいりますので、よろしくお願い申し上げます。微生物有害情報リストは、以下URLより無料でご利用いただけます(URLの変更はありません)。

【微生物有害情報リスト】https://www.nite.go.jp/nbrc/mrinda/list/
  5. 
  NBRC設立20周年記念シンポジウムのご案内
   NBRCは、2002年に生物資源機関としての業務を開始して今年で20周年を迎えることができました。皆様のご支援に感謝の意を表し、NBRC設立20周年記念シンポジウムをオンラインで開催します。

   本シンポジウムでは、NBRCのこれまでの歩みを振り返りつつ、各界有識者の皆様にバイオ産業の将来像についてご講演をいただくとともに、未来に向けたNBRCの新たな挑戦と産業貢献のあるべき姿をお示しすることで、共に未来を創り出していく意識を共有できる場としたいと考えております。皆様のご参加をお待ちしております。
【NBRC設立20周年記念シンポジウム開催概要】
開催日時:2023年1月26日(木曜日)13:15~16:30(予定)
開催形態:Zoomウェビナーによるオンラインセミナー
参加費:無料
※準備が整い次第、募集を開始します。

   以下URLからもご案内しておりますので、是非ご覧ください。
https://www.nite.go.jp/nbrc/information/nbrc20th_top.html
  6. 
  NBRCの展示について
   以下のイベントにてポスター展示を行います。ぜひお立ち寄りください。

第2回サステナブルマテリアル展
   日時:2022年12月7日(水)~9日(金)
   会場:幕張メッセ(千葉県千葉市美浜区中瀬2-1)
   URL:https://www.material-expo.jp/hub/ja-jp/about/susma.html
   NEDOのブースにて以下のポスターを展示します。
   「生分解性プラスチックの分解に関わる微生物資源や微生物叢データの整備」
  7. 
  BioJapan 2022のNITEスポンサーセミナーをYouTubeでご覧いただけます
   10月12日-14日に開催されたBioJapan 2022で行ったNITEスポンサーセミナー「バイオものづくり推進のための微生物DNA情報の利活用を巡る国内外の情勢と将来像」の講演動画を以下のウェブページから公開しています。是非、ご覧ください。

【BioJapanセミナー動画公開ページ】
https://www.nite.go.jp/nbrc/BioJapan2022_seminar.html

【セミナー概要】
   世界で急速に発展している遺伝子改変微生物による物質生産技術の開発では、DNA情報の利活用が成功の鍵となると予想されます。本セミナーでは、バイオものづくり分野における我が国の政策を紹介するとともに、国際塩基配列データベースの国際協調(INSDC)の取組であるDNA等のデータ利用に関する環境整備と、DNA解析技術の向上に伴う微生物ゲノム情報の利活用に関する国内外の取組を解説し、微生物DNA情報の活用の将来像について議論しました。また、バイオものづくり推進のためにNITEが構築した生物資源データプラットフォーム(DBRP)と、そのデータ拡充や機能拡張についても最新情報を提供しました。

【演題】
1.本セミナー開催背景とNITEバイオ分野の最近の活動
      加藤愼一郎(NITEバイオテクノロジーセンター 所長)
2.国際塩基配列データベース連携(INSDC)の方針および生物多様性条約への対応
      有田正規(情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJセンター センター長)
3.マイクロバイオームからのMAG/SAGデータの取得と活用の展望
      森宙史(情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 先端ゲノミクス推進センター 准教授)
4.生物多様性条約におけるデジタル配列情報(DSI)について
      藤田克利(NITEバイオテクノロジーセンター 生物多様性支援課 課長)
5.生物資源データプラットフォームによる生物資源データとDNA情報の収集と活用の展望
      市川夏子(NITEバイオテクノロジーセンター バイオデジタル推進課 課長)
   編集後記
   私事ですが、NBRCで働き始めて8ヶ月が経ちました。NBRCニュースの編集作業を通じて、バイオの世界の奥深さを日々実感しております。これからもバイオの魅力を存分にお伝えてしていく所存です。(RN)
微生物情報の検索は「DBRP(生物資源データプラットフォーム)」
NBRC株の検索、ご依頼は「NBRCオンラインカタログ」
微生物に関するご相談は「微生物コンシェルジュ」
微生物の有害情報の検索は「M-RINDA」
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   NBRCニュースバックナンバー

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・NBRCニュースは偶数月の1日(休日の場合はその前後)に配信します。次号(第79号)は2023年2月1日に配信予定です。

編集・発行
   独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター(NBRC)
   NBRCニュース編集局(nbrcnews【@】nite.go.jp)
   (メールを送信される際は@前後の【】を取ってご利用ください)

お問い合わせ

独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター  生物資源利用促進課
(お問い合わせはできる限りお問い合わせフォームにてお願いします)
TEL:0438-20-5763
住所:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 地図
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