NBRCニュース 第96号

今号の内容
1.
新たにご利用可能となった微生物株
糸状菌では、日本の森林土壌から分離された卵菌類の新種Elongisporangium disparispinum NBRC 115123Tを公開しました。Elongisporangium属は農作物の病害を引き起こすPythium属に近縁であることから、病害防除に向けた研究材料として注目されています。
細菌では、ハチから分離された乳酸菌Fructobacillus fructosus NBRC 114981およびNBRC 114982を公開しました。また、海洋環境から分離され、生理活性物質Haneummycinを産生するStreptomyces haneummycinicus NBRC 115995TおよびNyuzenamides A、Bを産生するStreptomyces hygroscopicus subsp. sporocinereus NBRC 113678を公開しました。
アーキアでは、海洋試料から分離されたMethanosarcina sp. NBRC 114598およびNBRC 114599を公開しました。
【新たに分譲を開始した微生物資源】
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html
細菌では、ハチから分離された乳酸菌Fructobacillus fructosus NBRC 114981およびNBRC 114982を公開しました。また、海洋環境から分離され、生理活性物質Haneummycinを産生するStreptomyces haneummycinicus NBRC 115995TおよびNyuzenamides A、Bを産生するStreptomyces hygroscopicus subsp. sporocinereus NBRC 113678を公開しました。
アーキアでは、海洋試料から分離されたMethanosarcina sp. NBRC 114598およびNBRC 114599を公開しました。
【新たに分譲を開始した微生物資源】
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html
2.
NBRC寄託株のご紹介(3)
コオロギ科昆虫の腸内に共生する菌類Unguispora grylli
(筑波大学 山岳科学センター 菅平高原実験所 李 知彦)
このたび、Unguispora grylli NBRC 116289T、NBRC 116287、NBRC 116288、NBRC 116290をNBRCに寄託させていただきました。これらの菌株や、以前寄託した同属のU. rhaphidophoridarumは、腸内共生性の真菌類であり、「腸内外両生菌類」というグループに含まれています。そこで、本菌株と共に腸内真菌や腸内外両生菌類について紹介させていただきます。
腸内真菌は、これまで主にヒトやマウスなどの脊椎動物で研究が進められてきましたが、実は昆虫や甲殻類などを含む節足動物にも腸内に特異的に生息している真菌類が知られており、トリコミケス綱(Trichomycetes)として古くから研究が行われてきました。現在では、トリコミケス綱は分類階級としては使用されておらず、これらの仲間はキクセラ亜門(Kickxellomycotina)キクセラ綱(Kickxellomycetes)に移され、4つの目に分けられています(1)。キクセラ亜門に属す腸内真菌は、基本的に宿主の腸管の内壁にホールドファスト(holdfast)という付着器によって付着して、腸内容物から栄養を得ます。また、一部の種で培養菌株が確立されているものの、多くは培養が困難であるため、宿主と密接な共生関係を結んでいると考えられています。ただし、宿主に対する影響については真菌類の種や宿主の栄養状況等によって変化し、その関係性は相利共生から寄生まで幅があります(2,3)。
従来知られていた腸内真菌は宿主腸内だけで生育し、宿主腸外で積極的に増殖するような生活ステージは知られていません。しかし、我々が2022年にカマドウマ科昆虫から分離したU. rhaphidophoridarumという種は、宿主腸内に付着し、酵母のように単細胞で増殖する生活ステージと、宿主の糞上で糸状菌として生育する生活ステージを持つことが明らかになりました(4)。このように宿主の腸内環境と腸外環境とで異なる形態を示して増殖する真菌類は初めてであったため、「腸内外両生菌類」と名付けました。また、キクセラ亜門には腸内真菌以外にも、他の真菌類に寄生する菌寄生性や、動物の糞や土壌に生息する腐生性(生物の死骸や排出物などの有機物を分解し、栄養を得る)といった生活様式が知られています。腸内外両生菌類は腸内共生性と腐生性の中間的な生活様式であるため、両者の生活様式の進化過程を解明する鍵になると考えられます。さらに、キクセラ亜門は真菌類の中でも初期に陸上進出した系統群の一つであることから、腸内外両生菌類の発見及び研究は真菌類の陸上化過程の理解につながると期待されています。
U. grylliやU. rhaphidophoridarumはキクセラ亜門キクセラ綱キクセラ目(Kickxellales)に所属することが形態観察・分子系統解析の結果から分かってきました(4,5)。キクセラ目はこれまでは主に腐生性だと考えられてきており、キクセラ目において腸内共生性を示す真菌類はUnguispora属が初めてとなります。また、両菌はカマドウマ科やコオロギ科を宿主とする初の腸内真菌でもあります。このように腸内外両生菌類の2種は、既知の腸内真菌や腐生性真菌とは大きく異なっており、分離・培養の手法も独自の方法を用いることで成功しました。
U. grylliはコオロギ科昆虫の糞を分離源としており、新鮮な糞を抗生物質入り素寒天培地に接種・培養して菌を出現させています。宿主腸内を解剖して菌を分離することも可能ですが、糞から立ち上がって生えてきた菌から胞子を移植・分離する方が純粋培養には適しています。また、U. grylliの宿主範囲は広く、タイプ株はタンボコオロギModicogryllus siamensisから分離しましたが、その他の属からも分離されてきました。野外での宿主への感染率は採集地点ごとにかなりばらつきがあるものの、平均すると2割弱となっています(5)。
分離培養時には1/2に希釈したME-YE寒天培地(6)を使用しています。この培地にはグルコースやペプトン、麦芽エキス、酵母エキスが主に含まれており、特にペプトンがU. grylliの生育に重要だと考えられています。ME-YE寒天培地は他のキクセラ目菌類でも使用されますが、U. grylliには別にもう一つ必要な培養条件が存在します。それは、培養時の大気中の酸素・二酸化炭素濃度であり、好気/嫌気条件を各生活ステージに対応して切り替えなければなりません。具体的には、腸内の生活ステージに相当する胞子からの二次胞子の形成(酵母様増殖)には嫌気条件が、腸外の生活ステージに相当する二次胞子からの菌糸成長・胞子形成には好気条件が必要になります(図1)。これらの培養条件は実際の腸内環境・腸外環境に対応していると考えられています。
また、U. grylliは宿主腸内への付着構造の点でも唯一無二の特徴を示します。キクセラ目では胞子が胞子嚢と呼ばれる細胞内に形成され、一緒に散布されるのですが、Unguispora属ではこの胞子嚢の表面に鉤爪のような修飾構造がみられます。この鉤爪は宿主腸内の表面に生えている毛を挟む役割を果たしており(図2)、宿主腸内への付着構造として機能することが明らかになっています(4)。この鉤爪の形態や数はUnguispora属の中でも種によって異なります。それだけでなく、U. grylliの鉤爪は宿主腸内に取り込まれる前後で形態が変化することが判明しています(5)。宿主腸内ではU. grylliの鉤爪は鎖状に縦に連なっており(図3)、この腸内付着構造の形態変化は本種が初めての事例となります。しかし、形態変化の原因やその意義に関してはまだ明らかになっていません。
現在、私は、透過型電子顕微鏡を用いてU. rhaphidophoridaurmやU. grylliの鉤爪の形態をより詳細に検討し、鉤爪の由来の解明を試みつつ、並行して腸内外両生菌類の分類を進めています。上述したように形態的・生理的特殊化がみられるため、腸内外両生菌類の生態的機能の解明も重要な課題として挙げられます。また、節足動物の腸内や糞から酵母や糸状菌を分離する試みはまだ限定的な分類群でしか取り組まれておらず、腸内外両生菌類のような特殊な生育特性をもつ未知の真菌類が数多く存在することが考えられます。U. grylliの寄託や本記事が、腸内外両生菌類や、節足動物の腸内や糞に生息する真菌類の研究開発を促進する一助となれば幸いです。
【参考】
(1) Tretter et al. (2014). Mycologia 106 (5), 912–935.
DOI: 10.3852/13-253
(2) Sweeney (1981). Trans. Br. Mycol. Soc. 77 (1), 55–60.
DOI: 10.1016/S0007-1536(81)80179-9
(3) Rooy et al. (2025). J. Insect Physiol. 164, 104842.
DOI: 10.1016/j.jinsphys.2025.104842
(4) Ri et al. (2022). Mycologia 114 (6), 934–946.
DOI: 10.1080/00275514.2022.2111052
(5) Ri and Degawa (2025). Mycoscience 66 (3), 162–170.
DOI: 10.47371/mycosci.2025.01.001
(6) Kurihara et al. (2000). Mycoscience 41 (6), 579–583.
DOI: 10.1007/BF02460924
本稿は、2025年9月に開催されたNITE講座「未来は『藻』が拓く-食料、エネルギー、環境を変える藻類の力-」で紹介した内容をもとに、遺伝子組換え微細藻類の第一種(開放系)使用に関する手続きについて、概要を改めてわかりやすくお伝えするものです。講座に参加できなかった方や、公開中の動画とあわせて内容を整理したい方の参考になれば幸いです。
日本では、遺伝子組換え生物を利用する際の手続きが、カルタヘナ法※という法律で定められています。このカルタヘナ法は、生物多様性を守ることを目的として、遺伝子組換え生物の使用や取扱いに関する基準や手続きを定めた法律です。NBRCニュースでは、これまで、短期集中連載「カルタヘナ法-はじめての産業利用申請-」(第11号・第12号・第13号・第14号)および「カルタヘナ法-新しい確認制度(鉱工業利用)について-」(第48号・第49号)において、この法律に基づく手続きや、研究開発利用と産業利用における規制の違いについて紹介してきました。ただし、これらの記事で扱った内容は、いずれも第二種使用(いわゆる閉鎖系)での利用に関するものでした。
今回のNITE講座では、第一種使用(いわゆる開放系)での利用について、その手続きの概略を説明しました。講座の詳細は公開されている動画でご覧いただけますが、ここでは第二種使用との違いを簡単に紹介します。
産業利用における第二種使用では、GILSP(低リスクとみなされる遺伝子組換え微生物)に該当する場合、申請が不要なこともあります(NBRCニュース第14号)。一方、第一種使用では、全てのケースで申請が必要になります。また、この申請は、第二種使用では大臣「確認」を得る手続きですが、第一種使用では大臣「承認」を得る手続きである点も異なります。申請先の省庁が所管毎に異なる点は、どちらも共通です。
さらに、提出書類にも大きな違いがあります。まず、第二種使用の申請では、宿主の種類(微生物、動物、植物)毎に定められた「第二種使用等拡散防止措置確認申請書」に、申請内容を補足する図などの別紙を添えて提出すれば足りました。これに対して、第一種使用の申請では、「第一種使用規程承認申請書」と「生物多様性影響評価書」という2種類の必要書類に加え、省庁ごとに定められた複数の書類を提出する必要があります。特に「生物多様性影響評価書」は申請全体の中で極めて重要な位置を占めており、作成に多大な労力と専門的な知識が求められます。
経済産業省の所管では、これまで第一種使用の申請例がなく、申請者にとっては「生物多様性影響評価書」の作成が大きなハードルになることが懸念されていました。とくに前例がないため、求められる記載内容や必要な根拠の水準が分かりにくく、申請準備の見通しを立てづらい状況にありました。さらに、遺伝子組換え微細藻類に関しては、経済産業省に申請される可能性が高いと予想されていました。そこでNITEは申請者を支援するために、経済産業省と共同で「遺伝子組換え真核微細藻類の生物多様性影響評価書作成ガイダンス」を準備いたしました。このガイダンスの内容や、経済産業省所管で必要とされるその他の書類については、NITE講座で紹介しています。ぜひ動画をご覧いただき、申請準備にお役立てください。
※カルタヘナ法
正式名称を「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」といい、遺伝子組換え生物の使用にあたって守るべき決まりを定めた国内法のことです。国際条約である『生物多様性条約』において、「遺伝子組換え生物等の使用が環境に及ぼす影響を考慮した措置を検討すべきである」という議論を受けて制定された『カルタヘナ議定書』に、日本政府が加入したことを受けて立法された国内担保法です。遺伝子組換え生物の規制の目的が「生物多様性の確保」であるのは、この法律の成立背景に由来します。
法律に関する情報はバイオセーフティクリアリングハウスのホームページ(https://www.biodic.go.jp/bch/)で確認できます。
腸内真菌は、これまで主にヒトやマウスなどの脊椎動物で研究が進められてきましたが、実は昆虫や甲殻類などを含む節足動物にも腸内に特異的に生息している真菌類が知られており、トリコミケス綱(Trichomycetes)として古くから研究が行われてきました。現在では、トリコミケス綱は分類階級としては使用されておらず、これらの仲間はキクセラ亜門(Kickxellomycotina)キクセラ綱(Kickxellomycetes)に移され、4つの目に分けられています(1)。キクセラ亜門に属す腸内真菌は、基本的に宿主の腸管の内壁にホールドファスト(holdfast)という付着器によって付着して、腸内容物から栄養を得ます。また、一部の種で培養菌株が確立されているものの、多くは培養が困難であるため、宿主と密接な共生関係を結んでいると考えられています。ただし、宿主に対する影響については真菌類の種や宿主の栄養状況等によって変化し、その関係性は相利共生から寄生まで幅があります(2,3)。
従来知られていた腸内真菌は宿主腸内だけで生育し、宿主腸外で積極的に増殖するような生活ステージは知られていません。しかし、我々が2022年にカマドウマ科昆虫から分離したU. rhaphidophoridarumという種は、宿主腸内に付着し、酵母のように単細胞で増殖する生活ステージと、宿主の糞上で糸状菌として生育する生活ステージを持つことが明らかになりました(4)。このように宿主の腸内環境と腸外環境とで異なる形態を示して増殖する真菌類は初めてであったため、「腸内外両生菌類」と名付けました。また、キクセラ亜門には腸内真菌以外にも、他の真菌類に寄生する菌寄生性や、動物の糞や土壌に生息する腐生性(生物の死骸や排出物などの有機物を分解し、栄養を得る)といった生活様式が知られています。腸内外両生菌類は腸内共生性と腐生性の中間的な生活様式であるため、両者の生活様式の進化過程を解明する鍵になると考えられます。さらに、キクセラ亜門は真菌類の中でも初期に陸上進出した系統群の一つであることから、腸内外両生菌類の発見及び研究は真菌類の陸上化過程の理解につながると期待されています。
U. grylliやU. rhaphidophoridarumはキクセラ亜門キクセラ綱キクセラ目(Kickxellales)に所属することが形態観察・分子系統解析の結果から分かってきました(4,5)。キクセラ目はこれまでは主に腐生性だと考えられてきており、キクセラ目において腸内共生性を示す真菌類はUnguispora属が初めてとなります。また、両菌はカマドウマ科やコオロギ科を宿主とする初の腸内真菌でもあります。このように腸内外両生菌類の2種は、既知の腸内真菌や腐生性真菌とは大きく異なっており、分離・培養の手法も独自の方法を用いることで成功しました。
U. grylliはコオロギ科昆虫の糞を分離源としており、新鮮な糞を抗生物質入り素寒天培地に接種・培養して菌を出現させています。宿主腸内を解剖して菌を分離することも可能ですが、糞から立ち上がって生えてきた菌から胞子を移植・分離する方が純粋培養には適しています。また、U. grylliの宿主範囲は広く、タイプ株はタンボコオロギModicogryllus siamensisから分離しましたが、その他の属からも分離されてきました。野外での宿主への感染率は採集地点ごとにかなりばらつきがあるものの、平均すると2割弱となっています(5)。
分離培養時には1/2に希釈したME-YE寒天培地(6)を使用しています。この培地にはグルコースやペプトン、麦芽エキス、酵母エキスが主に含まれており、特にペプトンがU. grylliの生育に重要だと考えられています。ME-YE寒天培地は他のキクセラ目菌類でも使用されますが、U. grylliには別にもう一つ必要な培養条件が存在します。それは、培養時の大気中の酸素・二酸化炭素濃度であり、好気/嫌気条件を各生活ステージに対応して切り替えなければなりません。具体的には、腸内の生活ステージに相当する胞子からの二次胞子の形成(酵母様増殖)には嫌気条件が、腸外の生活ステージに相当する二次胞子からの菌糸成長・胞子形成には好気条件が必要になります(図1)。これらの培養条件は実際の腸内環境・腸外環境に対応していると考えられています。



【参考】
(1) Tretter et al. (2014). Mycologia 106 (5), 912–935.
DOI: 10.3852/13-253
(2) Sweeney (1981). Trans. Br. Mycol. Soc. 77 (1), 55–60.
DOI: 10.1016/S0007-1536(81)80179-9
(3) Rooy et al. (2025). J. Insect Physiol. 164, 104842.
DOI: 10.1016/j.jinsphys.2025.104842
(4) Ri et al. (2022). Mycologia 114 (6), 934–946.
DOI: 10.1080/00275514.2022.2111052
(5) Ri and Degawa (2025). Mycoscience 66 (3), 162–170.
DOI: 10.47371/mycosci.2025.01.001
(6) Kurihara et al. (2000). Mycoscience 41 (6), 579–583.
DOI: 10.1007/BF02460924
3.
NITE講座で紹介した
「遺伝子組換え微細藻類の第一種(開放系)使用」について
(藤田 克利)
本稿は、2025年9月に開催されたNITE講座「未来は『藻』が拓く-食料、エネルギー、環境を変える藻類の力-」で紹介した内容をもとに、遺伝子組換え微細藻類の第一種(開放系)使用に関する手続きについて、概要を改めてわかりやすくお伝えするものです。講座に参加できなかった方や、公開中の動画とあわせて内容を整理したい方の参考になれば幸いです。
日本では、遺伝子組換え生物を利用する際の手続きが、カルタヘナ法※という法律で定められています。このカルタヘナ法は、生物多様性を守ることを目的として、遺伝子組換え生物の使用や取扱いに関する基準や手続きを定めた法律です。NBRCニュースでは、これまで、短期集中連載「カルタヘナ法-はじめての産業利用申請-」(第11号・第12号・第13号・第14号)および「カルタヘナ法-新しい確認制度(鉱工業利用)について-」(第48号・第49号)において、この法律に基づく手続きや、研究開発利用と産業利用における規制の違いについて紹介してきました。ただし、これらの記事で扱った内容は、いずれも第二種使用(いわゆる閉鎖系)での利用に関するものでした。
今回のNITE講座では、第一種使用(いわゆる開放系)での利用について、その手続きの概略を説明しました。講座の詳細は公開されている動画でご覧いただけますが、ここでは第二種使用との違いを簡単に紹介します。
産業利用における第二種使用では、GILSP(低リスクとみなされる遺伝子組換え微生物)に該当する場合、申請が不要なこともあります(NBRCニュース第14号)。一方、第一種使用では、全てのケースで申請が必要になります。また、この申請は、第二種使用では大臣「確認」を得る手続きですが、第一種使用では大臣「承認」を得る手続きである点も異なります。申請先の省庁が所管毎に異なる点は、どちらも共通です。
さらに、提出書類にも大きな違いがあります。まず、第二種使用の申請では、宿主の種類(微生物、動物、植物)毎に定められた「第二種使用等拡散防止措置確認申請書」に、申請内容を補足する図などの別紙を添えて提出すれば足りました。これに対して、第一種使用の申請では、「第一種使用規程承認申請書」と「生物多様性影響評価書」という2種類の必要書類に加え、省庁ごとに定められた複数の書類を提出する必要があります。特に「生物多様性影響評価書」は申請全体の中で極めて重要な位置を占めており、作成に多大な労力と専門的な知識が求められます。
経済産業省の所管では、これまで第一種使用の申請例がなく、申請者にとっては「生物多様性影響評価書」の作成が大きなハードルになることが懸念されていました。とくに前例がないため、求められる記載内容や必要な根拠の水準が分かりにくく、申請準備の見通しを立てづらい状況にありました。さらに、遺伝子組換え微細藻類に関しては、経済産業省に申請される可能性が高いと予想されていました。そこでNITEは申請者を支援するために、経済産業省と共同で「遺伝子組換え真核微細藻類の生物多様性影響評価書作成ガイダンス」を準備いたしました。このガイダンスの内容や、経済産業省所管で必要とされるその他の書類については、NITE講座で紹介しています。ぜひ動画をご覧いただき、申請準備にお役立てください。
※カルタヘナ法
正式名称を「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」といい、遺伝子組換え生物の使用にあたって守るべき決まりを定めた国内法のことです。国際条約である『生物多様性条約』において、「遺伝子組換え生物等の使用が環境に及ぼす影響を考慮した措置を検討すべきである」という議論を受けて制定された『カルタヘナ議定書』に、日本政府が加入したことを受けて立法された国内担保法です。遺伝子組換え生物の規制の目的が「生物多様性の確保」であるのは、この法律の成立背景に由来します。
法律に関する情報はバイオセーフティクリアリングハウスのホームページ(https://www.biodic.go.jp/bch/)で確認できます。
4.
講演資料と動画で振り返るNITE講座「未来は『藻』が拓く」
9月5日に開催したNITE講座「未来は『藻』が拓く」の講演資料と動画を公開しました。
▶ 講演資料・動画はこちら
NITE講座 「未来は『藻』が拓く―食料、エネルギー、環境を変える藻類の力―」
本講座では、藻類の産業利用に関する最新動向を紹介し、株式会社ちとせ研究所からはマレーシアにおける大規模培養の事例が、また株式会社Seed Bankからは新規微細藻類株の創出と事業化への取り組みが紹介されました。
当日は多くの皆様にご参加いただき、誠にありがとうございました。NBRCは今後も、藻類を含む微生物リソースの提供と技術支援を通じて、持続可能な社会の実現に貢献して参ります。
▶ 講演資料・動画はこちら
NITE講座 「未来は『藻』が拓く―食料、エネルギー、環境を変える藻類の力―」
本講座では、藻類の産業利用に関する最新動向を紹介し、株式会社ちとせ研究所からはマレーシアにおける大規模培養の事例が、また株式会社Seed Bankからは新規微細藻類株の創出と事業化への取り組みが紹介されました。
当日は多くの皆様にご参加いただき、誠にありがとうございました。NBRCは今後も、藻類を含む微生物リソースの提供と技術支援を通じて、持続可能な社会の実現に貢献して参ります。
5.
よくあるお問い合わせ:アンプルが空に見えるとき
(村松 由貴)
NBRCは、微生物を長期間安定して保存するために、L-乾燥法を採用しています。この方法では、菌を保護剤が入った液体に懸濁してガラスアンプルに入れた後、液体のまま真空乾燥を行い熔封します(NBRCニュース第17号・第19号参照)。
L-乾燥アンプルを受け取られた方から、「アンプルに何も入っていません」、「アンプルがひび割れています」といった問い合わせをいただくことがあります(図1,図2)。しかし、これらはいずれもアンプルの異常を示すものではありません。アンプルの内には、乾燥状態の菌体が確実に封入されており、見た目が空のように見えても、復元すればほとんどの場合、正常に生育します。このように「空に見える」「ひび割れて見える」といった印象を受けるのは、光の反射による見え方の違いや、乾燥の過程で生じた乾燥残渣の形状変化などが関係しています。
また、加える保護剤の種類によっても外観に違いが生じます。たとえばスキムミルクのような保護剤は、一部の保存機関が行う凍結乾燥で使用されることがあり、白い残渣が残ります。一方、NBRCのL-乾燥で使用している保護剤は、乾燥後は残渣がほとんど見えない場合が多いため、外見上は「空」に見えることがあります。
このように、アンプルの外観には多少の違いが見られる場合がありますが、内容物の品質に問題はありません。安心してご利用ください。
L-乾燥アンプルを受け取られた方から、「アンプルに何も入っていません」、「アンプルがひび割れています」といった問い合わせをいただくことがあります(図1,図2)。しかし、これらはいずれもアンプルの異常を示すものではありません。アンプルの内には、乾燥状態の菌体が確実に封入されており、見た目が空のように見えても、復元すればほとんどの場合、正常に生育します。このように「空に見える」「ひび割れて見える」といった印象を受けるのは、光の反射による見え方の違いや、乾燥の過程で生じた乾燥残渣の形状変化などが関係しています。
また、加える保護剤の種類によっても外観に違いが生じます。たとえばスキムミルクのような保護剤は、一部の保存機関が行う凍結乾燥で使用されることがあり、白い残渣が残ります。一方、NBRCのL-乾燥で使用している保護剤は、乾燥後は残渣がほとんど見えない場合が多いため、外見上は「空」に見えることがあります。
このように、アンプルの外観には多少の違いが見られる場合がありますが、内容物の品質に問題はありません。安心してご利用ください。
図1:菌が入っていないように見える例 Variovorax rhizosphaerae NBRC 112307T

図2:アンプルがひび割れているように見える例 Komagataeibacter xylinus NBRC 13772 (左:乾燥後のアンプル、右:左のアンプルに復元水を入れた後)
6.
DBRP(生物資源データプラットフォーム) ~更新情報のお知らせ~
■東京農業大学とNBRCの共同研究による細菌の「水素産生能」および「乳酸消費量」データの公開(2025年10月29日)
NBRCは、東京農業大学との共同研究により得られた細菌の水素産生能および乳酸消費量に関する評価データを、データベースDBRP上で公開しました。このデータは、乳酸駆動型暗発酵(1)に関与する微生物の探索を目的として、NBRCが保有する22株の細菌を調査した結果に基づいています。
乳酸駆動型暗発酵とは、乳酸を資化して水素と短鎖脂肪酸を同時に産生する暗発酵プロセスであり、サーキュラーバイオエコノミーの実現への貢献が期待されています。これまでの暗発酵の研究では主にClostridium属などが用いられてきましたが、スケールアップ時に混入する乳酸菌によって乳酸が蓄積し、水素産生が阻害されることが課題となっていました。
この課題に対し、東京農業大学の大西教授の研究グループ(2)は、乳酸菌が生成する乳酸をむしろ利用して水素を安定的に産生できる乳酸消費細菌Megasphaera elsdeniiに着目し、乳酸駆動型暗発酵の研究開発を進めています。今回公開したデータは、この研究の一環として、NBRCが保有する多様な細菌を対象に乳酸消費量および代謝物の産生能を評価したものです。NBRC 14293、NBRC 103908、NBRC 103910、NBRC 103911が、乳酸を消費して水素を産生し、さらに酢酸、酪酸、イソカプロン酸などを副産物として産生することが分かりました。
水素は次世代の燃料として注目されているとともに、医療や健康に関する基礎研究においても期待されています。また、酢酸、酪酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸はヒトの健康との関連が近年明確になってきています。これらの生産能力に優れた微生物を利用して乳酸から水素を生産できる技術は、食品産業やファインケミカル産業における新たな技術開発に貢献できるものと考えられます。
【(参考)YouTube動画】
水素エネルギーを微生物で造る! 応用生物科学部研究紹介vol. 2 醸造科学科
https://www.youtube.com/watch?v=o3IqQ4oMDUA
測定結果の一覧表とグラフをエクセル形式でダウンロードすることができます。
データについてご興味のある方は、下記リンクよりご確認ください。
【NBRCが保有する細菌の水素産生能及び乳酸消費量の評価 解析情報】
https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/dataview?dataId=ANAS0000000110001
(1) 大西章博(2023)化学と生物 61 巻 4 号 p. 160-162
DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.61.160
(2) Ohnishi et al. (2012) RSC Adv. 2, 8332-8340.
DOI: 10.1039/C2RA20590D
NBRCは、東京農業大学との共同研究により得られた細菌の水素産生能および乳酸消費量に関する評価データを、データベースDBRP上で公開しました。このデータは、乳酸駆動型暗発酵(1)に関与する微生物の探索を目的として、NBRCが保有する22株の細菌を調査した結果に基づいています。
乳酸駆動型暗発酵とは、乳酸を資化して水素と短鎖脂肪酸を同時に産生する暗発酵プロセスであり、サーキュラーバイオエコノミーの実現への貢献が期待されています。これまでの暗発酵の研究では主にClostridium属などが用いられてきましたが、スケールアップ時に混入する乳酸菌によって乳酸が蓄積し、水素産生が阻害されることが課題となっていました。
この課題に対し、東京農業大学の大西教授の研究グループ(2)は、乳酸菌が生成する乳酸をむしろ利用して水素を安定的に産生できる乳酸消費細菌Megasphaera elsdeniiに着目し、乳酸駆動型暗発酵の研究開発を進めています。今回公開したデータは、この研究の一環として、NBRCが保有する多様な細菌を対象に乳酸消費量および代謝物の産生能を評価したものです。NBRC 14293、NBRC 103908、NBRC 103910、NBRC 103911が、乳酸を消費して水素を産生し、さらに酢酸、酪酸、イソカプロン酸などを副産物として産生することが分かりました。
水素は次世代の燃料として注目されているとともに、医療や健康に関する基礎研究においても期待されています。また、酢酸、酪酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸はヒトの健康との関連が近年明確になってきています。これらの生産能力に優れた微生物を利用して乳酸から水素を生産できる技術は、食品産業やファインケミカル産業における新たな技術開発に貢献できるものと考えられます。
【(参考)YouTube動画】
水素エネルギーを微生物で造る! 応用生物科学部研究紹介vol. 2 醸造科学科
https://www.youtube.com/watch?v=o3IqQ4oMDUA
測定結果の一覧表とグラフをエクセル形式でダウンロードすることができます。
データについてご興味のある方は、下記リンクよりご確認ください。
【NBRCが保有する細菌の水素産生能及び乳酸消費量の評価 解析情報】
https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/dataview?dataId=ANAS0000000110001
(1) 大西章博(2023)化学と生物 61 巻 4 号 p. 160-162
DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.61.160
(2) Ohnishi et al. (2012) RSC Adv. 2, 8332-8340.
DOI: 10.1039/C2RA20590D
7.
参加者募集のお知らせ
~ビジネスでの目利きに役立つ!「適合性評価に関するNITE講座」~
製品やサービス、マネジメントシステムなどを対象に行われる「適合性評価」は、品質管理や流通における信頼性の維持、向上に大きく貢献しています。近年では、サステナビリティ要求やAI(人工知能)の利活用の進展により、製品やサービスに対するニーズが一層多様化しています。こうした変化に対応するためには、国内でも柔軟かつ迅速に適合性評価を活用していくことが求められています。
本講座では、適合性評価についての基礎知識に加え、「認定」を中心とした制度や仕組みについてわかりやすく説明します。品質管理、調達、営業などのご担当者、技術や製品の信頼性確保にお困りの方、必見です。
詳細はこちら>https://www.nite.go.jp/iajapan/information/iajapan-kouza_2025.html
○日時:2025年12月9日(火)13:15~15:15(予定)(アクセス可能時間 13:00~)
○実施形態:オンラインによるライブ配信(Webexウェビナーを使用予定)
○定員:1000名
○参加費用:無料
○対象者:日々の生活や産業を支える「適合性評価」についてもっと知りたい方、企業の新入社員の方や新たに品質管理を担当される方、認定をはじめとした適合性評価制度について興味のある方
※先着順に受付し、定員になり次第、募集を終了いたします。
本講座では、適合性評価についての基礎知識に加え、「認定」を中心とした制度や仕組みについてわかりやすく説明します。品質管理、調達、営業などのご担当者、技術や製品の信頼性確保にお困りの方、必見です。
詳細はこちら>https://www.nite.go.jp/iajapan/information/iajapan-kouza_2025.html
○日時:2025年12月9日(火)13:15~15:15(予定)(アクセス可能時間 13:00~)
○実施形態:オンラインによるライブ配信(Webexウェビナーを使用予定)
○定員:1000名
○参加費用:無料
○対象者:日々の生活や産業を支える「適合性評価」についてもっと知りたい方、企業の新入社員の方や新たに品質管理を担当される方、認定をはじめとした適合性評価制度について興味のある方
※先着順に受付し、定員になり次第、募集を終了いたします。
8.
NBRCが展示、発表等を行うイベントについて
以下のイベントにて発表や情報提供、意見交換等を行います。ぜひご参加ください。
第48回日本分子生物学会年会
日時:2025年12月3日(水)~5日(金)
会場:パシフィコ横浜(神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1)
URL:https://www.aeplan.jp/mbsj2025/
NITEの参加形態:ポスター発表
関西バイオビジネスマッチング2025
日時:オンラインブース出展:2025年12月中旬~
オンライン面談:2026年1月5日(月)~2月27日(金)
ピッチ:2026年1月9日(金)13:00~20:00
会場:オンライン
URL:https://biock.jp/event/7847/
NITEの参加形態:オンラインブース出展、オンライン面談、「ピッチ」でのプレゼンテーション
日時:2025年12月3日(水)~5日(金)
会場:パシフィコ横浜(神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1)
URL:https://www.aeplan.jp/mbsj2025/
NITEの参加形態:ポスター発表
関西バイオビジネスマッチング2025
日時:オンラインブース出展:2025年12月中旬~
オンライン面談:2026年1月5日(月)~2月27日(金)
ピッチ:2026年1月9日(金)13:00~20:00
会場:オンライン
URL:https://biock.jp/event/7847/
NITEの参加形態:オンラインブース出展、オンライン面談、「ピッチ」でのプレゼンテーション
編集後記
先日、妻の誕生祝においしいサーモン料理が食べられるとの噂の北欧料理店に行きました。六本木の店で結構お高めのお値段で、場所も遠かったのですが、とても気に入ってくれたようです。ランチだとリーズナブルな値段で食べられるようで、早速その店に行くための「口実」をあれこれ考えているみたいです。(AT)
先日、妻の誕生祝においしいサーモン料理が食べられるとの噂の北欧料理店に行きました。六本木の店で結構お高めのお値段で、場所も遠かったのですが、とても気に入ってくれたようです。ランチだとリーズナブルな値段で食べられるようで、早速その店に行くための「口実」をあれこれ考えているみたいです。(AT)
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独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター(NBRC)
NBRCニュース編集局(nbrcnews【@】nite.go.jp)
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